11.ひよこ殿下からの愛の告白
どうしてもエレンが見つからない。
彼は真面目過ぎて融通が利かないイーライと比べると軽い印象を持たれる人であるけれど、決して不真面目な人ではない。だから勝手に職場から離れるとは考えられない。
今までだってそんなことは一度だってなかったのだから…。
どうしよう…。
侍女達の言葉が事実なのかどうか早く確認したい。
でも誰彼構わずにひよこ殿下と私の婚約の件を知っているかと確認してみるわけにもいかない。
そんな事をしたら、まだごく一部にしか知られていない話を自ら広めることになってしまう。
それではどう見ても婚約に浮かれて自分から話を触れ回っている幸せな人だ。
……駄目だ、自分で自分の首を絞めるどころか息の根を止めていっている。
困っているとお昼寝を終えたひよこ殿下がこちらに向かってヨチヨチと歩いてくる。
いつもなら抱き上げて可愛い姿を存分に堪能するのだが、今は流石にそんな気分にはなれなかった。
『ひよこ殿下が自ら強く望んだ』というのが本当なのか分からない。
でももし本当ならば、殿下は私を愛しているということになる。
…………。
確かめるのは簡単なことだ。素直なひよこ殿下は聞けば答えてくれるだろう。
でも殿下の口から『愛している』という言葉が出てきたら、もう後戻りは出来ない。
王族の言葉を拒絶するなど許されることではないのだから…。
うん、今はそれに触れないでおこう!
とりあえずは何も知らない体でいつも通りに接することに決める。これは現実逃避ではなく、あくまでも緊急避難である。
「ぴらー♪(リラー♪)」
「殿下、お昼寝中に良い夢を見れましたか?」
「ぴーぴぇー(まあねー)」
「それは良かったですね」
いつになくご機嫌な様子のひよこ殿下。
よほど良い夢を見れたのだろうと思っていると、殿下は『ぴっちょぴよ(ちょっと待って)』と言ってから、花壇の方に歩いていく。
そして足と嘴を使って地面を掘り、一本の花を根こそぎ引っこ抜く。
ひよこ殿下がミミズ以外のものを掘り出すのを初めて見た。肉食をやめて草食になるのだろうか、それともダイエットなのか?と思いながら眺めていると、それを嘴に咥えて戻ってくる。
「ぴよ!(はい!)」
嬉しそうにお尻を左右にフリフリしながら、ひよこ殿下は花を私に差し出してくる。
球根付きのそれはズルズルと引きずったので、花びらが散っていてボロボロになっている。しかし問題は花の状態ではなく、その花の種類だった。
ひよこ殿下が多くの花々が咲いている花壇から選んだのは赤いチューリップ。
その花言葉は『愛の告白』だ。
「で、殿下。これは……」
まさか殿下がこのタイミングで自ら求婚してくるとは思っていなかったので、動揺してしまう。
「ぴよぴーよ!(はい、あげる!)」
「………」
首を斜め45度にあざとく傾げながらひよこ殿下は愛の告白をしてくる。
それもただ『愛している』と言うのではなく、花言葉を使っての完璧な演出。
殿下の熱い想いが伝わってくる…。
これだけされたら殿下の気持ちは疑いようがない、でもそれを受け入れる事はできない。
「ぴぴぃよ!(遠慮しないでいいよ!)」
ひよこ殿下はまさか王族からの求婚を断られるとは思ってもいないのだろう。
「……殿下、申し訳ございません!」
王族の愛の告白を断るなど不敬で罰せらるかもしれないが、覚悟の上だった。
「ぴよよよぴよ?(ジャガイモ付きの花嫌いだった?)」
「殿下のお気持ちは有り難いですが、私はその気持ちに応えられません」
「ぴよぴーよ?(ミミズが良かった?)」
「…ごめんなさい」
「ぴぴぅぺったんぴよ(好き嫌いしてるとお胸が育たないよ)」
「……覚悟はできています」
ひよこ殿下は縋るような目で私を見つめながら、何度も愛の言葉を告げてくる。
でも私ははっきりと断りの言葉を告げる。期待させるような言葉は決して口にしなかった。
最後には『断ったらどうなるか分かっているの?』とひよこ殿下は告げてきた。
王家からの結婚の申し入れを断ったら何らかの形で処罰されるだろう。でもその覚悟はちゃんと出来ている。
*この作品はアルファポリス様で先行投稿してるものと同じものです。




