表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

5)小姓達は尊敬する近習筆頭(ロバート)は、ちょっと変わっていると思っている


ローズに、いつも昼の軽食を食べている場所に案内された小姓達は、戸惑った。

「ローズちゃん、本当に、いつもここで軽食を食べているの」

「いつもここよ」


ローズの言葉に、ティモシー達小姓は、顔を見合わせた。

「ここ、執務室から丸見えだよ」

「あの窓よ。アレキサンダー様が、ロバートに御用があるときに、ここならすぐわかるからって。ほら」

ローズが窓の一つを指していた。


「誰かがこっちを見ているわ。誰かしら」

ローズが手を振り始めた。つられて、ティモシー達も手を振ることになってしまった。

「ほら、手を振ってくれているわ」

ローズは笑顔だ。


「落ち着かない。絶対に落ち着かない」

ティモシーの小声に、仲間の小姓達は頷いた。


「お食事にしましょう」

「そうだね」

食事の場所が、執務室から丸見えであることを、ローズは全く気にしている風がなかった。おそらく、ロバートも気にしていないのだろう。


「やっぱり、ロバートさん、ちょっと変わっているよね」

耳打ちしてきた仲間に、ティモシーは頷いた。

「ローズちゃんもだよ」

ティモシーの言葉を、否定する仲間もいなかった。


 ティモシーは、ロバートがいない間、ローズが寂しくないように、一緒に食事を食べたいと厨房に頼んだ。調理長達は、感心だと言ってくれた。ローズの髪の毛についていたのは卵だが、犯人は厨房の人達ではないだろう。調理長は怒ったら物凄く怖いのだ。ジェームズのおかげで、三人はわかった。他にいないか、ティモシー達は、探している。厨房の人達でないことは、わかった。


 ティモシーは、手元のバスケットを見た。

「楽しみだな。調理長さんも、楽しみにしておけって」


敷物の上に、手分けしてバスケットから取り出した料理を並べていく。待ちきれない年少達のつまみ食いを叱りつけたりしながら、軽食の用意が出来上がった。


 全員で輪になって食べていたときだった。

「あ、これ美味しい」

フォークを片手にしたローズが笑顔になった。

「ほら、これ美味しいわ。ねぇ、ロバー」

振り返ったローズの言葉は途中で消えた。ローズが振り返って見上げた先には、誰もいないのだ。ローズの笑顔は一瞬で消えた。差し出そうとした料理を、ローズはそのまま口に運んだ。


「ローズちゃん。ロバートさん、早く帰ってきてくれたらいいのにね」

ティモシーの言葉に、ローズは首を振った。

「ロバートは、アレキサンダー様と一緒に大切なお仕事だから」

ローズの言葉に、ティモシー達小姓は顔を見合わせた。帰ってきてほしいのは普通だと思うが、ローズはそうは思っていないらしい。


「大切なお仕事だけど」

ティモシーは言葉を切った。なんと言えばいいか、悩んだ。

「帰ってきて欲しくて、いいんだよ」

ティモシーの言葉に、ローズが顔を上げた。

「僕らも帰ってきてほしいし、筆頭代行のエリックさんも、そろそろ帰ってきて欲しいって思っているよ」


実際にティモシーは、昨日の報告のときに、エリックがそういったのを聞いた。

「グレース様だって、アレキサンダー様に帰ってきてほしいと思っていらっしゃるし。みんな帰ってきてほしいよ」

「帰ってきてほしくない人なんて、いないよ」

ローズは少し微笑んだだけだった。


「ロバートさんは、お仕事で帰ってこられないけど、ローズちゃんが、ロバートさんに帰ってきてほしいと思うことは、悪いことじゃないよ」

ティモシーの言葉に、ローズは首を振った。


「無理なことをお願いするのは、いけないわ」

ローズの言葉も間違ってはいないが、ティモシーとしては違うと思う。どう説明したものか、ティモシーは考えてみた。

「ローズちゃん。僕ね、母さんと妹がいるんだ。でも、二人とも死んじゃったから、もう会えない。会えないけど、会いたいって思うよ。だから、無理なことでも、会いたいって思うことは、悪いことじゃないよ」


母と妹とティモシーが、親子として暮らすことができたのは、三年だけだった。ティモシーにとっては、宝物の時間だ。あの日まで、ティモシーは母が母とは知らなかった。母を母とは知らないまま、ティモシーと妹は命を奪われるはずだった。運命をひっくり返してくれたロバートとアレキサンダーは、ティモシーにとって大切な恩人だ。


「それにね。ロバートさん、きっとローズちゃんが帰ってきて欲しいって思ってなかったら、寂しいよ」

ティモシーの言葉に、仲間たちは頷いた。


「ニールも、お父さんに、早く帰って来てほしいよね」

「うん」

ニールの父も、今回の視察に同行している。

「僕も、父さんまだかなぁって、思うもん」

レイモンドの言葉に、頷く仲間は多い。


「みんな帰ってきてほしいから、ローズちゃんが帰ってきてほしいのは、悪いことじゃないよ。普通だよ。いいことだよ」

ティモシーの言葉に、漸くローズが笑顔になった。

「だから、かえってきたら、みんなでお帰りなさいって言おうね」

「はい」

ティモシーの言葉に、ローズと小姓達が声を揃えた。




第二章幕間 おそらく甘い現在と、本当に甘くなかった過去


に登場した調理長さんが、この日のお食事を用意してくれました。

バスケットの中身は、ローズが好きなものと、ローズが好きなものと、ローズが好きなものです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ