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4)近習筆頭代行(エリック)には、悩みが多い

「毎日報告を受け取っているのに、そんなに気になりますか」

エリックの耳には、フレデリックの声は無神経そのものに聞こえた。


「私のことでなく、ご自身の仕事に集中されてはいかがですか」

エリックの言葉にフレデリックは肩をすくめた。

「気になるなら、あそこにいますよ」


フレデリックに誘われて窓から外をみると、小姓達とローズが庭にいた。

「軽食ですか」

「ロバートがいない今、わざわざこの執務室から見える庭を選ばなくてもいいと思いますけどね」

フレデリックの言葉に、エリックは頷いた。


「あ、ローズが手を振ってきていますよ」

フレデリックは、窓越しに手を振りはじめた。

「ほら、小姓達も、そろって手を振ってくれていますよ。可愛いですね」

フレデリックの言葉に、エリックは気付いた。


「ローズが手を振ってきたということは。ローズは、執務室から庭が丸見えということを、知っているということになりますね」

「そうですね」

「ロバートも知っているということになります」

「当然でしょう。いつだったか、アレキサンダー様が用事でロバートに声をかけたじゃないですか」

フレデリックに言われなくても、エリックもその件を覚えている。


「ロバートは知っているというのに、庭でローズとあれですか」

エリックの言葉に、フレデリックはしばらく沈黙した。庭でのロバートとローズの距離は、とても近い。


「ほら、以前、アレキサンダー様が、ロバートは王家の子守の一族、王家の揺り籠だからって、おっしゃっていたではないですか」

「えぇ。覚えていますよ」

エリックは気のない相槌を打った。


 家名なしの一族は、王家に長く仕え、王家に匹敵する歴史を持つ。王家の子供たちの殆ど全員を育てているといっても過言ではない。かつては、彼らは王家の揺り籠と呼ばれ、敬意を払われていた。ティズエリー伯爵家を含めた古い貴族や、辺境貴族の多くは、今も王家の揺り籠への敬意を忘れていない。


 国の歴史を知らぬ新興貴族が、家名なしの一族と揶揄し、軽んじていることに腹立ちを覚えている貴族は少なくない。王家の揺り籠、家名なしの一族の本家であるロバートが、軽んじられても取り合わないことで、貴族達を封じているのだ。


「きっと、本人は可愛がっているだけのつもりですよ。だから、堂々とあんな執務室から丸見えの場所で、ローズを相手に」

フレデリックの言葉が続かなくなった。


「以前、あなたは羨ましいといっていましたね」

エリックの言葉にフレデリックは頷いただけだった。庭にいるローズとロバートの距離は、あまりにも近い。

「親密だといっておきます」

フレデリックなりに慎重に言葉を選んだのだろう。


「本当に、彼の言うように可愛がっているだけだと、私には思えないのです」

エリックは、ずっとロバートを見ていた。だからこそ、気付いてしまったことでもある。

「まぁ、でもそれはロバートの問題ですよ」

フレデリックの言うとおりだということくらい、エリックも解っている。

「あの子達の報告を待つしかないですね」

エリックは手元の書類に目を戻した。仕事は山ほどあるのだ。


フレデリックが以前「羨ましい」と言ったときのことは、別の幕間にあります


第二章 幕間「フレデリックの余計な一言」


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