★★★ドラドラクエストはドマイナー★★★
ほら、良くあるでしょう?属性が色々あるくせに最終的に物理を高めて殴るのが一番効率が良いRPG。
ほら、良くあるでしょう?素早さを上げると敵の攻撃を高確率で避けてダメージを受けないってRPG。
これまで遊んできたゲームで俺は大抵は先ずこの二つをステータスで上げる様にしていた。
中盤くらいまではこれでホイホイと進むんだけど、後半になってコレだけじゃ詰む、何てRPGであればリセットして最初からやり直したり。
時々「搦手」がめっちゃ強いゲームだったりするとストーリー半ばで出て来る雑魚に殺されまくったりして。
所謂「極振り」ってのは単純に強い。それが魔法の攻撃力であれ、物理攻撃であれ、瞬発力などであれ。
その極めた一芸は嵌ればこれ程に強力なモノは無いけれど、それの裏を掻かれたいわゆる「メタ張り」なんかを仕掛けられたら簡単に詰むのだ。
物理に対しては「物理ダメージ無効」。魔法攻撃であれば「属性魔法ダメージ無効」。素早い奴には「絶対に当たる確定攻撃」系統で対応など。
対策が万全に取れればそう言った強力なステータスにも勝てるのがゲームというモノだ。
そして大抵のRPGと言うのはこっちが動けばキッチリと相手の反撃がある。そう言ったシステマチックな戦闘になるのが一般的。
しかしコレを現実にしたらどうか?相手の反撃など待たずに普通はこちらの攻撃を一方的に敵に押し付けるだろう。
現実、そう、相手に攻撃されてソレを食らえばこちらが死ぬ。そんなのは到底受け入れられないはずだ。
さて、ゲームで言う所のターン制の戦闘において、相手が動く前にこちらが「二回行動」ができる素早さが現実になると、それはどれ程のモノになるのだろうか?
物理攻撃、その一度でゲームの決められたシステムで表記できる最大数値と言うのは現実になるとどの様な威力となるだろうか?
ソレは非常に危険なモノになるというのは想像に難くない。信じられない位の被害となるのは目に見えている。
ダメージ「9999」とかいった数値を見ればそれがどれだけ大きい数字なのかは一目で分かる。
約一万、そんなダメージなんて考えても見て欲しい。大体のRPGはこの様なダメージを叩き付ければ大抵の雑魚敵モンスターは瞬殺。
ボスであったとしても序盤のモンスターは即死、中盤でも耐えきれるかどうか。最終局面でもシステム上の最大ダメージを数ターン繰り返せば普通にラストボスでも死ねる。
仲間が同じく最大ダメージを出せる様な調整をして最終ボスに挑んだとすると、下手すれば相手の反撃すらさせずに一方的に倒す事すら可能となるだろう。
まあそれはかなり以前のゲームでの評価で、今のいわゆる「ソシャゲ」なるモノに出て来るボスだったりするとこの程度では掠り傷、何て設定のゲームも増えたが。
そう言った「ソシャゲ」なんてモノになると一撃で「十万」は軽い。極振り構成のステータスで敵の弱点とこちらの攻撃が噛み合って「百万」などと言った事もザラ。
ドンドンとそう言った積み重ねで今では「三百万」とか「一千万」やらが普通、何てモノも存在していたりする。
まあコレは言っても極端な例だし一部のゲームだけではあろうが。
さて、どうして俺がこんな事を今考えているのかと言うと、それは皆さん大好き「異世界転移」俺がソレの今まさにその当事者になっているからだ。
そしてそれだけじゃない。俺の姿は日本人「磯崎タクマ」では無く、昭和の代表的家庭用ゲーム機のゲームソフトの一つ「ドラドラクエスト」の主人公になっているのだ。
「何で寄りにも因ってこんな「ド」マイナーなゲームの主人公で異世界転移なんだよ・・・」
俺は確かにこのゲームを発売当初に買い、そして遊んでいる。しかしこのゲーム、クソが付く程、とまでは言わないが、マイナーなのだ。
そして内部システムも遊び辛いとは言えないが、かゆい所に手が微妙に届いたり、届かなかったりするRPGであった。
その点の説明は今はしないでおこうと思う。それは今大事な事じゃ無い。
「何で「サイキョウソウビ」で俺は居るんだ?マジでやっちゃ駄目なヤツだろ、コレは・・・」
俺はこのゲームを遊んだ事があるからこそ知っている。解っている。それこそ隅々まで遊び尽くしたと言える「上級者」である。
子供の頃は親にゲームソフト一つ買って貰うのに相当なおねだりが必要だったものだ。ウチは別に貧乏とまでは言わなかったが、だからと言って親は俺に与えるオモチャに掛ける金を湯水の様に出せる訳じゃ無かった。
なので買って貰えたゲームソフトは長い期間遊んで遊んで、遊び尽くす工夫が必要だった。飽きない様に、次にゲームを買って貰えそうな期間がやって来るまで。
さて、少々脱線したが、今の俺の「装備状況」である。
今俺が着ているのは「サイキョウのよろい」である。
今俺の右手に持っているのは「サイキョウのけん」である。
今俺の左手に備わっているのは「サイキョウのたて」である。
今俺の頭にかぶっているのは「サイキョウのかぶと」である。
今俺が羽織っているのは「サイキョウのまんと」である。
これぞこの「ドラドラクエスト」の「最強装備」であるのだ。これさえあれば主人公一人でこのゲーム、クリアできる。仲間なんて要らないのだ。
それだけの性能を持っている「サイキョウソウビシリーズ」である。それを俺が装備した状態でこの世界に転移させられているのだ。
「せめて何か説明が欲しかった・・・神様にも会って無い。自分の足元に魔法陣が浮かんで転移させられた訳じゃ無い。道を歩いていたらパッと「ハイ!今ココ!」って・・・しかもサイキョウでドラドラ主人公って・・・」
誰かに教えて欲しかった。納得させて欲しかった。どうして俺がこんな目に遭っているのかと。
しかしそう思えども虚しいだけであった。周囲に誰も居ないから。
俺はそこで自分の生存に関して意識を向けた。この装備を見た目だけで判断すれば「サイキョウソウビ」であると見えるのだ。そうなれば今の俺に敵は無いと思っても良いのだが。
しかし落ち着いてきた。こうして俺が異世界転移した事に対して何らの事情説明も無い状態である。正直に言って俺はパニックになり過ぎて逆に冷静になってしまった感じだ。
なので俺はひねくれて考えた。ここで調子に乗って自分の安全、慎重さを放棄する様な真似は一番ダメだと。
今ここで確認を何もできていない状態で無暗に動き回れない、と。
もしかしたらこの「サイキョウソウビ」がここではクソのゴミ、何の役にも立ちゃしない、ってパターンも考えなくてはいけないのだ。
今俺は森の中に居る。いや、本当に勘弁して欲しいのである。これが誰かに召喚されたというのであればそこで状況説明など貰えるだろう。
しかしいきなりこの様な熱い展開、俺一人で森の中。誰一人として周囲に居らず、今の俺のこの状況を納得させてくれる説明をしてくれる存在が居ない状況。
この世界がどの様な理で回っている、構成されている世界なのかサッパリである。情報なんて一つも無い。
ただ今の時点で分かるのはこの森に生えている木々や植物には俺の知っている物は無く、そして違和感を感じるという点。
只俺の植物知識が無さ過ぎて判別できないだけと言うのもあるのだが。
そこで出て来た思い付きは、もしかして俺は一瞬で気絶させられ、攫われ、コスプレさせられ、この場でいきなり目覚めさせられただけで「地球」の何処かに居るのでは?といった疑惑だ。
しかしそれを俺にするだけの理由は何だ?と考えたら答えが出てこない。こんなドッキリを思い付いても誰がソレを実行するというのか?幾ら金と人とが掛かるのか想像もできない。
そんな真似をする存在が人類に居るとは思えなかった。ここまでの事をするなんて正しく「ドンダケ~!」である。
「夢であって欲しいなぁ・・・でも、もう頬っぺた抓っちゃったし?痛かった、痛かったぞおおおおおお!」
俺は器用に小声で叫んだ。大声を出すと危ないかもしれないからね。凶悪な肉食獣とか出て来たら戦闘ド素人の俺がこんな武器持っていたとしてもそんなのとマトモに戦えないし。
「落ち着け・・・こんな時は「ステータス」・・・何で出てこないんや・・・」
こう言った異世界転移のお約束である「ステータス」と口にすると自分の今の能力が数値で半透明な画面で表示されるはずなのに出てこない。絶望しかないこれでは。
指標が目に見えるのと、そうで無いのとではモチベーションも変わる。判断基準の一つにもなる。
それなのにソレが出てこないというのは俺の今後に非常に深く関わる。
「防御力や体力が表示されていれば俺の命の総量が計算できるのに・・・ソレに攻撃力も素早さも、もしかしてモンスターとかが現れた時にソレを元に検証とかできるじゃん?何で出てこないのよ・・・」
俺の今の実力?と言うか生存確率などを数値で出せれば検証し易い。なのにそれが確認できないのはスタートダッシュに致命傷である。
俺が強いのか、弱いのかの確定情報が欲しいのにソレが得られないとなると初手で詰む可能性が一気に高まる。
「もう一度確認しよう。見た目、黒髪ツンツン。目元、ちょっと釣り目気味、顔の輪郭、顎は細目系?体格、細マッチョ、背丈は170あるかな?」
俺は自分の見た目をもう一度見直した。右手に持っている「サイキョウの剣」の鏡の様に反射するその刃の表面を使って。
そしてこれで完全に「ドラドラクエスト」の主人公のイラスト通りだと思い出の中から引っ張り出した記憶で確認する。
「俺がこの世界に転移して来た事に関しては、何かしらの使命があるとか?でもそんなの事前説明欲しいんですけど?なら、自由に生きて良いのかね?でも、現代っ子の俺がまだ見ぬこの世界でどうやって?やっぱりお約束の世界観なのかね?この見た目でこの装備、って事は剣と魔法のファンタジー?いや、もしかしたらゲームの世界に転移とかも有り得る?・・・この場から動けないでいる俺が出せる答えは無いなぁ。はぁ~。」
ワンチャンSFファンタジーな世界に転移、とか言った事も思ったが、それもソレで生きていくのがヤバそうだと感じる。
俺は今慎重になり過ぎて、ビビり過ぎてこの場から一歩も動けないでいる。何かしらのきっかけが欲しい。
そうで無いと何時までも此処から移動できない様に感じて来た。
ソレにまだ俺は悩み過ぎて確認していない事があり過ぎる。その中で大事なのは。
「俺のこの姿での「身体能力」だなぁ。もし俺が育てたドラドラの主人公の最終ステータスだったとしたら・・・ここではソレはどう言った形で現実になるんだ?」
これに関しては非常に慎重に検証しておきたい案件だった。けれどもそれをあざ笑うかの様に俺の耳に女性の悲鳴が聞こえて来てしまった。