第25話:目指せ現状打破!
「もしもーし、リィルさん聞こえてるー?」
『聞こえていますよユキナ。連絡が来たという事は何か進展がありましたか?』
教えてもらっていた通信用の魔法を使ってリィルさんに連絡を取りつつ皆の元へ向かう。
「えっとね、今ケーリオに来てるんだけど、ここはむしろ前より平和になってるってさ」
『ふむ……あの黒い影の魔物ですね。障壁により被害が無くなったというのは良いのか悪いのか……』
黒い影の魔物。リィルさんもそう言うって事はやっぱり普通の魔物とは違うのかな?
僕とクラマが最初に戦った魔物が確かそんなタイプだったと思う。
「影の魔物って普通の魔物とは違うの?」
『通常の魔物よりも狂暴です。そして狡猾です。群れで行動する事もあり危険度は高いですね』
ひぇぇ……あの時敵が単体で良かったのかも。
『以前よりケーリオは頻繁に田畑が襲われ農作物に被害が出ていましたからそれが無くなったというのであれば現状は悪くないかもしれませんね』
「うん、自給自足も出来てるみたいだからさ、しばらく平気だと思うんだ。その間に僕らが早く魔王を倒しちゃえば万事解決でしょ?」
『頼もしいですが……無理はしないで下さいね? とりあえず次はそこから西へ行ってもらうとリナリルという名前の街があります。そこは自給自足だけで賄うのはなかなか厳しい場所ですので視察をお願いしてもいいでしょうか?』
「分かったよ。任せておいて。水とかが足りないだけなら僕がどがっと出してあげてもいいしさ」
『……』
「どうかした?」
『なんだか腑に落ちない事があるんですがそれがなんだかわからないのです』
リィルさんが何かを考えてるみたいだけどそれは僕には理解できる範囲を超えているので、頑張っていろいろ考えてもらって……早く平和な世界になるといいな。
『こちらもまた何か気が付けば連絡入れさせてもらいますがユキナの方も新たな情報が分かり次第連絡入れて下さいね』
「はーい♪ 頑張ってくるからね! 耳の件、忘れないでよ!?」
『……ッ、まったく……では後の事はよろしく頼みますよ。こちらもいろいろ調べ事をしてみますので』
「はーい♪ ちゃんと魔王討伐頑張るからね!」
『……は…………き……し…………すよ』
「え、何? 何言ってるかわからないんだけど?」
「あれ、どうしたの? もしもーし、もしもーし!」
……通信が途切れちゃった。こっちはまだちゃんと魔法が生きてるから、向こう側の都合かな?
「遅いぜお嬢ちゃん。さっそく俺の背中を貸してやる。乗りなっ!」
街を出ると、まだ距離があるのに僕の足元までもっごがとっとこやってきて背中を突き出してくる。
「もっごは可愛い奴だなぁ♪ じゃあお言葉に甘えて……よっこいしょっと♪ あれ、ちょっと座り心地良くなってる♪」
「えっと、シュラ様がおいらの背中に魔力を込めてお嬢ちゃん用の座席に作り替えたんでさぁ。おいらも嬢ちゃんには快適な旅を送ってほしいからよ!」
「あーもう主人想いの良い子だなぁ♪ もっごを仲間にして本当によかったよ」
……あ、よく考えたらシュラさんともっごの事をリィルさんに報告するの忘れてたなぁ。
まぁ別にそれは急ぐ必要もないかな? 次の機会にちゃんと連絡入れればいいでしょ。
座り心地のよくなったもっごに運ばれ、クラマとシュラの所まで戻る。
「……」
「……」
ふとクラマと目があった。
お互い顔が真っ赤になっちゃって、慌てて顔を逸らす。
「なんだお前ら、街で何かあったのか?」
シュラの言葉に僕らは再び顔を見合わせて、ほぼ同時に「「なんでもない」」と言い訳をした。
うー、やっぱりあんな事があったばかりだから緊張するつといいって言うか……結局クラマも恥ずかしがってこっち見てくれないじゃん。
気持ちは信じているけれど、この状況をなんとかしない事には進展は無しだ。
クラマが慣れるのが先か、僕の身体が元に戻るのが先か。
それ次第で今後の身の振り方がかなり変わってきちゃう。
僕が今の性格のまま男に戻ったら結構気持ち悪い事になっちゃう……それはやだなぁ。
クラマがそれでいいっていうならいい気もするけど……でもやっぱり僕はこの今の状態が気に入ってるから、彼を慣れさせるいい方法がないかを探しながらいこう。
「変な奴等だな……もうあの街での用事は済んだのか?」
シュラさんが訝し気に首を捻っている。
「うん、思ったより平和でさ、特に問題無かったよ♪ これ以上滞在すると迷惑になっちゃうし、さっさと次の目的地へれっつごーもっごー♪」
「あいよっ♪ お嬢ちゃんをどこまでも連れてってやるぜーっ!」
「よーっし♪ 早く魔王を倒してこの世界を平和にするぞーっ!」
魔王とも対話って出来たりするのかな?
この前急に魔王が来た時はいろいろあって追い返しちゃったしなぁ。
まともに会話してなかった気がする。
次に会ったら今度はもっと魔王らしい態度を取ってくれるかな?
出来れば魔王側にも守る物とかがあってさ、人間と敵対するのもやむを得ない事情があったりしてさ、その辺どうなのか詳しく聞きたい。
でも本当にそうだったら戦いにくくなっちゃうけど……その時はあれだ、もう一つのパターン。
魔王を仲間に引き込むやつ!
これが一番燃えるんだよねぇ。
「お前何ニヤニヤしてるんだ……? 今かなり変な顔してたぞ……?」
「えへへ♪ 魔王の事考えてたら嬉しくなっちゃってさ~♪」
シュラの質問にそう答えたのを聞いていたクラマは、「また始まった……」と呟く。
いいでしょ? 僕にとって魔王ってのは重要な存在なんだから。
「……変な奴だなお前」
「そう? シュラもなかなかですぞ♪」
笑いかけたらシュラが恥ずかしそうに顔を背けた。変な奴呼ばわりされたくらいで情けないのう。




