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9.ひよこ殿下の暗躍①

私に祝福の言葉を告げてきた侍女達の笑顔は若干引き攣っているように見える。


――たぶん気のせいではない。


そんな微妙な表情になる気持ちも痛いほど分かる。

なにせ相手は可愛いとはいえ、……ひよこだ。


 とにかくちゃんと確認しないと!


この話は今の私のように一人の侍女が立ち聞きして得た情報のようだ。

つまり聞き間違いの可能性だって十分にあり得る。



どうかリラ様違いであって欲しいと心の底から願ってしまう。


ひよこ殿下のことは可愛いと思っているのは嘘ではない。呪われて姿が変われど、殿下へ向ける気持ちが変わることはなかった。


つまり今も昔も大切な存在だけれども、恋愛感情はない。


ひよこだとか、鶏だとか、ミミズが好物だとかなんて些細なこと。

私が愛している人が殿下ではないのが大問題なのだ。


 たとえ王命でも絶対に無理だわ!


私には結婚を前提にしてお付き合いしている愛しい人がいるのだ。

今となっては、私とイーライの仲を殿下に内緒にしていたことが悔やまれる。



黙ったままの私を見て、侍女が心配そうな顔をする。


「リラ様、どうなさいましたか…?」

「だ、大丈夫…。ちょっと急用を思い出してしまって。ごめんなさい、失礼するわね」


そう言うと同時に私は廊下を急ぎ足で歩いていく。それは令嬢らしからぬ速さだったが、足を緩めることはしなかった。


 早く、エレンに会って確認しないと…。


侍女はエレンと誰かの会話を立ち聞きしたと言っていた。

聞き間違いにしろ、…もし本当だったにしても、答えはエレンが持っているはず。



間が悪いことにイーライは今、離宮にいない。

正式に我が家に結婚の申込みをする為に家族に会いに行ってくると、一週間ほど休みを取っているからだ。


本当ならイーライに相談をしたかったけれども、その時間はない。


もし…あの話が本当なら、王家が正式に動く前にどうにかしないと手遅れになってしまう。





今の時間帯はひよこ殿下のお昼寝の時間帯だ。

その時は従者であるエレンは殿下の側から離れて書類仕事を行うのが日課になっている。


だから今なら執務室にいるだろうと、訪ねてみたがそこに彼の姿はなかった。


 どこへ行ったのかしら…?


いくら探してもエレンの姿が見えない。


「ねえ、エレン様を見なかった?」

「いいえ、見ておりません」

「外出する予定は伺っておりませんので離宮内にいるはずですが…」


侍女や護衛騎士に尋ねてみたが、エレンがどこにいるのか誰も知らなかった。




もしかしたら殿下の部屋だろうか。


一応確認しておこうと、音を立てないように殿下の寝室を覗いてみた。


部屋の中にはクッションの上でへそ天して寝ているひよこ殿下の姿だけ。エレンはやはりここにはいなかった。



 ……あっ、間違えたわ!


そしてすぐに自分の思い違いに気づく。


鳥は卵でこの世に誕生するからおへそというものはない。

ひよこの場合はへそ天ではなく何というのだろうと考えながら、殿下を起こさないようにそっと扉を閉めた。





◇ ◇ ◇


【ひよこ殿下視点】



扉が完全に閉まったのを確認すると、ふわふわのクッションから飛び降りる。


スタタタターと足音を立てないように走って行き、思いっきりジャンプしテーブルに飛び乗る。


――見事成功。



『ぴるっぴぃ、ぴーぴ(僕って天才、すごーい)』と自画自賛の舞を踊りながら自己肯定感を高めていると、()()()()()()()()()()()()()()


ガッチャンーーー!


 ピ、ピヨヨヨ…(ぼ、ぼくは悪くない…)



せっかく物音を立てずに動いていたのに台無しだった。

ひよこ殿下はちょっとだけ悩む。


 ぴよっぴよ……っぴぴよっぴよ!

 (音なしと音ありだから……つまり相殺!)



見事に都合よく状況を解釈して、失敗をなかったことにした。

反省は猿だって出来るから、ひよこはしなくていいだろう。


次にテーブルの上に置いてあるミミズの干物が入った皿を可愛いお尻を使って動かそうと試みる。


『ぴうちょ、ぴうちょ…(うんしょ、うんしょ…)』


掛け声を掛けながら頑張っているのに、ピクリとも動かない。


お昼寝する少し前にその下に重要なものを隠したのだが、その後に誰かがこの皿を重くしてしまったのだ。


『ぷるぷるーー!(まったく!)』


怒りながらパタパタと羽を動かし、この責任は誰にあるか真剣に考える。

もちろん後でリラに教えて(チクって)、その人物を叱ってもらう為だ。



まずはお昼寝する前のことから思い出してみる。


えーと、おやつの皿のミミズが少なかったから、お皿をペシペシと叩いて抗議をしたな。

『いかがしましたか?殿下。申し訳ありません、お言葉が分からなくて…。もしやおやつの催促でしょうか?』

優秀な侍女は僕の真意を察して、ミミズを追加してくれた。


――皿が重くなった原因は簡単に判明した…。



『ぴっぽん、ぴよぴよっぴ(おっほん、…よく考えたら誰も悪くない)』



仕方がないので、計画を変更しておやつの時間にする。食べて減らせばいいだけのこと。


僕は目的のためなら手段を選ばない非情なひよこだった。


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