第二章シスコ、社交界デビュウ➀
シスコはそわそわしていた。
14歳の誕生日を迎えたこの日、彼女は念願の香港舞踏会に行くことが決まったのだ。
いよいよ香港社交界にデビューかと心躍らせるシスコ。
モエも自分の事にように落ち着かない。
しきりにシスコの髪を何度も櫛で撫でたり、ドレスのわずかのたわみを直すのに懸命だった。
しかし、シスコは不思議だった。
わずか、三週間前にあんな事が起きたのに、何事もなかったかのように日常にいる。
その理由を彼女達は知る由もない、国内で夏王朝の件に関する超法規的措置がとられたからだ。
シスコもこの一件を忘れたかったのもあり、思いのほか順応出来た。
鏡で自分の姿を見つめるシスコ。
「綺麗ですよ。媛」
モエの囁く「媛」の一言が、あの時のことを蘇らせる。
ボーン、ボーン。
柱時計が舞踏会の刻限を告げる。
「媛」
モエの声にシスコは頷いて鏡台から立ち上がり、胸に手をあてる。
玉璽は紐を通しネックレスみたいに、彼女の胸元におさまっている。
モエは彼女を励まし会場へと送り出す。
それはかつてシスコが絵本で読んだ煌びやかな世界だった。
赤の絨毯の間に煌めくシャンデリア、素晴らしき調度品の数々。
様々な煌びやかなドレスに身を包む女性たち。
シスコは一歩を踏みだす。
小さくて可憐な美少女が歩く度、男性の誰もが振り返った。




