★★★こんな事になったら絶対にこれしか選択肢無いじゃん★★★
やはりどうにもテンプレみたいな事になってしまった。
「タクマがこうして守ってくれるなら安心安心アルヨ!どんなのが出て来たって返り討ちネ!」
俺が調べ物、しかも神を調べたいと口にした事で「それならば丁度良い」と言われてこの馬車に同乗する事になってしまった、護衛として。
「いやー、今回はタクマが付いて来てくれるってんで、俺も楽できそうだな。」
チャン・リーもメデスもそんな呑気な事を口にしている。
(大図書館があるのがその首都だっていうんだから、これってアレだよな?ご都合主義ってのだろ?)
以前に幾度も物語の中で見た事のある話の流れだ。それこそ使い古されたと言っても良い、型に嵌めた、そんな展開である。
(一応は天秤に掛けたんだけどな。結局は何時かは調べ無いといけないだろうし。早いか遅いかだけどさ)
首都に向かうのだ。もしかしたらなのだが、そこで侯爵代理様に出くわす可能性も考えた。俺はそもそもその脅威から逃げる為に隣国に脱出しようと考えていたのに。
だからこの件に関しては少々悩んだ。まさか首都に行った事で遭遇したりはしなよな?と。
だけども流石にこの短い日数で調査を終わらせて首都に来ると言う展開は普通に無いだろうと思ったのだ。
(それこそ父親が城勤めで別邸として首都に家があって、何て事があったりするかもしれないけど)
俺はラノベ好きだ。ファンタジー物はそこそこ読んでいる。
そしてその中で城勤めの貴族が自らの治める領とは別で城下町、首都に別邸を持っていてそこを拠点にして一時的に帰館している、何て事は良くある点だ。
コレを踏まえても侯爵代理様が森の調査を終えたとしてもこの別邸の方では無く、自領の家の方に帰って報告書を書いてそれを父親の元に配達員を介して届けると言った流れになると考えたのだ。
回りくどいかもしれない思考ではあるが、きっとこれが普通の思考回路と言うものだろう。
危険を回避するにはどんなに物事を深く考えておいても良いはずだ。どんなパターンにでも直ぐに対応できるように、覚悟を作っておく事が肝要である。
(・・・直接本人が城に出向いて報告をする、なんて事も有り得るか・・・不安にしかならないな、そんな考えはさ)
俺は自分の考えの甘さに気づいてツッコミを心の中で入れる。
しかし改めて考えなおした。そもそも俺と侯爵代理様とでは身分が違い過ぎる。
なのでいくら何でも首都と言う巨大な都市の中でそんな一般人と貴族が交錯する場面なんてものが早々あるはずが無いと。
「どうしたタクマ?そんな不安そうな顔をしてよ?もしかして腹が痛くなってきたか?それともケツがこの揺れで痛くなってきたか?」
メデスが俺に対してそんな心配してい無さそうに一言掛けて来る。これに俺は心配は無いと半ば無理やりに笑顔で返す。
「ああ、ちょっと要らないだろう考え事をしていてさ。まあ、メデスには関係無い事さ。気にしないでくれ。」
ここでチャン・リーも俺に声を掛けて来る。
「タクマ、何か悩みがあるなら聞くだけでもできるネ!もっと私に頼っても良いアルヨ?」
チャン・リーはそう言いながらこちらに振り向く。馬車を引く大蜥蜴の背中に備え付けられたソファに座ったままで。
「あー、じゃあちょっと一つ気になった事があるから、聞いて良いか?・・・護衛の数、少なくない?」
街道を行く馬車に揺られているのだが、結構な大型で俺とメデスが中に居ても結構ゆったりスペースを確保できている。
当然そんな大型の馬車であるからして運ぶ荷物は俺とメデスだけじゃ無い。結構な数の荷物も積まれている。
そしてこの大蜥蜴、マイペースに進むのだが、のっしのっしとその歩む速度は遅め。
しかし力持ちであるのか、持久力もあるのか。遅めではあるのだが一定の速度を落とさずにずっと歩き続けるので進みはそこまで悪くは無い。だが。
「こんな速度配分だと襲われやすいんじゃないのか?俺と初めて会った時も護衛はメデスだけ、だったよね?」
走る速度の遅い馬車など野盗や盗賊に「襲ってください」と言っている様なものであると感じる。
だけどもその返答は意外なモノだった。
「俺はそもそもお嬢よりも弱いぞ?」
「え?」
「敵が何人来ようが、お嬢の魔法で蹴散らしちまうからな。俺の役目はお嬢の盾だ。護衛って意味としてはあってるんだがな。だけども犯罪者どもを倒したり、撃退する役目はほとんど無いんだよ、これが。」
「アイヤー!メデス、何でバラすアルカ!?タクマを驚かせようと思ったアルのに!」
「・・・え?護衛要らなくない?ソレ?」
一拍置いて俺は言葉の意味を吞み込んだ。そして出た答えが「俺要らないじゃん?」であった。
「必要無い訳が無いアルヨ!命がお金で買えるなら、しっかりとした強い人を護衛で雇うのは当たり前ネ!居れば居るだけ安心安全ヨ!」
「あー、それもそうかぁ。確かに安全保障って惜しんじゃいけないよなぁ。それをケチったから死んだってなったら目も当てられ無いかぁ。」
納得した所で俺は質問した。チャン・リーに。
「ねえ、チャン・リーは魔法使い?」
「私の事は遠慮無くリーって呼んでくれて構わないアルヨ!そうあるネ!私はこう見えて高等魔法の使い手ネ!エッヘン!」
そうリーは胸を張る。俺はここで高等魔法と聞いてこの世界の基準を知りたくなった。果たしてその威力はどれほどか?
「一度その破壊力を見てみたいな。」
そんなつぶやきを漏らしたらメデスが突っ込んできた。
「おい、タクマ、そんな機会はこの先一回も無い方が良いんだぞ?お嬢の魔法でクソ野郎どもは吹き飛ぶが、場が治まるまでは俺の仕事はこの命を晒してお嬢を守る事なんだぞ?俺はそんな死にそうな目に遭う機会はこの先、金輪際起きないで欲しいのに何て事を言うんだよ、この。」
顔をしかめてメデスは俺を睨む。確かに言われてみればそうだ。
本当ならば自分の命が危険に晒される場面なんて一生に一度だって起きない方が良いのは当たり前だ。
「あー、ごめんごめん。そうだな。そんな事は起きない方がそもそも良いんだ。この旅が安全な事を折っておくよ。」
俺はメデスに謝罪する。ここでリーが言う。
「何も無かったら首都で私の魔法を見せてあげるネ!サービスサービスアルヨ!本当だったらお金を取るアルけど、タクマは特別にタダで良いアルネ!」
「あー、魔法ってそもそも容易く人に見せて良いモノじゃ無いよな。自分の手の内を見せるって事だもんな。そんな大事なモノ、そりゃ見せるなら見物料に金は取る、って感じか。」
「だけどタクマに私は色を付けるって言ったネ!それが叶わなかったからそれの代わりに見せてあげるアルヨ!」
「いや、別にそこまで気にしないでも・・・まあ、有難く受け取らせて貰うよ。襲撃が無かったら、ね。」
俺はここでハッとした。これまでの俺が出会って来たテンプレを思い出して。
そしてこうした場面には必ず「フラグ」は立つって事を確信して。
そしてそれは現実になってしまったのだ。もうすぐ首都までにいくつかある宿場町、その一つの手前で賊どもが現れてしまった。しかもその数は三十に近い。
あっと言う間に馬車は囲まれてしまっていた。けれどもリーは冷静にこう言った。
「アイヤー!言った傍からコレはどうしようも無いアルネ!命知らずが一杯イッパイヨ!儲け儲けネ!」
視界に入る数以外の賊が何処かに潜んでこちらを狙っている可能性もある。飛び道具で。
それらの事にも俺は意識を向けて馬車から出る。メデスもだ。
リーはどうやら野盗どもをぶっ飛ばしたらその持っている装備を剥いで売り飛ばすつもりでいるのだろう。気が早い。
ここで覚悟は良いかと言いたげに賊の代表とみられる男が口を開いた。
「チャン商会の馬車だな?お前たちの命、貰い受ける。」
堅っ苦しい喋り方だった。そして野盗だと思われたこの一団の装備を俺は改めて観察したら何だか違和感が。
そしてその違和感に辿り着いた時には俺は口を思わず開いていた。
「あー、何か良く見た展開感あると思ったら、アンタら何処かの正規兵か?裏で仕事する関係の部署?」
これもまたテンプレと言うモノだろう。こいつらは只の犯罪者集団では無い。
何処かお堅い所に勤める汚い仕事を請け負う一団だろう。
只の野盗にしてはその装備が整い過ぎている、と言うやつだ。野党に襲われた、と言った偽装にする為だろう。多少の使い古し感は出しているのだが。だけども手入れをしてあるのが丸わかりであった。
これから襲撃をするのだから整備ができていない武器やら防具でターゲットの前に出るのは不安にもなるだろう。それがその装備の手入れに出てしまっていた。
「・・・おいおい、こりゃ不味いぜお嬢。こいつはきっと例の貴族の放った刺客だぞ?」
メデスが目の前の敵をそう看破した。どうやら貴族との揉め事がチャン商会では発生していた模様である。
そんな事をこれっぽっちも知らなかった俺はしょうがないだろう。寧ろそんな情報を得られる機会何てこれまでに一切無かったのだから。
「正規の兵士でしかも裏方仕事・・・それにこの数アルカ・・・確かに、不味い気配ネ・・・強さはそんじょそこらの馬鹿丸出し集団とは一線を画すアルカ・・・」
リーもどうやら危機感を抱いた様だ。このタイミングで向こうの奴らが少しづつ動く。包囲を狭めているのだ。
どうにもリーの魔法の情報は既に良く知っているらしく、警戒を高く保ってリーの方に注意を向けていた。
どうやらメデスの事も理解しており、そちらにも警戒はしている様だが敵とは見なされていない様である。
「・・・うん?誰だ、こいつ・・・?情報に無いぞ?いや、だがこれはしょうがない。本当に済まないが、お前には生きて居られてもこちらも困るのだ。死んで貰うしか無い。」
どうやらやっと俺の存在に気づいた奴がそんな事を言う。少々の警戒を俺の方にも割くのだが、だけどもこれからやろうとしている事に対して中止や中断、様子見などをする気は無かった様で包囲を狭める事を止めない。
どうやら目撃者は全員始末、と言った方向性である様だ。アルアルである。
「メデス、飛び道具があるかもしれないから、それの注意だけして。リーに掠り傷一つ付けない様に。向こうさんが毒を使って来ていたらそれだけで致命傷だ。」
俺のこの忠告でメデスはハッとした顔になる。どうやら目の前の賊の数に目と心を奪われていた様で俺の言った事に今まで気づいていなかった様だ。
「お嬢!俺の後ろに!早く!馬車の中へ!」
「ちょっと待つアルヨ!タクマはどうする気アルネ!?」
メデスに押されてリーが馬車の中へ。その際には心配の声を掛けて来てくれた。
「まあ、こんな場面になったら実力を出し惜しみしてる場合じゃ無いから。しょうがないよ。俺がこいつらを片づけるから。メデスも自分の身の安全を考えてくれ。それじゃあ、行く。」
まるでこれでは俺自身がどこぞのありふれたラノベ主人公だ。
だけど逃げ出す場面でも無い。そんな事を許される時じゃ無い。
俺一人だけ逃げてリーとメデスを見殺しに何て真似は絶対にできやしない。
そして俺もここで向こうへ宣言する。
「あんたら、すまんな。どうにもタイミングが悪かったみたいで。運が無かったと思って諦めてくれ。」