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23話 耳の創作

 

「気象庁から通達!! トーキョー全域に突如、え、F5級の竜巻が発生!!」


「ハァ!? F5!? ふざけんなよ! そんなのファンタジーとか映画でしか観測されない強さだぞ! 人間が簡単にミキサージュースになっちまう!」


「自衛軍からも通信です! げ、現場の写真、出ます!」


「こ、これは……」「な、なんなんだよ、これ」「あ、ああ……」


「……神様」



 総理官邸地下、サキモリの情報集約室。

 様々なモニターの集う暗い部屋に広がるのは絶望の声。



「赤い……竜巻……?」



 部屋の壁一面に広がる巨大ビジョンに映るのは、終末の光景。


 空が赤く、雲が渦巻く。



「……トーキョー23区全域を覆うレベルの竜巻です……原因不明……! ドーマンシステムによる解析も終了予定時刻が未定のまま!」


「こ、こんなの、人間が対応出来るレベルじゃ……」



 サキモリの非戦闘員、ロジスティックを担当するオペレーター達が嘆きの言葉を漏らす中。


 彼と、彼女。


 スーツ姿の小男と、ドレス型探索衣のアルビノの美少女が2人部屋の中央に仁王立つ。



「さて、ソフィ君。ここはどう手を打つべきだろうか」



 多賀が、ソフィに向けて声をかける。


 アレフチームは現在、ニホン政府との協働においてその役割を分けて行動している。


 味山只人は遊撃。

 グレン・ウォーカーはソフィの直下での行動。

 ソフィ・M・クラークは、ここ、サキモリ本部の防衛兼、作戦担当。



「自分の中に答えがある状態で、他人を試す為におためがこしのような問いかけはよしなよ、総理。ワタシは構わないが、あのバカはその類の行動を特に嫌う。怒りを買いたくないだろう? まあ、あのバカの独断専行はワタシの怒りを買ってるわけだが」


「……ふはっ」


「なんだい、多賀総理」


「いや、なんだ……君達は皆、彼の事を話す時似たような顔をするんだね」


「似たような顔……?」



 多賀の言葉にソフィが首を傾げた。

 形の良い眉が怪訝そうに吊り上がる。


「少し、嬉しそうな顔だよ、ソフィ・M・クラーク」



 多賀のヘラっとした笑い顔に、ソフィが一瞬目をぱちりと。

 寝起きの小動物のように、目を瞬かせた。



「……よしてくれ、アレタの機嫌が悪くなる。……さて、多賀総理。思考テストだ。神秘種との争いに必要な思考条件はなんだと思う?」


「困った事に私にはその問いに対する明確な答えがないね。そもそも君たちアレフチームがいなければ、争いにすらなっていない気さえしている」


「そこだよ、多賀総理。争いだ。そう、これはね、我々人類と神秘種との争いなんだ」


「……西表クンを呼んでおくべきだったかな。貴女の言葉はどうも非才の身では解釈すらも難しい」


「彼女は今、仕事の最中だ。安心したまえ、グレンが彼女の護衛についている。現状彼女はサキモリでの最強戦力だ」



 多賀は目の前のまだ成人にすら達していない少女に、歴戦の古政治屋を相手にしているような緊張を感じる。



「……よくみているものだね。だが、そんな彼女も我々が相対するべき神との戦いにおいてはまだ役者不足、そうなんだろう?」


「神……か」



 多賀の言葉にソフィが自分の唇を人差し指をそっと撫でて。


「いや、多賀総理。やはり、アレらは神ではないさ」


「……あのような真似が出来てもかい?」



 多賀が指差す先のビジョンには、今にもトーキョーの街に振り下ろされそうな赤い竜巻が蠢く。



「多賀総理、争いとは同じ領域の存在同士でしか成り立たない。つまり、神秘種は決して本当の神ではない。あくまで限りなく神に近い人類の敵性存在だ」


「……発展と繁栄の末が、神に近いナニカとの生存競争、か。つくづく思うが、人類には敵が多いものだね」


「敵と出会い続けるのが人生、生きるとはつまり争う事と同意だよ。多賀総理、いいかい? 要はこれは自然な話だ。我々が為すべきは生存競争だ」


「アレもまた、生き物だと?」


「ああ、その通り。人と神、互いに生息域と食料確保を兼ねた生存競争。人類は数億年にも渡る研鑽と継承を武器に、神はその秘匿された神秘を武器に。1000年先に生き残るは人か、神か。対等な条件で繰り広げられる戦争だ」


「それは、良いニュースなのかな」


「もちろん。なあ、多賀総理。水槽のなかの魚は外側を認識出来ると思うかい?」


「どういう事かな?」


「ワタシの思う神の定義の話さ。神とはつまり、水槽の外側に棲む者だ。水槽の中にいる我々人間に認知出来ない離れて隔てた場所にある者。ワタシに言わせれば我々人類が認知出来た時点で、それはきっと神ではないよ」


「つまり、神秘種は神ではない、と?」


「これがもし、水槽の外側に存在する者が相手なら我々にはどうしようもない。だが、神秘種は同じ水槽に棲む捕食者に過ぎない、ワタシはそれを神とは呼ばない、ただの滅ぼすべき敵、さ」


「では、目の前の、今私の街を壊し尽くさんとするこれは」


「神の怒り、神の裁きなんかじゃない。神秘種という生き物が持つ性能、とでも言うべきかな。観測可能な現象に過ぎない。……総理、安心したまえ、君の街は、そして君の国はこの程度では壊れない」



 ソフィが鼻歌を歌い出す。

 椅子を引きずり、大画面に映る終わりの光景を背景に。


 彼女の赤い瞳が、多賀総理を映す。



「……何故そう言い切れるんだい? クラーク女史。これは、私の目の前に映るこの光景はまさに神の裁きにーー」



 多賀は息を呑む。


 ぞっとするような美しさ。


 その少女が浮かべた妖艶とも言える微笑むに言葉を無くして。



「安心したまえ、多賀総理大臣」



 神の横暴、飲み込まれる人の街。


 神話の中で幾度も繰り返されてきた場面。



「我々には彼女がいる」


 だが、神話にはいつだってその者達が現れる。



「横暴な神を諌め、痛めつけるのはいつだって英雄の仕事だ。いや、違うか。それを行える者を人は英雄と呼ぶのだろうね、ああ、安心したまえよ。サキモリの諸君は休ませておいていい。これはまだアレフチームの能力をニホンへ売り込む段階に過ぎないのだから」


「だが、このままでは、あの竜巻は、トーキョーの街を飲み込んで」


「問題ない、既に彼女はサキモリの教育を済ませて出発した。ワタシのアレタ……いや」



英雄(アレフⅠ)が向かっている」



 神が人にその暴威を振るうとき、ソレは必ず現れる。


 英雄が、現れる。




 ◇◇◇◇



「神秘種は皆、こういうの出来るの? アサマ」



 風が、強く吹いている。


 アレタ・アシュフィールドは高層ビルの屋上で、ソレを見つめる。



「……できる。あさま達は人間と比べてもっともっと大きい」



 ぶすっとした顔の和風美少女。

 金髪混じりの黒い長い髪は強風にも関わらず揺れる事はなく。



「でも、この辺の説明はあさまじゃなくて、せらふーー」



 どこか神秘的な容貌の少女が目を瞑る。

 一瞬、カクンと落ちる首、次の瞬間には黒金混じりの髪は全て金色へ変わり。



「あっあー。アサマちゃーん!? あなたねえ、自分が面倒だからってすぐこの熾天使に押し付けるのはどうなんでしょう!? いえ、まあ、熾天使なので説明なんて余裕……あ、アレタ・アシュフィールド……なんで?」



 瞳の色もまた変わる。

 碧い瞳をまんまると開いて。



「ハァイ。貴女がセラフ? 髪の色が変わるのね。ああ、そうか。アサマの内側で眠ってる貴女は状況を常に把握してる訳じゃない訳ってこと?」


「う、うひゃあああ。ツラツラと淡々に言葉を続けるタイプのコミュニケーション! まあ、熾天使なのでこういう人の話を聞かない系の英雄ともコミュは簡単に取れちゃうのですが。ええ、アレタ・アシュフィールド。貴女の言う通りです」


「へえ、じゃあ、状況、また説明した方がいいかしら」



 風が、強く吹いている。



「いえいえ、超絶有能かつインテリジェンスの熾天使は察しが良すぎることで有名です。アレタ・アシュフィールド」


「アレタでいいわ、セラフ」


「では、アレタ。輝く英雄よ。貴女の言葉の通りです。神秘種は皆、これが出来る。いや、出来ると言うよりはーー」




 風が、強くーー。



 大オオオオオオオオオオオオオオ大オオオオオオオオオオオオオオ大オオオオオオオオオオオオオオ。



 紅い、竜巻。


 街一つ飲み込むのも容易だろう巨大なソレ。


 天と地を繋ぐような竜巻が、トーキョーの街に迫り来て。



「――こうなるのです。神秘種は意識的にしろ、無意識にしろ星の活動を狂わせる。アサマがイズ王国で"逆さフジ"を起こしたのと同じですね、イリオモテやグレンが現在対応しているサイタマでの怪物の大発生もまた、神秘種の影響です」


「ふうん、生きる災害って訳ね。迷惑な話だわ」


「……」


「どうしたの?」


「いえ、パパ上……いえ、アジヤマタダヒトはきっと苦労してるんだろうな、と」


「冗談! タダヒトに振り回されてるのはこっちよ? 彼、いつも思いつきで行動するんだもの。まあ、そこは見てて退屈しないから別にいいし、彼を御せるのもあたしくらいだと思うからそこは別にいいんだけど」


「うわ、早口……」


「別に普通でしょ? と、いうか。ねえ、パパ上? パパ上って貴方もタダヒトにそんな感じなの? そういえばまだあたし、きちんとあなた達の事説明されてないのだけれど」


「あー! あー! あ! アレタ・アシュフィールド! ほら、空! そらそらそらそら! 空が本当にやばい感じですよ! まあ、熾天使は問題ないですが、脆くて弱い人の子の街、滅びますが」


 セラフの小さな指が、赤い竜巻をさす。


 アレタのしなやかで長い指もまた、赤い竜巻を指さして。



「問題ないわ」


 ひゅ。

 ひゅる、ひゅる、ひゅるるるるるる。


 アレタの指先に現れるのは極小の竜巻。

 金の髪、黒い軍服がはためく中、英雄がにっと笑って。



「タダヒトが中にいるのなら、何も問題ない」



 神の暴威を目の前に英雄が笑う。

 神話の英雄とアレタの相違点は1つ。


 彼女は、迎えにきてもらえたのだ。

 彼女を、1人にさせないと決めた者達がいたのだ。


 セラフが、形の良い目をぱちくりと瞬きして。


「そうですね」



 英雄の嵐が神の災害を覆う。


 大きな風の音の中、地に堕ちた熾天使が、少し笑って。



「……この熾天使の翼を捥いだのです、確かに、異教の神もどき程度、始末してくれないとね」



 ◇◇



 黒い帷が落ちる。


 異界、この世界においてアレタ・アシュフィールドのみがたどり着いた現象。


 生命が最後にたどり着く進化の極致。


 神秘種は、既にーー。



「下等生物が、屈辱だ……だが、認めよう、貴様らは敵、だ」


 神秘、アレスの声が世界に響く。


 今、アカデミー周囲の世界のルールは書き換えられた。


 赤い空、赤い大地、数多の崩れた骸。


 その神の持つ神話、その権能に紐付けられた戦場の風景。



「……は、ははっ、これは流石に……!」


 強者だから気付く、詰み。



「来たれ、眷属、来たれ、我が神話、我が敵を、そう、貴様らは同族と同格、我が敵、戦争の敵!!」


『『『小さき者よ、我らが主の威にひれ伏せ』』』



 世界に神秘の眷属が溢れる。


 狼、犬鷲、鷹。


 神が従えた眷属のモチーフ。


 赤い空、赤い土の世界に見上げるほどの巨大な神獣が3頭。



「朽ち果てろ、負けて死ね、サルども」


「これは、……少しやばいな」


 鷹井が膝をつき、脂汗を浮かべる。


 部位保持者といえど、神の世界の中では――。



「ギャハハハハハハハハハ!! すげえ! でけえ狼と鳥がしゃべってる!!」



 だが、この男は変わらない。

 日常だ、この程度の事は、いつも通り。



「どうした、骨? 顔色悪いぜ」


「はは……味山只人、これは勝てないぞ、わからないのか? いや、わかるだろう?」


「知らん、まだなんも試してねえ。闘うぞ」


「どうやって、世界を塗り替える化け物だぞ、おまけに身体が……」



 鷹井が震える腕を味山に見せる。

 神性による人類への絶対優位。

 人間の肉体は神の威に本能的におびえる。



「大丈夫だって、多分これ、アイツ殺せばなんとかなるパターンだ。アシュフィールドとかアサマも似たようなことしてた気がするしな」



 がたがたと震えるのは耳男も同じ。

 だが、こいつだけ震え、震え、震えてもなお、なんら変わらない。

 震えつつも、いつもと同じ感じで敵を見つめて。



「……何か策でもあるのか?」


「あー、昔の人間はいい事言ったよな。目には目を、歯に歯を、化け物には化け物を」


「だから、どうやってーー」


「死ね! サルども!」



 神獣達が、一斉に赤い土を踏みしめて。



「ギャハ! 言ったよなァ!? 骨――鷹井、クソ耳、この化け物どもの力の使い方ァ! 俺達(部位保持者)の戦い方を教えてやるってよお!!」



 どろり。


 耳男の身体から無限に溶け堕ちる肉が蠢き、形を為す。


 魂の変形、己が魂に刻まれた記憶情報を、己の肉に反映させる。

 耳の怪物の不滅の肉体と、探索者という生き物の融合の結末。



「出番だ、クソダンジョンの――化け物ども」


 人間が、いや、この男だけは手にしてはいけなかった力。


 凡人がたどり着くわけがなかった力。



『GURU……おお、なんとおぞましい』

「……化け物猿が!」


「お、おいおい……耳……味山、只人、マジか……?」


 獣が、神が、人が。その本能を以て動きを止めて。



「耳の創作・バベルの大穴(味山只人の探索記録)



 怪物種の咆哮が、聞こえる。

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[一言] 西表なんて呼んでも何の助けにもならないと思うよ
[良い点] 鷹井はもうちょい頭のネジ外せばいい感じになるか。味山の探索記録って2周回目なら管理人含めれば強いけど怪物種限定だと神秘種のほうが上位互換だから厳しそうスペックとか上っぽいし神秘種も神秘の情…
[一言] ダンジョンマスターってそういうこと!?
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