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★★★商売、交渉、チャイナ娘★★★

「アイヤー!?大物担いだイケメンが現れたアルネー!貴方!そこの貴方ネー!それ、ウチに売ってくれないアルカー!?」


 妙なイントネーションだった。そのセリフを吐いた人物は。

 どうやら商売人らしく幌付きの大型馬車。その馬車を引いているのは立派な立派な「大蜥蜴」である。牛くらいにデカい。

 その蜥蜴の背にソファーみたいな鐙に乗っていた。


「貴方凄いアルネー!もしかしてこの草原の中を突っ切って来たアルカ?良く生きてここまで辿り着けたアルネ!貴方強いネ?ウチの護衛に雇われてみないアルカー?」


 緑色の派手目なキラキラのチャイナドレス。黒髪で両側頭部にお団子な髪型。背丈はすらりとしているが胸の主張はしっかりとある。

 ドレスは足首まである長さなのに横スリットが太ももを超えて腰辺りにまで入った大胆セクシー。


「オニイサン!どうアル?一時的にでもウチの馬車に乗っていれば入町税も免除免除ネ!それをウチに売ってくれたら関係者としてご一緒できるネ!どうネ?」


 顔のバランスは細めだが整っており、美人系だ。目は糸目で鼻筋はキリッと通っていて胡散臭さと爽やかさが同居していると言った感想を浮かべてしまう不思議な印象である。


(典型的なイメージにあるチャイナ系キャラクターだな。うん、これまで会って来た中で一番キャラが濃いぃ・・・)


「ここで会ったのは何かの縁ネ!立派な殺人鹿だし、傷も余計なモノは一切入って無いなんて凄いアルヨ!いっぱい、とまでは言えないけどしっかりと色は付けるヨ!オニイサンに損はさせないアルヨ!」


 俺はこの緑の鹿の首を一刀両断した後に血抜き処理を済ませた。その後は狩った獲物を担いでそのまま真っすぐ歩いた。

 そうした先で整備された道に出た瞬間にこれである。この商人の目の前に俺は出たのである。そして呼び止められたのだ。

 ちょっとこの「運」に対し一言モノ申したい気分になったがそれをぐっと堪えて俺は返事をする。


「ああ、買ってくれるならお願いするよ。荷物が減らせて有難いくらいだし、感謝したいくらいだね。そんなだから別に安く値を付けて貰っても構わない。どうせここの町に来る途中で偶然に遭遇したやつだし。護衛の話は、あー、お断りさせて貰うよ。俺には旅の目的があってね。それは一人旅の方が都合が良いんだ。誘って貰ったけど、申し訳ない。」


「毎度ありアルネ!それじゃあオニイサン、乗って乗ってネ!」


 俺は流れに任せて馬車に乗り込む。するとその中には男が一人乗っていた。


「ようニイチャン。短い間だが、よろしくな。俺はメデスってもんだ。それにしてもコレ、凄い腕前なんだなお前さん。殺人鹿の首をそんな風にしちまうなんて、聞いた事無いぜ?」


メデスは無精ひげ、髪はぼさぼさのくせ毛であるが、その身は小綺麗にしている。そして垂れ目で何だか頼り無さそうな第一印象だ。恐らくは護衛なのだろうと思うのだが。


「あー、タクマって言います。よろしく。これは、まあ、いきなり襲ってきたからしょうが無く、って感じで狩ったものでして。偶々なんですよ。」


「私はチャン・リーアルヨ!よろしくアルヨ!」


 チャイナ娘がそう自己紹介をしたのだが、これにメデスが注意をする。


「お嬢、前見て運転してくれ。前、前!速度落とせ落とせ!前を行く奴らにぶつかっちまうぞ!」


 どうやらこの馬車を引く大蜥蜴はマイペースな性格であるらしい。

 のっしのっしと歩く速度を変えずに進み続けて、もうちょっと行ったら前方に居る他の旅人たちの中に突っ込む所だった。


「大丈夫だといつも言ってるネ!この子たちは賢いアルヨ!ぶつかったり轢いたり何てしないネ!」


 確かに何も指示したり命令を出していないのだが、大蜥蜴はゆっくりと速度を下げる。

 しかしそうやって止まったタイミングは何とも「煽り運転か?」と思わせる接近具合だった。

 そうして大蜥蜴に後ろに付かれた旅人たちはぎょっとした目でこちらを向き驚いている。


「町まではもうちょっとだけどよ?お嬢、周りの人らに迷惑やら不安を与える様な事は商売人としてどうよ?」


 メデスはそう言ってチャン・リーに問うのだが。


「アイヤー!皆さん御免アルネ!驚かせちゃったお詫びにその人たちにはうちに買い物しに来てくれたら合計金額から二割引きするアルヨ!チャン商店をこれからも御贔屓して欲しいアルネ!」


 ちゃっかり商売の宣伝をしていた。これに俺は驚く。


「あれ?そこの町にお店持ってるの?それって凄いお店だったりします・・・?」


まさか最悪の事態にはならないだろうと思ってそこら辺を質問してみたが。


「そうアルヨ!そこの副店長がこの私ネ!そして店長は私の父上ヨ!その父上は三代目ネ!老舗アルヨ!」


 それを聞いて俺は警戒レベルを上げる。なぜ上げるのかって?それは。


(もしかしたら考え過ぎかもしれないけどさ。侯爵代理様と繋がって無いだろうな?その店って・・・)


 疑心暗鬼とはこの事だ。この様な思考は無駄に怖がっていると言えなくも無い。

 しかし最悪を想定しておく事は別段悪い事では無い。これを思いついておくのと、思わないのではいざその時になったら初動に大きな違いが出る。

 そう、逃げるのにその最初のスタートダッシュが失敗して捉まりました、何て事になったら目も当てられ無い。

 しかしこれに関しては余りにも気にし過ぎるのはいけない。気にし過ぎるとその漠然とした不安が滲み出て動きに不自然さが出てしまうだろう。


 俺はこのまま、ありのままに、自然にこのチャン・リーと距離を取りつつ別れないとならない。


(どうやら根っからの商売人みたいに見えるしな。もしかしたらアレヨアレヨと俺を懐に取り込もうとしてくるかもしれない)


 まだ相手の人柄を詳しく知れた訳じゃ無いのに何となくそう思ってしまう。

 このチャン・リー、俺が護衛の件を断る言葉を聞いているが、その事に対して「残念だ」と言った類の言葉は返して来ていない。

 この緑鹿を売る事に関しては「毎度あり」と口にはしたが。

 なのでそこら辺が何とも俺の中で引っ掛かっている。只の勘ではあるのだが。

 このチャン・リー、まだ俺を護衛として雇う事を諦めていない様に感じる。

 逃亡生活をしている気なんて無いのだが、何だかこの先もずっと俺はあの侯爵代理様の陰に怯えて過ごさねばならないのかと思うとウンザリな気分になってくる。


 そうして馬車に揺られる事その後十五分程だろうか。とうとう町を守る門の前に到着だ。

 その際には別段何もトラブル無くすんなりと入町できた。どうやら既にチャン・リーは門番に顔を覚えられているのだろう。

 いつもの事と言った感じでノンストップ、身分証明の提示などを求められずに町へと入っている。


「アイヤー!やっと戻ってこれたアルヨ!帰ったら我が家でゆっくりノンビリするネ!」


 ぐっと背伸びをしたチャン・リーに対してメデスがまだやる事があると指摘する。


「その前にタクマに払う金額計算の仕事が残ってるだろお嬢。」


「は!?そうだったアルネ!タクマ、このまま一緒に店に来てくれないアルカ?ちょっと時間を貰いたいアル!」


「あー、俺朝からずっと食事できて無いから近くの食事処で先に飯食ってても良い?食べ終わったらそのお店にお邪魔させて貰うからさ。チャン商店、だよね?」


「そうアルヨ!だったらウチの隣の店で食事をするとイイネ!早い!安い!美味い!の三つを極めた良店アルヨ!」


 町の景色はアレだ。海外の、イギリスだかフランスだかの古い町並み、観光地と言った様相である。

 この光景に改めて俺は「ファンタジー」を感じさせられた。何だか海外旅行でも来た気分だ。ソワソワして気分が落ち着かない。

 村での生活はそもそもが毎日非日常で、それこそ必死だった。取り合えずこの世界で生きて行く為の常識の基盤を作らねばならなかったから。なのでこんな気分になったりはしなかった。


「ここよアルヨ!その二軒隣りがウチの店アルネ!それじゃあまた後でアル!」


 元気一杯なチャン・リーは馬車を降りた俺を確認してから言っていた通りの家の前で馬車を止めてその中へと入っていった。

 俺は店内に早速入ると注文を入れる。この店のおすすめを出してくれ、と。

 初めて入る店にはこの言葉が一番だ。何と言ってもこう言われてしまえば店側は新たな常連客を作るチャンスと思って店の一番人気のメニューを出してくる確率が高くなるのだ。

 俺にとってはハズレを引く事がこれで極端に低くなるので便利なセリフである。


 そうしてすぐに出て来たのはポトフとパンに肉料理。俺はこれに即座に食事を始める。そして同じメニューをお代わりした。

 良い食べっぷりだと料理を運んできてくれた店員が俺を褒める。俺は食べ終わったら休憩を入れずに料金を支払って店を出て直ぐにチャン商店に足を運んだ。


(何も面倒な事を頼まれたりしません様に。それと、この町って調べ物ができそうな図書館みたいな場所あるのかなぁ)


 此処までやって来てまだ旅の目的に関連した事を一切調べる事が出来ていない。

 最初からしくじり、躓き、イラつかせられて、ようやっとこうして落ち着ける町に入れたと言った感じだ。


(普通はお偉い貴族様に目を付けられる何て機会がそもそもあり得ないし。そんな貴族が俺を懐に入れようと本気で動いて来たのは恐怖でしかないぞ?)


 旅のケチが付いたのはテンプレを気にし過ぎであった俺の迂闊さからであるのだろうが。

 その後の展開にも俺は納得がいっていない。侯爵代理様から逃げられたと思えば森の民だと言う存在に絡まれて見下されてその集落に案内されたと思ったら意地の悪い事をされて。

 キレてそんな森から脱してみれば妙なチャイナ娘と遭遇だ。本当にあり得ない。


 短い距離でそんな事を考えつつもチャン商店の中に入ればそこは中華で中華な店内装飾である。

 いきなり西欧諸国の街並みから視界が一気に中華に変わる。


(何と言ったらいい?なんか・・・目の前が一面、くどい・・・)


 真っ赤な店内に飾りが金キラ。濃ゆい顔した人形やら東洋龍の精緻な彫りした置物。透明な拳大のガラス玉に赤と黒と白と色とりどりの金魚の様な生き物が入った巨大水槽まで。


 そこにチャン・リーがお出迎えしてくれた。


「アイヤー!タクマ、もうちょっと待ってて欲しいアル!父上が直接タクマと交渉を取りたいと言ってきたアルネ!こんな事ここ最近では滅多になかったアルのに!」


「お嬢、ちょっと興奮し過ぎですよ。落ち着いて。あー、タクマ、旦那様は殺人鹿の綺麗な状態を見て一度会ってみたいと口にしたんだ。すまないが、会って貰う事は?」


 チャン・リーの隣でメデスはそう言って俺に許可を求めて来た。

 ここで俺が断ればきっと面倒になるんだろう。そこを何とか、などと言って食い下がってくるのが目に見えている。

 だけどもしかし逆にここでこれに俺はオーケーと気軽に答えたくなかった。


(これって何か面会したらしたで厄介な展開になるんじゃないのか?短い間でしかないけど、村から出て妙な事に連続で巻き込まれてきてるし?)


 ここで余りずっと沈黙し続けるのは不自然だ。なのでしょうがなく俺はこれに頷く。

 許可が出た事でチャン・リーが「じゃあ父上を呼んで来るアルヨ!」と言ってそのまま店の奥に消えていく。

 これに苦笑いをしてメデスが「引かないでくれよ?」と小声で頼んで来るのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] どこにむかうのか分からない面白さがいいですね。完結済みとのことで安心して読ませていただきます。 [気になる点] なんて を 何て と誤植しているところがかなりあってきになりました。
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