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★★★抜けた先で待つものは★★★

 その森の民はその後に一つの家に入っていく。そしてこちらをちらりと見て「来い」と短く、それだけ。

 もちろんツリーハウスだ。俺の頭上に入り口がある。森の民はどうやったのか分からないが、その身をフワリと浮かび上がらせてその入り口の前にまで行ったのだ。


「え?ここに来て「来れるものなら来てみろ」的な意地の悪い事されるの?それってどうなの?」


 その入り口にまで向かう為の道は無い。跳び上がるしかそこに辿り着ける方法が無い。

 他の家には何処かしらからそこまでの吊り橋が繋がっているのに、そこの家だけが独立している形になっていたのだ。


 今先程の森の民は俺の事を「忌々しい人間」として認識しているらしいのでこうした対応を取ったのだろうか?


「付いて来いと言っておきながら、ここにきてコレ?・・・あ、ごめん、イラっと来たわー。」


 詳しい説明、無し。ここが何処なのかも語る気は無さげ。俺の話を信じていないクセに、向こうは俺が森の民の言う事を聞くのが当たり前だと思っていそうな態度。


「・・・どうする?俺はどうしたら良い?このまま無視してこの場所を探索してやろうか。それともジャンプして・・・届きそうだし、いっちょ驚かせてやろうか?それとも、あー、クソ。暴れてやろうかな?」


 最後の選択肢はなるべくなら選びたくは無い。しかし今の俺の心情的にはこの場でひと暴れしてやりたい気分である。

 こんなに暴力的な性格を俺はしていなかったはずだった。しかし森の民の覆面から覗くこちらを見る目がどうしても気に入らない。

 こちらを見下して来ているそんな目だ。はっきり言ってこちらを舐め腐っている。


「昨日はあれだけ俺を脅して来てた癖に。今日の朝になってこんな対応に、そんな態度?何の説明も無しにここまで引っ張って来ておいて?・・・ははッ!ふざけんのも大概にしろよな。こっちは朝食摂って無くて腹減ってんだぞ?ここまで三十分だぞ?それだけの時間あったら獲物の一匹位は発見できたかもしれない時間だ。ヤバい。どうやって目にもの見せてくれようか?」


 未だに俺が家を見上げている様子をどう向こうが捉えたのかは知らないが、先ほどまでこちらを見下していた目が細められてそこに嘲笑が含まれたのが分かった。


 そこで俺はキレてしまった。


「よし、よしよしよしよし・・・そっちがその気ならこっちも覚悟を決めるぞ?お前のせいだ。お前のせいだからな?おうおうおう、確か「素手」の「拳技」はまだ一つも試して無かったな。そうだ、それを此処で試せば良いじゃないか。それに相応しい太い木が目の前にあるんだ。ドーン!と行こうか!その深ーい深ーい懐を頭を下げてこちらはお借りしようじゃないか!」


 多分向こうは俺のここまで口にしていた言葉が全て聞こえている。その上でこちらをずっと見下して向こうはずっと俺を小馬鹿にしているのだ。許せるはずが無い。


 俺がもしこの「ドラドラクエスト」の主人公の身体なんかじゃ無く、元のそのままの俺の姿であったならばこの様な行動に、思考に、ならなかったと思う。

 そう、そんな元の自分のままであったならば、良くも悪くも日本人、この様に容易くキレる前に相手に色々と話し合いを試みたと愚考する。


 でも今、俺はそうでは無い。そうでは無いのだ。未だに俺は心の何処かで目の前の光景を現実とは受け入れられていない。

 だから、直ぐにこうしてイラついた時には「どうせ夢なんだ」と言った気持ちが全面に湧き出てきて感情のままに動こうとしてしまう。


「おい!聞こえてるよな!こんな意地の悪い事を此処まで俺を案内してきておいてしてくるなんてよ!もう許さねえからな?幾ら謝っても遅いぞ?事が済んだ後にどれだけ後悔してもそれは全てお前の責任だ!」


 俺は叫んだ。これに未だに俺を見下ろしている森の民は「調子に乗っているな、虫けらが」などと吐き捨てた。ついでに「貴様如きに何ができると?」とも付け加えて来た。


 これに俺の中に残っていた「手心を加える」と言った気持ちは塵も残さずに消えた。俺は拳技の最終奥義を発動させる。


「凶手」


 目の前の、森の民が立つツリーハウスを支える大きな木に俺は貫き手を放った。それはズボリと指の第二関節まで沈む。

 それをゆっくりと抜いた俺は静かに宣言する。


「おい、もうこれ以上俺に用が無いってんならここを去るぞ?そうしたら呼び止めても無駄だ。せいぜいその時には今回の責任をお前が取るんだな。」


「はッ!何を言うかと思えば。貴様がこの森から出られるはずが無いだろう。この森には結界が張られているのだ。我らの許可なくばお前はここから一生出られはしない。」


 そう言われたが俺はこれを無視して此処まで来た道を戻る。最大速度を出してダッシュで。

 多分これには森の民からしてみれば俺が一瞬で消えた様に見えた事だろう。


(ここまで来た道はざっくりと覚えてる。そして俺が全く意識できていないのにこれだけの速度を出しての突進で木々にはぶつかったりもしない事は、もう何となく理解した)


 どう言った原理か分からない。けれども俺は障害物にぶつかったり、段差に躓いたりしない。この本気ダッシュはどうにもそういった「性質」なのだ。


 こうしてアッという間に俺は今日の朝目覚めた場所まで戻って来ていた。俺の認識的にはコマ落としか、或いはワープしたかの様な認識だ。あの集落までの30分は何だったのかと言いたくなる。


「うーん?結界とやらが何処から何処まで張られてるのかね?この森全体?それとも、あのツリーハウス集落周辺だけだったのか?まあ良いか。逃げるべ。」


 ここで俺が逃げるなどと言った言葉を選んだのは、あの大木に食らわせた「凶手」の効果を考えての事である。


【これを受けた存在はその身を崩壊させて粉々に砕け散る】


 などと言う物凄く恐ろしいホラー説明であるのだ。

 なのでこの言葉通りにこの拳技の効果があの大木に現れたのならば、それこそ木っ端微塵。

 粉となって元の姿など見る影もなくなってしまう事だろう。


「ゲーム内じゃ確率で一撃死効果の技だったけど。どう工夫しても使い道が一切無い死に技だったんだよな。そもそも武器を装備しないで素手状態で戦うとかアリエネーし?」


 当然そんな素手の使え無い、使い道が皆無な技も俺はその当時のゲームを遊んでいた時は主人公に覚えさせたりしている。

 だからもしこの技がこの身体で、この世界で再現されてしまったとしたら?

 この「凶手」を受けたあの大木は今頃、崩壊が始まっていると思う。だから、逃げる。

 これに大騒ぎになった森の民に捕まらない様にと俺は逃げに逃げるつもりだ。


「俺を侮ったあいつが悪い。だから森の民の皆さん。恨むならそいつを恨んでくれ。なーむー。」


 もうこうなってしまっては森の民が何で俺をあの集落に呼んだのかの理由も知る事は叶わないだろう。

 でもそれはしょうがない。反省はしている、けど、後悔はしていない、というやつだ。

 俺は手と手の皺とシワを合わせて二秒ほど祈ったらすぐにまた走る。この森を完全に抜ける為に。森の民に追い付かれない為に。


 そして相当な速度を出して森の中を走り続ける事、一分。


「木の上に登って周囲を確認すれば良かった・・・」


 俺は向かう方向をテキトーにし過ぎた。今何処に自分が居るのか全く把握できていなかった。

 行き当たりばったりが酷過ぎたので一度止まって周りを見る。そして一番高い木に登って周辺を見渡す事にした。


 登った所で森の切れ目と、遥か地平線に町の姿が微かに見えた。


「ふむ、良かった。このまま向こうに進めば良いんだな。朝食摂って無いから腹が物凄く減ってるけど、町に付いたら思う存分食べよう。」


 見えている町はあの侯爵代理様が滞在したあの町では無い。見つかったりはしないだろう。

 もしかすれば俺の知らない伝達方法で町に指名手配などされている可能性もあるのだが、それを今の俺が知る事も出来ないので実際に行ってみるしかない。


「諦めてくれてると良いんだけどなぁ。犯罪者になった訳でも無いのに、逃亡している気分って、嫌だな。」


 そうは言っても巡り遇いの運が悪かったのはもうどうしようも無いだろう。

 それと全体の方向性と言うのは決まっていても、目の前の向かう先をどの様にするかを決定していない俺の計画性の無さが悪い。

 そこに追加も追加、テンプレに弱い事が致命的と言えた。悲鳴が聞こえたら無視できない。


「助けに向かっちゃうんだよなぁ。なまじ自分に力があったから、侯爵代理様の時は駆けつけちゃった感あるし。」


 最初にレーナの悲鳴を聞いたあの時はどうしたら良いか分からずにその場に立ち尽くしていたので咄嗟にそちらに動き出したに過ぎ無い。

 悲鳴の聞こえた場所に向かえば悩んで動けなかった状態から取り合えず抜け出せると思っての打算での情けない行動である。


 しかし二回目となった侯爵代理様の時はちょっと違う。既にその時には俺が人助けをできる力を持っていると充分に理解している状態での話である。

 放っておいて無視するのは俺の精神衛生上できなかったし、助ければ今後の旅での助けを受けられるかもと言った事も多少考えに混じってはいたが。

 それがあんな流れになるとは俺だって思っちゃいなかった。そして今である。


 そんな事を考えながら俺は既に木を降りて町へと真っすぐに向かっている。

 どうやらあの森の民の言っていた結界と言ったモノはここまでは機能していないっぽい。

 木に時折登って方角と残り距離を確認しつつ進んでいるので間違いない。どうにも結界は抜けた様に感じる。


 そうして俺は無事に森を抜ける事が出来た。まだまだこの時点で町はまだ遠いのだが、ここから一気に走っていけば俺のこの身体能力からしたら直ぐの時間である。

 しかし逸る気持ちを抑えて走る速度は抑え気味に進む。後方から森の民がやって来ないかどうかを警戒しつつ。


「よしよし・・・大丈夫そうだな?それじゃあ少し速度を上げ・・・あ、何だ?」


 町までの間はかなり草が生い茂った大草原、と言った感じだ。俺の背丈の胸辺りまである草も大量に生えている。

 その背の高い、どんな種であるか分からない草の生い茂る陰から立派な角を生やした緑色した毛皮の鹿が飛び出して来てこちらに体当たりをしてきた。


「魔物、か?もしかして、俺を襲うつもりなのか?え?肉食?あんな成りしてて?」


 その緑鹿、確実に俺を狙って向かって来ていた。その角の先はかなり鋭く、前方をしっかり向いていて、あれをまともに胴に刺されたら下手すりゃ死亡、普通に重症、致命傷だ。

 向かってくるその歩法はまるでスキップでもしているかの様に跳ねる。しかしその一跳ねはかなりの速度と距離を出していた。


「だけど俺の敵じゃあ、無いな。」


 俺はその緑鹿の突進を軽く横ステップで躱した。

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