第一章、②
「遅かったですね」
咎めるような声が、シスコの心にずしりと響く。
広間にいたのは光術士と呼ばれるユン女史だった。
※光術士とは、かつてここではないどこかの世界で、光を操り、魔を滅したと呼ばれる術を受け継ぐ者達の事を言う。歴史の影に暗躍する者の大半が光術士ではないかとまことしやかに囁かれている。
ユンは二十歳。
冷たい瞳はクールビューティを思わせ、チャイナドレスの似合う女性である。
スリットから出た細い足に色香が漂う。
「すみません」
シスコは頭をさげた。
「いいです。詫びなど時間の無駄です」
彼女は素っ気なく言った。
「・・・・・・」
「では、はじめますよ」
ユンはそう言うと、シスコに向かい右腕をピンと伸ばし手を広げかざした。
「光破弾」
掌から光が溢れだし、光の玉がつくられる。
「発」
光玉を放つ。
「光破璧」
シスコは人差し指で、眼前に自分を覆う長方形を空間に描く。
「発」
眩い光に包まれた壁がシスコの壁となり、ユンの放った光玉は光壁によって防がれる。
「連弾」
ユンは両手に光玉を作り出し放つと、間髪入れずに連続でそれを行う。
光壁は連弾による衝撃で、薄く消えかかる。
刹那、光壁は打ち破られた。
「光波動」
シスコは両手を広げ、光の波動をだす。
波動に触れた光玉の連弾は、挙動を変え、光の軌跡は四方八方へバラバラに散った。
光玉は広間の至るところへ着弾し、壁やテーブル、椅子、調度品等を瞬時に光が飲み込んだ。
「モエ!」
シスコは叫んだ。
「もう!片付けするのは私なんですよっ!」
モエは憤りの言葉を吐くと、部屋をでて避難した。
シスコはユンの攻撃を防ぎながら、それを見守った。
「隙あり!光破剣」
油断をつき、ユンは光の剣でシスコに袈裟懸けに斬りかかる。
彼女は咄嗟に身を反転させ、一撃を回避する。
「光破刃」
シスコの利き手である右手から、日本刀の形をした青白く光る光剣が出現する。
ユンの二撃目は光刃で受け止め、光剣同士の鍔迫り合いとなる。
ユンの顔は笑っているが歪んでいる。
「上達しましたね。シスコ様」
「・・・・・・」
シスコは彼女の問いかけに答えない。
「憎い人」
ユンはそう言うと、力押しでシスコを壁際まで追い詰める。
「さぁ、どうします。シスコ様」
「・・・・・・」
「言ってみなさいよ」
ユンは喜色と怒色をその顔に浮かべている。
ドSの性癖と浅からぬ因縁の為に。
その時、
「きゃあああっ!」
モエの叫び声が響いた。
「・・・モエっ!」
シスコは力を振り絞り、ユンを押し返す。
後ろへとよろめくユン。
「モエ」
シスコは光刃を消し、彼女の去って行った扉を見つめる。
「・・・・・・」
「ユン師、モエが」
彼女の訴えかける瞳に、ユンは光剣を解き、小さく首を振った。
「わかりました。行きましょう」
2人は叫び声をした方へ駆けだした。