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残余  作者: 金子ふみよ
9/21

校舎裏にて早瀬晶講師による簡易的呪いの一方法についての講義

 情報収集に気が済んだのか、図書室を出た。どこに行くつもりかと思っていると、スマホをいじくってから足を止めたのは校舎裏だった。すると、早瀬さん、木陰だの、アフロヘアみたいなよく分からん低木の枝の間だの、ともかくそこいらを覗き始めた。いや、漁っているようにも見える。もはや気分はゴミ拾いだ。何も袋らしきものはもってないけど。とはいえ、比喩にしちゃ適当なこと言ってしまったかもしれない。なぜなら、たしかにゴミが少なくない。ティッシュや靴の片方や髪留めやティシャツや空のジュースの紙パックや、きょ、教科書!……ゴミなのか、本当に。で、早瀬さんがお求めの遺失物は何。

「藁人形」

 草を足でかき分けながら、しらみつぶしににらみを利かせていると思ったら、なんて物騒な物の捜索をしやがる。いや、校舎裏って言ったら恋の告白とかのシーンにうってつけだが、丑の刻参りにわざわざやって来るかね? それはそれで不気味だけども。

「やはりないようだな」

 早瀬さんの納得に思わずほっとする。呪いだとかなんとかとはいえ、灯台下暗しでもあるまいに早々に見つかってもさ。てか、即効で見つかる物証を残すなんて粗忽な下手人がいるもんかね。

「私は後でこの近くの神社で探してみるが、真白はどうする?」

 マジ……。

「怖いならいい。私一人で行く」

 ひとまず回答を保留しておこう。現状の様子見ってことで。

 そこから早瀬さんが向かう方について行く。その道すがら、

「実はな、藁人形でなくてもいいんだ」

 なに、その表現。藁人形でなかったら薄で作っても可とか言ってんのか。あるいは、もしかして呪い講習会とかマニュアル大公開とかをしようとか。

「物証ということだ。そういうものがないかと探しているんだが、なかなか見つからないものだな」

 だからそれが藁人形がないんでしょ。それに、物証がこんなとこにってはさっき言わなかったっけ。

「そことつながる。呪いと言うとすぐに藁人形と思いがちだが、手法はいくらでもある。人型に切り取った紙を使う方法もあるし、私たちのような学生なら手っ取り早いところでは、消しゴムを使う方法もある」

 消しゴムって、俺もペンケースにも入ってる、あの白い塊ですか? 授業中、ちぎって悪友の頭に投げつけるとか、隣の席の好きな子が忘れた時に「しょーがねーなー」とかわざとらしく言って貸してあげるために常に二つ用意してあるとかの、あの便利ツール? そんなのが呪いに使えるって言われても。

「消しゴムに呪う相手の名前を書いてピンで刺す。その刺す深さで軽傷から重傷までお望み通りだ」

 そんな筋肉鍛えるのに初級から上級まで負荷のかけ方自由ってPRする通販番組のナレーションみたいな言い方されても。ていうか、そんなんでいいの? 簡便にもほどがあるのでは。まったく勘弁してほしい。

「方法があるんだから仕方ない」

 なにその死後の世界はあるんだから仕方ないみたいな言い方。……実行したことないですよね。

「やらないほうがいいだろうな」

 そりゃそうでしょ、とほっとした。人を呪わば穴二つなんてことは俺でも知ってる。呪いのブーメランなんてまっぴらでしょ。

「それに学校ならピンの代わりになるものがたくさんある。コンパスや、女子なら家庭科の裁縫道具。自由自在だ。しかも、どれを使用したのかなんて誤魔化しようがいくらでもある。それに後始末も簡単だしな」

 頭痛ェよう。もうクラスメートの消しゴム借りれねえよ。借りて俺の名前と刺し跡とかあったら立ち直れねえ。てか、早瀬さん、そんな細々したところまでよく知ってるな。先輩たちが頼りにしたくなるくらいは、やはり詳しいってことか。

「知り合いに専門家がいてな、聞いたことがあるだけだ」

 高校生でアッチ系の専門家と知り合いって、交友関係精査した方がいいっすよ。

「そんなことより、話しを聞く相手のところまで来たぞ」

 事情聴取をするなんて聞いた覚えはないのだが。が、呪いの現物探しているよりはずっと安心だわ。実際に物を見つけてしまったら、なんて思うとそれこそ背筋が寒くなる。

 早瀬さんは指をさす。にぎわい、というか活性化しただだっ広い空間。放課後、生徒たちが熱心に汗を流し、大声を出して切磋琢磨する青春空間、すなわち体育館だった


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