第45話:決着は鉄と涙の味。
「あばばばばば……!!」
風圧で口がびろんびろんになるの初めて体感した。
「もう少し我慢だ。島の中心ならあの山の山頂だろう。一気に行くぞ!」
クラマがさらに加速し、物凄い勢いで山を駆け上る。
ちょっと出っ張ってる所に飛び乗った所でクラマが一気に頂上までジャンプした。
このまま頂上にいるであろうシャドウに奇襲をかけるつもりのようだった……んだけど。
「な、なんだとっ!?」
山の中心は大きくくり抜かれていて、その真ん中に巨大なシャドウが立っていた。
ほぼ山と同じ高さの闇の塊が、その山の中に隠されていた。
「ちっ……もっご! ユキナを頼んだ!」
クラマはもっごごと僕を放り投げ、自らはそのままシャドウの頭上から切りかかる。
「うわわーっ!」
「お嬢ちゃん、しっかり掴まっとけ!」
もっごがにゅいーんと枝を伸ばしてくれたので空中でそれを掴むと、勢いよく元の長さに戻って僕をキャッチして壁面を駆け降りる。
ジェットコースターの百倍怖いっ!!
くり抜かれた山の内側をぐるぐる回るように駆け降り、最下層にたどり着くちょっと前にクラマがシャドウを真っ二つに切り裂いて地面に降り立った。
「やったか!?」
「クラマそれ言っちゃだめなやつ!!」
そんな事を言ってほんとうにやったの見た事ないからっ!!
案の定、真っ二つになった巨大シャドウは何事も無かったかのように一つに繋がりこちらを見下ろした。
そしてその巨大な足を振り上げ僕らを踏みつぶそうとするけど、図体がでかすぎて膝が壁面に激突してるバーカバーカ!
とか調子に乗ってたら壁がガラガラ崩れて瓦礫がぼとぼと落ちてきた。
「クラマ気を付けて!」
「こっちはいいから自分の心配をしろっ!」
クラマはそのままシャドウの軸足を切りつける。今度は鈍い音がして少しめり込んだけれど弾かれてしまった。。
「お嬢ちゃんはおいらが守るぜ!」
もっごが俊敏に動き回り落石をかわしていく。僕はその動きに対応できなくてぐわんぐわん振り回されてへろへろになってしまった。
僕の胴体に枝を絡ませてホールドしてくれてるおかげで振り落とされずにはすんだけど、これ以上続いたら脳みそシェイクされてアホになっちゃう!
落石が落ち着いた頃、シャドウの動きが止まり急にその姿を小さく変化させた。
クラマの倍くらいの背丈で止まる。
こういうのって大抵ヤバいやつだ。
「気を付けろ、多分力を凝縮させただけだぜ! むしろ小回りきく分厄介だ!」
もっごがクラマにアドバイスを飛ばしてるのを聞いて、それ僕が言いたかったやつ! って思ったけどそれはクラマもちゃんと気付いていたみたい。
彼はシャドウの動きを見極めようと防御態勢をとったまま、次の瞬間には吹き飛んでいた。
「……えっ?」
何も見えなかった。強化の支援魔法を使う間もなく……ただ、気が付いたらクラマが壁にめり込んでいて大量の血を噴き出していた。
「え、クラマ……? クラマってば!」
クラマはピクリとも動かない。
「う、嘘でしょ? ねぇ、クラマ!!」
「お嬢ちゃんあぶねぇ、こっちに来るぞ!!」
えっ?
何がなんだかわからなかった。
ただ、目の前が真っ黒に塗りつぶされたようになって、少し遅れてそれがシャドウの大きな拳だったって気が付いた。
でも、それだけじゃなくて。
シャドウの拳の周りには切り株があって。
何が起きたのかをやっと頭が理解した頃にはシャドウが腕を振ってもっごを放り棄てていた。
「もっご!!」
彼は瞬時にホールドを解いて僕の目の前に飛び出し、身を挺して僕を守った。
そして、その身体には大きな穴があき緑色の体液を撒き散らしていた。
「もっご……僕を、庇って……?」
「ユキナ……大丈夫か?」
クラマが自らの血を拭いながら僕とシャドウの間に割って入る。
無事だったんだね。それはすごく嬉しい。ほんとだよ。
だけど……だけど。
「僕は大丈夫だけど……もっご、もっごが!」
「落ち着け。こいつは俺が引き付けておくからユキナはその間に回復を!」
「でもそれじゃクラマが……」
「大丈夫だ。油断しなければ反応できない程じゃない。それに……今ので更に力が湧いてきた」
僕への危険の大きさがクラマの力になるのなら、今のクラマはそれこそMAX状態だろう。
「分かった……ごめん、少しの間お願い」
「任せろ」
シャドウが動こうとしたのをクラマが牽制する。
「何処へ行く? お前の相手はこの俺だ」
クラマ、気を付けてね……。
僕はもっごに駆け寄り、こんな時の為にきちんと覚えたあの魔法を使う。
意識を集中させ、もっごの傷を癒すように……。
強く普段の彼をイメージする。そして……。
「もっご、元気になって……」
軽くなってしまった彼の身体を持ち上げ、口付けをした。
彼の身体は光り輝き……そして。
何も起きなかった。
「うそ、嘘だ。嘘だって言ってよ……」
もっごはぴくりとも動かなかった。
そんな……もっごが、僕のせいで死んじゃった。
僕が弱いから殺されちゃった。
僕は静かにもっごを壁際に移動させ、シャドウに向き直る。
「ユキナ、こっちに来るな。俺に任せておけ!」
クラマはシャドウの激しい攻撃を必死に受け流す。
さっきまで何も見えなかったのに、どういう訳か今では二人の動きがよく見えた。
「かの者に勝利の祝福を……【グランディズメント】」
クラマに強化魔法をかけると、徐々にだけどクラマがシャドウの動きを上回るようになり、攻撃が当たり始めた。
しかし彼の剣は当たっている筈なのに、その大半はシャドウの身体をすり抜けているようだった。
ここに来た時の初撃もきっとシャドウを切ったように見えただけですり抜けていたんだろう。
「クラマ、そいつ攻撃のタイミングでしか実体化してないよ」
今の僕にはシャドウの力の流れが手に取るように分かる。
実体化している時はエネルギーが膨れ上がり、実体化していない時には存在が希薄になる。
きっとシャドウって元々闇の塊だから存在が希薄なんだと思う。
ただ、対象に干渉する為には実体化するしかないんだろう。
「なるほど……なっ! それが分かれば……!」
クラマがシャドウの攻撃に合わせてその拳を切りつけると、シャドウの手首が切り落とされ空気に溶けた。
「いけるぞ! もう一度だ!」
バキン。
「なっ!?」
クラマが渾身の力を込めた一撃。それは確かにシャドウの身体を捉えたけれど、彼の力に耐え切れなかった刀身部分が粉々に砕け散った。
「……クラマ、そのまま続けて」
「しかし……!」
「大丈夫。僕を信じて」
「分かった」
僕はラスカルが魔法で剣を作り出したのを見ていた。
あの時は凄いとしか思わなかったけれど、今ならあの魔法の仕組みが分かる。
再現する事が出来る。
僕の魔力を注ぎ込んだ光の剣を、クラマの手に。
彼の持つ剣の折れた刀身部分が光り輝く魔法の剣へと変わる。
「終わらせてやるっ!!」
シャドウがその姿を変異させ、クラマを丸ごと飲み込もうと広がった瞬間、クラマはシャドウを……その闇を消し飛ばすほどの一撃を放った。
切り裂かれた闇は低いうめき声のような声を響かせて空気に溶けていく。
「やったか……!?」
霧散した闇が僕の目の前で再び実体を帯びていく。
「クラマ……」
僕はありったけの魔力を掌に込め。実体化しかけたシャドウの顔面を掴み、小さな結界を展開。
「だから、それは言っちゃダメなやつだって……」
シャドウを結界内に閉じ込め何処にも逃げられないようにした上でそのまま地面に叩きつける。
「言ってるでしょーがっ!!」
もう魔力を魔法の形に整える事すら煩わしい。
全身全霊の魔力はただただ、僕が作った結界の内側に向けて炸裂した。
閉じ込めたシャドウはその魔力の本流に飲まれ、耐え切れなくなった結界が破裂し、溢れ出した魔力は叩きつけた地表から一気に上空へと吹き上がる。
「今度こそ……終わったんだな」
「うん……だけど……もっごが、もっごがね、僕を庇って……」
ぼろぼろと涙を流す僕をクラマがそっと抱きしめてくれた。
女の子苦手なくせに無理しちゃってさ……。
「今なら、許してくれる?」
「ああ」
「嫌なの、分かってるけど……許してね」
「ああ」
僕を抱きしめるクラマの腕に更に力がこもる。
「……ばか。痛いよ」
クラマを見上げ、背伸びをして……。
そっとキスをした。
クラマとのキスは……彼のぬくもりはとても優しかったけど、
鉄と涙の味がした。




