第44話:決戦の地。
周りは別世界だった。
まるで亜熱帯の島にでも来たかのような植物が僕らを取り囲んでいた。
風に揺れた木々達から聞こえるガサガサいう音がまるで笑っているかのように錯覚しそうになる。
「うげー、まだちょっと気持ち悪い」
「大丈夫かいお嬢ちゃん……できるだけ揺らさねぇようにしてやるから座りな」
「うぅ……ありがと」
もっごの上にどすんと座ると、なんだかふんわりしていて座り心地がいい。
もっごがお尻との接地面を少し変化させて柔らかくしてくれたみたい。
そんな事出来るなんてすごいなぁ。
「私はここで結界を張って魔力を回復させてから追いかける。あまり悠長にしている時間もないだろう。先に行け」
「えっと、ラスカルの回復待ってからだとまずいかな?」
出来れば戦力は多い方がいいと思うんだけど。
「やめた方がいい。ユキナには分からないかもしれないがこの島……かなりのシャドウがうごめいている」
「だったら尚更……」
「それらが狙っているのはお前だ。それを自覚した方がいい」
えっ、なんで僕を狙うの?
……ってそれもそうか。魔王をしもべにした聖女なんてシャドウからしたら一番面倒な相手だろうし。
「シャドウ達に意思はないにせよ、一番魔力の高いお前を間違いなく狙ってくる。しかも量が多い。つまりここに集まられると私が身動き取れなくなる上にお前らも無駄に時間を浪費する」
「つまり俺達は一直線に素体を潰しに行くのがお前の安全にも繋がるという事か」
クラマの言葉にラスカルは無言で頷く。
「ここにシャドウが集まってからでは全て始末するか私を見捨てるしか選択肢が無くなるぞ? ユキナにその選択をさせるのは心苦しいからな」
「捨てられるのが怖いのか?」
「世界を救う為にはそうせざるを得ない状況もあると言っている。私は納得できてもユキナは納得出来まい。さっさと行け。素体の場所はもっごに案内させろ」
ラスカルとクラマはそのやり取りでお互い何か伝わる物があったみたいで、拳をちょんとぶつけあう。
「そうと決まればクラマ、早く行ってさっさとぶっ倒してこよう! ラスカルも絶対無事でいてね!」
「ああ、大丈夫だ。お前らが倒すのが先か私が追い付くのが先か、勝負だな」
「うん、行ってくる。もっご頼んだよ!」
「任せとけって!」
もっごは地面からぼこぼこと出ている木の根などを器用に跨ぎつつ、あまり揺れないように移動している。
本来は後ろ向きに走る方がスピードが出るらしいけど、それって緊急時に大急ぎで逃げる時用なんだって。
だから普段はちゃんと前を向いて歩くらしい。
クラマは周りをきょろきょろと見回しながら進んでいる。てっきり安全かどうかを確認しながら進んでるのかと思ったけど、どうやら違うらしい。
「囲まれているな……まだ距離はあるが……」
既に取り囲まれていて、その魔物達を確認していただけみたい。
「もっご、お前素体の位置は分かるんだよな?」
「お、おうよ。ちょっと待ってな……お、おいおい嘘だろ? これでまだ完全体じゃねぇってのかよ」
クラマの言葉にもっごが魔力探知を行なったみたいだけど……。
「島のど真ん中にやべぇのが居る。間違いなくそいつだ。それにしたってこんなやべぇの魔王様抜きでどうにかなるのか……?」
もっごがガクガクと震えだした。よほどの魔力を見つけてしまったらしい。
「大丈夫だよもっご、こっちには勇者と大魔王が居るんだから♪」
「それを言うなら聖女の方にしておけ」
「えへへ、大魔王って響き結構気に入ってるんだよね」
ガサガサと揺れる木々の音がだんだんと強くなり、クラマが僕の前に出る。
「とにかく島の真ん中へ行けばいいんだな? こいつらを相手にしても無意味だ」
「だったらどうするの?」
その時木陰からシャドウ達がわらわらと……。
「えっ、ちょっとクラマ、これ多すぎじゃない……?」
「いいんだ。敢えてギリギリまで近寄らせた。魔王の事もあるしな」
意外とラスカルの事気にしてくれてるみたい。クラマが今どんな表情をしているのかまでは後ろからだから分かんないけど。
と思っていたらクラマが急に体ごとこっちに振り向いて、僕ともっごを小脇に抱えた。
「えっ、ちょっとクラマ、なにっ?」
「言っただろうこいつらを相手にする時間がもったいない。やはりシャドウがユキナを狙っているというのは間違い無いらしいぞ。この島に来てから常に力が漲ってる」
ヤバい奴がいるヤバい島に来て僕が狙われてるっていうのがそのまま脅威として作用してるのかもしれない。
なんにせよクラマが常にフルパワーだっていうならこんな頼もしい事は無い。
「ど、どうやってここを切り抜けるつもりなんだ?」
もっごの問いに対してクラマの答えはとにかくシンプルだった。
「駆け抜ける!」
クラマは僕らを小脇に抱えたまま爆走した。それ以外の表現が思いつかない。
目が回るほどに景色が目まぐるしく流れていく。
シャドウが道を塞いでもクラマはスピードを緩めずぶち抜いていった。
その都度一瞬目の前が真っ暗になるけど、次の瞬間にはシャドウは砕け散っていて視界の隅にも残らない。
す、すごい……けど、怖いーっ!!
次回最終決戦! 後3話で完結です!




