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77話 凡人探索者はキャラ小説です

~更新遅れたので、アイテムテキストおすそ分け~


☆味山の手斧☆

味山只人が好んで扱う探索者用の手斧。

耳の力を手にして以降はよく壊すので、比較的安価で頑丈なものを選んでいる。

民間出身の探索者の使用率が高い。


斬るよりも、割るための道具。

振るうのに才能もセンスもいらない、ただ、振り上げ振り下ろし壊して殺す。

探索の興奮と酔いはその手斧を軽くする。

味山只人は初めて斧を握った日に、数匹の怪物種の眉間を砕いた。

そこにはなんの躊躇いも、呵責もない。


その日の事を、味山はとうに忘れている。


☆アレタの投げ槍☆

合衆国特別採用のアレタ・アシュフィールド専用の武器。


鋼と複合材で織られた軽量の投槍。先端には小型の充填室が組み込まれ、命中と同時に発破作用が任意で起動する。

内部から怪物種の肉体を破壊する、一種のバンカーバスター思想を基に作られた兵器である。


研究者や開発者は当初、これを専用の巨大銃器とセットで運用する筈だった。

巨大な獲物に挑むに、銃器は欠かせない、それこそがアメリカだからだ。

だが、英雄は銃器を必要としなかった。

ただ、その膂力と才覚、そして嵐を以て己の身を射出機として駆り立てた。


だが、英雄が嵐を完全に平らげた時、この武器はあまり使われなくなった。


怪物を、そして神をも道具もなしに葬る者はしばしば帰るべき場所を失ってしまう。

よくある、神話の結末だ。

彼女がこれからどうなるかは、1人の凡人の選択に委ねられている。


 

 〜前回までのあらすじ~

 唐突に覚醒した耳の力でこれまで味山1人が抱えていた厄い情報が厄い女達にも共有された。

 報連相は社会人の基本だ。



「うおおおおおお……」


 ――ソファで唸る味山。

 脳裏には、完全に自分と思わしき人間がやらかしていく姿がまだ残っている。


 なーにやってんだァ!!

 お天道様の下を歩けないような事しやがって!!

 と、自分への文句が頭の中で生まれ続ける。


「……」

「あ」

「あ」


 ふと、同室にいる2人の女と目が合う。

 きまずいなんてもんじゃない。

 これなら部屋にあるAVがバレた方がまだマシだ。

 いや、持っていないけど。


 味山は頭の中でぐるぐると回る思考を一旦抑える。

 恐らく、今のは――耳の力の暴走、もしくは……何らかの成長だ。


 ヒントを聴く能力が、何かの間違いでヒントを知る能力にジャンプしやがったのだろう。

 だとしても段階を踏め、時と場所を考えろ。


 あくまで味山の感覚的な話でしかないのだが――。


 恐らく、今起きた現象はコントロールできるものではない。

 何故か、味山の本能の部分がそのルールを認知していた。


 TIPS€ ピンポーン、耳の映画はお前の意思ではコントロールできない


 黙っとけ、頼むからマジで。

 急に響くヒントに更に頭痛が増していく。


 いや、それより――今は――。



「……」

「……」


 なんだかかっこいいポーズで固まっているアレタと貴崎。


 2人とも、考える人みたいな形でソファに鎮座している。


 味山は意を決して口を開く。


「「「あの、見てた?」」」


「「「え?」」」


 味山、アレタ、貴崎が互いに顔を見合わせる。

 妙にアレタも貴崎も恥ずかしそうといか、苦虫を噛み潰した的な顔をしていた。


 ……これは、まさか……。


「……なあ、お前ら一旦、一旦恥とかなしでせーので言い合わねえか? 何を見たか、とか」


 味山の提案に2人が頷く。


 ではと、味山がこほんと咳払いして。


「せーの」


「俺がアレフチームを殺した話」

「あたしが1人で世界を変えて……神秘種に1人で挑んで犬死に」

「私が、テロリストになった味山さんを、斬って」


「「「……………え?」」」


 …………一旦、落ち着くか。



 ◇◇◇◇


「待って、つまり……あたし達は3人とも途中から……別の映像を見てたって事?」


 互いに話し合った結果、同じ映像を見てたのはあの奇妙なバベル島防衛戰までらしい。


 それから味山達は互いに別々の映像を見てたようだ。


 互いに気まずそうに、情報を交換していく。


 聞いた内容は、絶妙に全部笑えない。


「あ、はは……あたしが、見たのは……多分……その、タダヒト達が止めてくれなかった場合の、あたしの末路、なのかしら……」


「私のは……その、言いにくんですけど、テロリストになった味山さんを、こう……スパリと……」


 全員非常に胸糞悪いバッドエンドを見せられた訳だ。


 何のためにかは分からない。

 だが、これは明らかに耳のヒントが意図して見せたもの。


「というか、今のって何だったのかしら……」


「ここの3人が同時に幻覚を見たとは……思いたくないですが……」


 今、味山の前には選択肢がいくつかある。

 今見たものを忘れ、今日を終える事。

 今見たものについてきちんと話し合う事。


 そして、耳の事、これまでの全てを話す事。


 味山が、英雄や主人公ならば自分1人で抱えたかも知れない。


 でも、この男は本当にただの凡人だ。


 そして、味山は漫画やアニメで主人公が最適解を選ばないことで訪れるトラブルが大嫌いだった。


「すまん、多分俺のせいだ」


 社会人の常識だ、情報の共有は。


「どういう事?」


 首を傾げるアレタと貴崎に味山はゆっくり話す。


「前にも一度、話したことがあると思うけどよ……いや、貴崎には初めてか」


 味山は腑分けされた部位"耳"の事を話す。

 その力、使い方、そして耳自身が言ったヒントの事。


 アレタと貴崎はゆっくりそれを聞いてから。


 少し、沈黙が募る。


「……タダヒトは、ずっとそういうの1人で聞いてきたの?」


「あ?」


「さっき、あたし達が見たもの……ああいうのが貴方には聞こえるって事でしょ? そういうのこれまで全部1人で?」


「……ああ」


「……そっか」


 アレタが天井を見上げる。

 首を傾げながら、静かに目を閉じる。何かを迷っているような所作だ。


「あの、私からも1ついいですか、味山さん」


「はい、どうぞ、貴崎さん」


「……その、神秘の残り滓っていうものの中には、私のご先祖様も?」


「ああ、鬼裂は俺の中に棲んでる」


 最近そういえば、全然声が聞こえてこないけども。


「……それは、なんというか……」


「やっぱ、信じれねえか?」


「いえ、味山さんなら信じます」


 貴崎はまっすぐ味山を見つめる。


 部屋は予想通りの妙な空気になってしまった。


「あの、さ、タダヒト」


「はい」


「あたしが、本当にあたしが言えた義理も資格もないけれど……」


「今度から、共有してくれないかしら。何が起こるのか、とか。どんな事が起きるのか、とか。あたし、信じるから」


「アシュフィールド?」


「お願い、タダヒト」


「あ、ああ、分かった」


「私も、私もです、味山さん!」


「うお」


「私はあの夜、貴方についていけなかった。子供で、弱かったから。でも、もう違う。今度は、味山さんの力になれます」


 まっすぐ味山を見つめるアレタと貴崎。


 熱い友情、いや、人と人の信頼を感じる。


 きちんと話す事が出来て良かった。

 こういうのってだいたいゲームとかでも話さない選択肢選んだらゲームオーバーになったりするし……。


 ならば――この重要事項も説明出来るだろう。


「ありがとう、じゃあ、まずは――」


「「うん!」」


 力強く頷く2人に味山は遠慮なく告げる。


「今後、お前らだけで夜、俺の部屋に来るのはやめてくれ」


「「うん!! ……うん?」」


「あと、なんか、こう、エロイ格好で迫ってくるのもほんと勘弁してください」


 この2人とラブコメ展開になったら死ぬ。

 ヒントはそう告げた。


「「……え?」」


 アレタと貴崎が、目を点にする。

 しかし、目が泳ぎ始めて。


「そう、よね、うん、分かってるわ」


「あはは、そう、ですね、うん、大丈夫、大丈夫です」


「お、おお……?」


 思った以上に、物わかりが良い?


 アレタと貴崎はぎこちなく、微笑んだ。

 いかん、これ、なんか勘違いされてる。


「あの、言っておくが、これもヒントなんだ。お前らとその、ラブコメになったら、死ぬって」


「……ラブコメって、どこからどこまでがラブコメなのかしら」

「審議の必要がありそうですね」


「いや、どうなんだろ……てか、審議いるか? その、普通の距離感だったら済む話だと思うんだけど」


 TIPS€ キスとかして一線超えたらアウト、要は2人が恋愛脳になったら終わるよ

 TIPS€ この2人が味山只人を殺せなくなったら詰むよ

 TIPS€ でも突き放したりしたらそれはそれで詰むよ


「たまごっちか?」


「「え?」」


「あ、すまん、こっちの話。えーと、ヒントによるとだな……その、キスとか一線超えたらアウトらしい」


「……タダヒトのエッチ」

「すけべです、味山さん」


「納得いかねえ……でも、突き放してもアウトらしい」


「ふ、ふーん」

「へ、へえ……そうなんですね」


 じとっ。


 アレタと貴崎の視線、瞳が澱んでいるような、浮かされているような。


「タダヒト」


「はい」


「検証と調査は必要と思わない? 貴方の聞いたヒント……雑に扱うには……危険だわ」


 シャー!!

 迫真! アレタが何故か部屋のカーテンを閉める。



「ニホンのサキモリとしても、アレタの意見に同意、です。その、ラブコメというものが何なのか、突き放すとは、どのような事なのか……」


 ガチャッ!!

 力強い音、貴崎が部屋の鍵を後ろ手に掛ける。かちゃん、チェーンロックも一緒に。


「……」


 味山が無意識に、探索者端末に手を伸ばすーー。


「……ストームルーラー」


 極小のつむじ風が、優しく味山の探索者端末を攫う。

 机の上の置くだけで充電可能な場所にすとんと移動される。


「…………………」

「…………………」

「…………………」


 部屋が、妙に蒸し暑い。

 味山は、外部への連絡手段を即座に失う。


 影の中の、神秘種の用心棒、アサマはーー。


 TIPS€ アサマ達はキッズなのでぐっすり眠っている、仕方ないだろ、赤ちゃんなんだから



「……そりゃ仕方ねえか」


「タダヒト、あたしね、思うの。昔のあたし達はこういう事をなあなあにした結果あんな事になったんじゃないかって」


「あ、はい」


 主にお前がな。


 すんでのところまで出かけた言葉をなんとか飲み込む。事実でも言って良いことと悪い事がこの世にはあるのだ。


「あたし、反省したの。もうあんな事になりたくないから。だから、きちんと調べましょう」


「……ラブコメがどこまで適用されるのか。どこからどこまでがセーフでアウトなのか」


「え、ちょ、おい、話聞いてた? 距離感、距離感意識していこうって言ったよな?」


 にじり。

 アレタが、味山の隣に座る。

 柑橘のような爽やかな香りがふわりと漂う。


「安心してください、味山さん」


「貴崎……!」


 良かった、ここには立派な社会人になった奴がいた。

 やはり、ニホンを代表するサキモリになると昔とは違――。


「乱暴は絶対にしません、これはニホンの自衛の為に必要な作業です、この貴崎凛、公平公正にきちんと、線引きの調査にご協力致します」


 するっ。

 貴崎が自分のワイシャツのネクタイを緩める。

 そして、味山の空いている隣に座る。


 右にアレタ、左に貴崎。


 つまり、挟み撃ちの形になる、なった。


「……い、いやァ!! 嫌ァァ!! 誰かっ、誰か、女の人呼んでえええええ!!」


 分厚い壁は、味山の声を吸収する。


 助けは来ない。

 深夜、男の部屋――なんだかいい匂いのするシャワーとサウナ終わりの男女。

 何も起きない訳はない、だが、何かが起きた瞬間に全部終わる、そんな状況。


 まずい状況だ。

 アレタも貴崎も、怪獣並みに強い化け物女という事を除けば、外見は最高にいい。


 2人とも、正直同じ人間とは思えないほど顔は小さいし、パーツは整ってるし、肌の透明感や近くで見たときの美しさは尋常じゃない。


 ただ、2人共、化け物であるという点だけで、味山はなんとか2人を異性ではなく、仕事仲間として認識できている状態だ。


 そんな2人が――本腰を入れて今、味山の隣に座っている。

 頬を染め、どこか熱っぽい視線で味山を見つめ――。


「……あっ」


 アレタと至近距離で目が、合う。

 遠浅の南国の海そのままを閉じ込めたような綺麗な瞳。

 人種、その血の成り立ち積み重ねの違いだけで、同じ人間とも思えない美を感じる。


 ずっと見ていると吸い込まれそうだ。

 逃げるように反対側に顔をそむける。


「……あ」


 貴崎と、至近距離で目が合う。

 バニラのような甘い香り。

 栗色の瞳に、記憶よりもはっきりと大人びた顔、表情。

 ネクタイを緩めたワイシャツ、真っ白な胸元が目に毒すぎる。

 余裕で、人を狂わせる美と魅力、人ではなく、美しい鬼と言われれば納得してしまいそうだ。


 まずい、左右どこを見ても顔が良すぎる。


 味山は――。


 ………あれ?


 ある事に気付く。


 鍵を掛けたり、カーテンを閉められたり、連絡手段を奪われたり――迫真監禁部をかまされた割に……。


「……」


「あ、あは……な、なに、タダヒト、き、緊張してるの? あは、こ、このくらいの距離、普通じゃない?」


 ……よく見ると、アレタの顔には汗が浮かんでいる。


「……」


「ひゃっ! え、ええっと。ふ、ふふ……ちょ、ちょっと暑いなー……あ、あれ、味山さん、か、顔が赤くいですよ。も、もしかして、恥ずかしいんですかあ?」


 貴崎も、耳と胸元が真っ赤だ。


「…………」


 ぴとっ。

 味山は両手をそれぞれ、ソファの上に置かれているアレタと貴崎の手にぴとっと当てて――。


「きゃっ!!」

「ひゃう!!」


 びくんと、2人が跳ねた。


「……」


 左右のアレタと貴崎を首を振って確認。


 アレタは俯いて何も言わない、顔が赤い。

 貴崎は口元を抑えて何も言わない。顔が赤い。


 ……まさか、これは――こいつら、俺の想像以上に――。


 TIPS€ 恋愛クソ雑魚


 話が変わってきたな。

 味山は考える。

 これ……まさか……。


「……アシュフィールド」


「え、な、な、なに? と、というか、タダヒト、顔、赤いんじゃないの? もしかして、さっき手が当たったの、気にして――へ?」


 ぎゅっと、味山はアレタの手を握る。

 主導権、握れるのでは????


「……綺麗な手だな、アシュフィールド。でも、思ったより、小さい」


 頭の中にある、ホスト漫画や、ホスト動画の記憶を総動員。

 我ながら、死にたくなるほどのキツイムーブだが、果たして――


「え、あ、え、え、え、ああ、ええ、え?????????」


 顔を、真っ赤にして停止するアレタ。


 その効果、大なり。


 あ、いけるわ、これ。


 味山の、逆襲が始まった。



読んで頂きありがとうございます。


別シリーズ【凡人呪術師のたのしい異世界悪役プレイ】も御覧頂きありがとうございます。

つぎに来るライトノベル大賞2025のエントリーが始まっております。

こちらも投票頂ければ幸いです。

https://tsugirano.jp/


更新遅くなり申し訳ございません。

現在、凡人探索者を含む商業原稿の締切がかなり溜まっており、中々WEBに帰還できない状態になってしまいました。

ただ、WEBシリーズが原点というスタンスを変えるつもりはないので、こちらも不定期ではありますが、週一更新を目指していきます。楽しんで貰えれば幸いです。

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ヒント先生仕事してんねぇ
ちょっと平行世界で共闘した同業者と同じムーブしてて草
もう長いこと中の人三人衆見てないしなんかヒントは雰囲気違うしで不穏な空気ムンムンなのに何をやっとんじゃこやつらは(白目
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