2)庭師の親方(ジェームズ)は俄(にわか)弟子をとる
生け垣に尻が三つ並んでいた。ジェームズの目の前で、大中小の尻が、いや、背中が、仲良く並び、生け垣の向こうを覗いている。一昔前にはよく見た光景だ。腕白な王子達と乳兄弟達は、庭で様々な悪戯をしてくれた。
ジェームズは仲良く並ぶ三人の小姓達の真後ろまで、気配を消しながら近づいた。
「お前ら、何をやっとる」
「しーっ」
小姓達は静かにするようにと言いたいのだろうが、三人揃えば、それなりの音量になる。
「見張りだよ。ジェームズさん、静かにして」
「して」
年長の一人が、ジェームズを睨んだ。年少班の班長だ。
「お前はレイモンドか。全然隠れとらんぞ」
そもそも、連れている一番小さな子はニールだ。じっとできるような年齢ではない。年長達の班ならともかく、年少が何をしようというのか。
「隠れ方を、教えてやろうか。年長班を連れてきたら、教えてやろう」
ジェームズの提案に、子供たちが顔を輝かせた。
王太子宮では、小姓達は二、三人ずつで班を作っている。年長班は年少班の面倒を見ている。ロバートが考え出した制度だ。疑似の兄弟のような関係の中で、小姓達は仲良く育っている。
年少班の班長レイモンドが連れてきたのは、小姓の筆頭ティモシーが班長の年長班だった。
「お前ら、隠れて何をこそこそやっとる」
ジェームズの言葉に、ティモシーは首を振った。
「言わないって約束したから言えません」
「誰とだ」
「ローズちゃん」
ジェームズは首をひねった。
「それは、最近あの子の元気がないのと関係あるか」
「多分、あると思います」
ジェームズはティモシーをじっと見た。数カ月後には、ティモシーは近習見習いになるはずだ。そろそろ、大人の世渡りを知っても良い頃だ。ジェームズは、ちょっとお節介をやいてみることにした。
「そうか。別に、お前達は儂に何かを言ったわけじゃない。ただ、お前たちの相談が、たまたま今ここで、儂の耳に入ってしまうことはあるだろうな。庭のことは、儂が一番詳しい。いろんなことが聞こえても、偶然だ。仕方ない」
ジェームズは、小姓達の近くを行ったり来たり歩き始めた。数回往復したときだった。
ティモシーが口を開いた。
「レイモンド、ジェームズさんの邪魔をしたらだめだよ。僕らが、ローズちゃんに意地悪をしている人を、探しているのは秘密だよ」
ティモシーの語った言葉に、ジェームズは昔のように血が滾るのを感じた。ローズは、可愛いアリアの、大事な一人息子ロバートの、大切な宝物だ。神様は、ジェームズのお祈りを聞き届けてくださった。神様が、遣わせてくださった可愛いローズに、意地悪をする者がいるなど許せない。
「ティモシー、明日草むしりを手伝ってくれたら、お礼に儂が、とっておきの隠れ方を教えてやろう。探しものにはコツがある。お前達だけができる、とっておきの方法を教えてやるぞ」
ジェームズは、一肌脱いでやることにした。