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★★★結局はそう言う風になるんだよね★★★

「では、登録は以上です。そちらのお部屋でこの後はお待ちください。」


 俺はあっさりと傭兵登録が終わってしまった。良くあるラノベの階級制度的なテンプレ説明などは無かった。

 この傭兵組合、自分の実力と依頼を鑑みて受けるか受け無いかを判断しろとの事である。

 なので俺が登録したての新人だからと言って腕前に自信があれば用心棒でも、恐ろしい凶悪犯罪集団を相手取ろうが、自己責任で仕事をしろと言う事だった。

 しかしそう言った依頼を受けようとしても傭兵自身に信頼が低ければ「やっても無駄だろ」と組合側が却下をしてくると言う。

 これまでに成功させてきた依頼の数やら実際の組合が査定する強さ判定などをクリアできないとそう言った信頼は積み重ならないと言った事である。世界が違えどそこら辺は違わず当たり前と言う事だろう。


「で、俺は何時まで待てば良いのかね?それと、このままだと「お前どれ位強いんだ?」的なテンプレに陥るのでは?」


 案内された部屋で俺は傭兵証を渡される。金属でできたプレートの様である。大体USB程の大きさだ。ドックタグみたいである。

 ちなみにコレを身に着ける為のアクセサリーなどは貰えていない。自前で加工しろと言う所か。こんなに小さいモノを服のポケットなどに入れていたら直ぐに無くしそうだ。


 それはさておき、依頼を傭兵たちにバランス良く振り分けて仕事をさせる役目を組合は持つという。俺みたいな新人の力とやらは最初に計っておくのが普通だろう。

 そうで無いとどんな仕事を振っても良いかいつまでも分からないままになるし。俺はまだ組合から頼られるような力を示してもいない。

 結局は傭兵の自己責任で依頼を受けると言っても組合の方でそこら辺の調整は毎度しているはずだ。

 そんな完全自由業で傭兵などやっていける訳が無いはずである。


「まあ新人に絡んで来るガラの悪い集団テンプレが無さそうだよなここなら。そこら辺を考えれば楽か?いや、でも力量テストなんかをやらされた場合はどれ位のパウワーを出せば適当なんだ?うーん・・・」


 この世界の普通をまだ俺は体験していない。そう、傭兵って言ってもどの程度?と言う平均値の事である。

 村から出て来たばかりの俺にそんな事は分からない。なのでここでそこら辺が把握できると今後に色々な地域に旅をした時に目立たなくて良いな、と打算があるのだが。


「やあタクマ!登録は無事に済んだかな?まあ私の後ろ盾があるから弾かれるなんて事は無かっただろうけどね!あ、傭兵証は何処に行っても身分証として使えるから。そこに私の名前がタクマの保証人として入っているし、何処に行っても不当な扱いは受けないと思うから有難がってね!」


「うん!この!そんな余計なモノは付けなくて良かったんだけどなぁ!?有難迷惑って言葉知ってるかい?ねえ?知ってるかい?」


「じゃあここで私との契約を済ませちゃおうか!とは言ってもちょっと訳ありでねー。先にタクマ、ちょっと本気出してくれる?」


「人の話聞いちゃいねーよ!しかもその言葉からしてアレじゃんか!もうこの後の展開分かっちゃったよ!」


 部屋に入って来るなり侯爵代理様はそんな一方通行な話をしてきやがってくれる。

 そして「先にちょっと本気出せ」である。もう先程その事を考えていたばかりなので「やはりテンプレかよ!」と俺は心の中だけで叫んだ。


 そこに筋骨隆々の、スキンヘッドの、顔中傷だらけの、滅茶苦茶眼光鋭いおっさんがやって来て言う。


「初めまして、君が新人、先程登録したばかりのタクマだね。さて、護衛任務、しかも個人が契約で、との事なのだがね。いきなりこちらもその新人の実力も知らぬのに高貴な身分の方の護衛に付ける訳にはいかなくてな。特別な事ではあるのだが、私がその為に君の力を見る事になった。今から訓練場の方に向かう。全力を出して欲しい。そうで無いと見極められないのでな。おっと済まない。自己紹介がまだだったな。私はゲレス、ここの傭兵組合長をやらせて貰っている者だ。さて、遠慮は要らないので殺す気で掛かって来てくれ。」


 そんな事を言われても俺はどうすれば良いと言うのだろうか?俺が全力を出したら組合長ホントに殺しかねないのではないだろうか?

 組合長が俺の全力に耐えられるだけの化物だと言うのなら話は分かる。しかしそもそも俺はこの世界の「強者」がどの程度なのかも全く分かっていないのだ。

 ここでいきなり全力出して事故る訳にもいかないのである。ぶっつけ本番とかヤベエ、としか言えない。もうちょっと他の傭兵の実力を観察する時間が欲しい。いや、くれ。

 こんな見た目がごつくて険しいおっさんならもしかしたら俺の全力を受け止められる力をワンチャン持っている可能性も無くは無いけれども。試してみるには危険な賭けである。


「もうちょっと穏便にいかなかったのかな~?侯爵代理様はそんなに俺の事が憎いんですかねえ?」


「タクマの事をもっと知りたいと思ったんだ。だから私が頭を下げて頼み込んだ。滅多な事で動かないゲレス殿がどうにも私の説明で君に興味が出たと言って特別に力量を見ようと言ってくれたんだ。素晴らしいだろう?」


「俺の事どんな風に言ったんでしょうかねぇぇぇぇ!?そしてその話に乗っかっちゃ駄目でしょ!組合の長ともあろう者が!?何でそうなったん!?他の傭兵に実力査定させれば良いだけの話!」


 俺のツッコミは侯爵代理様には全く通じていない。なので組合長の方に言及しようとしたのだが。


「はっはっはっはっは!彼女とは以前からずっと知り合いでね。よくその性格を知っているんだ。そんなマリエンスが君の事に興味津々だと言うではないか。そうすると私としては以前から娘の様に可愛がっていたから嫉妬してしまってねソレを。じゃあ直接この私が引導を渡してやろうと思ってな!」


「俺って登録したばかりですけどね?それから一時間もしないで引導食らったらそれこそ記録的な引退速さでしょうよ?と言うか!アンタ俺を事故に見せかけて嬲り殺す気だなさては!?」


 組合長もヤベェ奴だった。俺を殺さず全力で痛めつける気満々と言った鋭い目つきで満面の笑みである。これ程に恐ろしい笑顔を俺は今までに一度だって見た事は無い。

 これには思わず俺も現実逃避をさせて貰った。


(まだ旅をスタートしたばかりなのに・・・この町を破壊して更地にしたら、全部無かった事にならないかな・・・)


 まだ使った事の無い魔法、それも最大級の威力を誇る攻撃魔法を使えばこの窮地を脱出できるのでは?などと考えてしまう。

 しかし理性はしっかりと働いている。まだ俺は正気だ。


(絶対に痛い思いはしたく無い。だけどそうなると、どれ位の力を出せば良いんだ?そこら辺の調整具合とか全然まだ感覚掴めて無いのに・・・)


 もしソレに失敗すると俺はこの組合長をブッ飛ばしてしまう事にもなりかねない。

 ここで俺が自分の力を隠すとしたら組合長を満足させつつ、しかし俺がギリギリで負けると言った戦いをせねばならない。

 そんな茶番をやり遂げられたとしても、俺の強さが「組合長には届かないまでも相当な実力を持つ者」として認識されてしまう。コレは俗に言う「詰み」と言うモノである。


(何をどうしようと、ここで俺が目立つ事は避けられないじゃん・・・なら、利用するしか俺のメリットはないかぁ)


 全力でふざけてやるよ、と決意した事は何だったのか?侯爵代理様を前に幾らふざけてみても自分がそのせいで痛い目を見る様な展開になってしまうのはどうしたって頂けない。

 しかしこれはチャンスでもある。今後に「あれ?俺なんかやっちゃいました?」的な流れにならない様に、どうにも実力者とみられる組合長を相手に出力調整はできる様にしておいた方が良いだろう早々に。


 そうして訓練場に到着。組合はどうやらもの凄い金持ちなのか、この訓練場、広い。

 しかしどうにも訓練に勤しんでいる傭兵の姿は見られない。がらんとしていて物寂しい。

 どうやら既にこの訓練場を使って日常で自分を鍛える事をしている傭兵は一人も今はいないみたいだ。

 ギャラリーが大量に居るよりかはよっぽどマシである俺にとって。

 ここで顔が知れて有名になり、これにイチャモン付けて来たり絡んできたりする奴らが発生するのはテンプレと言う展開だ。

 そんな展開が無くなった事に俺は安堵の溜息を吐く。しかしコレを勘違いして受け止めた奴が居る。


「ふむ、そんなやる気の無い溜息を吐かれるとこちらも殺意が高まると言うものだ。護衛任務を受けるという君がその様に弛んだ態度であると依頼主が危険に晒される可能性が増えるぞ?しかもマリエンスだぞ?私の娘も同然の彼女が危険に晒されるかもしれないと思えば、今ここで君の性根を叩き直さねばならんなぁ?」


「嫉妬の炎が駄々洩れですよ!?そんなに心配なら俺の代わりにアンタが護衛を受けろよ!そうしてくれたら俺だって安心だよ!」


「私は組合長の立場があって動けないのだからこればかりはしょうがない。出来うる事なら私だって現役に戻りたいさ。しかし恩人がソレを許さないから私はこの椅子に座り続けるしかないのだよ。だから、君が憎い。」


「おいコイツ本音をブチ込んで来やがったぞ!冗談で言ってる気配ないぞ!おい、侯爵代理様!止めてくださりませんかね?と言うか止めやがれ下さい!」


「フフフフ!これでタクマの本気が見れるね!どれだけの実力があるかが分かれば今回の森の調査でもソレを鑑みて仕事を振り分けできるし、良い事だ。私も安心してタクマに守って貰えるね!頑張ってね!」


「そんな応援要らないねぇ!?何でも勝手にアレコレと余計な事をしてくれちゃってさぁ!?帰りたいな!故郷に帰りたいな!」


 もう自棄で叫ぶしかない。既に訓練場中央に俺と組合長は対峙してしまっている。逃げ出せそうにない。


「さて、素手で殴り合おうか。なーに、人って奴はそう簡単に死にやしない。殴られどころが悪く無ければな。それでは・・・行くぞ!」


「こういう時は先手をこっちに譲るもんじゃねーのかよ!殺す気抑えろよ!」


 組合長が踏み込んで来た。その一歩は勢いがもの凄くて俺の目の前に直ぐに入り込む。

 俺の腹目掛けて延ばされる腕、拳。絶対に俺を苦しめるつもりでの初撃を鳩尾狙いである。

 その一撃を俺は素人の動きではあったが横振りして叩き弾く。

 全力を出していたつもりは無い。しかし組合長の拳はこれに大きく弾かれた


「てっめ!ここは普通俺の実力を油断して見てここは驚いて硬直するか一旦引き下がるもんじゃねーのかよ!」


 既に組合長は一撃目を防がれる事を想定した動きも組んでいた様だった。

 腹を狙ったのは右での事。それが防がれたのならば残る左で俺を狙う訳で。

 既に一撃目からコンビネーションを狙い大きく振りかぶっていたその左拳はもう俺の顎に当たる寸前。


「ぎょえ!?し、死ぬ!あんなの顎にモロに食らえば俺の首が折れる!折れちゃうううう!」


 俺はこれに顔を瞬時に下げる事が出来た事によって回避に成功していた。

 だけども目の前を通り過ぎた左フックに心が底冷えする。ここで俺は怯んでばかりはいられない。反撃を狙わなければこの組合長、止まる気は無かったらしい。

 左フックの空振りの勢いを乗せて回転後ろ回し蹴りを俺の顔面に狙って来やがりましたよクソったれ。


「ふざけんなよ!本気で俺の事ボコボコにする気じゃねーか!ソレが組織の長のやる事か!?」


「死ね!死んでくれ!マリエンスを誑かしたクソの如きゴブリン野郎がァ!」


「コイツを組合長にしておくのは間違ってるだろ!コイツ本気で俺を撲殺する気だぞコレぇ!?」


 鬼の形相を初めて見た。こんなおっさんを組合長の座に括りつけておく意味が分からない。

 現役復帰させて仕事をバンバンやらせておけよと文句を付けたい。

 しかし組合長の繰り出す連撃を冷静に避け続けていたら考えが変わった。


(こんな猛獣の如き行動をしようとする人物ならこうして椅子に縛り付けて仕事させておいた方が問題を起こさないのか?)


 鎖だ。組合長の恩人と言う人はこのおっさんをこうして役職を首輪として付けて制御しているのかもしれないと考えた。

 と、そんな無駄な思考になっていたらいつの間にか俺は壁際に追い詰められていた。

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