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29話 遭遇戦

 


 ………

 ……

 …



「チャーリー、クリア」



「デルタ、クリア」



 大草原をガスマスクと黒い戦闘服の集団が進む。小銃を構えながら、周囲をクリアリングするその姿は、洗練されていた。



「……なあ、グレン。俺すごくやりにくいんだけども」



「我慢するっす、普段なら俺らが斥候してんのを彼らが代わりにやってくれてるんすから」



「アレタ、目的地まであともう少しだ。調子はどうかな?」



「問題ないわ、ソフィ。襲撃もないし、今のところは順調ね」



 混合部隊に囲まれて、アレフチームは動く。1人を除いてストレスはあまり感じていなかった。



「タダヒト、緊張してるの?」



「そりゃするわ。緊張と気疲れだよ。人見知りなもんでな」



「ふふ、大丈夫よ。彼らは優秀な兵士なんだから。怪物種が近くなれば教えてくれるわ」



 低い木がぽつぽつと生え、後はただ雄大な草原が広がり続けるその地帯を彼らは進む。


 遮蔽物はなく見通しは確かに良い。




「ああ、そりゃ心強いな……」



 味山はそこでふと違和感を覚えた。アレタの様子にだ。



 歩き方か、雰囲気か、それがなんとなくいつも見ているアレタ・アシュフィールドとは違って見えた。でもやはりそれがなんなのかがわからない。



「なあ、グレン。なんか、今日アシュフィールドの様子が違うくねえか?」


「へ? アレタさんが? ……いつもどおりオーラバリバリの美人っすけど?」



「……ああ。そう、だよなあ。まあ、俺の気のせいか」



「つーかそれよりもタダ。混合部隊のみなさんの雰囲気がさっきよりも剣呑になってる気がするんすけど。さっき隊長さんとなに話したんすか?」



「そのガスマスクかっこいいね、どこで買ったのって聞いただけだ」



「おい、タダ。人の目みて話せよ。お前絶対挑発したろ」



「グレン、俺のような平和主義者がそんなーー……」



 軽口を叩こうとした味山が急に黙った。



 じわり。



 感じるのは、腰に灯る奇妙な暖かさ。



 ベルトに収めた知らせ石に手を当てる、熱い。火傷するほどではないがよく揉んだカイロ程度には熱を持っている。




「どうしたんすか、タダ?」



「……グレン、悪い。えーと、混合部隊の方! 少しいいですか!」



 味山はあれほど関わるのを控えていたガスマスクの部隊へと声を掛ける。



「………」



「いや、無視かよ。周りに本当に何もいないです? さっきクリアって言ってたけどもう一回調べてもらえません?」



 味山が近くのガスマスクに声を掛ける。しかし、隊員はこちらを見向きもしない。



 まじか、こいつら。



 頭にピキリと苛立ちが走る。徐々に回って来ていた酔いが怒りのハードルを少し下げていた。



「ねえ、あなたたち。タダヒトの言う通りにしてみてくれないかしら」



「「「ウィルコ、アシュフィールド特別少佐」」」



 ぽつりと漏らすようなアレタの声に、ガスマスクの部隊が一斉に反応し、散開する。



 統率のとれた動きで周囲を一斉にクリアリングした。



「これでいいかしら、タダヒト」



「どうも、アシュフィールド」



 どことなく褒めて欲しそうにこちらに流し目を向けるアレタに味山は小さく礼を返す。




「……アシュフィールド特別少佐、目視、スコープチェックにおいて付近に怪物種の接近はありません」



 ガスマスクの大男、チャールズがアレタへと報告を届ける。



 アレタは肩を竦めて味山を見ていた。




 心配しすぎだったのか? それとも知らせ石の危険判断も精度があまり高くはないのだろうか。



「ああ、悪かった。少し気を張り詰め過ぎてたかも知れない」



 アレタに向かって味山が頭を下げる。別にいいわとばかりにアレタが手を振った。



「素人め……」



「52番目の星がいなければ……」



 隠すつもりのない陰口をガスマスク達が囁く。


 まあ、そう言われても仕方ないか。


 味山は未だに腰のベルトホルスターの中で熱を帯びる知らせ石を撫でた。
















 TIPS€ 3階層に潜む人知竜は、怪物種に対して実験を続けている



 TIPS€人知竜は一部の怪物達に透明の力を与えた



 TIPS€お前たちは既に狩場へと足を踏み入れている




 ささやき。味山だけに聞こえるダンジョン攻略のヒント。


「や、ば」




 ダンジョンのヒントが味山の耳へと伝わる。瞬間、



「ぎゃっ?!」



 突如、隊列が乱れる。ガスマスクの1人が急に地面に倒れもがいている。



「な、なんだ?! おい、どうした!!」




 まるで見えない何かに押さえつけられているような。


 狼狽するガスマスクの部隊、その輪に割って入る者がいた。




「どけ!」



「日本人!! おい、勝手な真似をするな!」




 味山だ。地面に倒れもがいているガスマスクに向かい、なんの躊躇いもなく手斧を振りかぶっていた。




「ばっ、何を?!」



「イかれたか?! ど素人め!」



 向けられる無数の銃口、しかし味山の目にそれは映らなかった。





「アシュフィールド!」



 味山は自分を狙う銃口に目もくれず、仲間の名を叫んだ。それだけで伝わる。


「っ! 撃つな!!!」



 アレタの声、響く。ガスマスクたちは銃口を一斉に下げる。



 けっ、よくしつけられてやんの。




「ナイス!! そして、1匹目え!!」



「ひっ?!」



 両手に持ち替えた手斧を、そのまま振り下ろす。躊躇いのない行動に、ガスマスクの部隊が悲鳴を上げた。




 どちゃ。



 手斧が、振り下ろされる。手斧が、肉に食い込む。



「な、…… どういうことだ?」



 もがくガスマスクに手斧の刃が食い込むことはなかった。


 その手前、何も無い空間に斧は食い込み、そして。



「けけげ、ゲア………」



「はっはー、一つ目ソウゲンオオザル、目ん玉が確か5万円の買取額だったなあ、おい」



 空間に色が灯る、何もない空間から化け物のゴワゴワした毛皮が浮かび上がった。



「怪我はないですか? ガスマスクの兵隊さん」


「ひ、……あ、ああ…… ありがとう」




 味山が頭に斧を生やした化け物の死骸を蹴り転がす。どうやら、急襲されたガスマスクに負傷はないらしい。



「頑丈な戦闘服でよかったな、おい」



 ぐぐっと、力を込めて化け物の頭から手斧を引き抜く。甘い、青い血の匂いが鼻にまとわりつく。



「タダヒト!! 大丈夫?」



「おーう、アシュフィールド、見ての通りだ。それとよ」



 味山の脳がゆだる、戦闘の興奮、殺傷の昏い歓びが酔いの呼び水となる。





 TIPS€ 奴らはお前達と同じ人間を探している。一族を脅かした槌と、轟音と、見えない牙を操る人間を




「もう、囲まれてるぜ、これ。」




「ホホホホホホホホホ!!」



「けげげげげげけ!!」



「ギャギギかけかけか!!」



 泡立つ肌、触れそうな殺気。



 先ほどまで静かだった大草原が一気に湧く。



「ば、ばかな?! 囲まれている?!! 怪物種だ!」



「そ、そんな、クリアリングしても何もいなかったのに」



 訓練を受け、実戦を経験している兵士と言えども予想外の怪物の接近に浮き足立つ。



 ぶわり、ぶわ。


 我をみよ、我を見よ、といわんばかりに一斉に怪物達がその姿を表す。


 透明な帳を脱ぎ捨て、その醜悪な姿を見せつけるように。




「う、ち、近い…… 透明になる怪物種なんて、聞いたことないぞ」


 驚き、恐怖、興奮、それらは人の歩みを止める。



 怪物はそれをよく知っていた。事実、銃火器を揃えた混合部隊の誰もが、銃口すら引き起こせない。


 額にあしらえた大きな一つ目が血走り、武装した人間を囲んだ。



 怪物種の、狩りが始まーー









「け……げ?」



 固まる武装集団、その隙間から一番貧相な装備の味山がなんの躊躇いもなしに投げた。



「お、やりぃ。当たった、2匹目!」



 手斧、唯一の自分の武器を味山はなんの躊躇いもなくふりかぶり、一番近くで威嚇していた怪物に向けた投げつけた。




「げ、げ……」



 ビンっ! くるくると回転した斧が怪物の頭に突き立つ。


 呆気なく怪物が、その単眼をひっくり返し白目を剥いて倒れた。




「………」



「…………」



 怪物とガスマスクの混合部隊の誰もが沈黙した。



 そのあまりにも呆気なく、考えもなしに行われた行動に。



「え? 何この空気、さっさと駆除しようぜ、駆除! あ、極力目ん玉は傷つけんなよ! 高く売れるから!」



 拳を突き上げて怪物の集団を指し示す味山、沈黙を、星の笑い声が終わらした。




「……アハッ! あはははははは!! ホント、タダヒトってバカね! 斧投げてどーすんのよ、アナタの獲物でしょ!」



「あ、やべ。なんかニヤニヤしてるサルがムカついてよ。てかまさか当たるとは思わなかったわ。アシュフィールドみてえに投擲練習するべきか、こりゃ」



「ふふ、タダヒトには向いてないと思うわ、手足短いもの」



「うわ、ナチュラルにひでえ。これだから自分が手足長いスタイルいい奴は嫌いだ」



「ふふ、アタシは手足短いのでも嫌いじゃないけどね。さて、と」




 コホン、小さくアシュフィールドが咳払いをする。


 その背後ではソフィが目を押さえて肩を震わせ、グレンは大きくため息をついていた。





「さあ、みんな。タダヒトのおバカさんに先を越されてしまったわ。頑張って取り返しましょう。……総員、戦闘開始」




「「「YES! mam!!」」」




 がちゃり。



 呆然としていたガスマスク達が一斉に統率を取り戻した。



 あーあ、化け物ども。お前たちは選択を間違えた。



 さっさと突撃してくりゃよかったものを。



 味山は円形の隊列を組むガスマスクの部隊に囲まれながら怪物達の先を哀れんだ。




「捜索任務のはずだったよなあ……」



大草原に渡る温い風に、味山の呟きは流されていった。



読んで頂きありがとうございます!


宜しければ是非ブクマして続きをご覧ください!

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透明化はシンプル強いからな 改造出来るならそうするか チープ化してもその対策が必要なのは変わらないおまけ付き 今後は目視外の探査機が必須になりかねんな
[気になる点] また透明化? ワンパターンが過ぎんか? 伏線になるのかも知れんけどそれ含めてじゃあ耳は何でその部分を教えないんだ?ってなるわ 御都合満載やん
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