第20話:爆走する切り株。
「でもさー、僕がピンチにならないと強くなれないって事はさ、普段役立たずじゃない?」
「うっ……お前は人の気にしている事をよくもまぁズケズケと……」
クラマは怒ってるような悲しいような複雑な表情になった。つまり顔面くしゃくしゃ。
「でもほんとの事でしょ? そのかわりいざって時にはクラマに頼るから、普段は僕が守ってあげるね♪」
「ふん、特別な力など無くとも魔物くらい倒してみせるさ」
クラマはそう言ってたけれど、実際戦闘になるとほとんどクラマの出番は無かった。
「クラマ、そこ危ないよ? エレクトリックパレード!!」
ずびがっ!!
真っ黒の影みたいな魔物がこちらに気付いて襲い掛かってきて、すぐにクラマが剣で応戦……しようとした時に雷魔法。
狼型をした黒い影は一撃で黒焦げになりサラサラと空気に溶けていった。
ちなみに本当はエレクトリックサンダーって魔法なんだけど僕が勝手にエレクトリックパレードって命名した。その方が可愛い。
「お、おま、俺まで殺す気かっ!?」
「だから危ないって言ったじゃん。普段の戦闘は僕に任せておけばいいんだってば」
「ぐっ……屈辱だ……」
「いいのいいの。僕が危ない時に助けてくれるのはクラマだけなんだからさ、頼りにしてるよ♪」
「むぅ……」
クラマは悔しそうな顔をしてたけど、これから長い旅になるかもなんだからいちいち気にしてたら疲れちゃうよ?
「それよりさ、こんなファンタジーな世界にいるんだからもっと楽しもうよ。見た事無い花もも木も沢山あるよ? 見てよこの広がる大草原! 楽しまなきゃ損でしょ♪」
「ふっ……お前は昔からゲームとか好きだったもんな」
ゲームだけじゃないけどねっ!
「僕にとってはほんと夢みたいな世界だよ。どんな冒険になるのか楽しみだなぁ♪」
僕らは今まで暮らしていた王都ジャバルからずらーっと伸びている街道を進んでいる。
道の両脇には大草原が広がっていて、まさにファンタジー。
わくわくが止まらないよね! クラマにはいまいち理解してもらえないけど。
「ねぇクラマ、魔王を倒したらさ、この世界でのんびり暮らそうよ。元の世界なんか戻らなくてもよくない?」
「……別にそれは構わんが、お前の身体次第だろう」
「少しは自分が慣れる努力もしてくださいーっ!」
「う、うむ……善処は、しよう」
そうだよ。僕の身体がこうなっちゃったのが悪いみたいに言われるのは心外なんだからね?
そもそもせっかくいろいろ出来る身体になったっていうのに今になって女が嫌いとか言われたこっちの身にもなってほしいよ。
ジャバルを出てから三時間くらい歩いた。
三時間も、歩いた。
でも一向にまだ何も見えてこない。街道と草原が広がるばかり。
「ねークラマ、この街道をまっすぐ行くと次の街があるんだよね?」
「そう聞いている。早ければ今夜にも到着する程度の距離だそうだ」
「一日中歩き続けるつもりなの? さすがにしんどくない?」
せめて馬車でも借りられたら良かったんだけど、荷台はともかく馬も隔離障壁を通る事が出来ないらしいので結局歩くしかない。
「確かにそれはそうだが……早く次の街へ行って宿をとった方がゆっくりできるのではないか?」
クラマの押しに負けて歩き続ける事さらに数時間……。
「つーかーれーたー! もーうーむーりーっ!」
「この程度で情けない」
クラマは冷ややかな目を向けてくる。
なんだよ自分は体力あるからってさー。こっちは魔法の練習しかしてないんだぞーっ!
「僕は体力も女の子なの! もっと丁寧に扱ってよね!」
「お前なぁ……まぁいい。エイムにも釘を刺されたしな」
おっ、エイムさんに言われた事を気にしてるみたい。エイムさんえらいっ!
クラマが休憩を提案してくれたのでありがたく街道脇の切り株に座って一休み……。
「お、おい! その切り株動いてるぞ!」
「ふぇっ!?」
クラマが気付いてくれたので慌てて降りようとしたんだけど、その時にはもう切り株が物凄い速さで走り出していた。
「うわっ、うわわわーっ!!」
「ユキナっ!!」
クラマが超人的な身体能力を発揮してすぐに追いかけてきてくれた。さすがクラマ頼りになる♪
「手を伸ばせっ!」
「む、無理っ! 今手を離したら落ちる!!」
このスピードで振り落とされたらめっちゃ痛いじゃんやだよそんなの!」
「馬鹿野郎! そんな事言ってる場合か! ちゃんと受け止めてやるから!」
クラマがそういうのなら信じてもいいかもしれない。そう思った矢先、お尻の下から声がした。
「てんめーおいらの頭の上に勝手に座りやがってーっ! 早くどけーっ!!」
「しゃ、しゃべったぁぁぁぁっ!!」
切り株が喋った! 魔物って喋るの!?
やだ喋る敵とか倒し辛いじゃんかわいそうになっちゃうよ……!
「おらおら降りろーっ!」
切り株が僕を振り落とそうとジグザグに走り出した。
「うわわっ、ちょっ、止まってよーっ!」
「ユキナ、こっちに飛べ!」
「無茶言うなばかーっ!」
なんとか振り落とされないように切り株からにょきっと生えている短い枝を掴む。
「ふぉぉっ! てめぇどこ触ってんだこの野郎!」
「野郎じゃありませんけどーっ!?」
切り株にとって枝が体のどこの部分なのか分からないけどめちゃくちゃ怖いから早く止まってほしい。
切り株が不規則に動き回ってクラマをかわしていく。
「いい加減にしつこい野郎だなてめーっ! あっちの木に叩きつけてやんよ!」
「ちょっ、待って、死んじゃう、死んじゃうからーっ!」
魔法でやっつけたくても対象がお尻の下じゃこっちにも被害が出るし、それはクラマも同じらしくて追いかけながら剣を抜いてるけどどうしていいか分からないみたい。
このままじゃほんとに木に叩きつけられちゃう……!
飛び降りるしかないの……!?
その時だ。
「止まれっ!!」
ぴしーんっ!
ムチみたいな音が響いて、誰かの止まれという声。
「ひっ、ひぃぃっ!! すいませんすいません命だけはごかんべんを……!」
気が付いたら切り株さんは止まっていた。




