表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ 【書籍6巻刊行予定、作業中、完全書下ろし】  作者: しば犬部隊
味山只人のはるやすみ:モテ期

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

299/306

72話 異分域:バベル島防衛戦 その1

 

 ◇◇◇◇


「トオヤマ、ナルヒト?」


 ピクッ。

 銀髪の魔女が目を見開き、動きを止めた。

 なんだ、あいつ、急に頭を抑えて。


「トオヤマナルヒトトオヤマナルヒトトオヤマナルヒトトオヤマナルヒトトオヤマナルヒトトオヤマナルヒトトオヤマナルヒトトオヤマナルヒトトオヤマナルヒト……す、ふ、ぷ。すふ、ぷぷ。あ、ああ、わたしは、ボクは何かを、忘れて……」



「遠山くん、呼ばれてるけど?」


「怖い怖い怖いって。知らねーってマジで」



 隣のチベスナ野郎に視線を向ける。

 本人の顔を見るに、本気で心当たりがないって感じだな。


「ほんとか? お前の事だからまた知らない内に口説いてたんじゃねーの?」


「バカか、味山。魔女っ子の銀髪だぞ? もし絡みあったら忘れる訳ねーだろ、常識的に考えて」


「一理ありすぎるな」


 さて、くだらない話はこの辺で終わりだ。


 ……クソ腕、やれるか?



 TIPS* いつでもやれる。チッ、脳め。訳の分からない依代に取り込まれおって



 俺の中に棲むクソ腕。

 この木の根を操る力の源流。

 8月、耳の怪物との戦いの後、手に入れた報酬。


 TIPS* もう二度と深淵に戻るのはごめんだ。味山只人、捻り潰せ



「てめえに言われなくても、だ」


 ググググググ。

 木の根が、更に尖る。クソ腕もやる気満々だ。



「アジヤマ?」


「え?」


 お、もしかして俺にも銀髪不思議ボクっ子とのFateがーー。


「アジヤマタダヒトアジヤマタダヒトアジヤマタダヒトアジヤマタダヒトアジヤマタダヒトアジヤマタダヒトアジヤマタダヒト……オウエエエエエ!!」


「おい、てめえ! どういう事だァ!! なんかチベスナと反応違うぞ、コラァ!!」


 吐かれた。

 失礼にもほどがあるだろ。



「……味山、お前、またどこかで女殴ってたのか?」


「な訳ねえだろ! また、とか言うなや!! 俺が殴った事あるのはアシュフィールドと貴崎くらいですう!!」


「レベル高いな、オイ」


 遠山も軽口を叩きながら、周囲に霧を展開していく。


 上級探索者:遠山鳴人の未登録の遺物。


 ”キリヤイバ”

 霧に仕込まれた無限の刃によって相手を切り刻むマップ兵器。


 敵に回したくない探索者の上位10名には間違いなく入る能力だ。




「はあ、はあ、誰の記憶、だ? ボクは、君達のことなんて知らない……どの、ボクの記憶だ……ボク、ボクはどうしてここに? ああ、何か、何かを助ける為に? あれ? あははは、すふふふ、すぷぷぷぷ、ああ、混じっていく……足元がプわプわして……」




 魔女が頭を押さえて苦しみだしている。

 なんか、髪の色がどんどん変わっている?

 銀、黒、ピンク……点滅するように



「未来と過去……ああ、そうか……ボクは……アガトラで……ああ、ははは、素晴らしい。なんて体験……死を覆すために。取り返す、為に。ひっくり返す為に……あああ、いいだろう。ボクはボクの罪を完遂しなければ……」


 明滅する髪の色がまた銀色に戻る。


 真っ暗な目が俺達を見据えている。


 ああ、こりゃ一筋縄ではいかねえな。



「ボクはボクの、私は私の目的を達成するだけだよ、すぷ、すふ」



 ばち、ばちちちちちち。

 渦巻いている。

 炎が、氷が、雷が、風が。


 最近はまってる死にゲーのボスキャラみたいだ。

 まさか、探索者やってる間にリアル魔術師と戦う事になるとはなァ……。



「味山、あいつもはやさあ……世界観が違うくね?」


「喜べよ、遠山。お前の好きな異世界ファンタジーだ。これ負けたら異世界転生出来るんじゃね?」


「現代ダンジョンの次は異世界ってか? ヒヒヒヒヒヒ、そりゃ悪くねえ展開だ。でも、アレだろ、味山。俺、前から思ってたんだけど、負けイベってムカつかねえか?」


「やべえ、遠山。それ少し分かるわ」



 ず、ずず。木の根を静かに地面に伸ばす。

 俺の切り札。

 あの夏、8月のクソ耳と腕との戦いの報酬。


 樹心限界、能力はシンプル。

 尖った木の根を操る、ただ、それだけの能力。


 アシュフィールドや、他の探索者が少年漫画能力バトルをやっている横で、俺だけ盆栽いじりの延長戦上の手札しかねえ。


 だが、それでも。



「探索者、探索者、探索者、探索者。ボクの為に、ボクの世界の為にキミ達を殺す」


 目の前に敵がいる。

 俺と俺の世界を害そうとする敵が。


 多くの人間を、多くの生活を、多くの日常を壊すそんな怪物が目の前に。

 じゃあ、もうやる事なんて決まってるだろ。



「負けイベントをひっくり返すのが、ゲーマーってもんだろ」


「そりゃ、そう、だ!!」




 ぶわっ!!

 一気に銀髪の魔女が真っ白な霧に包まれる。


「っ!? トオヤマ君か!」



 トオヤマの霧だ。


 透明な状態で、会話の隙を狙って銀髪の魔女の周囲に霧を撒いてやがったな、このチベスナ。



「お前は既に、キリヤイバの範囲にいる」


「すぷっ」



 ザグッ!! ざ、ざ、ざ、ざ、ざ、ざ、ざ、ざ、ざざざざざ。


 瞬く間に、白いキリが赤く染まっていく。

 霧の中は、極小の刃の海だ。

 厄介なのは、その霧を吸い込めば身体の中から刻まれる事。


 どれだけ外皮の固い怪物でも、身体の中から刻まれるのは辛すぎる。



「すぷ、すぷ、すふふ、ああ!! 素晴らしいよ!! トオヤマ君!! どの場所でも、どんな君も、容赦なく、美しい!!」



 ぶわっ!!

 霧が晴れる、いや、晴らされた。

 銀髪の魔女の周囲に風が渦巻いている。

 あれで、霧が吹き飛ばされたらしい。


「うわ、風!? 相性悪っ!!」


「すふふふ、すぷぷぷ。思い出した、思い出してきた、これはキリヤイバ――」


「なのでえ、味山君、物理攻撃宜しく」


「了解、遠山君。よお、刻まれてんのに随分余裕だな、ドマゾ」


「!?」



 ズッ!!


 銀髪の魔女の背後、空中に浮かびそいつを一気に木の根がからめとる。

 キリヤイバでのダメージはしっかり入っている。


「あ、がっ!? 腕の、権能、か!! アジヤマ、タダヒトッ!!」


「なんだァ? 俺の名前も知ってんのかァ? まあ、そんなのどうでもいいからとりあえず」


 木の根が一気に銀髪の魔女の首、足の付け根、腕の付け根に絡みつく。

 俺は掲げた手のひらをぐっと握って。


「死んでろ、怪物」

「!!」


 ぎゅるるるるるるるる。

 幾重にも重なる木の根が、球体となって魔女を包む。


 人間サイズは包むの簡単でいいなあ。



「樹心限界:球根牢」


 グシャ!!

 球根状の木の根、その隙間から赤い血がこぼれる。


 木の根が銀髪の魔女を握りつぶした。



「……やったか? あ、やべ」」


「あ、オイ、バカ、それフラグ――」


「すぷぷ」



 ぼおうっ!!!!


 木の根が一瞬で炎上する。ぼろぼろと崩れる木の根。

 黒こげになった燃えくずからそいつが平気な顔で現れる。



「けほっ、けほっ。驚いたねえい。なかなかに容赦がないじゃあないかい、探索者」


 魔女の暗い瞳が俺を見据える。



「うげっ」


「味山!?」


 なん、だ?


 身体が痺れる……!? 力が抜けて……オイ、クソ腕、これなんだ!?



 TIPS* チッ!! 凡愚が!! 神性だ! 脳みそめ、味なマネを!!


 おい、説明になってねえんだよ! わかるように教えろ!!


 TIPS* 神が保有する人間に対する絶対優位権だ、貴様のような凡愚には効果てきめんだろうよ!!


 なんで急にファンタジー要素が出てくるんだよ!!

 あ。



「すぷぷ」


 銀髪の魔女が指をこちらに向けている。

 火球だ。

 バカでかい火球が下りてきて――。

 やべ、避けないと――クソ腕、防御を――!!


 TIPS* 忘れたか! 私と貴様は一心同体!! 貴様が動けないのなら私も動けん!!


 偉そうに情けねえ事言ってんじゃねえ!

 肝心な時に使えねえな!! 普段あんな偉そうな物言いなのによ!!


 TIPS* やかましい!! 人間風情がこの私に偉そうな口を――あ! 炎がまずいぞ!! 味山只人、なんとかしろ!!



 頭の中に響くやかましい化け物の声。

 クソ、普段偉そうなくせに焦りやがって。

 さすがにあの火球直撃は死ぬか?


 考えてみれば探索者、クソゲーなんだよな。

 こっちは命が1個しかねえのに、ありとあらゆる存在が俺を色々な方法で殺そうとしてくるしよ。


 木の根を操る力はあるけど、やっぱあれだな。



「不死身とかねえとマジで無理ゲーだろ……これ」


 巨大な火球がゆっくり落ちてきて――。



「起きろ、キリヤイバ」


「え?」


 遠山の声。


 あれ?

 お前、なんで立ってるんだ?

 遠山はその神性とやらを喰らっても平気そうな顔で。



「キリヤイバ、拡大解釈(オーバーロード)


 ずっ。


 周囲が一瞬で白く染まる。


「――鋭角爪」


 ざっ。


 瞬間、火球がえぐられる。3つの爪か何かで刻まれたような――。


 ぼっ、おおおおおおおおおおおおん!!


 火球が爆散する。

 火の粉が飛び散り、辺りに散らばる。

 地面に飛び散った火球の残骸が苦しむように蠢いていた。



「遠山……?」


「お、おお……なんか、出来たわ」


 遠山の握っている折れた刀のような遺物。


 普段はほぼ根本近くが折れているがらくたのような見た目のソレ。


 何故か、今はそれが赤い刀身が生えて――。


「てか、味山、お前なんで急に膝ついてんだ?」


「いや、逆にお前がなんで動けてんだよ」


「は? 待て、状況が読めねえ、今、お前動けねえの?」


「はい」


「うっそだろ、お前」


 TIPS* 何故、あやつは動けているのだ? ……中に、何かいるな


 オイ、クソ腕……遠山の中にお前みたいな不思議生物がいるとして。

 それであいつが動けてんなら、シンプルにお前がしょぼいのでは?



 TIPS* …………


 ごめんて。ガチすぎたな。悪かったって。


 で、この神性、どうにかする方法はあるのか?



 TIPS* ……神性に対抗するには神性しかない。もしくは、それ以外の理の外れた要因が必要だ。我々はそのどれも持っていない


 なるほど。


 だが、待てよ、遠山が動けるんなら……。



「味山、簡潔に話せ。何が起きた?」


 遠山は話も早いし、仕事も早い。


 空に浮かぶ銀髪魔女を霧で刻みつつ、次の手を考えているようだ。



「魔女っこの特性か、遺物的な不思議パワーだ。身体が動かねえ」


「マジかよ。やべえな、フォース的な奴か?」


「ああ、フォース的な。俺はどうやらジェダイにはなれないらしい」


「待て、じゃあ、俺が動けてるのは……どういう仕組みだ? 俺がジェダイの素質がある以外の理由で説明してくれ」


「お前にはなんか耐性があるらしい。良かったな、主人公じゃん」


「そりゃどうも。でも、主人公1人じゃこの状況、多分無理だぞ」



 遠山も理解しているらしい。

 多分、このままでは負ける。

 相手の底がまだ見えていない状態で、殺し切れていない。



 考えろ、考えろ、味山只人。

 IQテストで、124あっただろ?


 1.神性に対抗するには神性しかねえ

 2.遠山鳴人は神性に耐性がある


 この条件からIQ124の俺の頭脳が導く答えは――


「遠山、俺に策がある。お前が動けるんならやり方がある」


「策……? なんだかわからんが物凄く嫌な予感がしてきた……頼むから戦闘中にバカな事言い出すのはやめて――」


 遠山のチベスナ顔が嫌そうに歪む。



「了解!! 合体だ!! 遠山鳴人!! 今日は俺とお前でダブル探索者だ!!」


「………………酔いって怖え~」


「俺を肩車しろ!!!! 遠山!!」



「………は?」



 一瞬の沈黙。


 遠山が完全にチベットスナギツネの顔で俺を見る。

 だが、すぐに俺が本気で言っている事に気づいたらしい。



「あ~!! もう! これで負けたらお前、マジで恨むぞ!! 最低でもここで死んだら異世界転生でも出来ねえと採算が合わねえ!! ふんごおおおおおおおおお!!」



 ぐいっと遠山が俺を肩車する。

 ぐいっと視界が高く、そして――



 TIPS* っ!!?? バカな! 神性による拘束が、解けた!?



「ビンゴだ!! IQ124の頭脳勝ちだな!!」


「味山ァ!! てめえ重たいんだよ!! 筋トレばっかしやがって!! 断食しろ!! で!! これからどうすんだ!!」


「このまま戦うぞ! 遠山!! 俺は()()()()()()()だ!! よって神性の影響は今、無効!!」


 TIPS* 神性保有者との密着により、自己の認識を個体から神性保有者の所持下においた……こんな方法で神性の無効化を? だが……今なら、動けるぞ!! 味山只人!!



「樹心限界!!」


 ずずずずずずず。


 木の根が再びうごめき始める、いいぞ、完全に、身体のしびれが消えやがった。



「しゅぷ……? は? なにそれ。神性を……トオヤマ君に肩車してもらう事で、自身の認識を装備品に変えた? いや、そうは、ならないでしょ……」


「なってんだなァ!! それがァ!! 妙な小細工しやがって!! 銀髪魔女っ娘がァ!!」


「くっ!!」



 木の根で魔女の足を掴み、そのまま地面にたたきつける!


 もう逃がさねえ、俺達の土俵に引きずりこんだ。



「ナイスだ!! 味山!! 出来れば肩車の状態じゃなけりゃもっと素直に褒められた!!」


「俺の事は自動木の根砲台だと思って思いっきりやってくれ、遠山!」


「肩車のデバフが強すぎるんだよ!! だが、まあ……やるしかねえか」



 霧が、木の根が、銀髪の魔女に向かう。


 木の根がバベル島を砕きながら、魔女を襲う。



「遠山!! あんま時間かけらんねーぞ! バベル島に損害賠償請求されたら事だ!」


「だろうな!! 俺の大腿四頭筋と肩回りの筋肉も限界が来るだろうさ!! 損害賠償請求がバベル島だけだと思うなよ!! 肩車をしている事で負った俺の治療費も請求してやるからな!!


「値引き頼んだ、チベスナ!!」


「結果次第だ、クソバカがァ!!」



 霧の刃が魔女を刻み、木の根が魔女を貫いた。


読んで頂きありがとうございます。引き続き作品をお楽しみ下さい。

更新遅くて申し訳ない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
味山と遠山が楽しそうでほっこり(*'ω'*)
ヒトにとって木は武器や道具として使われるように加工するのが原始時代からのルートだから、ある意味装備品として認識されるのは必然か? 偉い神様(勝手な妄想だけどボンキュッボンな姉ちゃん(ただの性癖))の腕…
まじかよ、INT3じゃなかったのかよ。パラレルワールドじゃIQ高いのかw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ