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序
学校にはたいてい、七不思議とかいったものがある。その実数は七ではなく、八かもしれないし、それ以上、あるいはそれ以下ということもあるだろう。いずれにせよ、そういったものは、部活や年中行事でもないのに非公式伝承として、まことしやかに先輩から後輩へ受け継がれていくもので、我が校にも抜かりなくある。
あるのだが、しかし、今俺が言っているのは、夜中に音楽室の肖像画のベートーベンの目が動くとか、階段の数がある時間になると増えるとか、理科室の標本人体が動くとかいったことではない。言うなれば、我が高校には通俗的な七不思議ではない不思議がある。都市伝説的に継承されているそれらとは様相を異にしていることが。なぜかと言うと、それは俺の目の前にいるからだ。現在、授業中真っ最中、つまり日中である。さらには全校生徒にも視認できている。名前もある。早瀬晶。紛れもない生徒の一人である。この人が我が校の七不思議プラスアルファの正体である。決して俺一人が言っているわけではない。と言うか、俺も他人から聞いたくらいだ。