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中編 思考具現化能力――神の意思

 まずは適当な家に押しかけて、しばらく泊めてもらうことにした。

 思想具現化能力を俺は『神の意思』と呼ぶことにした。

 神の意思――に不可能はない。

 光が言ったように願えば世界さへ滅ぼすことができる力。

 神の意思を使い、俺はこの世界の情報をとりあえず色々と集めた。


 心の中で『この世界の知識をすべて授けよ』と念じるだけで頭に森羅万象ありとあらゆる知識が流れ込んでくる。膨大な情報量に脳がパンクしそうだった。


 どうやらこの世界は地球で言うところの戦国時代であるらしいことがわかった。五つの大国があり、領土を奪い合っている。そして、今俺がいる街はその五つの大国の一国に入るらしい


 面白いじゃないか。

 当分の目標はこれで決まった。 

 この戦国時代を俺が終わらせてやろうじゃないか。

 今の俺に不可能はないのだからッ!


 そうと決まればまずはこの街の王に会うことにした。

 会うのは造作もなく簡単だ。

 心の中でこの街の王に会いたい、と強く願うだけで向こうからやって来る。


 俺の能力がどれほどの射程を備えているのかは知らないが、かなり広範囲に及ぶらしい。今心の中で戦国時代よ終われ、と強く願えばそうなるだろう。


 世界から争いよなくなれ、と願えばなくなるだろう。だが、それでは面白くない。人間が何よりも嫌いな感情は退屈だ。ときとして退屈は人間を自殺に追い込むほどに――。


 せっかく力を手に入れたのだ。とことん遊んでやろう。

 まずはこの街の王に王の座を譲るよう願いをかけた。

 突然のことに俺が王になるのを反対するものばかりだった。

 

「俺に逆らうなッ。俺の意志は神の意思だッ!」


 反対していた王の側近や護衛たちは片膝をつき、俺の前にひざまずく。

 ここから、世界征服をはじめようじゃないか。

 だが、どう領土を広げていけばいいのか、いまいちピンとこなかった。

 とりあえず、敵国を滅ぼせばいいのだろう。


 敵領土を攻めるように俺は街の者に命じた。

 すぐさま街の者たちは武装し、敵領土への進行を開始した。

 だが返り討ちにされ、動員した兵の半分、二万人を殺された。


「王よ……。あなたの無謀な命令のせいで、二万もの兵が殺されたのですぞ……」


 側近の男が棘のある声で俺に注意した。


「何だ。俺に刃向かうのか?」


「いえ……そのようなつもりは毛頭ありません……。ですが……もう少し兵を大切にしてください……。兵士たちにも命があり、家族がいます……」


「黙れッ。俺に口答えをするなッ! 消え失せろ」


 俺は強く念じた。

 消えろ、と。

 すると俺の目の前にいた男は跡形もなく消え失せた。

 その様子を見ていた、護衛や側近たちは動揺にざわめいた。


「これは見せしめだ。俺に口答えする奴は今消えた男と同じ運命をたどることになるぞッ!」


 その日から俺に口答えをする者はいなくなった。

 なんて素晴らしい生活だろう。

 俺が手に入らないものなど何もないのだ。

 権力も、女も、美味い食い物も、名声も何から何まで俺のもの。

 俺一人の物。


 側近たちは口答えをしなくなったが、今度は街の平民どもが騒ぎはじめた。収穫した作物や、肉のほとんどは城に収められ、女どもは俺のハーレムにいるからだ。


 毎日毎日飽きることもなく、抗議の活動が行われている。

 やれ税を減らせ、やれ女を返せ、まったく暇な奴らだ。

 俺は心の中で強く思う。


『おまえらは俺のために喜んで働く蟻になれ』


 俺の願いはたちまちすべての平民たちに広まり、その日から平民たちの反乱はなくなり、朝から晩まで休みなく笑顔で働く蟻になった。


 だが次から次へと過労で死ぬものが増え、作物や精肉が城に入らなくなってきた。そうか、命令が悪かった。反省せねばならんな。


『平民ども、おまえ達は精神的にも、肉体的にも疲れることもなく、不平も言わぬ蟻になれ』


 平民たちはまるでオーディンの戦士たちのように、死ぬことも、疲れることも、不平をいうこともない人形と化した。それから数年が過ぎ、変哲のない生活に飽きが差しはじめた。


 歴史を見ても権力者たちが最も恐れたのは死と退屈だ。

 コロッセオでも作って、殺し合いでもさせようか?

 そんなことを想っていたときだった。


「王様。人手不足が深刻です……」


 国の政治を担っている家臣の一人が俺に言った。


「どういうことだ?」


「高齢で人が次々死去する中、若いもの達も増えず……」


 家臣は先細る言いにくそうな弱々しい声で言った。


「そうか。わかった。それなら、俺が増やしてやろう」


 平民の人口は増えることはなく、人手不足であろうことはわかっていた。すべての女は後宮に押し込んでいるので、子供が増えることはないのだから。女を解放するのは癪なので、手っ取り早い方法を取ろう。


 敵国の人間を捕虜捕え、奴隷にすればいい。だが兵を結成し敵国に攻めようと、以前のように返り討ちにされることは目に見えている。


 仕方がない。暇つぶしがてら俺が出てやろう。

 俺は一人で久しぶりに城を出た。

 俺の能力さえあれば不可能はないのだ。

 その気になれば、俺が思うだけでこの世界を支配することができる。

 俺が思うだけで、生命も生み出すことができるだろう。

 気が向けば試してみてもいい。


 今は敵国から捕虜を得ることだ。

 だが簡単に支配してしまっても面白くない。

 だから今まで願わなかった。

 俺は心の中で強く願い、敵領土の国の王城に転移した。

 敵国にはまだ俺の意志は及んでいない。


 隙をつかれ殺されてはかなわん。

 この世の森羅万象ありとあらゆるものが、俺を傷つけること、殺すことができないように願った。バルドル(北欧神話の光の神)のようなヘマはしない。これで神であろうと俺を殺すことはできない。


 さあ、神様のお遊びをはじめようか――。

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