早々に
探すまでもなかった。先輩女子二人が階下に降りると言ってくれていたので、そこまで行くと、階段の上の方から、
「橘、和泉」
早瀬さんが降りて来ていた。橘と呼ばれた先輩は立ち止まってしまい、半歩下がった。あの後ろの方に隠れていた先輩の方か。もう一人の先輩が振り向いて橘先輩を案じた。
「ちょっと早瀬さん、先」
面会仲介をして、とっとと次の授業にこの厄介な先輩男子を引っ張っていかなければならない俺が一歩二歩前に出た。
グラっ
足が滑った。スピードを上げて階段を走り降りる。階段落ちなんぞしたことはない。アクションスターでもスタントマンでもないから当然だ。予想もしなかったハプニングに一瞬で心臓がバクバクと鳴り出した、なんて悠長なことは言っていられない。
「真白、手すりにつかまれ!」
早瀬さんの指示を待つまでもなく手すりを握って全身で踏ん張った。エビ反りになった腰にはあとで湿布を貼っておこうと思った次の瞬間。痛みがあった。雷撃を受けたのは足首だった。捻ってしまったのだ。あわてて身を立て直す。早瀬さんが駆け下りて来て、見上げれば先輩女子二人はもうワナワナと怯えるように見ていた。ん? 怯える? 落ちたのは俺だぞ。
「大丈夫か?」
早瀬さんに言われて足首を回してみた。折れてもないし、靭帯断裂もしてないが、微妙に痛い。
「保健室に行こう。橘、和泉。用があるなら一緒に来てくれ」
橘と和泉と呼ばれた先輩女子二人は顔を見合わせてから静かに頷いて、ゆっくりと階段を下りた。
引っ張っていかなければならない人の肩を借りなければならなくなった俺。まったく立つ瀬がない。