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30話 お前の力を我が手に《天邪鬼交流禄》

 

「クソがァ~なんなんですかァ~お前はァ~、普通こんな神秘系和装糸目美少年とのファーストコンタクトがアイアンクローからの場外川ぶん投げな訳がありますかァ~」


「うるせえ、害悪生物。てめえ、何ネームドヅラして登場してんだ」


「お前のようなモブを棲み処にしてやったんです、感謝こそされど、こんなびしょ濡れにされる謂れはないっつってんですよォ~……」


 息も絶え絶えに川から這い出してきた和装の美少年がふと、言葉を止めて。


「ああ、それとも……お前、そういう趣味でも……? くふふ~、まあ、どうやらこの場所では真体に代わるようですし~。修行僧すら欲情させる私の魅力に気づいてしまいましたか~?」



 くっきり浮き出る鎖骨を見せびらかすように、己の服の襟を引っ張る。


 服の隙間からは陶磁器のような少年のシミ1つない肌が覗いて――。



 TIPS€ 警告・天邪鬼の誘惑発動――対抗技能【完成された自我】称号【神喰らいの探索者】により判定なしで無効



「口の利き方に気をつけろや、溺死させるぞ、クソ神」


「ごぼぼぼぼぼ!!??」



 味山がノータイムで天邪鬼のふわふわ白髪パーマを掴み、そのまま顔面を川面にぶち込む。

 じゃばじゃばとはじける水面。

 人相の悪いアラサーが和装の美少年を襲っているようにしか見えない。



「ごばァァァァァ、おぼれ、溺れるうううう」


「誰に向けて妙な力使ってんだァ、居候の身分でよ~」


「ち、力、力貸してあげたのにィ~、だ、誰のおかげであのクソギリシャ系の神に勝てたと――」


「あ、そういやそうだったな」


 ざばり。

 味山が天邪鬼の顔を川から引き上げる。


「げほっ! げほっ! じょ、情緒! 情緒どうなってんですかァ~お前は! 怖……」


「切り替えが早いと言え。お前がここにいるって事はきちんと消化できたって事だな」


「く、クソがァ~神秘の消化に慣れすぎでしょうがよォ~普通こんなもの慣れるものじゃ……はあ、まあいいです。ああ、ほんとうになんて運が悪い……」


 ぶつぶつ言いながら天邪鬼が指を振る。


 それだけで、足元に座敷が現れる。

 とっくりと2つのおちょこ。

 座敷の中心に存在するのは、囲炉裏。


 白い灰の中に火の煌めきが見えた。



「お前、人の夢に何持ち込んでんだ」


「酒と肴は神の嗜みですので~。味山只人、私を食い殺した探索者~。あなたに話があります、まあとりあえず、座ってくださいな~」



 糸目の美少年がよいしょと座敷に座る。

 彼の糸目からわずかに覗く虹色の虹彩が、味山を捉える。



「それとも……やはり、まつろわぬ神の誘いは恐ろしいですかね~、探索――」


「俺の邪魔をするな、俺に力を貸せ、俺の周りの人間にいかなる不利益も与えるな、この不利益の概念は俺が決める、お前の望みについては上記に触れない限り可能な限り考慮する、以上」


「――は?」



 天邪鬼の全てを無視し、味山がとっくりを掴み、おちょこを手に。

 とくとくっ、小気味よく注がれる濁った酒。


「はい、契約」


 ごくり。

 ひといきにそれを飲み干す味山。

 呆気にとられる天邪鬼。



 TIPS€ 神格契約完了 天邪鬼の神性と結びついた


 TIPS€ 天邪鬼はお前が死亡しない限り顕現出来ない


 TIPS€ 天邪鬼と優位な形で契約を結んだ



「おまえ……神格契約の事を知って……」


「あ? なんだその固有名詞は。知らん知らん、だが、どうせロクなもんじゃないだろ」


「じ、じゃあ、なぜ、契約方法を……」


「ニホンの習わしってのは馬鹿に出来ねえよな〜リーマンのときもよ〜上の世代のオッサン達はなんか契約ごとがあるたびに、居酒屋でポン酒頼んで似たような事してたぜ。温故知新って奴だなァ」


「あ、ありえない……! そ、そんな……ほ、本当に、本当に契約が完了してしまっている……!? 嘘、私、じゃあ、このまま……コイツの権能としてここに……!?」



 ほおを左右から両手で抑えて、ぐにゃぁ〜となっている天邪鬼。



「お前のようなめんどくさい奴を早めに手の内に出来て良かったぜ、天邪鬼。さて、どうしたもんか」


「な、何がですかァ〜? ふぎゃっ!?」


 味山が天邪鬼の顔、頬を掴む。

 アイアンクロー。



「お前をここで完全に消すか、どうか、だ。お前がイズでやった事、やろうとした事、いやそれ以外もどうせあるんだろ? 本来でありゃ、生かしておく理由もねえ害獣だが……」


「ぎゃっ!?」



 ぎりり。

 耳の大力を以て、万力のようにゆっくりと味山があまのじゃくの小さな頭蓋骨を押し掴む。



「今は非常時だ。お前の他にも始末すべき害獣がいる。そして、お前の力は確かに神秘種狩りに便利そうだ。俺はどうすべきだと思う?」


「ぐべぇ~、な、何を言って――」


「頭をよく使え、今、お前はいまわの際だ。こんな状況だ、力はどんなものでも欲しい。お前みたいなクソカスの力でもな。だが、古今東西、お前みたいなのを完全に飼いならすのは不可能、あまたの創作物がそれを語っている、お前みたいなのは完全に息の根を止めるしか方法がねえってな」


「ぐ――け、契約を、お前の言い値で結んだでしょうがァァァ、それだけじゃ不足だと!?」


「不足だ。お前は絶対にそういうものの隙間をついてくる。俺にそれを防ぐ能力はねえ。だから、手堅いのは、ここでお前を殺す事だけ」



 凡人は知っている。

 己の足りなさを。

 本来であれば、目の前のこの少年は自分が扱いきれない神秘であると。


 故に、唯一の正解はきっと討滅。


 味山が本気の殺意を手に込めて。



「ひっ」


「――お前の望みを言え」


「えっ……」


「お前の望みを1つ、聞いてやる」



 殺意のままに始まるのは、きっと交渉でもなんでもない。



「な、何のつもりですかァ〜? まさか、そんな事で、この私が絆されるとでも?」


「いや、これは俺の気分だ」


「……はい?」


「気分的に、何か一つお前に譲歩してた方が、いざという時高いモチベーションでお前を始末出来るからな」


「ば、化け物がぁ〜……」



 少年、天邪鬼はまた戦慄する。

 恐怖とは理解できない事に似ている。


 古くから人間とよく接してきたその神秘にとってすらこの男は異物であった。



「天邪鬼、俺はお前のような迷惑な奴が嫌いだ。てめえの楽しみだけで、他人を害すクズがなにより嫌いだ。だが、俺はこれから1000以上のクズを狩り尽くさないといけない」


「……お前、やはり神秘種を……」


「迷惑な奴らだ。お前らみたいなのがいるからウチの英雄バカがまたおかしくなる」


「ぐえ」


 何か言おうとした天邪鬼の口を味山の掌の力が強まる形で塞ぐ。



「もう二度とあんなめんどくさいことはさせえねえ。俺のチームに余計なマネする奴は皆殺しにしてやる。だから、お前に手を貸させてやる」


 そう、これは交渉ではない。



「従え、天邪鬼。お前はもう、俺の道具だ」



 只の、儀式だ。

 味山は知っている。

 もう、あの赤い空が見たくないのなら。

 神秘種を狩るには、更なる力が必要だ。


 味山はイズ王国を解放した報酬をここで、手中に収めようと――。



「……死体」


「あ?」



 味山のアマノジャクの両頬を掴む手の力が僅かに歪む。


「お前の死体が欲しいです」



 探索者の手の中で、神の美しい顔が、ほほ笑んだ。


「……続けろ」


「お前は本当に気に入らない、ですが、少し興味ごあります。お前がどうしてそのような生き物になったのか。お前はなぜ、そんなにも恐ろしいのか。お前が死した後は、お前の身体は私のモノ。それを約束するならば、ええ。お前が存命の間は、この海若、約束しましょう」


 海若。

 古くから人の世に交じり、己の愉しみの為だけに在り続けた神が笑う。

 その者と取引をした定命の者はいずれも悲劇的な最期を迎えている。

 だが、それでも人は神の魅力にあらがえない。


「お前に力を貸すと」


 海若はいつもの通り、人になびき、人に依り、そしていつか人を壊す。


「良いぜ」


「――」


 天邪鬼は無意識に、神性を行使する。

 人が己の望むようにふるまうように。


 当たり前のように繰り返される神と人の関係性。


 ここに、現代においてもまた天邪鬼の新たな犠牲者が――。



「ただし、条件を追加する。俺の死因が老衰、寿命を全うしての死ならば、だ」



 だが、今回は何かが違った。


「ええ、いいでしょ……うん? は? なんっ――」


 がこん。


 がつ!


「ぶえ!?」


 味山が無言で天邪鬼、カイジャクの口にとっくりをぶちこむ。


 とくり、とくり。

 カイジャクの細い喉元が動いて。



「ぎゃはははは!! 約束完了! じゃあこれでお前は俺を死んでも生き残らせないといけなくなったなァ!」


「く、クソがァァァァ! がっ、神格契約が、固まって………!」



 天邪鬼は間違えた。

 今回己が契約を結んだのは、すでに人ではなかった。


 なんの運命も宿命も持たぬまま、信念も願いも添えぬままに、ここまで生き残ってしまった存在。


 英雄ならざる身にて英雄の業を踏み潰した、法則の乱れ。


「よし、お互い気持ち良くなれる契約を結べたなァ」



 ――天邪鬼は探索者と契約を結ぶのは初めてだった。

 故に、簡単に捻じ曲げられた。

 怪物を殺し、英雄を打倒し、神を用いて神を殺す。


 人間という生き物の機能、殺し、集め、使い、また殺す。


 探索者とはつまり、ホモ・サピエンスの最先端。


 その存在の前には、老獪な神ですら――。


「何がお互いですかァ!? クソ、ほ、本当に契約が捻じ曲げられている!? ろ、老衰以外で、この身体の使用権が手に入らなく……! 夢の世界と、コイツ、相性が、最悪すぎる……!」



「宜しくな、俺が死ぬまでよお」



 TIPS€ 天邪鬼関連の技能を獲得


 TIPS€ 凡人技能の影響により全ての技能にマイナス補正発生



「〜〜!! っ、切り替えます。いいでしょう……ハラワタが煮え繰り返るとはまさにこの事ですが……お前は曲がりなりにもこの私を2度も追い詰めたーー」


「追い詰めた? お前まだなんか余裕ありそうだな」


「ひっ!? ああ、もうわかった、わかりましたァ! 殺した、負けた! 私は2回、お前に負けましたとも! クソが!」


「そうだな、人間正直が1番だ」


「人間じゃないのですが〜まあ、いいです。存外、計画が早まっただけと言えなくもない……」


「あ? 計画?」


「は? 計画……待て、待ちなさい、まさか、私、今、口に、言葉にしていたのですか……?」


「何言ってんだお前」


「馬鹿な……こ、この空間、ただのこいつの体内結界ではない……? 法則の強要、主の強権……そして、異分子の従属化……これでは、まるで、異――ハッ!? 私はまた!? クソ、思考を読まれる処か、すべて口に……!?」




 カイジャクの様子がおかしい。

 口元を抑え、小刻みに震えている。


 そういうお年頃か?

 味山は懐かしき中学二年生の夏を思い出す。

 教室内にテレパシーを使える奴がいる事を前提に、色々脳内セリフを撒いていた事を思い出して――。



 TIPS€ 報酬”異常存在パラノーマルへの道”発動


 TIPS€ ”渓流の夢”の中では知性(INT)ロールが発生しない、渓流の夢の中では全ての存在の知性(INT)は”2”で固定される。渓流の夢の中では知性(INT)に関連する技能はファンブル判定される、渓流の夢の中では主以外の思考は全て言葉に変換される。


 TIPS€ 渓流の夢の中では神性が無効化される



「……お?」


「クソ! 化け物が! なんですかァ~この場所は!? 今、気付いた! 気付かされたァ! クソ! こんなの、詰みじゃないですか~お前、全部知っていて……」


「なんの事かよくわからんが……これで、お前は俺が生きてる限りはなんとかなりそうだな。まあ、仲良くしようや、カイジャク君」


「ッツ、最悪っ~」



 がくりとその場に崩れるカイジャク。

 色々画策しようとしていた神秘は、割と今この状況がどうしようもなく詰んでいる事に気づいた。



「……いいでしょう、もう隠せないのなら仕方ない、私はね~人間、お前らの事を心底見下しています~」


「あん?」


 糸目美少年フェイスがにやっと笑う。

 それは、残酷な捕食者の笑み。

 イズにて、己に逆らった勇気ある子ども達を遊び殺した、悪辣な神としての顔。



 イラっと来た味山がバックブリーカーを決めようと――。



「ですが、それと同じくらいにね~目障りなんですよ~、神秘種、深淵の底から蘇った古い神話どもがね~」


「……」


 味山の動きが止まる。



「この国のカミは、まあ、いいでしょう、奴らは神秘種にならなかった。八百万のカミ共は、ニホン人を信じ、深淵の誘いに誰一人乗らなかった。天津のカミも国津のカミも気に入りませんがね~そこだけは認めてもいい」



 カイジャクの言葉はいつもと同じ調子。

 だが――。


「でも、奴らは違う」



 ぴしゃり。

 言葉、渓流の音が消える。


「人の世界の進行に沿って忘れられた神、神話に取り残され、信仰を失い滅びた神々。深淵の誘いに乗り、楽に簡単に安直にこの世界に帰還した神々。神秘種、あいつらは~許せません~」


「この私がどれほどの苦渋を舐め、神として在り続けたのか。信仰を失い、歪められ、貶められ。それでも薄汚い肉の器に依存しながら生き延びたのか~。バカみたいじゃないですか。私が」


「お前、こじらせてんな」


「やかましいです~私はね~ムカつくんですよ~こっちが苦労して手に入れた現世での生を、ラッキーで手に入れた癖に、さも己の力としてふるまおうとしている王族気取りの神々がね~」


「ぎゃははは。嫉妬してんのか? お前」


「バカおっしゃいな。嫉妬? この私が、あいつらに? いいえ、違います、これは単純な――怒りです」


「……」


 カイジャクの言葉を、味山は邪魔しなかった。


「なぜ、私よりも無能な奴らが幸運を手に入れるんでしょうか? なぜ私よりも無価値な者が幸せになろうとしてるんですか? 何故、カスのような連中ばかり保護されるんですかァ~違うでしょ?」



 その声が、少し、ちっぽけな人間に似ていたから。



「才能もない、努力もしない、やろうともしないゴミ滓共に権利なぞありえません、ましてや、この私より恵まれた立場になろうとするなど。現世を再び支配し、支配者に返り咲こうなど……脳みその代わりに腐った豆でも詰んでいるんでしょうねえ~」


 その声は、きっと誰もが抱く親しみ深い感情に似ていたから。


「ですから、全部壊したいんですよ~そういう奴らがやろうとしている事を。私はね~私の気に入らない連中の吠え面が見たいんです~」



 ちっぽけで身勝手で、でもきっとどんな聖人でも一度は抱くであろうそれ。



「だって嫌いですからね~」



 ――嫌悪。



「――いいね、悪くない」


「……はい?」


「お前の事は嫌いだ。だが、お前のやりたい事に関しては理解できる」


「何を……」


 味山がカイジャクの頬から手を放す。



「カイジャク、お前は醜い。お前は狭量で自分勝手で残酷で身の程知らずでクソでカスでゴミだ」


「お前、この私をなんだと思って――」


 ぐにゃり。

 カイジャクの周りの空間がゆがむ。

 それもまた、畏れを持ったニホンの神性。


 ニホンの神は嘲りに、優しくはない――


「だから、お前は俺と同じだ」


「あ……?」


「俺もお前と同じで、醜くて狭量で自分勝手で残酷だ。……世界を終わらせたくないというよりも、俺が嫌なんだ。仲間の死に顔をもう2度と見たくないのも、全部俺の自己満足だ」



 カイジャクの神性が緩んだ。


「今、俺とお前の目的は交わっている。心底気に入らない事に俺とお前の視線は同じ場所に向いている」


「何を言って――」


「神秘種を全部殺す」


「……」


「むかつくんだよ、あいつら、無性にな。怪物種よりも今まで出会ったどんな敵よりも、神秘種って連中は鼻につく。だから、全部殺そうと思うんだ」


「……そんな事が人間に出来ると――」


「出来る、それは誰より、お前が知っているはずだ」


「……っ」



 カイジャクは、神は知っている。

 目の前のこの、凡人が為した事を。


 人の身では、英雄ですら出来得ぬ神との戦闘、そしてその殺害。



「契約は成った。お前、天邪鬼はこれより、俺、味山只人の道具だ」


 人間、味山只人が見下ろし、神へ手を伸ばす。


「俺の探索を助けろ、クソ神」


「ーー私はお前も嫌いです。どこからともなく現れ、なんの理由もなくこの私の企みを破り、この私を喰らったお前が。ですがーー神秘種よりは、マシでしょう」



 カイジャクが、虹色の瞳を味山へ向けて。



「お前が私の敵を殺す限り……」


 神、カイジャクは跪いたままにその手を握る。



「与してやりましょう、凡人探索者」



 TIPS€ YOU Have Defiled God


 凡人が、神を従える。


 そして。



「うお……」


 くらり、味山が頭を抑える。


 眠気。


 これは夢の終わりを知らせる合図。


「……本当に最悪の器ですねえ……ですが、それ以上に妙です……」


 眠気の中、カイジャクが立ち上がり、辺りを見回す。


「あ……? 何がだよ……」


「気配はあるのに、姿が見えない。残滓というにはあまりにも強く、ワケミにしては弱すぎる……お前、私と戦った時には、厄介な水と呪と火を従えていましたね」


 己の夢の中に囚えた新たな住人が、何かを探すようにあたりを見回し――。



「お前、私以外の神秘はいったい何処に?」


「あ――?」



 かなかなかなかなかなかなかかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかかなかな――。


 気付けば、世界はひぐらしの声が埋め尽くし。



「彼らは何処に行ったのですか?」


 夢は、終わった。



 ◇◇◇◇


「……どこに、って」


 自分の寝言で目が覚める。


 味山は重い頭を抱えながら、寝床から起き上がろうとして。




「味山さん……あ、その、おはようございます……寝顔……見ちゃった……えへ」


「やあ! 味山! いい朝だ。眠気覚ましに戦闘訓練に行こう、こういうのは習慣にした方が良い」



 顔の良い女と、顔の良い男がベッドに体を預けて覗き込んできていた。


 貴崎と、鷹井。


 広い部屋は来客がいてもまるで狭さを感じない。


 ……貴崎がいるのは分かる。

 貴崎の部屋であった一悶着を覚えているから。


 でも、何故。


「……鷹井、なんでお前がここにいるんだ?」


「うん? ああ! 簡単な事だ! 君と訓練がしたくて探していた所、ちょうど彼女と鉢合わせただけさ。はは! それにしても味山、サキモリの美しき剣鬼とそのような仲とは……いいね、そうでないとな」


「……鷹井さん、そんな……やめてください、味山さんに迷惑です。です、よね……味山さん」



 何かを勘違いしている鷹井と、何かを期待しているような貴崎。


 およそ寝起きの頭では突っ込みが間に合わない事態。


 それでも、味山の脳みそは何かに引っ掛かる。


 今、約1名凄く気になることを言っていた。


 そう、鷹井だ。


 ーー彼女と鉢合わせた


 彼女……誰ーー。



「良い香り……ニホンはずるいわ。嗜好品1つとっても、アメリカだと倍の値段出しても買えないんだもの……良い国ね、あなたの故郷は」



 絵画。


 朝の日差し届かぬはずの地下の部屋。


 間接照明に照らされる彼女の金の髪が心なしか輝いているような。


 造りの違う美しい顔、青いーー深海を思わせる濃い蒼の瞳が、味山を見て、すうっと、細まる。



「ハァイ、タダヒト。いい朝ね。よほど気に入ったようね」



 アレタ・アシュフィールドがカウンターに座ったまま、コーヒーをくいっと傾けて。



「リン・キサキのベッドの寝心地」



読んで頂きありがとうございます!ブクマして是非続きをご覧ください!


凡人探索者コミカライズ企画進行しています!


Twitterで限定的にネームの一部公開してます。是非ご覧くださいませ!


漫画版はマジでバチクソに良いので公開をお楽しみに!


凡人探索者4巻、あともうちょいで情報お知らせ出来ます。

凄く楽しい本になる予定です。

書きたいものを書いた上でみなさまに楽しんでもらえるものになりました。


まだ書籍に手を出してない方も、4巻までにぜひ既刊チェック頂ければ幸いです。


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新作が、カクヨムコン9受賞致しました。

皆様の応援、ブクマのおかげです。

下記作品もぜひご覧下さいませ。

書籍化、コミカライズが決まりました。


【凡人呪術師、ゴミギフト【術式作成】をスキルツリーで成長させて遊んでたらいつのまにか世界最強〜異世界で正体隠して悪役黒幕プレイ、全ての勢力の最強S級美人達に命を狙われてる? …悪役っぽいな、ヨシ!】

アホが異世界で悪役黒幕プレイしてみるエンタメ作品


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― 新着の感想 ―
おいおいおい おーいおいおい(落涙)
[気になる点] INT2に下がったのにどこかのINT3の畑大好きっ子より賢くね?
[気になる点] 残り滓達どこ行ったんだよ全然出なくてさみしい。と思ってたら最後のあしゅふぃーるどさんに全て持っていかれたw
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