第19話:無警戒聖女と警戒勇者。
エイムさんっていつもにこやかな表情だけど、こうやって歯を見せて笑うと、なんというか……男性相手に言うのも変だけどちょっとセクシー。
「エイムさんってさ、もしかして若い頃は結構女ったらしだったんじゃない?」
「分かりますか? これでも昔は十五人ほど同時に交際して修羅場になり死を覚悟した事もあります」
……冗談だったのに。
思った以上に悪い人だった。でもちょい悪感がチラつくのはこの人にとってプラスな気がする。それも魅力の一つだなーって思うし。
「魔物の群れを相手にした時よりも恐ろしかったのでそれ以降女性に対して距離を置くようになってしまったんですよ」
「それ自業自得じゃない?」
「ははは、まさにその通りです。こうしてユキナ様と話をしていると昔の血が騒いでしまいましてね、今にもデートにお誘いしてしまいそうですよ」
「エイムさんなら大歓迎だよ♪ 美味しいレストランとか知ってそうだし!」
紳士的にエスコートとかされてみたい! 女子としてはそういうの憧れだよね。なんか執事さんとお嬢様的な感じでさ。
……今ナチュラルに女子としては、とか考えちゃった。やっぱり何か妙な力が働いてるのかも。
「やれやれ……そういう所ですよ? 本当に貴女は気を付けた方がいい。意図せぬ相手をその気にさせてしまうと要らぬ面倒を引き寄せますからね?」
「なんかリィルさんにも似たような事言われたような……」
「リィルもああ見えて女性に心を許している所を見た事がありませんでした。女性慣れしていないのであまり彼を虐めないでやって下さいね」
「虐めてなんてないってば! むしろいつも僕の方が虐められてるよ! 修行ほんと厳しいんだよあの人は……」
たまにだけどめっちゃドSっぽい笑い方するし。
「やはりユキナ様の中身が男性という話、にわかに信じられませんな。貴女の良い所は誰しもを虜にしてしまう所であり、悪い所もまた同じ。繰り返しになりますが取り返しのつかない事になる前にその気にさせる相手はちゃんと選ぶようにしてくださいね」
またリィルと同じような事言ってる。いろいろ注意されてる事を聞いてると僕がまるで悪女みたいに聞こえてくるんだけど……。
「なぜそこまでユキナ様に惹かれていくのかを考えてみたんですがね」
なんでそんな恥ずかしい事を大真面目に考えてるの……?
というかそれをサラッと本人に言えるメンタルが凄いよ……。
「ユキナ様の中の男性っぽさが私達の警戒を崩し、無防備になった所でその女性らしさにやられてしまうのではないかと。難儀なものです」
あー、男っぽい部分もプラスに働いてるのかな? 自分じゃよく分からないけど……。
「じゃあエイムさんも僕に夢中なの?」
ちょっとした冗談のつもりで言ったんだけど、なんかエイムさんの返事はちょっと怖かった。
「……本当の事を言ってもよろしいので?」
そう言ってエイムさんはとても優しい笑顔を向けてくるんだけどすっごく怖い。こんな状況だからこそその笑顔が怖い。
でもさ、ぶっちゃけ気になるよね。
「えっと……一応、聞いておこうかな」
「そうですね……私はユキナ様とそこまで話をしてきた訳ではありませんからまだ知りたい事が多いですね。そして、世の中には言葉よりも雄弁な行為という物がありましてね」
「何それ気になる!」
思ったよりもエイムさんが僕との対話を求めていると分かって安心した。怖がる必要なんてなかったみたいだ。
「ふふふ、残念ながら時間切れです。クラマ殿がいらっしゃいましたよ」
「えー、さっきのだけ教えてよ!」
「……そうですね、そういう機会があれば、とだけ」
「約束ね! 帰ってきたら教えてもらうから!」
「おやおや、そんな約束をしてはいけませんよ。本当に悪いお人だ」
彼は肩をすくめながら苦笑い。
僕の言った事がそんなにおかしかっただろうか?
でもこれで帰ってからの楽しみがまた増えたぞ♪
リィルとエイムさんにまた会える日を楽しみにして頑張ろう!
「待たせたか?」
クラマがこちらを見て軽く手を上げた。
「ううん、エイムさんとお話ししてたから全然へーき。もう準備はいいの?」
「ああ、俺とお前の着替えと、保存のきく食料をもらってきた」
おお、さすがクラマ♪ 頼りになるー!
「ではお二人とも、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
エイムさんが立ち上がり、深くお辞儀をして見送ってくれようとしたのにクラマは彼に近寄って文句を言い出した。
「……俺のユキナにあまり色目を使わないでもらおうか」
「ほっほっほ、なんの事でしょうな? 俺の、と言うのであればもう少し大事にして差し上げるとよろしいかと」
「ちっ、まぁいい。世話になったな。どちらにせよ必ず魔王を倒して戻る。期待しておけ」
あー、よかった。急に喧嘩腰になった時はどうしようかと思ったけど一応クラマも世話になった人と喧嘩別れするようなつもりはなさそうだ。
でもクラマの言葉にエイムさんはちょっと悪そうな笑みを浮かべて言った。
「戻って、よろしいのですかな?」
「……? それはどういう意味だ?」
不思議そうなクラマをよそに、エイムさんは僕の方をチラっと見て軽くウィンクした。
なんとセクシーなおじさまだろうか。
「いえいえ、なんでもありませんよ。では……ご武運を」
改めて深く礼をするエイムさんに見送られて僕達は今度こそ城門を目指す。
二人旅の始まりだーっ♪
「ねークラマ、やっぱりエイムさんって素敵な人だね♪」
「……どうだかな」
「もしかしてまた嫉妬してる? かっわいいなぁ♪」
「……お前どんどん女みたいになっていくな」
あれ、やっぱりクラマから見てもそうなのか……。
「もしかして嫌い?」
「いや、俺は女の外見が無理なだけで……別にお前が可愛くなるのは構わんと言うか、むしろ歓迎だが……」
「えへへ、嬉しい♪」
可愛いって思われてるって事が嬉しくなってクラマの腕にしがみ付いてしまった。
「や、やめ……ひっつくな! 旅に出たそばから俺の精神力がもたなくなるだろうが!」
「けちーっ!」
「くっ……必ず男の姿に戻してやるからな……」
「ふーんだ! こうなったらいっそ絶対今の僕にベタ惚れさせてやるんだからねっ!」
こんなドタバタの中、僕達の旅は本格的にスタートした。
次回、ついに街を出て冒険の旅が始まります♪




