第一章、⑤
そこは・・・。
闇が続く石の階段。
底が深く暗闇だけが続いている。
ランプの灯りだけが足元を照らしている。
「ここは?」
シスコの質問には答えず、モエは黙々と下へ降りていく。
「ねぇ」
「・・・・・・」
「ねえって!」
「・・・・・・・・・」
「モエっ!」
「・・・シスコ様は夏王朝を知っていますか」
「・・・えっ」
突然言われたモエの謎質問にシスコは面食らう。
「・・・何それ」
「中国史前、伝説の国です」
「それが?」
「この地下には、夏王朝に関する古き縁があるのです」
「・・・それって」
シスコの父は、この地で財を成した際、一族の拠点として土地、屋敷ともに買い取った。
そこは昔からこの地に住む有力な権力者の土地屋敷だった。
かの地に日本人(よそ者)が住んでいることに、快く思っていない者も少なくはなかった。
それはそういう事だったのか、シスコはふと思った。
モエは不意に立ち止まる。
後に続くシスコは思わず、ぴくっとなる。
モエは彼女を振り返った。
ランプの薄ら明るい光が、凛とした彼女の表情を照らしだす。
「シスコ様」
「うん?」
「私はここに住んでいました」
「え」
「そう、かつてのこの地の領主の娘です」
そう言うと、モエは再び階段を降りはじめる。
「モエ・・・」
シスコの知らないモエの姿があった。
「私たちは代々、この地で夏王朝の秘宝を守ってきました」
「秘宝?」
さきほどからずっと寝耳に水な話ばかりで、シスコの頭の許容範囲を越えていた。
(モエは私の従者ではなく、この地の・・・)
シスコの心に何かが引っ掛かる。
「・・・」
「・・・」
それから互いの沈思黙考が続く。
どこまでも続く闇の階段がシスコの気持ちを暗澹とさせた。
彼女がそんな思いを巡らせつづけていると、モエの歩みが止まった。




