エピローグ②
日本へ。
シスコは船上の人となった。
地平線を飲み込むような膨らんだ入道雲に照りつける太陽。
乱反射する海の景色。
シスコは甲板にあがると、外のあまりの眩しさに目を細めた。
船首に近づくと、波を切って進む船の波飛沫をしばらくじっと眺めていた。
「お姉ちゃん、ここにいたんだ」
同じく日本へ帰るトラマツが声をかける。
「うん」
シスコの視線は波間をとらえたまま動かない。
トラマツはそっと彼女の隣へ近づいた。
「さみしいの?」
「だね」
シスコは翳りある笑みを浮かべる。
香港での日々、モエとユンとの思いで、かけがえのないもの。
トラマツはそっと手をさしだした。
「僕がいるよ」
「・・・生意気言っちゃって」
「へへ」
トラマツは笑った。
「でも」
シスコは彼から差し出された手をしっかり握り返した。
「ありがと」
柔和に微笑み返す。
その時、大きな悲鳴があがった。
「何事っ!」
二人は悲鳴のあがる船内へ降りていく。
その場所はサロンだった。
「私っ!私の!ダイヤがっ!」
年配の婦人が形相を変えて、叫び散らしている。
(私の出番だ!)
シスコは颯爽と婦人の前に現れた。
「どうしました?」
彼女は優雅に尋ねる。
が、小娘に尋ねられた婦人は、妙な顔を見せるが話を続ける。
「私のダイヤが無くなったの」
「ほう」
シスコは彼女のスカートの下に光る物を見た。
「誰かが盗んだのよ。きっと!」
シスコは自分の鼻先と唇に人差し指を近付け、婦人に沈黙を促した。
「・・・・・・」
「すでに事件は解決しました!」
「ほんとう?」
婦人の目が輝く。
「ええ」
シスコは大きく頷いた。
「奥様、スカートの裾を少し揺らしてください」
「?」
婦人はシスコの言う通りスカートを激しく揺さぶった。
ぽろり何かが落ちた。
床に転がるは、光るダイヤだった。
「あっ、あった!」
婦人は自分の独り相撲に赤面する。
「これで落着」
シスコは身を翻し、静かにその場を後にした。
再び甲板へとあがるシスコとトラマツ。
「はあ」
シスコは溜息をつく。
「どうしたの」
と、トラマツが聞く。
「なんだかね~」
「退屈なの?」
トラマツが尋ねる。
刺激的な香港での日々、それに代わるものなんて、この先にあるのだろうか、シスコはそう思う。
男の叫び声があがる。
「いたぞ!」
黒服の男達が二人へ迫る。
シスコはくすりと微笑む。
「まだまだ、楽しめそうね」
シスコとトラマツは手を繋ぎ駆けだした。
物語ははじまったばかりだ。
のち、シスコとトラマツは結ばれることになる。
それは、また別のお話。
シスコの物語は続く。
完
航海日誌
ここは現在。
先日、母方のシスコばあちゃんが亡くなった。
御年99歳という大往生だった。
近年、ばあちゃんは病院に入院していた。
訪れる度に笑顔を見せてくれたばあちゃんを覚えている。
具合が悪くなっても意固地に酸素マスクをつけようともせず、最後まで気丈に過ごし逝った。
きっと、むこうでトラマツじっちゃんと出会えたことだろう。
いろんな積もる話をしているんじゃないだろうか。
ばぁちゃんは幼い頃、徳島県から香港に移住し、両親はお金持ちだったらしい。
母から聞いた話だと、屋敷にはお手伝いさんがいたほどらしい。
ばあちゃんは耳が悪く、聞こえが悪かったので耳元で大きな声でゆっくりと話す。
私はそれが億劫で、一度くらい若い頃の話を聞きたかったと思いながら言えなかった。
ばあちゃんの静かに眠る姿を見て、私は後悔をした。
聞けば良かったと。
きっと、ばあちゃんは嬉しそうに話してくれただろうにと思った。
激動の100年を生きたばあちゃん。
何か感謝を込められるものはないか、そう思って書いてみた。
出来あがったものは、なんだか突飛なお話となったけど・・・。
ありがとう。
さて、この作品は過去作です。
ばあちゃんの事を思って書きましたが、中二病全開の拙作となってしまいました。
確か、なにかの賞に応募しました。
そのさい、読んでいただいた担当の方から、便箋で酷評されたのを思いだします。
悔しくて、部屋に貼っていたなあ、その便箋・・・。
だいぶ、前の話です。
確かに拙い・・・でも書きたかった。
そんな拙作なのです。
シスコの物語、読んでいただき感謝です。




