序 第一章 中国古代王朝の玉璽➀
序
ここは、この世界とは違う別の世界。
この世界でいう西暦1900年代初頭の頃。
舞台は香港と呼ばれる大都市。
はじまるのは摩訶不思議な物語。
中国は殷の時代より前、夏という幻の国があった。
その権勢を誇った王朝もやがて滅びの時を迎えた。
受け継がれるのはその伝説と物語。
日本人として生まれたその女の子に・・・。
受け継がれた血が流れる。
悠久の伝説と物語が今はじまる。
第一章 中国古代王朝の玉璽
混乱の時代、貿易により一代で財を成した父。
心優しき母。
何不自由なく育った娘。
シスコは今年14歳になる。
身長は130㎝と小柄。
まだまだ顔にはあどけなさが残る少女である。
シスコはぼんやりと天窓を見た。
差し込む光がほのかに温かく柔らかい。
ここへ来ると、ざわついた心も落ち着く。
「ここでしたか」
従者のモエが、息をきらして話しかけた。
モエは20歳。
メイド服をこよなく愛し、常にシスコの隣にいる従者。
彼女の成長を見守るのが、彼女の生き甲斐であり、ついでに巨乳の持ち主である。
「うん」
「さあ、行きましょう」
「ヤダ」
「・・・お嬢様」
モエは小さな溜息をついた。
「だいたい何で、お父様とお母様は出かけてしまったのに私だけ・・・」
「・・・・・・」
「私だけ・・・」
憤りのしかめ面のまま、シスコの視線は天窓すら離れない。
モエはそっと彼女の隣に寄り添う。
シスコは黙ったまま、動こうとはしない。
2人はしばらくそのままでいた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「もう」
モエの粘り腰で、シスコはふてくさり立ち上がる。
「いこ」
と、彼女はモエの気持ちを汲んでくれるのであった。
長い渡り廊下を2人は歩いて行く。
途中、使用人のヤンとすれ違う、無愛想この上ない男は、立ち止まらずに頭を軽く下げすれ違う。
モエは眉間に皴を寄せて、嫌悪感を表すが、シスコは気に留めることはなかった。
これからの憂鬱なことで頭が一杯だった。
「はぁ」
シスコは溜息をつき、大広間の扉を開いた。