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★★★疑心を持つ事は良い事だ★★★

 踏み込む前に一瞬だけ俺は手心を加えるかどうか悩んだ。そして俺は非殺傷を狙って動く事にした。

 もし万が一にもこの者たちが何かしら脅されて強制的に命令を聞かされていたと言った事だった場合、それを俺が後で知った時に嫌な気持ちにさせられてしまいそうだったから。

 相手の事情がこの時点でこちらに分からない以上は下手に撃退して後で「やむにやまれぬ裏事情」などと言うモノを知ってしまうと後悔してもしきれない。


 だけども相手のヤル気をしっかりとバキバキにしておかないと反撃が怖い。

 なので相手が物理的に、肉体的に動けない状態を作り出す事を狙って一歩踏み出す。剣は抜かない。


 そしてまずは手始めに相手の耐久性を確かめるのにタックルをかました。俺の丁度真正面に立っていた奴にだ。

 タックルと言っても相手を地面に転がすタイプのものでは無く、押し飛ばす、と言った形を取った体当たりだ。


 それは人が水平に10m程飛んでいく光景を作り出してしまった。


「・・・あ、これはヤベエ、死んだかな?」


 まあ別にここで「事故」によって死んでしまったらしょうがない。

 相手は俺も殺すつもりでこちらを囲んで来ていたのだからこれ位は許して欲しい所だ。

 もし死んでいたらいたでコレはこれ、ソレはそれ、罪悪感は感じない様にと務めてこの原因を考える。


「うーん?ぶちかまし、っていうよりは、ちゃんと俺の感覚的には相手の胸に手を添えて柔らかく押したって感覚だったんだけどなぁ。力加減の問題なのか?コレ?以前に襲われたオッサン商人助けた時と何だか違うじゃん・・・」


 俺の意識して行動した感覚と、それがもたらした結果が合っていない様に思える。

 前に盗賊を蹴散らした時と俺は同じ感覚で動いたハズなのだ。けれども今はそれがどうにもおかしい。


「踏み込んだスピードが加わった?いや、だけど俺は直前で少しブレーキ掛けたぞ?・・・ヤバいな、素手でも人を殺せるって前にも感じたけど。加減が変わってる?迂闊にグーパンできないぞ・・・」


 これは非常に不味い。いや、分かっていた事を此処で実験し、再認識しただけに過ぎないのだろう。

 俺はここで改めて自分がどうあっても意識的に力を籠めれば簡単に人を殺せてしまう事実に戦慄する。

 グーパンで全力を出して殴ればスプラッタが発生だ。そんな事は起こしたくは無い。今後動く際には神経を使う事となるだろう。


「・・・あ、死んでないっぽい?お?痙攣してるな。生きてたかー、良かった良かった。」


 軽く押しただけでまるで格闘ゲームの超必殺技みたいに人が水平に吹き飛ぶなんて光景は現実味が無い。

 だけども今それは目の前で展開した。紛れも無い俺がやった行動である。これをしっかりと受け止めなくてはならないだろう俺は。


「よし、じゃあアレだ。残り全員は腕を狙って軽く叩くくらいでイケる?」


 目の前で起きた現実を受け止めれていない相手側は吹き飛んでしまった仲間の方に視線が固定されて俺の方を見ていない。

 しかも呆けているのでその隙を俺は突く事にした。事を手早く全て終わらせないと安全を確保できたとは到底言えない。ここでの俺たちの「負け」はリーの事を殺害される事である。


 負けてしまえば護衛の責任を問われる。俺はそれをこの先一生引きずってしまうだろう。それは避けなければならない未来である。

 その為にも手加減をしつつも全力で敵の排除である。どんな汚い手を使ってでも、卑怯と言われても、である。

 もう一度ここで自分の身体の出力調整ができる様にと意識して行動してみる事とする。


 そうしてまた別の賊へと踏み込んだ。相手の状態が元に戻るのなんて待っていてやる義理は無い。そして狙うのはそいつの腕。ぺしり、と軽く叩くつもりで俺は平手を振るった。

 だがまだ力加減が上手くいっていないのか「パアン」と何かが軽く弾けた様な音がした。


 その次の瞬間にはまるで高速回転するコマの様に空中に浮いて六回転程して地面に落下する賊が。

 そいつの回転する勢いは止まらずにそのまま地面をゴロゴロと転がって相当な距離を遠ざかっていく。

 そして止まった時にはピクリとも動かない。


「・・・死んでないよな?込める力は前よりも減らしたつもりだぞ?気絶してるだけだよな?」


 取り合えず今はその事を気にするのを止める。一先ずは敵の排除を優先だ。

 動かないのなら動かないでそれは後で再び余裕ができた時に確認を取ればいい。

 さっさと目の前の脅威を排除する事が俺のできる護衛の役割なのだから。


 そうして次からは連続で、一人一秒も掛からずに全員を吹っ飛ばしてやった。一人飛ばす度に「パアン」と先ほどと同じ弾ける音が辺りに響いている。

 力加減はしているつもりなのだが、もしかすると俺の感覚での「つもり」はこの分だと効果を発揮していない模様である。


 ここで俺の動きに付いていけている奴は一人も出なかった。


 そうして全て片付け終わってからは残心を忘れない。無力化できていたと思ったら不意を突かれて最悪の事態に、なんて展開はこれまで読んできた色んなラノベの展開に幾らでもあった。

 それの二の舞にならない様に俺は周囲に気を配る。ラノベはテンプレ回避のバイブルともなる。

 様々なシチュエーションを知っていれば、想定していれば、その後の対応にも知識を直ぐに引っ張り出す事や、覚悟が持てると言うモノだ。

 もし事が起きてしまったとしても素早い対処と判断を下す為の材料にもなる。


「・・・アイヤー・・・タクマは私が考えていた予想を遥かにぶっ飛んだ強さを持っていたアルカ・・・」


「馬車からまだ出ない方が良いよ。まだ伏兵が居るかもしれないから安全の為にも出て来ちゃダメでしょ。」


 俺はリーが馬車から顔を出して様子を伺って来た事を注意したのだが。


「大丈夫アルネ!私の風の魔法で周囲に隠れてる奴は居ないって判ってるアルヨ!」


「お嬢、それでもまだもう少し出ないでおいた方が安全だ。引っ込んでくれ。倒れたふりして無事な奴が襲い掛かって来られたら危ないぞ。」


 メデスは神経を尖らせてそうリーの行動を諫める。以前にもその様なパターンがあったのかもしれない。

 その後はメデスが大蜥蜴の上に乗り込んでその背を二回ほどペチペチと叩いた。

 すると今までずっと立ち止まっていた大蜥蜴が再び歩き出す。


「こいつらは放っておいても?」


 俺はリーにそう質問する。この時点でまだ俺は警戒を解いていないので進み出した馬車には乗り込んでいない。


「町に入って襲われた報告をした方が良さそうアルネ。確かにこいつらの身ぐるみ剥げば儲けれそうネ。でも、それよりも今は安全の確保の方が大事アルヨ!」


 どうやら通報をして町の警備に後は処理を任せるつもりなのだろう。

 その場合こいつらが裏から手を回されて尋問を受ける前に始末される、何て物騒な事になったりしないだろうか?

 もしくは入れられた牢から何者かの手引きによって脱獄、と言った事も想像してしまう。

 最悪の場合は町の警備と全てグル、なんて事も思い浮かんでしまった。


 だがそこら辺まで俺が気にする事でも無いのだろう。そうなったらそうなったで俺ができる事なんて無い。そんな所まで俺が四六時中目を光らせてはいられない。


(ああ、こうなるとこの問題に首を此処まで入れちゃった訳だし、侯爵代理様の時とはかなりシチュエーションが違うよなぁ)


 このまま行くと俺は首都に付いた後もリーの護衛を続ける事になってしまいそうだ。

 リーに「助けて欲しいアルネ!」とこの問題が完全に片付くまで守って欲しいと縋られる所が脳内に浮かんでくる。

 それに個人的にも首都に着いてからそのまま「ハイサヨウナラ」と情の無い事はし辛い。

 もし別れて放っておいて後でリーが殺された、などと聞いたとしたら俺は自己嫌悪と後悔で潰されて鬱になるだろう。精神病んでしまう未来は絶対に避けたい。

 そんな展開になるのは俺としても御免である。なのでどうにもこの件にはまだ少々お付き合いする事になるのを今のうちに俺は覚悟しておく。


 そんな事を考えていれば馬車は町に到着だ。門番にメデスが事情を説明している。


「ずっとタクマは歩き続けて疲れて無いアルカ?少し休憩を入れるネ!もうここまで来たら安心ネ!馬車に乗るとイイヨ!」


 俺は警戒の為に馬車には乗り込まないでずっと歩きでそのまま付いて行った。

 なのでリーに気遣われている。だけどもコレを俺は断る。


「このまま宿に行こう。予定ではこの町で一泊するんだろ?部屋のベッドで充分に休ませて貰うよ。」


 入町関連の手続きをメデスが報告ついでにしているので町の中にはまだ入れていない。

 リーは狙われている立場なのでまだ馬車の中の真ん中に居て貰っている。

 町の中なら襲われ無い、何て甘い考えは無しだ。刺客なんて何処に潜んでいるか何て分かったモノじゃ無い。

 なので宿に入るまではまだまだ警戒は必要だ。いや、宿に入った所で完全に安全になったとは言え無い。

 暗殺とはそう言ったモノである。一瞬でも気が抜けない、狙われている方は。


 町に入る手続きも済み、そして賊を捕縛する為の戦力も整って町の防衛隊が俺たちの通って来た街道を行く。

 時間がそこそこ経っているのでもしかしたら全員目を覚ましていてその場から既に逃げているかもしれない。

 とは言っても大丈夫だ。襲ってきた賊の一人は縛って俺が担いで連れて来ていた。そいつは即座に兵士に預けてある。尋問はそいつから行うだろう。

 兵士に担がれ運ばれる間もそいつは気絶したままだった。あのまま目が覚めなかったらどうしよう?とかちょっと不安になったりした。


「さて、行くアルヨ!うちの経営している宿だから警備も防犯も完璧ネ!食事も美味ネ!きっとタクマも気に入るアルヨ!」


 リーはそう自信満々に言うのだが、俺はふとここで思いついた言葉を漏らしてしまった。

 失礼な事を口走ったと思った時には遅い。もう言ってしまった。


「・・・裏切ってる奴が紛れ込んで無いかな?いや、そんな事は早々ある訳・・・」


 今の俺たちの状況を考えれば疑う事を止めてはいけない。人間不信と言われようともだ。

 何も無かったら無いで良いのである。しかしそれをしないで「はい、殺されちゃいました」じゃ目も当てられ無い。安心するのはまだまだ早い。

 一度襲撃を撃退したからと言ってその後は安心安全、などとは幾ら何でも楽観視できない。二度三度と再びの襲撃される事を想定しておくべきだ。

 暗殺などを狙ってくる相手が一度の失敗くらいで諦める訳が無い。そんなさっぱりとした相手だったらそもそも暗殺などを仕掛けて来る性格とは言えない。


 こんな事を逐一思考する俺はきっと元々は猜疑心が強い性格だったんだろう。日本で生きていた時には今回みたいに深く考える事などそこまで多くは無かったはずだ。

 それなのに今はこれ。いや、それはそもそも日本が平和だった証なのかもしれない。

 この世界にこうして誘拐まがいに連れてこらているショックで俺の本性が浮かび上がって来ているんだろう。すべてを疑って掛かる様になってしまったのはしょうがないと許して欲しい所である。

 この世界は俺の持っていた常識など通用しない世の中だ。それに俺は適応していかないとこの先で容易に騙され、欺かれる事になるだろう。

 ならば疑って掛かるのが基本でいなければ俺だけが馬鹿を見ると思っていた方が良い。

 そして今の状況で俺が馬鹿を見るとそれだけ周囲の者に危害が広がると考えて身構えていないとダメだ。

 殺されそうになっているのが俺自身だけであれば良いのだが、今は命を狙われているのはリーである。

 その護衛を俺は今は受けている最中だ。俺にはリーを守る責任がある。なので護衛対象に嫌われ様とも最悪な可能性を提示する事もまた俺の仕事の一つとも言えるだろう。


 とここでリーの方をふと見たらその糸目が見開かれていた。そっれこそカッ開いている。

 こちらを見るその瞳を俺はまるでこちらを批難しているかの様に感じてしまった。

 それは「何て事を言うんだお前は」とその目が訴えている様に見えたのだが。


「・・・アイヤー・・・ちょっと待つアルヨ。タクマはその可能性をどうして考えたアルカ?」


 そのリーの質問はどうやらメデスも同じだった様で同じくこちらをじっと見て来ていた。


「あー、最悪の事態ってさ?多分当人の思いもしない思考の死角から陥るんだよ。だから、そのー、俺は今回突然の余所者だから。そう言った部分にまで真っ新な先入観の無い考え方ができるんだよね。」

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