第9話 快楽
タナトスは翔和の傍まで降り立つ。
私には翔和も夜蜘蛛もタナトスの姿も見えているけれど、果たして、翔和にはどこまで見えているのだろうか……。
そんな疑問は次の瞬間に消えてしまう。
「へぇ……。あなたが美琴の守護霊?」
「いや、俺は美琴の守護霊ではない。むしろ、アイツを成仏させるためについた死神だ」
「あら? 死神なんだ。でも、死神なのに、どうしてアイツを成仏させてくれないの? あなたのせいで私はとても困っているんだけれど……」
「お前が困る必要はどこにあるんだ?」
「私は安心して暮らしたいだけなの。あの子が私の周りをうろついているせいで私は安心して生きていくことはできないわ。いつ殺されるか分からないんだから」
「それは欺瞞というものではないか?」
「欺瞞ですって?」
「ああ、そうだ。そもそも、美琴は自分の意思に関係なく、お前によって殺害されたわけだから、本来であるならば、怨霊としてお前の精神構造体を喰いちぎっていてもおかしくはない。しかし、美琴はそれをしないでいる」
「それこそおかしな話じゃない? 私に対して憎しみを抱いているならば、なぜ私を殺そうとしないの?」
「それは俺の口からは言えない……」
そう。革新の部分はまだ私にも分かっていないことだから、タナトスからも言えることはない。
それと翔和が私のことを勘違いしているのもよく分かった。
私は翔和を殺す気なんてさらさらないのだから……。ずっと、恐怖に慄いて生きて欲しいだけ。
それが私にとっての罪滅ぼしになるのだから。
「とにかく、あなたがいると厄介だってことは分かったわ。夜蜘蛛、この死神を殺りなさい!」
翔和の掛け声ひとつで、大きな殺気が膨れ上がる。
翔和の身体から黒の霞が具現化され、禍々しい蜘蛛の姿をした守護霊が現れる。
はっきり見ると、本当にデカい!
私は不安な気持ちが芽生えてしまう。
「まずはその数の多い足が邪魔だ!」
タナトスは鎌を持ち上げ、身軽に夜蜘蛛に向かって走り出す。
確かに夜蜘蛛の足は移動手段にも攻撃手段にもなりうるものだ。
これをひとつでも多く潰しておきたいのは理解できる。
ザンッッッ!!!
重そうな鎌が空気とともに夜蜘蛛の足を切り裂く。
「ギャギャグルァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!」
切り裂かれた足はボトボトと音を立てて、落ちる。
しかし、シュォォオォォォォ……と不気味な音が上がると、切られたはずの足は黒の霞が元となり復元される。
不死身なの―――!?
私が驚いた瞬間―――。
「痛っ!?!?!?」
私は身体に痛みを感じる。
私は安全な場所で見ていたはずだった。
だが、次の瞬間にそうではないことを知らされる。
夜蜘蛛が出した糸は真っすぐに飛ばされるだけではなかった。
タナトスとの攻撃をしている間に、私の死角となる裏側から攻撃をしてきたのだ。
私の胸の辺りを白い蜘蛛の糸が貫いていた。
「美琴!?」
タナトスが心配そうな表情でこちらを見上げる。
そっか。ブレスレットで、痛覚とかの情報も共有されてるんだっけ?
でも、マジでヤバいかも……。
蜘蛛の糸は貫いたことを確認したあと、私をタナトスのもとに投げ捨てる。
タナトスは私をキャッチして、その場を走り抜け、身を晦ました。
私が闘いの邪魔しちゃったのか――。私が弱いから――。
いつも住処として使用しているラブホテルに到着する。
それにしてもこの部屋はいつも使われていないなぁ……。人払いの術でも使用されているのだろうか……。
私のケガは軽傷で、何てことなさそうだ。
だが、私を運んできたタナトスの様子がおかしい。
顔色は真っ青になり、額には変な汗をかいていた。
「ね、ねえ……タナトス? あなた、ちょっと様子がおかしいんだけど……」
「……あ、ああ、ちょっと、な……」
そういうと、彼は床に倒れ伏した。
背中には夜蜘蛛にやられたであろう無数の刺し傷があり、その傷一つずつから黒い霞が漂っている。
ひとつずつが呪いのようにタナトスの身体を蝕んでいっている。
「もしかして、私を助けようとしたときに!?」
「気にするな……。これも俺の仕事だからな……」
「でも! このままじゃあ、タナトスが死んじゃう!」
「……今、俺は回復のために休眠状態に陥る……。だが、いつ目覚めるか分からない……。だから、お前が回復方法を調べて、対応してくれ……」
タナトスは私に端末を私とそのまま倒れ伏したまま、目を閉じた。
私はボロボロになった服を脱がせて、引きずるように彼を布団に寝かせる。
本当に死んでいるように寝ている。
「こういうときこそ、私がしっかりしないとね!」
て、何で私がしっかりとしないといけないの?
私がタナトスのパートナーだから?
そ、そうよ。決して恋愛関係とかで登録されているけれども、別に付き合っているわけじゃないから、彼女って訳でもないし!
でも、何だろう……。どうして苦しいんだろう……私の心……。
私は頭を横に振って、雑念をかき消して、手渡された端末に目を落とす。
きっと、どうにかすれば連絡が付けれるはず。
私はスマートフォンを扱うように画面を操作すると、緊急連絡のできるアイコンを見つける。
それをタップすると、即座に繋がった。
私はそこで衝撃的なタナトスの回復方法を提案されるのであった……。
私は恥ずかしさで今にも、この場から逃げ出したくなりそうだった。
だって、目の前にはタナトスが寝ているとはいえ、私は今、パスタオル一枚羽織っているだけなのだから……。
天界のオペレーターから提案されたのは、『霊体と死神との霊力の共有による急速回復』という方法だった。
もともとタナトスは現在休眠状態で、自力で回復している。しかし、それでは時間としてかなり掛かってしまうので、霊体である私が所有している霊力をタナトスに送り込むことで回復を倍速でやってしまうという荒業らしい。
で、私としては、そこまでは提案に概ね納得できたのだが、オペレーターが次の瞬間に発した言葉に詰まってしまった。
『美琴さんとタナトスさんは恋愛関係として登録されているので、手を握るだけでは無理です。キスなども良いのですが、もっと効率よくするには、全身の皮膚の直接接触による回復方法が最良の方法と考えられます』
「そ、それって……」
『裸で抱きしめ合うことが最適解だとAIは算出しています』
「それ以外の方法は……?」
『あとは男性器を女性器の―――』
「結構です! 直接触れ合うことにします!」
と、まあ、こんなやり取りがあって、私はさすがに汚いままではいけないと思い、一応、身体を清めた。
変な話だ。死んでいる霊体がシャワーを浴びるなんて……。
でも、気分的にそのままの自分の身体でタナトスを抱きしめるのは許せないというか、何とも許せない気持ちだった。
いや、そんなことは気にしなくてもいいのかもしれない。
それよりも男性経験の未知数の私にとっては、この姿で男性を抱きしめるということに対して、緊張感というか恐怖感というか……そういうものでいっぱいである。
タナトスの顔はやはり苦しんでいるようにも見える。
私はバスタオルを外してその場に捨てる。そして、そっとベッドの中に潜り込み、タナトスに触れる。
温か味は感じる。
「何だか、変な感じ……。温かみを感じるなんて……」
私はそのままタナトスを抱きしめる。
ふにゅんと私の柔らかい胸がタナトスの硬い胸に当たる。物凄く恥ずかしくなってしまう。
目の前にはタナトスのイケメンの御尊顔が!!
ああ……やっぱり沢渡裕也くんに似てるぅ………。
私はそのまま、タナトスを救うために唇を重ねる。
これまでは私が霊力を供給してもらうためにしていたこと……、その逆をするわけ。
タナトスの口の中に舌を入れてみるが、反応がない。
私は早く回復してほしいと祈りながら、キスを続ける。
私の身体の中にある霊力が吸い取られていくように、タナトスに流れ込んでいく。
「お願い……、タナトス、早く回復して………」
いつの間にか、私の目尻には涙が浮かんでいた。
涙はいつしか頬を伝い、シーツに流れ落ちる。
私は瞳を閉じて祈った。
お願い……。タナトス、戻ってきて―――――。
その瞬間、私は違和感を感じ始める。
ずっとタナトスの方に流れ込んでいた霊力がいつの間にか、自分にも注がれていくような感覚が生まれる。
それと同時に、キスして絡めていた舌を逆にエロく絡みついてきた。
この絡め方はタナトスのいつもの―――。
私がそう思ったときには、目を閉じたままのタナトスは両手を私のうなじにかかった髪を除け、タナトスの舌が首筋を舐めあげる。
「……えぇっ!?」
そして、そのままタナトスの舌は身体の曲線に沿うように下がっていき、私を愛撫し始める。
ゾクゾクッと身体に電気が走る。
え!? 何っ!? 何なのよ、この感覚は―――!?
痙攣は幾度となく大きな波のように私の身体と精神を襲ったのであった。
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