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45話 味山只人とオリュンポスの子供達


イズ高校 校歌


1番

夕暮れ染まる 海の彼方

緑の風が 故郷を抱く

友と歩んだ この坂道

静かな声で 未来を呼ぶ


青き海と 深き森よ

我らの夢を 見守り続け

暗闇の中 光り輝く

皆のゆめよ 永遠に


時が流れて 別れの日々

それでも心に 変わらぬ景色

友の笑顔と 夕日の輝き

心に刻んで 旅立とう


再会の時よ、いずれまた

 

「あ……帰ってきた……」


「「「「「「………あ」」」」」」


 気付けば、、味山達はあのオリュンポスの神学校の敷地へ戻っていた。

 白亜の壁に囲まれた花畑の校庭。

 少年少女達が突如現れた味山達をぽかんと見つめて――。



「「「「「「わああああああああああああ。すごおおおおおおおおおおおい!! 闘技場にいた人達だああああああああああ」」」」」」」


「あ、パンドラ様もお帰りなさーい!」

「見て……トゥスクの人だ……怖いね、すごいね、本物だね」

「サイン、もらおうかな……いいかな」



「この子達は……」

「ふむ、この都市の住民……だが、服装に統一性がないような……」

「……何か、変な感じが」


 戸惑う探索者達。

 ゼウスという神、気になる言葉、情報、今、彼らには落ち着く時間が必要だった。



 きーんこーんかーんこーん。


「あ?」


 味山の耳に聞き覚えのある呑気な音、学校のチャイムが鳴り響く。


「あ! ごはんの時間だ! 準備しなきゃ!」

「ほんとだ! パンドラ様もいるし、ご友人達にごちそうを用意しなきゃ!」

「怪物種の料理、地上の人は食べれるのかな」


「ちょ、ちょっと、あなた達?」


 アレタが戸惑う間に、少年少女達がえっさほいさとてきぱき何かの準備を始める。



「……皆、後で少し、お話良いかな? 食事のタイミングで、探索者の皆に、私から、神秘種パンドラから話があるの」



 戸惑う探索者にパンドラが声を。


 探索者達にそれを断る理由はなかった。

 今、何もわからないこの状況。

 人間は未知を恐れ、未知に慄く。


 だが――この場にいるのは人間ではない。

 探索者だ。



「……ニホン指定探索者、サキモリの貴崎凛として、彼女の話を聞く必要があるかと思います」

「俺も同感だ。彼女の話はニホンの国防上、重要な情報が含まれていると予想する」



 指定探索者の顔になった貴崎と鷹井がパンドラの言葉に頷く。

 アレフチームにも、それを断る者もいない。



「……??」


 ぴこっ。

 銀髪エルフの耳が揺れる。


「貴女も、トゥスク。ゼウスは貴女を解放した。故郷に帰りたいのなら、今はおとなしくしていてほしいけど、どうかな?」


「………」


 パンドラの言葉にこくりと頷くエルフ。


 何とも言えない空気が辺りを漂う中……。


「あ、人間さ~ん、何人か、狩りを手伝って~お夕飯のグリフォンが強くて、戦闘個体さん達から救援依頼来てるの~」

「えっとね~、お空飛べる人と、剣が強い人、あと頑丈な人と力もちな人に来てほしいって~」

「あ、そこの人とか最高じゃない? お願い! 地上の人間さ~ん、助けて~」



 よよよと涙目で助けを求める少年少女達。

 探索者達がどうしたものかとお互い顔を見合わせて。


「……いいわ、行きましょう」


 アレタがため息をついて一歩前へ。


「アシュフィールド?」


「……考える事が多すぎる。これ、よくない状況だわ。一回身体を動かしてリセットしましょう」


 アレタの言葉に探索者達は頷く。


「ありがと~う、綺麗な人! あ、できれば、そこの男の人以外は全員来て欲しいな~」


「え、俺以外?」


 割とやる気満々だった味山だけ省かれた。


「なんで?」


「う~ん、多分、お兄さん来たらグリフォンが逃げちゃいそう……ゼウス様の祝福が強すぎて……」


「ゼウスの?」


 よくわからないが、早くしないといけないらしい。


 味山を残し、他の探索者達が少年少女達の案内を受けてどこかに。



 固まっておいた方がいいかと思う探索者達……

 だが、全員、まあ、味山だし……で流すことにした。



「じゃあ、ただひと、私はこの子を見ながらお料理のお手伝いしておくから、ここでゆっくりしてね」


「あ、はい」


 パンドラと銀髪エルフも神学校の校舎の中へ。

 なんか、こう、お盆休み親戚で集まった時に、お父さんは邪魔だからおとなしくしておいて的なノリで一人になってしまった味山。



 ぽつねんと、花畑の中で1人きり。


「……どういう状況?」


「あ……1人だけになってる……」

「ほんとだ! どうする?」

「どうするもこうするも、彼はパンドラ様の飼い人だ、危険な人物ではない!」

「キャットキックは?」

「しなくていいっぽいよー」



 ひょっこり現れたのは、彼らと彼女たち。

 学ランとセーラー服の少年少女達だった。



「お前ら、いや、君達は確か……」


「なあ! あんた! さっき闘技場で戦ってたよな! 凄かった!」


「こ、こら! ショウ、し、失礼じゃあないかい! い、いきなりあんな強い戦士に向けて……! う、わ、本物だ……」


「ねえねえ! おじさん! めっちゃ強いんだよね!? あたしの必殺技見て! キャットキック!!」


「わはー……すごい遠慮ないね、皆ー、あーでもー私も、闘技場に出てた大人とはちょっと話してみたいかもー」


「……おじさん、皆、貴方と遊びたがってる」


 5人の少年少女達がこちらを見上げてくる。

 全員、学ランとセーラー服、もしくはジャージ。

 そして全員の服にイズ高校の刺繍が。


 味山は少し考える。

 なぜだろう、会った事ないはずなのに、妙に彼らの事を知っている気がする。


 びくっ。


「あ?」


 右腕が揺れた。

 一瞬手のひらに火が灯る、しかしそれは消えかけの線香花火のように儚く消えていった。

 何かを伝えようとしているのだろうか。



「おじさん?」

「どうか、したんですか、や、やはり、こんな、パンドラ様の飼い人に話しかけるなんて迷惑だったんじゃ……」

「ねーねーおじさん、鬼ごっこかキックボクシングやろーよ!」

「私はーおじさまとお話してみたいかな、ね、ね、地上ってどんな世界なの?」

「……遊んで、おじさん」



 だがしかし、子供達のにゅっとした圧力に味山の思考は止まる。

 少し、頭を掻いた後。



「……ガキの扱いには慣れてねえ……」


「「「「「あ……」」」」」」


 しゅんと顔を曇らせる子供達。



「だから、遊びでも手加減は出来ねえ、覚悟はいいか。オリュンポスのがきんちょ共」


「「「「「わあ!!」」」」」


 子供達の顔が一気に、晴れた。



 ◇◇◇◇


「てりゃああああああああ!! キャッツキッィクううううううううううう!!」


「甘ぇ!! 安易に飛び蹴りに頼るなぞ、愚の骨頂!!!」


「にゃ!? そんな、受け止められっ―― にゃああああああああああああ!!??」


「ああ、フウカが投げ飛ばされた!?」


 味山が子供達と遊び始めて、1時間ほど経過していた。

 最初は鬼ごっこ。

 予想以上に素早い動きのこども達を、味山が大人げなく、耳の大力を利用した高速移動で秒で全員を捕まえる。


 大ブーイングの後、子供達の提案で今度は子供達VS味山のバトルごっこが提案された。

 しかし、これも味山は大人げないので割とガチってまず4人を制圧。


 現在、最後に残った一番動ける日焼けした女の子とのガチバトル中。


 これがなかなか白熱していた。



「うにゃああああああああ! よいしょ!」

「お、すげえ」


 味山に投げ飛ばされてなお、空中でくるりと回転し、着地する。

 なかなかの運動性能、普通に通常時の味山にはできない業だ。


「つ、つよいっ! あ、あたしのイズ高校最強のキャットキックを!! あれ、イズ高校? 高校ってなに?」


「あ? お前ら……やっぱり……」


「あ、隙あり!」


 少女が地面を這うような態勢で味山と距離を詰める。

 完全に天性の動きだ。


「やるじゃねえか、がきんちょ」

「がきんちょじゃない! フーカだ!」


 繰り出される蹴りを躱す。

 最後は味山が蹴りの足を軸足両方を掴み、さかさまにフーカを持ち上げる事で決着となった。



「くっそおおおおおおおおお、負けたああああああああ、ぐやじいいいいいいいいいいいいいい」

「うおおおおおお! 熱い戦いだったぜ、フーカ、惜しかった!」

「そうさ、僕とショウなんか10秒も持たなかったんだから!」

「私とブチョーはすぎ棄権したしねー」

「そう……ね。強いもの、この人」


 元気なお子様達はある程度満足したようだ。

 5人並んで花畑に寝転がって笑っている。



「……平和なもんだ」


 味山もまた、その場に座る。

 風がそよぐ、小さな花がふわり、揺れる。

 上空を見ると、気の抜ける青い空。


 ここがダンジョンの中とは到底思えない。

 それも、神秘種という神が支配する厄介な場所だとはとても……。


「おじさん! 最後の勝負だ!」


「うお」


 急に声を張り上げる少年。

 ショウと呼ばれている一番元気のいい子だ。


「かくれんぼだ! おじさんが全員を見つけれたら勝ち!! それで決着と行こう」


「ふ、おじさん、今度こそ、僕らイズ高校……えっと、あれ? 僕は何を今……言おうと……ふふ、とにかく勝負です!」


 ショウの声に呼応する少年、クチナシと呼ばれている口の回る子だ。


「まだやるのー? もー仕方ないなー男子はさー」


 マッキーという名前の少女が背伸びをしながら立ち上がる。


「にゃっははは、やってやろうじゃん! リベンジさせてもらうもんね!」


 フーカ、一番動けるボーイッシュな少女。


「……ふふ、そういう事らしいから、頼める? 探索者さん?」


 そしてブチョー。

 この子だけなぜか、髪の色が白色な少し不思議な子。



 5人の子供達が味山に鼻息荒く詰め寄って。


「……手加減は出来ねえぞ」


「「「「「もちろん!!」」」」」


「じゃあ。おじさんが鬼ね!! 10秒数えて! この神学校の庭が範囲! 建物内は禁止ね!」


「へいへい。じゃあ、せいぜいがんばれがきんちょ共」


「ふ、今度こそ勝たせてもらいますよ、おじさん」

「さすがに~おじさまでも5人全部見つけるのは無理っぽいよね~」

「今度こそかあああつ!」

「……皆、がんばろ」


 子供達が無邪気に走って散らばる。

 味山は少し笑って目をつむる。

 自分でも意外だった。自分は子供が苦手だと思っていたが――。


「そうでもねえのかな。……いーち、にー、さーん、しー、ごー――もおおおおいいいいいかああああい!!」


「「「「「もおおおおおおいいいいいいいいよおおおおおおおお」」」」」」


「元気かよ」


 花畑を味山が進む。

 さて、広いこの校庭。ところどころ謎のオブジェや土管など隠れる事のできそうな場所がたくさんある。


 普通の探索者なら苦戦しそうなものだが……。


 こと、味山には隠れたものを見つけ出すには反則級の力があった。



「聞かせろ、クソ耳」



 ◇◇◇◇



「ショウ、見つけた」

「うそおおおおお! は、早すぎだろ!?」


「クチナシ君、見っけ」

「ま、まさか、この僕の心理戦が、こうも、簡単に」


「マッキー、そんな高いとこいたらパンツ見えるぞ」

「へ、変態! ひどい、おじさま!」


「フーカちゃん、お前もそんな所、どうやって上ったんだよ」

「お、降りれない、降ろしてえええ! おじさん」



 という感じで、3分以内に既に味山は4人を確保した。


 あとは1人、ブチョーだけだ。


 TIPSのヒントによると近くにいるらしいが……。


「お、いた」


 花畑の中心、大きな樹の下の裏に彼女はいた。

 ぼーっと体育座りで固まっている。


「あ……見つけられちゃった……」


「よお、ブチョー、君で最後だぜ」


「……そっか、皆見つかっちゃったんだ……」


「ああ、これで俺の全勝だな」


「……すごいね、探索者さん」


「ああ、だろ……うん? 君、探索者を知ってんのか?」


「……たまに、あるの。こういう事、知らないけど、知ってる事、知らない言葉が口から漏れるの」


 少女が立ち上がる。

 ざあああ、そよぐ風が少女の白い髪をなびかせる。

 口元に運ばれる髪を元の位置に戻しながらまた少女が笑った。


「自分でも知らないはずの事とか、見た事ない風景とか、知ってるの……それがなんなのかは全くわからないけれど」


「ほー」


「探索者さん、手、握っていい? 皆のとこへ連れて行ってもらえる?」



 少女が味山に手を伸ばす。特に断る理由もないので味山がその小さな白い手を取る。


 ひんやりして、小さくて、すべすべで、怖くなるくらい柔らかい。


「……ほら、今も、変なの、私」


「お、おい、どうした、ブチョー」


 少女はいつのまにか涙を流していた。


「今も……あなたに手を握られると、悲しいの。なんで、なんで、もっと早く、なんで先に会えなかったんだろって、思っちゃうの」


「大丈夫か?」


「ごめん、なさい……なんで、だろ……わからない……」


 ぽろ、ぽろ。

 ブチョーの涙は止まらない。


「えええ~お前、これであいつらのとこに帰ったらすげえ俺が悪い大人みたいじゃん」

「……そんな、事ない、あなたはとても、良い人……私達が出来なかった事を、やってくれた……」

「あ?」


 TIPS€ 魂は記憶を蓄える


 TIPS€ 肉体は魂を求める


 TIPS€ 魂は肉体を呼び寄せる



「あ……?」


 きいいいいん。

 頭の中で何かが鳴っていた。


「……探索者さんは、故郷の事を覚えてる?」

「故郷……?」

「産まれた場所……私はね、思い出せないの……」

「そう、か、俺は――広島、あれ? ヒロシマ? ……ん? 北海道……オキナワ……あれ?」


 頭にもやがかかっている。

 薄い眠り、荒唐無稽な夢をみているときのような感覚だった。


 少女に手を握られたまま、味山は花畑を進む。


 ――♪ ――♪


 歌が、聞こえた。


 そのまま少女に手を引かれ、花畑を進む。


 ――♪


「「「「――夕暮れ染まる 海の彼方――緑の風が 故郷を抱く――友と歩んだ この坂道 静かな声で 未来を呼ぶ」」」」



 歌だ。

 少年少女達が、歌っている。

 こちらに背を向けて、皆、同じ方向を向いたままに。


「……青き海と 深き森よ 我らの夢を 見守り続け 暗闇の中 光り輝く 皆のゆめよ 永遠に」


 少女もまた、歌い始める。

 そして、味山の手を離れ、彼らの元へ。


 味山に背を向け、少年少女が歌を歌う。


 ――抑揚のない穏やかなリズム、多人数で歌う事を前提とした簡素な歌詞。


 味山は無意識に呟く。


「……校歌?」



 少年少女達は、歌い続ける。


 味山に背中を向けて、皆、まったくずれなく、一様に同じ方向を見て。



 TIPS€ 魂は肉体を求める 魂は故郷を想う


 その方向、その方角にあるものは。



 TIPS€ イズ半島



「あ……?」


 ぐるり。


 少年少女達が一斉に首だけでこちらに振り向き。



「「「「「みつかっちゃった」」」」」



 にっこり、笑った。


怖っ。


凡人探索者4巻、とうとう来週発売か……

バベル島防衛戦、全収録、すげえ面白いのでオススメです。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] やっとトゥスクの民と接触したか 結構キー種族のはず この2周目において
[一言] なんかレア・アルトマンがひょっこり現れて主人公の現在のステータス紹介してくれる回とか欲しなってきたな。 というかあいつどこ行ったん?
[一言] 腕の策略なのか、魂を弄り出した所からの叙述トリックなのか、なんにせよバベルくんも知らない数ヶ月のズレ、知らない故郷の記憶、腕の樹冠とやら、岩清水に現れない神秘の残り滓とその他諸々の伏線が最高…
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