33話 凡人探索者VS英雄と天才 その2
その2人。
貴崎凛と、アレタ・アシュフィールドは決して油断していた訳ではない。
味山只人の力を恐らく誰よりも知り、認めているのがこの2人だ。
だが、それでも――。
「耳の大力――脚力強化」
「えっ」
瞬間、貴崎凛の目に一瞬映ったのは己の眼前に現れた味山只人。
身体ごと、ただぶつかってくる体当たり。
剣鬼が反応出来たのは既に木刀をどう振るっても当たらない超至近距離に至ってだった。
刹那の時間、確かに貴崎は聞いた。
「防いでみろ、剣鬼」
「っ!」
貴崎は反射的に自分と味山只人の間に木刀を滑り込ませる事に成功。
だがーー。
「リン・キサキ!? 駄目!! 避けなさ――」
「えっ」
「ぎゃはは」
アレタの叫び。
味山の笑い。
貴崎が己の失策に気付いたのはーー。
ミシッ。
味山只人の突撃に直撃した木刀が軋み、へし折れる音を聞いた直後。
「ぶっ飛べ」
「きゃァ!?」
錐揉みしながら吹き飛ぶ貴崎。
防いでみろ、味山の何気ない言葉はブラフ。
本来なら貴崎は何がなんでもその直撃を躱さなければならなかった。
『『『『!?!?』』』』
「「「「「「「「!?」」」」」」」
実況席、観客席が錐揉みしながら場外に吹き飛ぶ貴崎凛の姿を視認するのと、同時ーー。
「次」
「っ、疾っ!?」
ギュン!!!
頑丈なはずの芝生のリング、それを踏み散らし水飛沫のような勢いで弾けさせる味山。
「よお、アシュフィールド」
「タダヒト!!」
凡人が英雄に襲い掛かる。
貴崎の時のような突撃ではない。
大上段に構えた手刀、チョップの振り下ろし。
不意打ちの如き速度のそれをアレタは躱そうと判断る。
だがーー
「耳の大力――2倍」
「まだ夙く!?」
味山の速度が、また1段階加速する。
想定以上の速度で振るわれる手刀。アレタは瞬時に行動を変更。
脚を広げ、腕をクロス、更に風と雨を身体に纏いその一撃を受け止める。
義リリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!
風が弾け、雨が飛び散る。
およそ人体同士のぶつけ合いから生まれた音とは思えない轟音が響いて。
アレタは確かに聞いた。
「ぎゃはは。アシュフィールド、お前」
「!?」
ミシッ!
アレタの足が地面に食い込む。
「まだ人間相手にしてるつもりかァ?」
「……あ、は」
バシャアアアアァァァ。
風が爆ぜ、悲鳴のような音が響く。
味山の手刀がアレタが纏った嵐の唸りを食い破った。
「遅え」
「うそ!?」
アレタの無防備な腹に味山の前蹴りが直撃する。
貴崎と同じように、ゴム鞠のようにアレタが場外に吹き飛ぶ。
「「「「「「「「」」」」」」」」
観客席は冷えに、冷えた。
時間にして、恐らく10秒に満たない内にあり得ないものを見せつけられたからだ。
「あ……え? う、そ……でしょ?」
「貴崎凛が、一撃……?」
「え、今何が起きたの?」
「……今の、撮れていますか」
「……」
「
「あ、はい! 室長すみません、と、撮れてる、と思います……」
『……センセ、これマジ?』
『アジヤマ……君は……』
『ははっ、いや、場外の条件を満たしていないな。確かルールではリングの外の地面に身体が触れたらだろう?』
『こ、れは』
TIPS€ ストーム・ルーラーの発動を確認
「ああ、まあそりゃそうだ。こんなに簡単な訳がねえ」
しゅる、しゅるるるる、しゅる。
風が逆巻く。
「リン・キサキ。まだ立てるかしら?」
「……礼を言うべきですね、ありがとうございます。アレタ・アシュフィールド」
場外に吹き飛んだ貴崎とアレタが浮いている。
逆巻く風が、彼女達の四肢を包むようにふわりふわり。
『お、おおおおおっと!!! な、なんて事でしょう! 御覧ください! 場外に吹き飛ばされたように見えるアレタ選手と貴崎選手が、う、浮いています!! これでは場外判定にならない! な、なんで?』
「「「「「「「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」
ストーム・ルーラー。
その応用。
風が、貴崎とアレタの身体を浮かべる。
場外に吹き飛ばされてなお、彼女達はまだ地面に触れてはいない。
「なるほど、場外はなしか」
リングにそのまま復帰する2人の指定探索者。
彼女達の身体には未だ、風が逆巻いている・
ストーム・ルーラーの微細なコントロール。
少し目を離した瞬間に、天才達は成長している。
「……タダヒト。本当に強くなったのね」
「……味山さん、貴方はやはり……」
アレタとか貴崎の目つきが、変わる。
油断も慢心もなかった、だが同時に2人には危機感が無かった。
味山只人と相対するということが何を意味するのか。
TIPS€ 特性"異常存在"により、お前はすべての人類から恐怖、嫌悪される
TIPS€ アレタ・アシュフィールドは特性"半神"により影響を無効化
TIPS€ 貴崎凛は特性"鬼の末裔"により影響を無効化。
「あは」
「ふふ」
リングに戻る指定探索者。
正しい危機感、正しい認識。
「リン、やれる?」
「アレタ、合わせてください」
指定探索者達が、味山只人への認識を改める。
その肉体が、探索者としての本能が理解した。
「本気でやらないと、遊びにもならないわ」
「すごい、やっぱり貴方は凄い、味山さん!」
会場に揃う実力者達もまた、アレタと貴崎の雰囲気が変わった事を理解する。
『……ああ、やはり、あの2人は別物だね』
『アレタにあの顔をさせるかい、アジヤマ』
『あの貴崎凛がもう本気に……』
『タダ、あいつ死なないすかね?』
だが、誰しもが空気のかわった指定探索者に注目する中だ。
唯一、ある男、鷹井空彦だけがにっと笑って。
『はは、違う。――来るぞ』
『――え?』
『挑戦者は彼女達の方だ』
鷹井空彦が目を見開き、少し、口を吊り上げて。
「アサマ」
「はあい、ぱぱ」
影、味山の影が変化する。
見目美しい金と黒の髪の美少女。
幼さと神聖さを両立させる人形のような容姿。
「タダヒト、その子……」
「嘘、まさか――」
神秘種アサマ。
味山の影が、彼女に代わる。
奇妙な光景だった。
地面に立つ味山。
味山の足を起点にアサマは影のように背中を地面につけたままーー。
味山とアサマは両者同じポーズ。
味山は直立したまま。
アサマは地面に寝そべったまま。
TIPS€ 攻略情報更新
TIPS€ 貴崎凛8月31日、死因、神秘種による捕食――異界内での敗北
TIPS€ グレン・ウォーカー、ソフィ・M・クラーク4月30日、死因、同上
「……予行演習だ、死ぬなよ、お前ら」
同時に同じポーズ。
手を、合わせ――。
『マジか――アジヤマ』
『ウッソだろ、タダ』
終わった世界での記憶を持つ最前線のチーム。
アレフチームのソフィとグレン。
2人だけが、気付いた。
神秘種に敗れ、喰われた記憶を待つ2人だけが。
味山、アサマ。
同時に、合掌――。
「「――異界創生」」
それは神のみわざ。
星のテクスチャを冒す、神の機能。
味山只人は既に、その機能すら――。
「「山界熾天寝所」」
凡人探索者が、その道具の使用を開始した。
読んで頂きありがとうございます! ブクマして是非続きをご覧ください!
凡人探索者コミカライズ企画進行しています!
Twitterで限定的にネームの一部公開してます。是非ご覧くださいませ!
漫画版のネーム、めちゃくちゃ面白い……
ダンワルの時もそうだったんですが、ごめんな、皆より先に楽しんでて……
グレンが最高でした、あとアレタや貴崎、ソフィが可愛いすぎた……
4巻、あともうちょいで情報お知らせ出来ます。
凄く楽しい本になる予定です。
書きたいものを書いた上でみなさまに楽しんでもらえるものになりました。
まだ書籍に手を出してない方も、4巻までにぜひ既刊チェック頂ければ幸いです。
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新作が、カクヨムコン9受賞致しました。
皆様の応援、ブクマのおかげです。
下記作品もぜひご覧下さいませ。
書籍化、コミカライズが決まりました。
【凡人呪術師、ゴミギフト【術式作成】をスキルツリーで成長させて遊んでたらいつのまにか世界最強〜異世界で正体隠して悪役黒幕プレイ、全ての勢力の最強S級美人達に命を狙われてる? …悪役っぽいな、ヨシ!】
アホが異世界で悪役黒幕プレイしてみるエンタメ作品
↓新作URL
https://kakuyomu.jp/works/16817330669247681081
今年は新作をまた2つくらい書こうと思うのでまたお知らせします。
たのしい時間を作れる作品を作っていくのでまた是非ご覧くださいませ。




