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第5話 特異

「どうしてそんなにカリカリとお怒りモードなんだ、美琴?」


 超イケメン死神のタナトスは、サラサラな銀髪をサッと右手で後ろに流し、そのまま腕組みをして私に問うた。

 私は半分涙目になっている。

 何でかって―――?


「だって、あんた、私のファーストキスを奪ったのよ! しかも、あんなにエロっぽく舌まで絡ませてきて!」

「あ、ファーストキスだったんだ……。そうだよね。そうでなければ、俺が美琴を後ろから抱きしめたときにあんなに震えないか……。やっぱり怖かった?」

「そりゃ怖いわよ! だって、あんた死神なんだよ!?」

「まあ、死神だよね」

「死神にキスされるなんて、命を吸い取られるのかと思うじゃないの!」

「あはははは! それ、面白いね」

「な、何がよ!?」

「だって、美琴はすでに死んでるんだから、吸い取る命も何もないって状態なのにね」


 あ、そうだった。

 私、死んでたんだった―――。

 て、今、コイツに思い出させられなくても、死んでることくらい分かってるし!


「でも、私にとっては初めては初めてだったんだもの……。そりゃ、霊力がなければ、翔和に対して私の存在をアピールすることができないのもよく分かってるし、それに死神のあんたの力を借りなきゃ私なんて何もできないのは分かってはいるんだけれども……。それでも、やっぱり初めてがあんなキスはちょっとショックだよ……」

「てことは、美琴って処女なのか?」

「ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!! なんで、そんなデリカシーのないことをガツガツと訊けちゃうのかなぁ~? 今、私は落ち込んでるの、アンダースタンド?」

「お、おぅ! あんだーすたんど!」

「ったく! 何が処女なのか、よ! 処女だと何か悪いの!?」

「いや、嬉し……ぐぉっ!?」


 あ、ごめん。今、何も考えずに殴っちゃった☆ てへぺろ☆

 死神を殴るって本当にあり得ないな……私も。

 タナトスは頬を摩りながら、

 

「すまないすまない。美琴に対して失礼なことを言ったことは謝るよ。それともうひとつ謝っておく」

「な、何よ……」

「実は【直接的接触】って手を握るだけでもいけるんだ」


 ほほう……。

 私はゆらりとタナトスの方を振り返る。

 タナトスは可愛く謝ろうとしているけれど、そもそもイケメンなのだから可愛くは無理だ。

 と、いうよりも私は怒りでそれどころではないのだけれども……。


「すごいねぇ~! 殺気がみるみる膨れ上がってるよ~?」

「……そう? そうかもしれない。何でかなぁ~、今、物凄く目の前にいる死神を殺りたい気分になってきたわ」

「そんなヤりたいだなんて、JKがそんなこと言ったら、ビッチ認定されちゃうぞ~」

「あ~、もしかして、タナトスの頭の中っていっつもエロいことばっか考えているヤリチンタイプなんだ~。私、これから考え方変わっちゃうわぁ~。イケメンの優しい男性だと思っていたけれど、どうやら変態野郎だったのね……。どうすればタナトスの息の根を止めることが出来るのか、すっごく考える楽しみできちゃった~」

「はい。この件に関しては、真面目に謝罪します。ごめんなさい……」

「……うっ。急に素直ね……」

「まあ、何だかんだ言っても、俺は美琴のパートナーなんだからな。それに美琴も俺と離れたら、低級死神に連れ去られて、それこそあの世に旅立てなくなるぞ」

「う。それは嫌かも……」

「だろう? だから、素直に仲直りってことで」

「わ、分かったわよ。確かに私もあの時、手を握るとかの前にキスって言いだしたわけだから、少~~~~~~~しばかりは私にも責任はあるんだし……。ここは仲直りで済ませてあげる」


 私はタナトスの目の前に手を差し出す。


「こういうときは人間は握手をすることで仲直りの意思表示をするのよ」

「そうなのか……。まあ、ついでに霊力を譲れるってのは、一石二鳥だな」

「本当ね! じゃあ、握手しましょ!」


 私はタナトスの真っ白な手を握る。

 そっか。こうすれば私の中に霊力が入ってくるのか……。

 どうして最初から分からなかったんだろ。

 そう。こうすることによって、霊力が入って………………。


「こないんだけど!?」

「あれ? おかしいね……」


 私とタナトスは握り合っている手をマジマジと見つめる。

 霊力が体内に流れ込んでくる感覚は、さっきキスをしたときに味わっているから勘違いすることはない。

 体内にちょろちょろとまるで水が流れ込んでくるような特殊な感覚を忘れるはずもない。

 その感覚がないということは、握手している状態では体内に霊力が流れ込んで来ないということ。


「な、なんで!? 普通は握手でも大丈夫なのよね?」

「ああ、普通ならばな……」

「じゃあ、何で!?」

「……ちょっと待てよ」


 タナトスは握っていた手を離し、ポケットからスマートフォンのような端末を取り出し、何やら確認している。


「やはり、そうか……。なあ、美琴。確認したいことが一つある」

「え? 私? 私が何かしたの?」

「まあ、直接的に何かしたわけではないんだけれど、とにかく確認しておきたい……」


 タナトスは真面目な表情で私を直視する。

 ああ、真面目な顔も本当にイケメン――!


「美琴、お前、俺のことを恋愛対象として見てないか?」

「ふぇっ!?」


 いきなりのことに私は驚くしかない。

 『タナトスは何を言っているんだ!?』という気持ちと、『ちょっと、何でバレてるの!?』という気持ちが半々だ。

 ここは誤魔化すしかない。


「あはは、そんなわけないじゃん! だって、タナトスは死神だよ? さすがに彼氏いない歴=年齢だった私でも死神に恋しちゃうなんて……」


 そ、そうよ! たとえ、私が楽しんでいた女性向けハーレム系ソシャゲ「True of LOVE ~私立薔薇園学園高等部~」の沢渡裕也くんにクリソツだからと言って、そ、そんなわけないじゃん! と、いう体でいきたい。

 私はそんなことを考えている間に、タナトスにそっと抱きしめられる。

 あれ? 何だか、布越しなのにちょろちょろと流れ込んでくる……。て、これ霊力じゃない!?

 何で握手がダメで抱きしめられると流れ込んでくるの!?

 タナトスは私の耳元で、


「俺はお前のことを絶対に離さない。そして、他の男に振り向かせてやらない……。お前は俺のものだから……」


 あ、このセリフは「True of LOVE」の沢渡裕也くんが夕陽が暮れなずむ校舎の屋上で主人公を手放したくないという意思表示をするときのシチュエーション!


「あんっ♡ 裕也きゅん♡」


 私は頬を赤く染め、メス堕ちした表情で沢渡くんの方を見つめ――。


「はい、確定だな。美琴は俺のことをその沢渡裕也というキャラと被せてただろ……」

「……うっ。」

「だからだよ……。ほら、これを見てみろ」


 と、言って、タナトスがさっき見ていた端末を私に見せてくる。

 所謂、私の履歴書のような感じの者が表示されているのだが、その中の「対象者との関係」の欄に、「恋愛関係」とはっきりと書かれていたのだ。


「この欄は、俺が記入するのではなく、対象者……ここでいう美琴が俺ら死神に対してどういう感情を持っているかを天界のAIオペレーターが認識して入力されることになっている。まあ、脳内で考えていることとか心拍数、体温、表情とかの情報をもとに振り分けられるらしい……。て、何で泣いてるんだ!?」

「そりゃそうでしょう! そんなに論理的に『恋愛』について証明されなくてもいいよ! そうです! 私はタナトスのことをゲーム内の沢渡裕也とずっと思っていたわよ! 最初から沢渡裕也と思いながら、一緒に行動していたの! 何よ、悪い!? これが彼氏いない歴=年齢の女の考えることよ!」

「まあ、その所為で恋愛関係の行為をしないと霊力が譲れないという特異な関係になってしまったんだけどな……」

「へ……。じゃあ、翔和に色々としようと思ったら……」

「まあ、恋人同士がすることをやれば、霊力が供給されるから、可能になるってことだな……」

「じゃあ、やっぱりキスとか?」

「まあ、他にはエロいこととか……」

「ヒッ!?」


 パチィィィィィィィィン!!!

 私は脊椎反射の如く、タナトスの頬を叩いていた。


「絶対に嫌よ! 絶対にアンタとエッチなことはしない! 何だか、私のシックスセンスがそう言ってるもの!」

「あ、痛たたたた……。分かったって、同意があるまではセックスはしないよ」

「セッ………!?」

「でも、霊力を供給する必要はあるから、キスはさせてもらうね?」

「……わ、分かったわよ……。き、キスくらいなら別にいいわよ……」


 私は顔を真っ赤にしながら、チラリとタナトスの方を見る。

 うん。やっぱり、沢渡裕也にそっくりだ……。

 考えれば考えるほど、意識してしまう……!?

 翔和に対して仕掛けるのと同じように、タナトスとのこともこれから自身にとって負担になりそうな、そんな気持ちでいっぱいになってしまった……。

 ちゅっ♡ ちゅるちゅるちゅる♡


「あ、もう! いきなりキスするのは止めてよ! もうぅ……んはぁ♡」


 タナトスは私を抱きしめて、キスをしつつ、敏感な身体の部位に優しく触れる。

 当然、経験のない私にとっては、耐えられるはずもない。

 私の理性よ。お願いだから、私をこのエロ死神から守って―――!




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作品をお読みいただきありがとうございます!

少しでもいいな、続きが読みたいな、と思っていただけたなら、ブクマよろしくお願いいたします。

評価もお待ちしております。

コメントやレビューを書いていただくと作者、泣いて喜びます!

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