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★★★迷子になった森の奥で★★★

 俺はもう世話になった最初の村でお勉強をしていてこの世界が「ドラドラクエスト」の世界とは全く別と言うのはもう理解していた。

 当初はこのゲームの主人公の体に俺と言う存在が入り込んでいるので「まさかゲームの世界?」などと思っていた時もあったのだが。


「ゲーム的な表現をすれば、きっとここは「小鬼の森」だとか何とか、雑なネーミングのマップになっていたんだろうなぁ。」


 などと言った現実逃避を俺は目の前の光景にしてしまう。だってこれはしょうがない。

 何せどちらを向いてもゴブリンしか視界に入らないのだから。

 そう、俺は森の奥にあのまま入って行ってゴブリンの集落、と言うか、もうこれは町規模と言える程の大きさに成長している場所を見つけてしまったのだ。


 ちなみに先の五十体のゴブリンはサクッと魔法で片づけた。使ったのは風系統の魔法だったのだが、剣技「スラッシュ」と同じ結末を迎えた事を此処に報告する。しかも範囲がそのスラッシュよりも倍近い横幅だった。

 魔法名は「ウインドカッター」である。ネーミングセンスの無さは開発陣の責任である。しかもこれだけの威力を出しておきながら初期魔法だ。

 もう色々と試せば試す程に迂闊に使え無い威力ばかりだ魔法は。こうなると剣技よりも魔法の方が使いやすいか?などと考えていた俺が馬鹿らしくなってきた。


「とは言え、これ、見逃せないじゃん?・・・一気に殲滅した方が良いんだろうけど、大量殺戮かぁ。きっとこの世界のゴブリンも人類の敵扱い、ゴキ●リみたいな扱いなんだろうけど。俺が片づけちゃって良いモノかね?あぁ、今さらかぁ。最初に会った奴ら、いきなり襲い掛かってきたからなぁ。」


 既に百近い数のゴブリンを屠っておきながら言うセリフでは無かった。言うなら最初に出てきたゴブリンと遭遇した時に言っておくべきだった。


「このまま放っておいたらここの廃村みたいな場所が増えてしまう可能性が出るって事なんだろうな。俺とは関係無い、なんて思っても、後で被害を聞いたらまぁ、胸糞悪くなるよなぁ。」


 どうにもこうにも俺は目の前の光景に対して覚悟を決めなければならないらしい。

 しかしこれからやろうとしている事は俺の心からの善意でやるのではなく、その場の流れに身を任せての無責任な行動であるこれは。

 なのでこれから放つ魔法の齎す結果に対して責任を負うという気概は無い。そんな最低な思考をする。


「デッドエンドサイクロン。」


 風の最大魔法である。開発陣の相変わらずのネーミングセンスの無さに絶望する。

 どう言ったつもりでこの様にセンス皆無な魔法の名前を付けてゲームをリリースしてしまったのか?誰もこれに反対しなかったのだろうか?他の案や候補は出なかったのか?


「まあそれだからドが付く程にマイナーで、恐ろしいくらいにゲームバランスが崩壊していたんだと納得するけどさ。・・・今俺は自分で放った魔法に殺されかけた状況だよ・・・」


 ゴブリンの町と言える規模のその中心にて、俺の放った魔法がその猛威を瞬時に膨らませ、死をどんどんと量産し始めた。

 魔法を放った後に即座にその場を離れて遠ざかったので俺自身はその魔法に吸われずに済んだのだが。

 ゴブリンたちはダメだ。恐らくは一匹もこの威力に逆らえた個体は居ないだろう。その高さは上空何百メートルにもなるか。

 吸い込み、巻き込み、周囲のモノ全てをその身に取り込んで、その竜巻は汚い色に染まり上がる。

 ゴブリンは緑色の肌をしていたので先ずその数の多さで緑色が目立つ。

 そしてどうやらゴブリンの血の色は黒っぽい紫であるらしく、所々でそう言った色が混じる。

 その住居は木と草で建てられた掘立小屋と言えばいいのか、どうなのか。全体が茶色であるのでそれらが漏れなく混じってより一層に汚さを演出する。

 地面の土も巻き込まれて一緒に混じり余計に混沌を作り上げている光景だ。


 時間にしてどれ位経過したかは分からない。この様な威力であるのにゲーム内では一瞬で、そして文字だけで説明が終わりであるのだが。

 それがこうも現実として目の前に現れればこれだ。自らの放った魔法に自分が巻き込まれかけるというヒヤリハットである。


「・・・終わったみたいだな。上空に巻き上げられた諸々はこの後どうなるんだ?・・・あ?」


 俺の方に一本の丸太が飛んでくる。それを確認した俺は即座にその場から後ろに下がった。そして目の前に落ちて地面に刺さる丸太。


「二次被害!」


 何処までもリアルは勘弁して欲しい。これに俺は叫び声をあげて即座に森から脱出した。

 森から脱出した後も次から次へとモノが降ってくる。俺はどうやら休み無しでこの場所から離れなければならないらしい。

 あの魔法で巻き上げられた様々な物が時間差で周囲に落下してきている。


「廃村で休もうと思ってもこんな状況じゃおちおち寝ても居られねえ!」


 ゴブリンの死体やら丸太やらが落下してきてもう幾件かの廃屋がドッカンドッカンと破壊されていた。

 それだけあの竜巻の魔法は高い場所に諸々を吸い上げて周囲に巻き散らかしていたと。


 その脅威を受けない様にする為には相当な距離を逃げなくちゃいけなくなった。どれ程に離れれば良いのかの予想なんてできない。

 なので俺は当初の山越えを中止にして廃村を後に。来た道とは反対側にある街道へ。その先にあった分かれ道を左に今度は曲がって突き進んだ。

 道があるなら何処かに通じている。そんな思いでそちらの方向を安易に選んだ。道の先が何処に繋がっているのかなど気にしていられる時間も無かった。


「自分が何処に向かっているのか全く把握できていない。ここは何処?私はだあれ?」


 逃げている途中でふと自分を振り返ってしまった。まるで自分が自分では無い様な感覚に襲われる。いや、俺は俺じゃ無かった。俺の今の姿はドラドラクエスト主人公の見た目である。

 その「中の人」が俺となっている状態、この様に余計に考えれば考える程に意味が解らなくなってくる。


 俺は俺であるし、俺は俺であるのに、俺じゃ無い。


 自分の使う魔法の威力に自分がまるで「災害」であるかの様に感じてしまう。

 いや、実際に他者から見たら災害そのもの指定されてもおかしくは無い。俺はそんな中身じゃない。


「こんなの「俺ツエエ」じゃないよ・・・俺「こぇぇぇ・・・」だよ・・・」


 俺が何かとちょっとでもこうして動けば何でもカンでも過剰になってしまうのならば、それは恐ろしい事でしかない。

 抑えたつもりで行動しても、目立ちたく無くても無理やり目立つし。それに伴ってこれに周囲の俺への反応もまた畏怖されるモノになるに違いない。

 そんな事になれば面倒過ぎる。それに絡め取られれば今後の俺の行動が雁字搦め、制限を掛けられる様な事になっていくだろう。


「そうなっても要領が良い奴は権力を使ってやりたい放題?金を稼いで将来安泰?実力を示して有名になってモテモテうはうは?どれも俺には無理そうだぞ・・・で、一体、本当に、ここは、何処だ?」


 既に脅威圏内を脱したのだろう。辺りは静かになっていた。これに俺は一息ホッとする。

 しかしどうやら俺は必死に真っすぐ走り過ぎて途中で道を外れて森の中に入り込んでしまった様子だ。

 しかも妙な考え事をしながら突っ走っていたので相当森の深い所にまで進んでしまっている様であった。あの廃村からどれだけ離れたのかさえ分からない。

 だけど俺は悩まない。気持ちを既に切り替えていく。そうでないと俺は自分の起こした事に対するストレスで死んでしまいそうだった。

 さて、ここは先ほどのゴブリンの大量に居た森とは全く別の森の様子だ。ならば俺はここでちょうど良いかと思って狩りをして食糧調達を狙ってみる事にする。

 俺の腹は未だにすっからかんでエネルギーが足りていない状態だ。ここで一匹位はまともな獲物を狩っておきたかった。


 しばらく歩き続ける森の中。迷子の心配や遭難の事など考えない。俺は腹が減っていて寧ろそんな心配をする余裕は無かった。

 先ほどの風魔法での竜巻で「もう・・・いいや」と投げ遣りな気分になっている事もある。

 獲物が見つからずにこのまま餓死するくらいなら、いっその事ここを破壊するつもりでウインドカッターで森を切り開いて脱出する所存である。

 真っすぐに進み続ければきっと森は抜けられるだろう。その様な暴挙に出る気持ちの整理は出来ていた。

 人は自棄になればなるほどに周囲の事など考え無くなっていく。今の俺がそれである。


 そして見つけた一匹のウサギに似た動物。そう、ウサギでは無い。その顔は凶悪にも牙が生え、額には鋭く尖った角、体格は「世界最大級の兎」と同等近い。

 そう、こいつはウサギに見えて魔物である。ついでに言うと雑食だ。

 その持つ凶器で獲物を殺して食う事もあるし、そこら辺に生えている草も食べる魔物だ。

 そして俊敏さもあってなかなかの強敵である。普通の狩人であれば。


「・・・肉だ。食料だ!俺は腹が減ってるんだヨおおおおお!」


 村で慣らした狩りの知識で足跡を見つけてそれを追う事30分。ようやっと、ようやっと見つけた獲物に俺は襲い掛かる。


 この俺の狂気を孕んだ気迫に押されたのか魔物の方は一瞬だけ硬直をした。それを見逃す俺じゃ無い。

 踏み込む、と同時に抜刀。瞬時に斬る。俺の踏み込みはそれだけで魔物の背後に一瞬で移動している。そして次には魔物の首は落ちていた。

 これが俺の全力の狩りだった。獲物を逃がさず瞬時に命を取る方法として今の俺にはこれしか手が無い。しかしこれしかと言っておきながら他の方法を考えるつもりもないのだが。


「よっしゃ!血抜き!皮剥ぎ!腑分け!火起こし!ハラヘッタ!」


 今の俺の精神は余りにも野生に還り過ぎていた。本日起こしたあの何もかもを忘れたいと言う心理もそこに含まれている。


 俺はあっという間に調理の準備を整えて肉を焼く。調味料は無いが、しょうがない。早く胃に何かを入れたくて仕方が無かった。

 そして待ちに待った至福の時。は、気づけばあっという間に終わっていた。

 あれだけの巨体であったが、腹が減り過ぎていて俺は夢中で即座に食らい尽くしていたのだ。腹が満ちた事でようやっと俺は冷静さを取り戻した。


「ふぁ~。腹が満ちたら寝る。うん、実に動物的だな。つか、このまま地面に寝転がるのは、不安だな。幾らサイキョウソウビって言ったってなぁ。」


 俺の体は化物だ。けれどもやはり急所を穿たれた場合にどうなってしまうか分からない。

 その時、俺は死ぬのか、無事なのか?


 死ぬと言うのであればそれは物凄く当たり前の事だ。ここは夢や幻じゃ無い。死と言うものが簡単に訪れる異世界と言う「現実」だ。

 幾ら今の俺のこの身が化物だろうと心臓を刺されれば死ぬとなれば、それはおかしい事じゃない。


 逆に死ななかった場合の方が恐ろしいのだ、この場合は。

 ゲームの様に「復活」などをできてしまった場合は?そもそもこの身体に刃物などでは傷一つ付けられない、などとなったら?

 そもそもそんな実験の為にわざわざ痛い目に、怖い目に遭うつもりなんてこれっぽっちも無いので、この件は深く考えない様にする。


「と言う訳で、野生の獣に襲われて首の頸動脈なんて嚙み千切られた日にゃ痛いだろうし、死ぬだろうし?木の上で寝るっきゃナイト!」


 そこら中に太い枝を持つ立派な木が生えているので選り取り見取り。どれを選んで寝てもしっかりと俺の体を支えてくれそうな木ばかりだ。

 俺はヨイショと爺臭い掛け声と共に地面から尻を上げる。そこからウーン、と背伸びをした瞬間にそれは飛んできた。

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