第14話:魔王降臨。
「俺はなんとかお前を元の身体に戻す方法を探してみる」
クラマはまだそんな事を言ってる。というより、あの日から更にその気持ちが強くなったみたい。
僕との今後の事を真剣に考えてくれてるのは純粋に嬉しいんだけど……この身体結構気に入ってるから複雑なんだよねぇ。
毎日エイムさんとの鍛錬に加えて、それが終わると古代文字を必死に勉強して古文書を片っ端から調べて回るような事を繰り返している。
この年になって全く理解できない新しい言語を覚えるのってすごく大変だと思うんだけど、クラマは一か月もするとほぼ古代文字をマスターしてしまったらしい。
この世界の人だって古代文字が分かる人は学者さんの中でも一部だっていうのによくやるなぁと思う。
僕には到底真似できる事じゃないのでただひたすらにもくもくと魔法の修行に明け暮れていた。
そしてある日、リィルさんとの魔法修行が終わった後にちょっとだけ隔離された区域から出てみた。
勿論魔物が出てきたら困るからすぐに戻れるくらいの位置までしか行かない。クラマに心配かけたくないし。
なんでそんな事してるかって言ったら、ちょっとだけ威力の高い魔法を思い切り試してみたかったから。
勿論ちゃんと制御は出来るようになったから前みたいな失敗はしない。
もし失敗して吹き飛んだとしても今の僕ならそれを回避する術もある。
準備万端、というやつだ。
でもリィルさんが帰った後にこそこそやってる時点で明日あたり怒られてしまうのは目に見えているけど、リィルさんもなかなかの心配性だからなかなか思い切った事をやらせてくれないのだ。
一回だけ、一回だけだから……!
そんな事を考えつつ集中を始めようとした時……。
「お前は何をしている?」
突然背後から声をかけられて心臓が飛び出るかと思った。
リィルさんが戻ってきた? それともクラマ?
ゆっくり振り返ると……。
「あれ? 君は誰?」
そこに立っていたのはとても綺麗な金色の髪をした青年だった。
「ふぇ……物凄いイケメン……!」
「いけめん……? 答えろ、貴様はここで何をしている?」
あれ。もしかして僕の事知らない?
でもそんな事より彼が抱えている女性が気になる。
とても綺麗な人をお姫様だっこしていて、二人はとても絵になるなぁと……ってちょっと待って。
「え、それって姫様? 姫どうかしたの? 具合悪そうだけど……」
どうやら姫は寝ているみたいだけど顔色があまり良くない。そう言えば前に僕がやらかしてからずっと部屋にこもりっきりって話だったし、僕もあれからほとんど顔を見ていなかった。
「もしかしてずっと部屋にこもってるから外に連れ出してきたの? たまには日光浴びた方がいいもんね」
「……質問に答えろ。お前は何者で、こんな所で何をしている」
うわこの人僕の話聞いてないな……。
「魔法の練習だよ。というかさー、この国で僕を知らないとはもぐりですなー? こう見えて異世界から召喚された聖女ですぞ♪」
えっへん! と腰に手を当てて胸を張る。どやっ!
「……聖女?」
「あれ、もしかして本当に知らない? 勇者と聖女が召喚されたって話はかなり有名だと思ってたんだけど……もしかして情報規制でもされてるのかな……」
「聖女、勇者……ふふ、そうかそうか。いやすまない、私が無知だっただけのようだ。姫はお返ししよう。……と言ってもここではまずいか」
その人はぴょんと地面を蹴り、信じられないほどの跳躍力で隔離の中へ戻って姫を草むらの上に寝かせた。
えっ、そう言えば隔離の外だよここ!?
僕とクラマ以外にも外に出られる人居たの?
てか姫を連れて外に出てたって事? すごい!
「ねー、ちょっとこっちきて! 話聞きたいんだけど!」
「む……? 聖女が私の話を聞きたい、か。いいだろう気まぐれに少しばかり答えてやろう」
彼はほとんど瞬間移動みたいな速さで僕のすぐ目の前まで帰ってきた。
なんか偉そうなのがすっごく気になるけど、もしかしたらこの人も異世界から来たのかな?
絶対強そう。この人連れていったら戦力倍増じゃない?
「ねぇねぇ、君僕らの仲間にならない?」
「……何を言っている? 私が聖女と勇者の仲間にだと?」
「そうそう。ってなんでそんな嫌そうな顔してるの?」
彼は眉間にしわを寄せて変な顔をしてたけれど、その後突然笑い出した。
「くく……これは傑作だ。お前なかなか面白い女だな」
出た、恋愛物定番のおもしれーおんな発言!
「そいつから離れろっ!!」
何が起きたのかよく分からなかった。
突然クラマが遠くから凄い速さで駆け付けたかと思えば目の前の彼に殴り掛かったのだ。
「なんだ貴様は」
でもあっさりと避けられてしまう。
「ちょっとクラマ、急に何するのさ! 人がせっかくスカウトしてるとこだったのに!」
「ほう、私の正体を見抜いたか? 美しい姫が居ると聞いて気まぐれに来てみただけだったが……くっくっく、これはなかなかどうして……面白いではないか」
……やっぱりこの城の人じゃないんだ? でも一般人にも見えないし、もしかして僕らと同じく異世界からの人かな?
「君は誰なの? どこから来た人?」
彼はニヤリと笑い、名乗りを上げた。
「よくぞ聞いた。私は魔物の王、ラシュカルである!」
くるりと回転した彼の髪色は深い群青色に代わっていて、頭からにょっきりと角が二本生えている。さっきまでそんなのなかったじゃん。
服装も変わっていて、貴族とかが着てそうな煌びやかな服の上にやたら豪華なマントを羽織り、バサっと翻す。
「……魔物の王って……え、魔王? こんな所に?」




