《お前は導き、放り出した》間話 そのに
『――世界は滅ぶ!!!!!』
バカみたいな言葉は何も変わっていなかった。
撮影の休憩時間。
スタジオの全てのモニターは、その大事件を映し出す。
周りの皆が、騒然とする中。
私は呼吸すら、忘れ、ただ、画面を魅入る。
『ああ、TVの前の皆さん、すみません、多賀総理、少しビビらせすぎたかな。混乱してんだ』
露骨に顔に浮かぶ焦り、ほんと隠すの下手だよね。
『――これにて!! 第一回!! アレフチーム・ニホン合同による首都直下政府機能襲撃対応訓練の終了を宣言致します!!!!!!!!!』
『――あ?』
あ、コーヒー零した。
ふふっ。バカだなあ。
――見つけた。
なんだ、こんな所にいたのね。
ずっと、ずっと、生まれた時から何かが足りないって思ってた。
本当に大事なものを落として生まれてきてしまったような感覚だったの。
夢も地位も、欲しいものは全部手に入れてきた人生だったけど、どうも味気なかったのは――。
「味山只人……」
あ……やっぱり。
TVに移るあなたの名前を呟くだけで、ふふ、欠けてたものが埋まっていく。
忘れる訳ないとおもってたのに、忘れていたあなたの声、姿、思い出していく。
――世界を滅ぼす。なあ、アンタもやってみたくはないか?
忘れる訳がない、あの日の姿。
――人を殺したい、殺してみたい? ほーん……まあ、そういう奴もいるんだろ? クッソ迷惑な奴だけどよお
私の中に元からあるこの暗い衝動。
現代社会では決して認められる事のない宿痾。
――だったら、こうしようぜ。俺を殺してみろよ。〇〇さん
あなたは私を嗤ってくれた。
――最悪の手札を配られたみたいだな、でも、それがアンタなら仕方ねえ。嘘をつく必要も目を逸らす必要もないだろ。
あなたは私を見つけてくれた。
――だってアンタもまた、只の人だ。たまに人が殺したくてしょうがなくなるだけのクソ野郎だ。
あなたは私を恐れなかった。
――制御しろ、手綱を握れ。衝動に従うんじゃない、アンタが衝動を従えろ。
あなたは私を叱ってくれた。
――ぎゃははははははは!! レディースアンドジェントルメン!! 世界を滅ぼす準備はいいかァ!?
あなたは本当に眩しくて。
あなたは本当に輝いて。
――全部壊してやるよ。好きなように生きりゃいい。もう誰にもそれを隠す必要はなくなる
あなたは。
――俺も、アンタも同じ。人殺しの呪われた罪人でクソ野郎だ。でも、もうそれでいいだろ。
あなたは私と一緒にいてくれたから。
私もあなたと一緒がいいの。
あなたと一緒じゃなきゃダメなの。
ああ、全部、思い出した。
味山くん
味山くん、味山くん味山くん味山くん味山くん味山くん味山くん味山くん味山くん味山くん味山くん味山くん味山くん味山くん味山くん味山くん味山くん。
好き。
例え貴方が世界を終わらせても、例え貴方が世界を殺しても。
私はきっと、貴方をまた見つける。
そう、約束したよね。
――ああ、すみません、昔の知り合いに似てんなァって思って。すげえ美人で見た目完全に、なんかこう、後宮の美妃って感じなのに、妙に親しみやすい人で。
嫌。
貴方がたまに語る、私の知らない貴方の探索の物語。
雨霧、貴崎凛、アレフチームのソフィ・M・クラーク、グレン・ウォーカー。
バベル島の日々の話をする貴方は、嫌い。
そこに私がいないから。
そして。
――良い奴らでした。うん、本当に良い奴らだったんですよ。……たのしかったなァ
やめて。
見たくない。
貴方のそんな顔は。
ーーだからこれは、八つ当たりなのかもしんないですね。こんな事しても無意味かも知れないのに。でも、他にやる事もないんでね。
嫌、やめて。
そっちじゃない。私を見なさい。
私には貴方しかいないのに。
貴方は私、達以外の輝かん思い出に生きているのね。
貴方は私の光。全てを焼き尽くす傲慢な光でいてほしいから。
――〇〇 〇〇。汝、我が腕の業を腑分け、悍ましき業の尖兵となる事を誓うか
ええ、誓うわ。私は貴方の共犯者、私はあなたの虜ですもの。
――宜しい、ならば汝、我が腕を取り、世界の敵として我が敵を狩れ。素晴らしき樹冠として普く世界に伸び、我が敵を殺せ
ええ、貴方の為ならば。
味山くん。味山只人くん。
アレフチームじゃない。
私の知ってる君は、そこじゃない。
「ねえ、オビヒロくん。この前、来てたさ、国の広報、サキモリの話、まだ保留にしてたっけ?」
「……あ、はい! え、ていうか、このTVマジでヤバくないですか? 撮影……してていいのかな?」
世界中が、あなたを見てるね。
でも、あなたはもっとあなたらしくなれるから。
味山くん。
「オビヒロくん」
「え、あ、はい」
「スケジュール、空けて貰える? その広報の話さ、ノーギャラでもいいから絶対受けさせてね」
『え、総理、あんた、マジで?』
画面に映る貴方の姿。
本当に何も変わってないんだ。
迎えに行くね。
私を見つけて、私を認めて、私を導いてくれたあなたを。
味山只人。
私の、王様。
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