第二章、⑥
その時、シスコは動いた。
彼女は出来る限り、格調高くエレガントに振舞う。
ドレスの裾を翻し華麗にターンを決めて、右腕を伸ばし人差し指を突きだす。
「ちょっと待ってください!」
「あなたは・・・?」
警部が訝し気にシスコを見ていると、そっと部下が耳打ちをした。
「そうでしたか・・・あなたが日本の財閥のシスコ嬢でしたか」
警部は瞬間、苦虫を潰した様な渋い顔を見せ愛想笑いを浮かべた。
その態度から彼女に対し快くは思っていない。
「しかし、捜査に口を出すのはレディとして如何なものかと・・・まあ、あなたの給仕を庇う気持ちは分らぬではありませんが」
警部はシスコを宥めるような口調で諭した。
「そうですわね」
シスコは静かに頷いた。
「では」
話を先に進めようとする警部。
「でも」
それを遮るシスコ。
「警部、推定無罪という言葉を知っていますか」
「・・・もちろん」
「はっきりと分からないことを仮に決めても、それは真実ではありませんわ。確たる証拠もないのに犯人を決めつけるのはよくありません」
「・・・証拠なら婦人の供述が」
「婦人の供述がアテにならないのは間違いないでしょ」
「まっ」
婦人はふくれっ面を見せる。
「気分を害したのならすいません。しかし、先程の婦人の言葉からは犯行は見ていなかったことは明白ですから」
「・・・それは」
「なにより、うちのモエはそんな殺人を犯すような娘じゃありません」
警部はシスコの言葉を遮る。
「それこそ、身内贔屓というもの」
「いいえ。きっと現場に真犯人の証拠があるはず、警部!現場百回といいます。きちんと殺害現場を精査したのですか」
警部は返す言葉に詰まる。
「絶対に真犯人はいます!」
シスコは断言した。
「さぁ、行きましょう。現場へ」
シスコはくるっと反転する。
煌びやかなドレスのスカートがひるがえる。
「日本民族の誇りにかけ、私シスコはこの謎を解いてみせます」
天に向かって指さし彼女は堂々宣言する。
警部はシスコの自信満々な姿に圧倒され、不承不承に従った。
「ありがとうございます。媛っ!」
モエは目を輝かせる。
シスコは、
「ふー」
と、大きな溜息をつくと、
「あー良かった。最近流行りのシャーロックホームズ読んどいて」
「・・・・・・」
固まるモエであった。




