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★★★こんなスタートは、嫌だ★★★

「降参、しても良いですか?と言うか、させろよクソったれ!」


 その拳は本気で叩き付けられた。俺が寸前でその右ストレートを避けた事で壁にそれは激突、破壊した。

 組合長は別段コレに何ら痛みなどを感じている様子は無く、この攻撃を避けた俺に向けて体勢を整えつつミドルキックを放って来る。

 しかしこれには流石にマトモな蹴りとはいかずにそれを俺は潜り抜けた。


「侯爵代理様!何とか言って!コイツ俺の息の根を止めるまで止まらないつもりだぞ!?コレは只の力量を見るって事じゃ無かったのかよ!?」


「うーん、タクマ!頑張って!」


「お前大概にしろよ!・・・ぬおァ!?」


「キサマ・・・マリエンスがその様な態度を許しているからと言って舐めているな?相手は代理と言えど侯爵相手だぞ?言葉を選べよ?」


 増々殺意を上げて組合長が俺に一歩一歩近づいて来る。


「タクマ、私の事をちゃんと名前で呼んでくれたら組合長を止めてみても良いんだけれど?」


「・・・増々キサマが憎い。マリエンスが自ら名で呼ぶ許可を出すなんて・・・もうそろそろ死んでくれないか?私の拳で。」


「お前ら自分の立場ってモノを考えてから物を言えよ!俺の事言え無いだろ!」


 そう言った瞬間に組合長は再び踏み込んで来る。ダメだった。こいつらはこちらの話なんて聞く耳持ってない。

 だから覚悟を決めた。取り敢えず今目の前の脅威を取り除かねばその内に事故って俺が死ぬ。このままチンタラ長引かせていると集中力が切れて組合長の全力の一撃を食らう可能性が上がる。


 だから一歩引いて、そして深くしゃがみこんだ。そしてそこから手の平を組合長の腹にそっと伸ばす。


「・・・うぐぅ?」


 丁度俺の手は防がれずに決まる。深く組合長の腹にめり込んだ。カウンターとなった。これに組合長は小さな呻きを上げる。

 力は全く入れていない。相手の突進してきた勢いだけで攻撃となる様に組合長の腹に向けて優しく手を添えただけにしたのだ。

 これ位しか俺には思いつかなかった。相手の本気度からして俺が力の調整をしながら戦うと言った事が出来なかったのだからしょうがない。

 事故が起きると言うのは俺が攻撃を食らうと言っただけではない。俺の冷静さが無くなる前に、と言った意味もあるし、そのせいで力の込め方を誤ると言った事故も起きない様にと言った部分も大いにある。


 組合長の動きが止まったがこちらは残心を忘れない。この組合長、最後に何をしてくるか分かったモノでは無いから、今までのその様子と態度で。


「思った通りだよ!」


 覆いかぶさってくる組合長。その顔、目から殺意は消えていない。


「掴んでしまえばこちらのモノだ!」


「アンタに抱きしめられても何も嬉しくねぇよ!」


 俺は掴まれる前に組合長を突き飛ばしてその難を逃れる。素早く後ろに下がってそれ以上の追撃を狙われない様に距離を大幅に取る。


「そこまで!それじゃあ組合長、タクマは合格で良いですよね?」


「侯爵代理様は結構冷たいのな。組合長の心配の前にソレ?」


 腹を抑えて片膝を付いている組合長である。以前からの知り合いと言うのならもう少しこの場面で心配をしても良いだろう。

 ソレでも侯爵代理様は何ら組合長に心配もしていない様子だ。そして言う。


「タクマに私を名前で呼んで貰える機会だったのになぁ。残念。」


「ソレは酷い。どう言う神経してんの?」


 俺は呆れてものが言えない。相当ヤバい性格をしているこの侯爵代理様は。


「さあ、この後は契約書にタクマにサインをして貰って、その後は今回の調査の為の契約を受けて貰える傭兵たちを集めないと。」


 スタスタと組合長を置いて侯爵代理様は先程の部屋に戻って行ってしまう。

 俺もこれの後を付いて行く。組合長ほったらかし。これ位は許されると思う。何せ俺は相手に殺されそうになっていたのだから。


 こうして用意された書類にサインを、と思ったのだが、ここで重大な危機に面した俺。書面を見て不味いと感じてしまった。


(そもそも俺は文字読めないな?くっそマジかよ!コレもしかして向こうが不正をしていたりしたらヤバいじゃんか)


 言葉として発せられるものは何故か不思議パワーが働いているのか理解できるのに、文字はダメらしい。

 登録の際も俺は口頭での受け答えで手続きが終わっていた。俺が書面に必要事項を書くといった対応では無かった。


(失念!失敗だ・・・はぁ~。まあ良いや)


「俺、文字読めないんだけど。職員さん、この書面にはなんて書いてあるのか俺にも分る様に簡潔に教えてくれない?」


 俺は書類を持って来てくれた組合職員にそう言って確認をお願いした。文字が読め無い事に俺は恥を感じない。

 何せ俺はこの世界の人間じゃ無い。しかもついでに言うと俺の今の姿は何故か「ド」が付くマイナーゲーム「ドラドラクエスト」の主人公なのである。ついでに付け加えるとステータスカンスト疑いで、しかも最強装備である。


「ちっ」


「は?」


 俺は正面に座る相手の舌打ちにイラつきが募る。侯爵代理様、俺に対して詐欺を働こうとしていた模様。

 当初の口頭での約束は守るつもりは無いと言った所だろうか?

 俺は今回の調査が終わるまで個人で契約する傭兵護衛として侯爵代理様に雇われると言った話だったはずだ。

 それなのにこうして舌打ちされたと言う事はこの書面にはそれ以外の、もしくは全く別の契約内容が書かれていると言う事に他ならないだろう。


「スイマセン、この契約は無かった事にさせて貰いますね。それじゃあ失礼します。」


 そう言って俺が席を立とうとしたら即座に侯爵代理様に腕を掴まれて止められた。


「ハハハハ。どうやら職員は私が頼んだ内容を勘違いして作成した様だ。新たに書類作成を頼むので待って貰えないか?」


「ほほう?ソレはそれは。何か俺に不利になる様な内容だったのですかねぇ?」


「そんな訳じゃ無いみたいだが、どうやら解釈によってはどうやらタクマに不利になってしまう書き方になってしまっていた様だ。直させた物で契約を頼むよ。」


「いやいや、こちらとしてはこの後に用事がありますので待てませんね。それでは。」


「いやいやいやいや!タクマが文字を読めないとは思っていなかった。どうだろうか?この場で私との口頭契約でも依頼はできるんだ。職員がその場に居てその会話記録を取れば可能なんだ。時間は取らせないよ?」


「いやー、組合長にあれ程のお手間とお時間を掛けさせてしまいましたからね!ソレに伴って職員さんたちにまでも御大層な迷惑をおかけしてしまっているでしょうから、その様な面倒やお時間はこれ以上取らせられないですよ!それじゃあ!」


 俺は掴まれた腕を少々乱暴に振りほどいて部屋を出る。


(逃げろ!逃げろ!逃げろ!逃げろ!)


 俺は当然喋って言葉が通じるのだから文字も当然変換されて勝手に分かる様になっているのだと思ってしまっていた。思い込んでいた。だってテンプレだろ?

 だけどそうじゃ無かった。俺は村に居る間ずっと文字の事などすっかりと忘れていた。

 狩った獲物の毛皮を商人に売っていたけれど、その時には別段買い取り額が低いとも疑っていなかったし、そこら辺の事は全く気にしていなかった。売り買いの為の書類なども作っていない。所詮田舎での売買契約である。商人の方も多少は俺の事を「田舎者」と見下していた様子も感じられていたので余計にそう言った売買証明など作成する手間や労力などはしないで充分だと考えていただろう。


 お金の事で言えば売る回数が重なればそれなりの金額を溜められるし、そこまで高額で買い取られても逆に困るとも考えていた。

 持ち運ぶのもそれなりの量になるのだ、硬貨などは。だから適度に小銭が溜まったと思ったら商人に両替も頼んでいたりもしていた。

 そんな事に必死になっていたのだ。その他には村で生きる為の知識、これから生きていく上で最低限の知識を仕入れる事を中心に教えて貰っていた。

 だけど俺はそこで「文字はいいや」と早々に切り捨てていて意識の隅に追いやっていたのだ。もちろんソレはテンプレを信じ切ってしまっていたからだ。


(侯爵代理様はどうやら俺が書類を流し読みしてサインをパパッと書くだろうと考えてみたいだけどな!やり口がせこいし怖いんだよ!)


 考えてみれば文字も書けない。村でも識字率と言った部分は低かったし、俺も「喋れば伝わるし、今は急がんでもいいだろ」と考えてしまっていて良い加減であったのを後悔した。今更だ。

 そしてワンチャン俺の書いた文字がオートで変換されると言った不思議現象が起きるんじゃね?と軽い気持ちだった。その事を検証もせずに。


(あの書類、なんて書いてあったんだよ・・・俺が間抜けだった事は良い事だったのか?悪い事だったのか?今考えても意味無いな)


 俺はどうしようか悩んだ。傭兵組合から外に出た俺はここまで来た道を途中まで戻った。

 しかしその後にどちらに行けば良いのか迷う。早くこの町から出なければ侯爵代理様の追手がやってくるだろうから、気が気じゃない。


(絶対にあの執着具合は病んでるぞ、マジで。ここはなりふり構わず本気出して逃げるべき!)


 町の地理を俺は詳しくない。今日来たばかりなのだ。分かるはずも無い。

 傭兵証を手の中でぐしゃりと潰す。コレは覚悟だ。絶対に逃げ切ると言う自分への。

 持っていればきっと便利なのだろうが、違う。コレを持っていると何時までも侯爵代理様に追跡される可能性が高いのだ。

 これには俺の傭兵登録で侯爵代理様が保証人となっているらしいので迂闊にコレを見られたりすると誰かがソレを侯爵家に報告する可能性が出る。

 そうしたら俺が何処に居るのかバレる。そうしたらまた追いかけられる、粘着される、追跡される。

 傭兵証をこれでもかと言わんばかりに丸めてぐしゃぐしゃに丸める。しかしそれを容易くそこら辺にポイ捨てせずに持っておく。


(コレを誰かが拾ってもしかしたら不正利用とか怖いしな・・・この世界のセキュリティならそこら辺心配しないでも大丈夫そうか?)


 ソレでも用心の為に忌々しいが棄てずに持っておく。


(そりゃ俺は確かに不審者だろうさ。そんな奴が傭兵登録するのに保証人が付く言うのは本来なら良い事なんだろうけどよ。そもそも俺はそんな縛りなんて受ける気は最初からサラサラ無かったんだよ!)


 俺は別に傭兵登録しようとする気は元々無かったのだ。そんなのに登録して実力を認められたら面倒な依頼や強い魔物を倒す依頼を押し付けられると言うのは目に見えていた。これぞテンプレ!と言った展開になるのは避けられなかっただろう。


(俺の力を少しづつ加減の調整しながら依頼を熟し続けていたら、そりゃもうテンプレ展開全開な道筋がハッキリと想像できるよ!)


 俺は町の通りを大きい道、小さい路地を右へ左へと複雑に逃げる。追手が付いて来ていたら直ぐに気付ける様に。

 そんな心配は要らなかった様で俺に突いて来る奴は居ないみたいだった。けれど安心できなかった。


(門から外に出ようとした時に身分証が必要だったら?外には出させて貰えないな。だけど傭兵証を見せれば直ぐに侯爵代理様に連絡が行くって言うのは予想が付く)


 既に潰した傭兵証は使い物にならない。しかし使っていれば何処の門から俺が町から出たかの情報が侯爵代理様の所に直ぐに行くだろう。

 あの俺への異常なまでのこだわりは油断できない。寧ろもう既に俺の見た目の事が門番に通達されていて見かけたら引き留め、或いは連行、最悪は捕縛命令などが出されている可能性も無くは無い。


「俺の異世界の旅、いきなり指名手配まがい状態!俺が一体何をした?」


 そんな言葉が思わず漏れるがソレは静かな路地裏に消えて誰も聞く者なんていなかった。

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