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★★★ここでやっておくべき事★★★

「ギャギャギャ!ギャーギャギャ!ギャギ!」


 そこには五体のゴブリン。もう何処からどう見ても、天が知る、地が知る、人が知る、あのゴブリンそのまま。

 ラノベで出てくる大抵の説明にあるアノそのまま同じなゴブリン。奇をてらう様な事も無い、みんな知ってる、俺も知ってる、そんなゴブリンが目の前に。


「ぎゃー!」


 そう叫んでその五匹は俺を指さし笑う。どうやら俺の事を舐めているらしい。


「・・・ここでこいつらの言語が解ったりしなくて良かったんだろうな。と言うか、お願いされても分かりたくもないや。」


 いきなり人を見て笑う奴らである。ロクでも無い存在だというのはそれで分かった。

 さて、そうなれば次だ。こいつらがこの後に取る行動を俺は警戒した。


「ギャガギャガギャガ!ぎゃーが!」


 やはりダメだった。こいつらは人と言う種族とどうやら心底分かり合えない存在らしい。

 五匹同時に俺に向かって走りこんできてその手を俺へと向けて振り込んでくる。

 そう、俺をボコボコにしようとしてきているのだ、こいつらは。


「誰も、見ていないよな?他に被害が拡大する様な・・・事も無さそうだ。なら、今しかない!」


 試すなら今、そう判断した。何をか?それは。


「ファイアーレーザー。」


 そう呟いて人差し指で前方を軽く薙ぐ。ゴブリン目掛けて。

 魔法だ。このネーミングセンスのクソさは俺のせいでは無い。本当にドラドラクエストの開発陣の頭を疑う。

 小さい子供が考えたのかと言いたくなるこの火属性の最大魔法は広範囲を超高温の光線で敵を纏めて切り裂く魔法だ。


「うおっ!えげつない!」


 五体のゴブリンはこの光線で胴が真っ二つ。その表面は焦げている。と思ったら余りの高温でその二つにさよならした死体は燃えあがった。


「まじかよ!迂闊に使えないよこんなの・・・」


 それだけじゃなかった。ゴブリンを真っ二つにしただけでは威力減衰とはならずにその遥か先後方にまでレーザーは飛んで掠めた木々を炎上させていた。


 森林火災になる前にと思って俺はその炎上している木々のそばに駆け寄る。そして消火活動である。


「ウォーターフォール・・・」


 この魔法は中級魔法だ。その上が最大魔法なのだが、もうそれの威力は過剰であると判明しているのでこちらを選んだのだが。


 さて、この魔法、大量の水が落ちてきて敵を圧殺するという単体への魔法攻撃、なのだが。


「現実になっている事を考慮したらそうなるよな・・・」


 俺は見事にその魔法の効果、水の落ちてきた膨大な量、それとその馬鹿げ過ぎた威力に巻き込まれ5m程流された。魔法を使った本人がその余波を受けるとか使い勝手が悪過ぎる。

 だがこれで火は食い止められた。だがそこら中水浸しである。木々が燃えていた範囲は初期消火だったのでそこまでの広がりは見せていなかったのが幸いしたか。

 しかしそのせいで水の爆弾の威力を一番近くで食らった木が幾本か折れていたり、或いは斜めになっていたり、根っこ丸々抜けて横倒しになっていたりしている。


「ダメじゃねーか・・・中級も使えねーよ、こんなん。」


 水の中級でこれだ。他にも属性がいろいろとあるのだが、この調子ではどれも使えないのは確実だ。

 威力がありすぎて使い所が無さ過ぎるだろう。


「魔法、あこがれてたんだけどな。いや、初級なら、イケる?」


 しかし何を試せばいいか?そもそも俺は今さっきまで魔法をこの世界に来てから一度も使ってきてはいなかったので、最大魔法が使えた事自体を先ず驚かねばならないはずだった。

 しかしすっかりと今は子供の様に「魔法、パネェ!」と浮かれた気持ちがむくむくと沸いて来ていた。愚か者であると自覚はある。

 今目の前で災害級の威力の魔法に「使えない」とレッテルを張ったばかりなのに。


「二つ魔法を使ってみて判った事はある。それは杓子定規の如くに「決められた」魔法しか使えないって事だ。魔力制御とか、威力調整とかできない。魔法を唱えたらコントロールなんて丸無視で全部決められた威力が発動する。・・・良い事、なのか?悪い事なのか?判断が付かないな。」


 この世界の魔法とやらを俺は全く知らなかった。その内にこの世界の魔法学校とやらに通って「学園編」と銘打って無双でもする事になるだろうか?

 その場合は俺はこちらの世界の魔法を使える様になるだろうか?


「バカな事を考えてる場合じゃないか。初級だ、そう、初級。これの威力がどの程度かで俺の今後の戦闘スタイルが決まる!・・・いや、俺は何と戦うつもりなんだ?それこそ俺がこの世界に転生?転移?させられた不条理と戦う、って事か?」


 今後俺が咄嗟に魔法を使って事故が起きない様に、今は検証が必要なだけだ。ワクワクしてる場合じゃない。


 そしてどうやらその俺の検証に付き合ってくれるのだろう存在が追加で現れた。もちろんゴブリン。

 だけどその身なりは最初に燃えてしまった五体とは違う姿だ。

 ボロボロの皮鎧を装備して、その手には錆びていたり、ボコボコだったりと武器をその手に持っていた。

 剣、槍、斧、ナイフ、盾。弓持ちが居ないのはこのゴブリンが器用でないだけか、或いは今ここに居ないだけでどこか別に潜んでいるのか。


 森の奥からやって来たその追加戦士五体は周囲が水浸しになっている事に少々の驚きを見せながらも俺を睨んできている。

 どうやら最初に遭遇した五体よりも警戒心が高いらしい。

 ここで俺は先制攻撃を仕掛ける事にした。恐らくは待っていてもこいつらは俺に襲い掛かるという行動を取ってくるだけだろうから。


 俺は伊達にあの世を見ていない主人公の様に手で拳銃の形を取る。そして。


「ストーンショット。」


 俺の指先には五百円くらいの大きさの石が発生する。しかしそれも一瞬で無くなった。飛んで行ったからだ。

 この魔法の説明をすれば「石を生成して飛ばし、敵を打ち抜く」である。


「ぎょば・・・」


 ゴブリン一体の土手腹に大きな穴が開いていた。先ほどの石よりも1,5倍は大きい穴が。

 もちろんそんな穴が開いてしまったそのゴブリンは即死だ。


「マジかよ・・・初級でこの威力?」


 他の初級の魔法も属性は違えども似たり寄ったりな威力となるだろう。

 ますます俺は不用意に魔法を使っちゃいけない事がこれで判明した。

 だって先ほどゴブリンを貫通した石はその背後にある木の中程まで埋まりこんでいたからだ。

 もしこれを不用意に使おうものなら、何ら関係無い者まで被害を受けてしまう可能性が濃厚だ。


「だからって剣で戦っても近い結果になるんだけど、どうするのこれ?」


 俺は剣を抜いて軽くステップでも踏むかのように一歩前に出る。

 たったそれだけの事で俺はゴブリンの背後に回り込めてしまった。

 この体の身体スペックも異常であり、それを俺の意識が全く使いこなせていないのである。

 この一歩、俺からしてみると瞬間移動したような感覚である。一般ピーポーな俺の脳みその許容範囲を遥かに飛び越えている。

 一歩を踏み込んだ後、ゴブリンの背後にまで回るその間の部分までがすっぽりと抜け落ちているかの様に俺の中では受け止められているのだ。


「魔法の方が安全かもな。そうすると、どの魔法を中心にして立ち回るか、だよな?」


 残り四体に何の反応もさせずに横薙ぎ一閃で全てを片づける。

 恐らくはゴブリンは自分が切られた事すら認識できていないだろう。

 そんな達人を超える様な動きが素人でも簡単にできてしまうこのドラドラクエスト主人公のカンストステータスな体なのだ。自分が十全に扱える代物では無い事は明白であるが。


「この先何が待ち受けているか分からないし、色々とやっておいて知っておかなきゃいけない事が多過ぎる・・・」


 車の免許すら持っていない運転素人がいきなりフルハイスペックなカスタムF1カーに搭乗してドリフトなどキメれる訳が無い。それと同じだ。

 今の俺はもっとこの体に習熟しておかねばならない。そうじゃないと何時か近いうちに事故を起こす事が確定していると言っても良い。


「俺の明日は、どっちだ?」


 未だに腹が減ったままの落ちつかない思考でこのまま検証を続けなくてはならない。

 今後にこんな機会がいつやってくるか分からないのだ。だからおかわりドン!も歓迎である。


「今度は三十体がお目見え・・・て、流石に一気に数増え過ぎじゃない?」


 俺のいる場所は森の入り口前である。この三十体はどうにもこの森の奥の方からやってきた様子だ。


「・・・絶対コロニーができてるよな、これ。もしかしてソレ、俺が片づける事になるの?まさか?」


 そんな役割を俺は担いたくは無い。しかし今自分のこの体を自在に操れる様にする為にはそれくらいはあっても良い。


「・・・あー、じゃあ今度は雷系、いってみるか。」


 このドラドラクエスト主人公、ゲーム内で仲間になる「魔法使い」の覚える魔法の八割、九割を覚えてしまうというやり過ぎ仕様である。

 一応はこの主人公の職業は幾つか選べるのだが、結局「魔法剣士」と言うのが最強だったりする。

 だから一部の特殊系統に分類される以外の攻撃魔法はそのほとんどを今の俺は使える。


「サンダーニードル。」


 これも初級魔法だ。でも心配でしかない。恐らくはこのゲームの魔法の説明文そのままの威力がこの世界では出るともう予想できているから。


【強力な雷が細い針の様になって敵に襲い掛かる。その際にその電撃は周囲の敵に感電する】


 これ、初級の癖して威力そこそこな全体攻撃となるのだ。単体用ではないのである。

 寧ろこの世界だとその単体用も馬鹿げ過ぎる効果で周囲にその威力を波及させる為に範囲攻撃とあまり変わらない事になっているのだが。


 そして目の前の三十体は一瞬で黒焦げになった。雷系魔法・初級で。

 どうやらサンダーニードルを受けたゴブリンから他へと雷が感電していった様子。

 その死体からは白い煙と焦げた臭いが立ち上がっている。ぶっちゃけ近寄りたく無い。


「はぁ~。このまま森に入ってゴブリンの巣を潰す流れか?いや、それはもう俺の気持ち次第か。別にこのまま廃屋に戻ってそのまま寝たって良いんだよな・・・」


 このままの勢いで森の奥に入って行ってしまえば危険だ。そもそも俺は森歩きの素人である。遭難するのが目に見えている。何の準備もできてやしない。

 俺が世話になったあの村では確かに森で狩りをしていた。しかしそれはレーグが俺の監視と言って着いて来てくれていたからで、そうしている内にあの村の周囲の森は慣れたと言った所がある。

 だがここはそもそも一度だって入った事の無い森であり、土地勘も何もありはしない。


「まあ本当にダメになったら全開で魔法をぶっ放せば森からの脱出なんてできるんだろうけど。自然破壊はしたくないなぁ。」


 などと悩んでいればまた追加で森からゴブリンが出てくるのだからさあ大変だ。

 今度は50は居る。ゴブリンの巣の大きさがこうなると分かると言うものだ。


「おいおい・・・これってこのまま放っておいちゃダメなヤツなんじゃないのかよ・・・」


 これで出てきた数は合計で百近くにもなってしまう。そうなると早急にゴブリン殲滅をせねばここいら一帯がゴブリン王国にでもなるのではないかと危機感を感じる。


「・・・あ?なんで俺がこの国の心配せにゃならんのだ?そもそも俺はこの世界の者じゃ無かったな。あー、だからって言ってここで知らんぷりする事が出来ない位には善人なんだよなぁ。偽善者だけど。」


 冷静になった後に自分の性格を振り返る俺。


「仕方が、無いかなぁ?」

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