81話 良き隣人よ、我が願いの為に
なんとなく話が纏まったので、味山はトゥスクの民をある場所へと連れてきていた。
サキモリ本部が存在する内にあるある建物。
その名前は内閣総理大臣公邸、つまり、総理大臣の家だ。
味山は、呆気にとられる総理と公邸に集まった役人、そしてサキモリ達に、彼女達を紹介した。
「という、訳です、総理」
「――ハァ??」
1日19時間労働で有名な多賀総理が目を丸々と開けたまま高い声を出した。
「トゥスクの民、その特使たくさん、とりあえず一旦交渉中です、ぎり俺らの仲間になるかもな感じですね。で、こちらがその特使の皆さん、これからアイドルになって貰おうと思っています」
「ハァ???」
どんどん多賀総理の声が高くなる。
いや、心労を掛けたくないのはもちろんだが、ここは頑張って貰わんとまずい。
うまくやれば、神秘種と戦うための戦力が手に入るのだ。
彼女達との関係性を創る為には国の協力も必要なのだから。
「多賀総理、こちらはトゥスクの民、その特使。全員銀髪エルフでなおかつ神秘種のクソ共と素手コロ出来るヤバい奴らです」
「ハァ????」
「はい、トゥスクの皆さん、こちらは多賀総理。これからお世話になる方です。ご挨拶をお願いします」
「「「「「「こんにちは、総理」」」」」」」
「あ、あのね、味山君、僕が年寄りだから話が理解できないのかな。えっと、彼女達をこれからどうしようって?」
「アイドルになって貰います。彼女達
「ふぐうううううううう……!!」
「ああ、多賀総理が倒れたぞ!!」
「働き過ぎてる所にこれだから……!」
「やかんに水入れて持ってこい、水!!」
トゥスクの民と特使の受け入れについて、二ホン政府はこれを受理。
トゥスクの民が出現したと同時に、トゥスクの民との同盟条約を結ぶための研究会が発足。
同時に、トゥスクの民の一部個体から、同盟はあくまで味山只人とアレタ・アシュフィールドの個体との契約のみ。
人間自体に価値はないとのたまう個体も複数いた為――急遽、サキモリとトゥスクの民個体による模擬戦を実施。
模擬戦は、数時間継続された。次々にスイッチの入ったサキモリ達が勇んでトゥスクに挑んだからだ。
最終的には、最後まで立っていたサキモリ側の戦力、貴崎凛、鷹井空彦、西表波によって、トゥスク一体の鎮圧に成功。
これにより、トゥスクの人類への態度がわずかに軟化したが……未だにトゥスクの民の人類への偏見はぬぐえない。
彼女達は、神秘種に限りなく近い異邦の民、人類よりも離れた存在なのだ。
TIPS”天” はははーは!! 味山只人ォ、まあた無駄な事やってますねえ……! 南蛮のクソ神秘種と目くそ鼻くその存在ですよォ、そいつらはァ!!
頭の中で天邪鬼の声が響く。
イズを侵略し、自らの異界を作り上げた人類の敵、その1体。
だが、あながちこいつの言っている事は間違いではない。
TIPS”天”お前とそこの特異点女の存在のおかげでたまたま抑止出来ているだけ。そいつらが人類に害をなす存在という事実は変わらない、さっさと始末した方が絶対にィ――みぎゃっ!!??
味山は自分の耳をばちんと叩いて天邪鬼を黙らせる。
だが、天邪鬼の言う事も一理ある。
確かに、トゥスクは危険だ。
そして、理解できる、今の自分なら恐らく本気を出せば――トゥスクは滅する事が出来るのだ。
だが――あの耳のヒントの暴走によってたどり着いた映画館。
自分ではない味山只人が辿った未来では、トゥスクと人類は争い、結果的にはトゥスクを滅ぼしていた。
味山はあれを見た結果、素直に抱いた感想は――間違い、だ。
どう説明していいか分からないが、あの光景、あの戦いはひどく歪で見るに堪えなかった。
なので、これはきっといいチャンスなのだ。
あの映画館で見た未来とは別の選択肢が今、与えられた。
トゥスクが人類を嘗めているのなら、その認識を改めればいい。
奴らは言っていた、人類に価値はない、と。
そんな事はない、奴らは知らないだけだ。人類という生き物の持つ可能性、その価値を。
大概世間嫌いで、あまりにも永い社畜生活で他人の事が常にうっすら嫌いである味山でも、人類が無価値とは思わない。
何度も間違えるし、何度も愚かな真似をする、残酷な事や目を覆いたくなる蛮行に酔う事もある。
でも、無価値ではない。
味山はどこかぼんやり、うっすら、ある意味無責任ながらも人類を信じている。
それは、クソみたいな世界の中でもたまにいい人間がいる事を知っているからだ。
それは例えば、捨て犬を見かけたらそれに憤り、つい家に持って帰るような人間、それは例えば、保護犬の世話を無償で行ってしまうような人間、それは例えば年末年始で誰しもが嫌がる当番仕事を嫌々文句を言いながらもやり切る人間、それは例えば――クソみたいな人生でも、真面目に朴訥に日々を生きる人間。
そんな人間が1人でもいるのなら、まだこの世界は滅ぶべきじゃない。
ましてや、あの神秘種とかいう訳分からん存在に餌扱いされるなど以ての他だ。
だから、トゥスクにもそれを理解させる事が出来れば――共存の道があるのかもしれない。
どちらか片方の文化や種によって無理やり同化させるのではなく、互いが互いに尊重する価値があるのだと認識させる事が出来れば――。
赤い空、映画館、仲間の死。
もう見たくもない未来はしかし、ゆっくり、ゆっくりと歩んでくる。
たくさん人が死ぬ、死んだ方がいいカスから、さっき言ったようないい人間、区別なく皆死ぬのだ。
自分の仲間も、例外ではない。
もしもこれが物語で、自分がその主人公ならば味山は全てを救えるだろう。
でも、そうじゃない。一度アレがまた起きてしまえば凡人にできるのはせいぜい自分の身を守る事程度だ。
戦力が、いる。
人類がこのまま滅ぶのは、気分が悪い。
良い人間が踏みにじられるのをまた見るのは、嫌だ。
そのために味山は、今、トゥスクの民との交渉をやり切るつもりでいる。
「よお、どうだったよ、サキモリは」
味山は、トゥスクの民達に話しかける。
無表情の同じ顔、同じデザインの彼女達は首を傾げるまま。
まだ相互理解への道のりは遠い。
「悪いが、アンタらには絶対に人類の味方になって貰う」
価値がない、トゥスクが人類をそう評価しているのなら、それを改めさせる。
ヒトの価値は――戦力だけではない事を彼女達に理解させればいい。
味山の自認IQ3000はそう判断した。
「まあ、その前に飯でも行くか」
「「「「「「「??????」」」」」」」
味山の言葉に、トゥスク達は一斉に首を傾げる。
飯、彼女達には本来必要のない概念だ。
「サキモリのメンツはダウンしてるから……アシュフィールド、クラーク、グレン。付き合ってくれ」
「……タダヒト、貴方何をする気?」
「OMOTENASIだ」
「ごめんね、タダヒト、すぐに貴方の事、理解してあげられなくて」
アレタが、何か慈愛を感じさせる顔で味山を見つめる。
「おい、優しい眼で見るのやめて貰えるか? そういうんじゃねえよ。あーでも、そういや、お前もバベル島ではあんま食ってなかったよな。酒場で食っただしまき卵くらいか?」
「あの、タダヒト、本当に何をするつもり?」
「二ホン食だよ。人間に価値がないって言うんならよお」
きょとんとしている銀髪エルフ、トゥスクの民達を味山がにやりと見つめて――。
「証明してやろうじゃねえか。人間様の価値は何も戦力だけじゃないって事をよー」
◇◇◇◇
御覧頂きありがとうございました。
味山、お前はいつも通りで安心するよ。書籍の方ではやらかしているアレタがこっちではすっかり頼もしい相棒になっていて鼻が高いよ……。
今年1年、凡人探索者シリーズをご覧頂きありがとうございました。
書籍もコミカライズも引き続き続いていくので、またお楽しみに。両方お待たせして申し訳ない。
お知らせ!!
小説投降サイト、カクヨムで最新連載作を本日から更新しました!
『自己犠牲エンドから生還した、大人気ヒロイン達が動けない俺をお世話してくれるけど負担になりたくないのでダンジョンマスターで食っていく』
凡人探索者や他作品で培ったものを昇華し、より分かりやすく、より面白さが伝わりやすくを意識して書いた作品です。
読者様も、そして何より自分も書いてて楽しいものになる題材を選びました。
ちょっと賢い味山みたいな転生者が、現代と異世界の両方で自己犠牲エンドかました結果――戦後の物語になります。
耳男なしでね、自己犠牲はしない方がいいよ。
ぜひこちらも御覧下さいませ!
https://kakuyomu.jp/works/822139841822692744
21時からは、ダンワル更新します!!
大みそかの隙間時間にぜひ!




