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第二章、➃
その五分ほど前。
モエは会場の隅でこっそりとシスコの晴れ姿を誇らしげに見ていた。
その姿はまるで保護者のようであった。
じっとシスコを眺めている内に、モエは彼女に髪飾りをつけるのを忘れていたことに気がつく。
慌てて控室に戻るモエ。
控室の入り口付近で見知った男とすれ違った。
「ヤンさん?」
男はちらりとモエを一瞥したあと、足早にその場を立ち去って行った。
(何故、彼がここに・・・)
モエはそう思ったが、今の優先事項は髪飾りなので急いで控室の中へ入った。
そこでモエは見てしまった。
「きやっ!」
女性が血まみれで仰向けに倒れていたのだった。
すでに息はない。
固まるモエ。
ぎこちなくキョロキョロと辺りを見回す。
それから助けを求めようと、深呼吸をし部屋を離れようとする。
バタン。
無造作に扉が開かれた。
恰幅の言い女性は顔が青ざめ唇を震わしながら、血まみれの女性を指さしモエを見る。
「きいやあああああっ!人殺しっ!」
「ち、ちが・・・!」
モエは反論しようとするが、
「人殺しっ!」
女性は気聞く耳をもたずに部屋を飛び出して行った。




