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凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ 【書籍6巻刊行予定、作業中、完全書下ろし】  作者: しば犬部隊
八島作戦 序

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62話 運命の死を超えて

 

 ◇◇◇◇



 ――『あー、今回の地上侵攻だがな。オリュンポスの番だが1回だけそっちに譲ってやるよ』



 狂気の神が、我々に告げた意外な言葉。


 神秘種同士での食い潰しが起きぬよう、今明確に文明を形成する3つの神性は不可侵の契りを交わしている。


 我らベルゼブブ閣下の勢力、忌まわしいバアルの勢力、そして狂気の神ゼウスが率いるオリュンポス。



 それぞれが地上侵攻への権利を持ち回りで回す。

 理性的な紳士協定、人間狩りの為に神秘同士で殺し合わない為の決め事。



 殺し、殺し、殺し、殺し、殺し。

 生存のためではなく、殺す為に殺す愚かな生き物。

 人間とは血に酔った獣と変わらない。


 血に酔った獣である人間とは違うのだ。


 真の星の支配者として、地上を制覇する。

 地に増え、満ちる、その本能と使命の為に。


 たまたま猿から進化しただけの獣が、環境に適応しただけの獣が――。



「ギャハハハハハハハハハ! がんばれ、がんばれ!!」


『あ、がァ!!』


 大質量の変質した神性が、俺を押し潰そうとしている。

 ありえない、ありえない


 空から降ってきた巨大な化け物を神性を利用した膜で受け止める!!

 いや、化け物ではない。


 今、俺を潰そうとしてるのも――。


 《あ、おみみです……はいられたはいられたはいられたはいられたもどれないもどれない、おみみが、とれないのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお》


 俺と同じ神秘種――!? この神性、東洋の神秘、それも……かなり古い……!!


 悶え、呻き、しかし完全にあの人間の支配下に置かれている……!



 人間が神秘を使役している!!??

 ありえない、ありえない、ありえない。蠅の国では、食肉扱いの家畜に、神秘が従えられるなんて!!


 こんな事、あってはならない。


 こんな人間知らない。あの島での戦いでもこんな奴はいなかった!!



『な、めるなァァァぁァァァ!!』


 神性の防御膜をさらに分厚く、分厚く、分厚く!!

 人間が、でかい神秘の肩に上に乗っかり俺を見下ろしている。



「へえ!! そんな事も出来るかよ! 便利だなァ!! その力ァ!」


『あ、が、っ!! 重たい!! お前、お前お前お前お前!! あり、えないだろ! 人間なのに、どうしてここまで……!! 俺を、見下ろしてんじゃねえぞ!! 家畜がァ!!』


「ぎゃっはっは。あーいいね、その感じ。やっぱ化け物はそうじゃないとなァ」



 ぶち、ぶちちちちち。

 あ、が、足の筋肉が死んだ。

 地面に、足が沈んでいく。


 なんで、なんで、なんで!!?? 神性、だぞ!!??

 あのベルゼブブから直接与えられた神の力だ!

 人間なんぞ視線だけで動きが止まるはず、なのに、なのに!!??


 ぶち、ぶちちっちちちっちち。

 腕の骨、それに纏う肉が引きちぎれる。

 押し返せない、それどころか、俺をつぶそうとするその醜悪な化け物の重みはどんどん増えていって。



 《お、みみです》


『クソ、クソ、クソッ!! お前、神秘種なのだろう!!?? 恥ずかしくないのか! そんな人間に、猿に使役されて!!』


 《おみみに言われても……》


 あ、ああああああ、腕が、折れた! 自己再生が間に合わない!!


『死ね、死ねえええええ、なんで、死なないんだよおおおおおおお!!』


 直視の呪いも、蛆の呪いも、先ほどから発動させている力が何も通用していない。



「あ? お前、なんかしてんのか?」


『なんかしてんのかじゃねえええええええ!! ――ぐ……』



 異界は間に合わない。

 なら――あ、ああ、我が王よ、許せ、こんな、こんな猿に我が権能を扱う不出来を!!



「……! 耳鬼! 速攻で潰――」




 猿が、焦った顔を見せた。

 驚いたよ……解るのか?


 俺の権能の発動が――!!



『権能――時の審判』


「っ」



 終わった。

 醜悪な巨人からの圧力が消える。

 糸の切れた操り人形のようにがくりと崩れる巨体。


 そして


「」


 ひゅー……どしゃっ。

 地面に落ちる猿。

 ごみのように転がり、がれきにぶつかって止まる。


 仰向けに倒れたその姿。

 先ほど浮かべていた醜悪な笑みは、もはや、ない。


 無表情のまま、陸に上がった魚のように地面に横たわり、動かない。



『”時の審判”……屈辱だ……本来ならこの権能は他神話体系の主神クラスを殺す為の権能……光栄に思え、猿』



 俺とタロトの神名――アスタロト。

 我々のオリジン、悪魔アスタロトの未来と過去を司るその逸話を昇華した力。



『……知っているか。この世に不滅の者はいない。どのような存在でも死ぬのだ。あらゆる存在が生きているのは過去から現在に続く連続の中でたまたま、()()()()()()()()に過ぎない……』



 死線。


 どんな存在も気付いてるか、気付いていないか関わらず日々死にかけている。


 権能対象の過去に干渉し、その者が過去にくぐってきた死線、生きるか死ぬかの結末や結果を変える能力。



『お前は既に死んでいる事になった。どのような強大な存在であれ……過去に死んでいるのならば、現在、ここに存在する事は出来ない。お前は――この世界に存在を許される者ではなくなった』



 これこそが、我が権能。

 いずれ来る神秘同士での覇権争い、他神話体系との戦争に備えた最強の武器。



 ずちゅ。



『――は?』



 しんぞう、刺された。

 うしろ、ふりむく。

 斃れた奴が立ち上がっていた。

 死んだ事になったハズの存在が、平気な顔で立っている。


 その左手。白い骨の刃と化した奴の腕が俺の胸を貫いて。



「なんかしたか?」



 ――俺は、視た。


 その猿の――いや、恐るべき敵の過去を。

 ……なんだ、なんだ、なんだ、それは――。


 過去に死んだ事になった筈の人間が普通に存在を許されている。

 それは、つまり――。



 ああ、ゼウス。そうか、そういう事か。


 ――お前は、コレを知っていたな。いや、己の仮説を確認するために……。


 あ、ああ、我が半身よ、我が王よ、どうか届いてくれ。

 伝わってくれ。


 コレは、まずい。手を、出すべきではない。




『待て……お前……いったい、何人が――』


「神秘種、討伐1」



 ずちゅ。

 心臓に刺さった刃から流し込まれた黒い泥が俺の肉体を内側から溶かす。


 詰み、だ。

 ああ、世界が近い。


 この感覚を俺は知っている。

 全部が遠く、近く、大きな流れの中に消えていくこの感覚。

 ああ、死だ、懐かしい。

 俺はこれから何もなくなる。


 だが、消える前に、最期に、聞きたい事があった。


 主神をも滅ぼす運命の死。

 運命の死を経てすら、世界から消えないこの存在は――つまり。


『――貴公、何者だ……』


「凡人探索者」



 ――恐い。

読んで頂きありがとうございます!

現在、凡人探索者のコミカライズ連載が始まっています!

マジでキャラ全員めっちゃ良いです。

いや、ほんとアレタがさあ、なんかいいんだよね……。ふーん、えっちじゃん……。


凡人探索者 コミックガルドURL↓

https://comic-gardo.com/episode/2550912964918726482

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― 新着の感想 ―
残念ながら死んだだけじゃ止まらないんですよね〜。 あー、キッショ(某天公
死んだところで蘇るからなあ味山残り寿命一気に消費させられたらわからんが一応この不死身っぷりは有限だし・・・というか残り寿命の回復が安定的にできない以上うっかり死ぬのもまずいんだよな・・・あれだけあった…
死んだからなんだの世界に突入してるからなあw コミックの出来すごくいいですね。これは楽しみ。
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