第二章、③
男は倒れているトラマツを鼻で笑うと、シスコに右手を差しだした。
その手は虚しく空を切った。
「大丈夫!」
シスコはトラマツの元へ駆け寄る。
「大丈夫だい」
トラマツは精一杯の虚勢を張った。
「ふふ」
その姿に思わずシスコは笑ってしまった。
「何だい」
「ふふ、ごめんなさい」
ふてくされたトラマツの顔を見て、彼女は妙な親近感を覚え、また笑ってしまった。
「マドモアゼル、さぁ私と」
男はしつこく誘いをかける。
シスコは差し出された手を払いのけた。
「なっ!」
怒りをあらわにする男。
彼女は毅然と言い放つ。
「行いの良し悪しも分からない方とは、お付き合いできません」
「お・の・れ」
「では、そういう事で」
「黙って聞いていれば!」
男はシスコに暴力を振るおうとする。
それをかばおうと前にでる、彼女はその心意気を感じながらも、さらに前へ出ると、飛びかかる男の左足の脛を蹴りあげた。
「ぎゃはっ!」
男は悲鳴をあげて倒れる。
「あらっ、私ったらはしたない」
ぺろっと舌をだすシスコ。
その時、耳をつんざくような悲鳴が会場に響く。
「きいいいいややややあああああっ!」
喧騒とした会場が、一瞬で静まり返る。




