78話 ラブコメ接待
大変お待たせいたしました!
味山只人は考える。
つまる所、人間関係というものは何かの目的を達成するために行うものだ。
特に、他人との交流そのものがあまり好きではない味山のような人間にとっては。
世の中には、他人との交流で疲れが取れるという特異な人間もいるらしいが、味山はそうではない。
エネルギーを使い、気を遣い、やらねばならないから行う事だ。
そして、今から行う事はまさにその極地。
この交流――コミュをやり切らねば、己の生死に関わるのだ。
「た、タダヒト、急にど、どうしたの? あ、あ、えっと、手とか、握って――あ、は……え?」
「あ、味山さん? えっと、その……あ、あう……」
目の前にいる人の話を聞かない美人2人。
顔が赤い、耳たぶも真っ赤で眼も潤んでいる。
ダンジョン酔いの傾向だ。
すげえ美人2人と深夜、同じ部屋。
酔いによって理性が緩めの若い女性2人、酔っても戦闘面以外はあんま変わらない枯れかけの男性1人。
何も起きないハズはない。
だが、何かを起こしてはいけないし、何もなければないで面倒な事になる。
アレタ・アシュフィールドと貴崎凛、種類は違えど2人共顔がバチクソによく、体も女性的な魅力に溢れている。
アレタのドルフィンパンツから覗く長くて白い脚、貴崎の緩めのワイシャツ胸元から覗く白い胸元。
目に毒だ。そして先ほどから異様に部屋が甘い匂いで満たされている。
どうして同じ人間なのに、女性は良い香りがするのか意味が分からない。
そんな状況で、これから味山がしなければならない事はシンプル。
2人に決して手を出さない、出させない。恋愛的にも性的にも。
しかし、何もなさすぎる訳ではダメだ、何故なら2人がしょんぼりして――まわりまわって2人が死ぬらしい。
それでいいんだよな、クソヒント。
TIPS€ 死ぬよ。手を出しても恋愛ボケで弱体化して2人が死ぬよ
TIPS€ 死ぬよ、手を出さな過ぎても2人が病んで死ぬよ
説明ありがとう、死ね。
TIPS€ 死ぬのはお前でワロタ
耳に響くいつものクソヒントがご丁寧に自分のクソみたいな状況を説明してくれる。
今、この場で味山が行わなければいけない他者との交流。
それは、決してこの2人に場の空気を握らせない事。
ラブコメを掠らせる――、つまり、ラブコメ接待!!
いい年齢の男が本気で、手を出さず、しかし袖にもせずに超絶美人を良い感じでいい気分にしなければならない。
なんなんだよ、いっつもこんなんだよ。なんで味方陣営のケアで死にかけねえといけないんだよ。
突っ込みと文句はバカほどあれど、やるしかない。
ヒントがなければ、この詰みルートの察知すら出来ないのだ、ありがたいと思うべきなのだろう。ふざけやがって。
そして、味山の出した答えはこれだ。
「た、タダヒト! あ、あたし、手、その、汗、掻いて、き、汚いから、離して」
「何故だい? アシュフィールドの手は綺麗だよ」
「え」
ホスト。
言葉と態度で金を稼ぐ対異性のプロ。
あれをロールするしかない。
彼らは女性に疑似恋愛体験を与える事で、金を稼ぐ。
味山はこの2人に疑似ラブコメ体験を与える事で命を稼ぐ。
そこに違いなどないだろがい!! という感じだ。
「投槍がメインウェポンなのに、手指がずっと綺麗なままだ。爪だっていつも光ってる。見とれるほどにお前の手は美しい」
おえっ。
自分で言いながら味山は吐きそうになる。
なんだ、このセリフ、素面で言える奴がいるなら本当に尊敬する。
我ながら陳腐すぎるか。
しかも相手はアレタ・アシュフィールド。
世界改変未遂という特大やらかし以降、若干アレフチームでの扱いが気安くなっているとは言え、世界の上を知る人間だ。
そうやすやすとラブコメ接待なんかで誤魔化される女では
「あ……。あり、がと……ござい、マㇲ」
――まさか、チョロいのかい?
ぷしゅ~と頭から湯気が出そう、というか実際に出しながら顔を赤くして俯くアレタ。
味山は自分の上司の異性耐性が心配になってきた。
「……どこまでラブコメしたらダメか。調べるんじゃなかったか? アシュフィールド」
「待って……なんで、そんな急にそんな感じで来るの……」
お前らにペースを握らせたら、ロクな目に遭わないから。
そんな事実を口にするとラブコメ接待が終わるので味山はこの後も、歯の浮くようなセリフを続ける。
「アシュフィールド、さっきから視線を逸らしてばかりだな」
「い、いや、その……」
「やはり、嫌か? こんな感じで近づくの」
「違っ、え、だって、タダヒト、いつもこんな感じじゃ……え、えええ……」
アレタが顔を抑えて喚く。
「俺の幸運は、お前が俺を選んでくれた事に尽きる。もっと早く言うべきだった、俺を補佐にしてくれてありがとう、アシュフィールド」
「え、あ、あたしの方が! その、ありがとう、ずっと、いっつも、迷惑かけてるし」
いや、ほんとにね。
そこまで出かかった文句を喉の筋肉を総動員して飲み込む、耳の大力をこんな使い方をしたのは始めてだ。
「力になれて嬉しいよ、アシュフィールド」
「え。あ」
「こんな俺だが、これからも宜しく頼む。本当なら、もっと言いたい事はたくさんあるが、わかるだろ、今の状況が俺達の関係を邪魔してるって事」
「あたし達の関係……それって、え? え? え?」
わはは。もう自分でも何言ってるかわかんね。
まあ、もうやるしかねえ。
「タダヒト、それってどういう――」
「言えない。でも、今はこのままで、一緒にいちゃダメか? ラブコメとかそんな、試すような事せずに。あんまりアシュフィールドから迫られると――俺も困るんだ」
「こ、困る……え。それってドキドキしちゃう、ってコト!?」
いや、ガチで困るんだよ。
何言ってんだ、こいつ。まあある意味ドキドキはするか。
「そういう事だ」
「そ、そういう事、なんだ……ふ、ふーん、ど、ドキドキしちゃうんだ……フーン、た、タダヒトって、かかかかかかかかかかか、可愛い所、ある、のね」
目をぱしぱしと瞬きしながら呟くアレタ。可愛いのはお前だろ。
「可愛いのはお前だろ」
「あ、あぅ……ワ……ワ」
アレタがベッドにうずくまり動かなくなった。
よし、思わず声に出たがよし。
ワンカット、次だ。
我ながらホストプレイ、上手いのでは?
TRPGでスピーチ系のチャレンジ全てに成功した感覚だ。
黒髪綺麗美人に成長した貴崎、ずっとアレタと味山のやりとりをあわあわしながら見守っていたらしい。
「貴崎、手を」
「え、え、え」
「手を」
「は、い……」
貴崎の手を取り、2人かけのソファに滑り込む。
まともな女性経験が少ない味山、ラブになりすぎない女性とのスキンシップが手とか指を褒めるくらいしか思いつかない。
「貴崎、綺麗になったな」
「――え」
「昔は可愛いって感じだったし、今も十分可愛いが――再び会ってびっくりしたよ。
貴崎の黒い眼がはっきり揺れた。
読んで頂きありがとうございます!
11月はマジで忙しく更新遅れて本当に申し訳ございませんでした。
おかげ様で締め切りを複数頂き、忙しくさせていただきました。
来年は結構たくさん本が出る予定です。
凡人探索者6巻も初稿が出来上がりました、ヒロイン全員に出番がありつつ、味山の物語が一気に動く話になったかなと存じます。
WEB版と大きく変わった書籍ですが、凡人探索者ですのではい、ヒロシマの帰省の後、次に何が起きるのはもう皆さまはご存じだとは思います。そういう事になります。書籍はWEBより話の規模を大きくしてるので、アレタのあれも更にやばくなりました、ごめんね。
別シリーズ、凡人呪術師も進行中!
つぎラノで明日まで投票してるのでこちらもぜひお願いします!
https://tsugirano.jp/




