14.打診される前に断る③
私は気づかれないように自分の太腿を思いっきり抓る。あまりの痛さに自然と涙が出てくる。
そんな私を見て、兄は明らかに動揺している。かなり効いているようだ。
――ここでトドメの一言。
もちろん上目遣いも忘れない。
「お願いよ、お兄様……」
「………だが」
「…うっう…う…」
ここで大げさに泣いたら逆効果だからわざと声を抑えて、必死に耐えている感じを滲ませる。
「分かった!もう泣くな、リラ。王家には婚約は畏れ多いのでお断りしますと事前に連絡をしておこう」
――見事作戦成功。
ふっ、優しい兄はすんなりと落ちた。
私が言うのもなんだが、兄はこの先大丈夫なのだろうか。
こうしてその日のうちにエール伯爵家から王家へと、婚約を正式に打診されてもいないのに辞退する旨を記した失礼極まりない手紙が送られることになった。
◇ ◇ ◇
【~リラが去った後の離宮では~】※エレン視点
ひよこ殿下が遊びで飛ばしてしまった婚約者からの手紙をやっと見つけることが出来た。
私はその大切な手紙を胸ポケットとに仕舞う。
ひよこ殿下に悪気がないのは分かっているが、また紙飛行機と間違えられて飛ばされたくはない。
急いでひよこ殿下の部屋に戻って、イザク殿下から預かった手紙を探すがなぜか見つからなかった。
もしやひよこ殿下が遊びでまた飛ばしてしまったのだろうか。その可能性は大いにある。冗談半分でひよこ殿下に尋ねてみた。
「ひよこ殿下、ここにあった手紙を知っているかい?」
「ぴよ(うん)」
「はっはは、ごめんな難しいことを聞いて。人間の言葉なんて分かるはずがないよな、可愛いひよこだもんなー」
「ぴっ、ぴぁぴぇ(ふっ、馬鹿め)」
周囲に誰もいない時もひよこを『ひよこ殿下』と呼んでいるが、それはもうこれが名前のようなものだからだ。
ひよこ殿下の中身は唯のひよこなんだから答えるはずもなく、今日も無邪気に囀っている。
きっと何も考えていないのだろう。
本当に幸せなひよこだ、私も生まれ変わったらひよこになりたいものだ。
それから部屋中探したが見つからなかった。
あの手紙は万が一の場合に備えてイザク殿下から託されたが、あれがなくとも大丈夫だろう。
イザク殿下は慎重な人だから、手紙だけでなくもう一つ備えを用意していた。
『エール伯爵には私の身分だけは明かしている。リラには時期を見て私から話すのでそれまでは内密でとお願いしているが、リラが先走って何かしようとしたら止めてくれるだろう』
『それなら万が一の時にすれ違いで手紙が渡らなくても大丈夫ですね』
『ああ、そう思って手を打っておいた。リラの行動は読めないから一抹の不安はあるが、エール伯爵は常識的な人だから安心だろう』
手紙とエール伯爵という2つの備え。
イザク殿下は本当に16歳とは思えないほどしっかりしている。
リラ様はまだ私には何も聞いてこない、それは問題が起きていない証拠だ。
だから手紙の出番はないだろうし、万が一の時はエール伯爵がリラ様をしっかりと押さえるだろう。
今のところなんの憂いもないので、従者としては嬉しい限りだ。
ご機嫌な私はひよこ殿下にミミズをあげながら、独り言を口にする。
「イザク殿下が離宮に戻ってくるのが楽しみだな。リラ様はイーライの正体を知って驚くかな?いや違うか、なんか叱られそうだなー。はっはは」
「ぴる、ぴぃるぴぃっ♪(うん、振られるのが楽しみ♪)」
私の独り言に合わせたようにひよこ殿下が鳴く。
「そうかそうか、ひよこ殿下も応援しているのか偉いぞ」
「ぴよぴよーぴ!(邪魔するもーん!)」
ひよこ殿下は私の言葉を理解しているかのように囀りを返してくるので、人と話しているかのように錯覚してしまう。
「お前と話せる日が来たら楽しいだろうな。なっ、ひよこ殿下もそう思うだろう」
「ぴよ、ぴよぴろ!(うん、地獄を見せたる!)」
私がそう言いながら頭を撫でるとお尻をふりふりしてくる。本当に可愛い奴だ。
お互いに言葉は分からなくても、心が通じ合っているとはこういうことだろう。
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