149話 貴崎凛の正念
◇◇◇◇
「教授。残念ですが、彼は貴女に渡しませんよ」
さあ、貴崎凛。
ここからが、正念場です。
「貴崎凛。言葉が間違っているよ。彼の身柄は西表個人のものではなく、サキモリ、ニホンが預かるべきものだ」
赤い髪の麗人。
恐らく現代ニホンにおいて最強の指定探索者が私を見下ろす。
嫌な予感は的中した。
あの時、無理やりにサキモリの本部を飛び出していて正解だった。
「貴女がここに来たということは、サキモリは――」
「ああ、先ほど多賀君からも正式な命令を受けたよ。”味山只人”の回収、いや保護の命令がね。彼にしては珍しく、そう、非常に強い言葉での命令だった」
「おじさまや貴女がこだわるほどの価値はこの人にはありません。彼に用があるのなら、彼が目を覚ました後、彼に直接話をして、彼の同意のもと連れていくべきです」
「ん~。おかしいな。キミらしくもない。非常に常識的で良識的な言葉だ。貴崎凛。バベル島での殿の時のキミはもっと、こう、イカレていたはずだけど?」
「怪物を殺すのが当たり前になっても、最低限のマナーを放棄する理由にはなりません」
「マナーとは人が人に用いるものだよ。そこの彼には適用されない」
かちん。
頭に血が上る。
全身の血液が、皮膚一枚下のすぐそこで茹っていくのがわかる。
「……どういう意味、ですか」
駄目、だめだよ、貴崎凛。
おこっちゃダメ。
ここで頭に血を登らせても何の意味もないからね。
私は自分の肩を抱いて、息を整えて。
彼女が、空に浮いたまま味山さんを指さして。
「あッはッは、だってそいつは人間じゃあないからさ」
あ~、斬っちゃおうかな~もう。
「ひっ……」
「……今、俺、斬られてなかった?」
「さ、錯覚です、殺気で、死ぬかと思った」
「これが、神秘種との戦闘経験がある指定探索者……」
思わず漏れた本気の殺気。
他のサキモリは青い顔してるけど、この人は――。
「ああ、良いね、貴崎凛。やはり、鋭く、冷たい。この狂った世界でニホンがまだ国家の体をなしているのもキミのような存在がいてくれるおかげだ、感謝するよ」
けろっとした顔で、彼女は微笑む。
感謝、その言葉にきっと嘘はない。
この人は私の殺気なんて気にも留めない。
「キミを指定探索者に推薦した甲斐がある。素晴らしい成長速度だ。本当に」
現代ニホン最強の指定探索者、西表波が本当にうれしそうに笑う。
嫌な笑顔ですね、本当に。
「故に、西表は今、さらに深い興味を彼に抱いている。貴崎凛、キミのような自我の強い人間がまさか他人のために怒るなんて。そこの眠っている彼は何者だい?」
「只の人です、それ以上でもそれ以下でもない」
「只の人! アッハ! それはいい! 只の人と来たか!」
くるくる。彼女が空に浮かんだまま、コロコロと転がり回転する。
赤い髪もまた同じように揺らいで。
まるで、重力を無視して遊ぶピエロみたい。
「素晴らしいじゃないか。ニホン中の才能、特異、特別を集め組織された護国の輩、サキモリ。その誰もが成し得なかったイズ王国の解体、それをたった一夜でやり遂げた男を、只の人! 言うねえ、貴崎凛」
「嘘つき。別に国なんてどうでもいいくせに」
「これは手厳しい。これでも私はそれなりに愛国心を持ち合わせている方なのだが……まあ、確かに個人的な興味が強いかな、その、"味山只人"を名乗る探索者には」
「北南事変とこの人は無関係です」
「貴崎凛、キミらしくない。それは無茶だ。あの"アジヤマタダヒト"と同姓同名。顔は……ふむ、アジヤマタダヒトは顔がわからなかったから判断できないが、肉片とのDNA判定など方法はいくらでもある」
ああ、もう潮時ですね。
「方法がいくらあっても、無理ですよ。教授。貴女がこの人のことを知る事なんて、ない」
捨てる。
この4年間積み上げたものを、私はここで。
「あっ」
「う……そ」
「き、貴崎パイセン、それはやめようよ~」
ごめんなさい、サキモリのみなさん。
ごめんなさい。今、私には余裕がありません。
私は刀を抜く。
あまたの怪物種の血を吸った古い刀を。
「おや、それは貴崎凛のビゼンオサフネかい? いい刀だ。ふむ、今ね、西表は本気で少し驚いているよ。貴崎凛、その行動が何を意味するか、分からないわけではないだろう?」
「要求は1つです。教授」
「うん?」
「この人を、味山只人が起きるのを待ってください。この人の自由意思を無視したことをしないでください。この人を怒らせないでください」
「……不思議だ。貴崎凛は私欲のために彼を保有しようとしているんじゃないかい? 今のキミの言葉はまるで――」
「趣味と実益を兼ねての進言です、教授、そしてサキモリ、ひいてはニホンへの」
そう、私は怖い。
味山さんを、ニホンが敵に回してしまうのが。
いや、味山さんがニホンを敵だと思ってしまうのが、1番怖いんだ。
「お願いです、これは警告であり脅迫であり、嘆願です、ニホン最強の指定探索者、西表波さん」
「……」
「彼は、貴女よりも強い……。そして、彼は敵を絶対に許さない……サキモリ、ニホン指定探索者貴崎凛として進言します! 味山只人の取り扱いを今一度考えなおしてください」
そう、きっと私以外にしらない事実。
味山さんは、本当に本当に、恐ろしい人だから。
「……単独で神秘種を屠り、異界を攻略する存在だ。そして、北南事変とも深いかかわりの容疑がかけられている、ああ、おまけにアレフチームである彼は現在も国際指名手配中。貴崎凛、すでに彼は封印収容対象者だよ」
「それがまずいって言ってるんです!! 無理です! 断言します! この人は絶対に誰かの思い通りにはならない! この人に対する企みは絶対絶対失敗します! そのツケは、ニホンという国が支払う事になりかねません!」
味山さん、私知ってるよ。
あの夜も、貴方は何かに怒ってた。
それで行ったんだよね。
あなたは自分のために世界だって敵に回してみせた。
「う~ん、恋というのは厄介だね、貴崎凛」
「は?」
「対象に対する絶対的な信頼、いや崇拝にも等しい理想の押し付け。今のキミはまともな精神状態ではない。名瀬君の言ってた通りだよ」
「名瀬先輩の名前がなんで出てくるんですか」
「ああ、ここに来る前にちょっと。君の恋路がどうとか言って攻撃されてしまったよ。まあ、今頃サキモリの本部地下で頭を冷やしている頃さ」
「……先輩にはあとでお詫びしないとですね」
「大丈夫、すぐに同じ地下保養センターへ向かわせてあげるさ。酔いすぎだ、貴崎凛」
もう話し合いは無理だ。
うん、わかってた。
味山さんに探索服の質問をして、あの答えが帰ってきた瞬間に。
「警告です、西表波」
もう、覚悟は済ませてる。
刀を振るう。地面にスッと、線を入れて。
「この線を引いた場所、そこに一歩でも近づいたら、斬ります。この人には指1本触れさせない」
「危険だ、そして同じくらい興味深い。アヌビスの尖兵との戦いを生き抜いた本物の探索者、そんなキミをそこまでおかしくさせた味山只人という人間に興味を禁じ得ない。どれ――」
来る。
西表が、人差し指をこっちに向けて。
「サキモリ同士での戦闘は禁止。だが、酔いに呑まれた者を止めるためなら仕方ない」
「冷静です、冷静ですよ、冷静に、当たり前のことを言ってるだけです。意識のない人を勝手に運んで監禁なんて、だめでしょ」
「ふむ、まあ、ケースバイケースさ。それに、彼には個人的に聞きたいこともあるしね」
ニホン最強の指定探索者。
たまたまその興味と好奇心が神秘種に向かっているだけの、化け物。
指から、ぱっと赤い光がーー。
「何、しとんねん! ボケ!!」
きん!!
西表の指先から放たれた何かが、撃ち落とされた。
空から降り注いだのは鋭い尾骨と、それを飾る濡れたような鴉羽。
「貴崎! 無事か!? ケガしとらんか!?」
「あはは……遅いですよ、クマ先輩」
『ぴよ……』
空から降り注ぐ声に私は安堵する。
大きな鴉、それに乗った小さくてかわいい黒髪の女性。
熊野先輩だ。
「西表ぇ、アンタ、自分が何してんかわかってんのか?」
「おお! 熊野!! 無事だったんだ! 良かった、よかった! 西表の予想では君はアサマとの相性最悪だったから、とっくに殺されてるか隷属させられてるかと思いきや! どうしてどうして、元気そうじゃないか!」
「うわ、キショ。一気に表情を明るくせんといてや。アンタのテンションの上下の基準がわからん」
「はっはっは、同期じゃないか、熊野。そんなに邪見にしないでおくれよ、……さて、あまり考えたくないけど、西表の隣に立つのではなく、前に立ちはだかるという事は……そういう事かい? 熊野?」
「頭ええくせに鈍いんやな。この兄さんには借りがある。ウチの目の前で余計な事すなや。しばくぞ」
「はははは、熊野~心配してたんだぞ、私は~。てっきりアサマの権能か何かに呑まれて廃人になってたもんかと。元気そうで何よりだ、サキモリとしてのキミの未来が楽しみだよ」
「……いや、イズのことが落ち着いたら、ウチは自首する。民間人を――殺した」
「く、クマ先輩……?」
「――キミは生真面目だねえ。熊野。異界内での出来事だ、ニホンの法でがきっとキミの罪を立証することは不可能だよ、黙っておけばいいのに」
「みじめな負け犬にはなっても、恥知らずのカスにはなれん。自分の価値を決めるのは、自分の行動のみや」
「おいおいおいおい……あまり美しい事を言わないでくれよ。いとおしくなってしまう……」
「クマ先輩、味方してくれるんですね」
「はっ、貴崎。ウチはこう見えても同期や先輩よりも後輩に好かれる性質やねん」
「小さいからですか?」
「お前、戻ったら探索者学園のグランド100周な」
「クマ先輩も一緒に走ってくれるのなら」
「言うやんけ、小娘。……あの味山の兄さんを西表に渡すんはまずい。どう考えても厄介や」
「はい、どう見てもあの人、味山さんと相性が――」
「良すぎやろうしな」「悪すぎでしょうし」
「「え?」」
思わず、顔を見合わせる。
クマ先輩のきょとん顔、あはは、少し可愛いかも。
ふと、こんな時なのに、私は無意識に、あ、聞いておかないとって思って。
「そういえば、クマ先輩。味山さんとイズ王国で行動を一緒にしてたんですよね?」
「あ、ああ、それが?」
一番これが、大事な事かも。
「――あげませんよ?」
「――へえ、知らんかった、アンタそんな顔もできるんやな。名瀬のバカと同じ顔しとるで」
クマ先輩が、にいいっと笑って。
「まあ、安心しとき。……ウチみたいな半端モンにはあの兄さんはもったいないわ」
少し、寂しそうにクマ先輩が目を伏せて。
あ、これまずいな。
脈なしってわけでもなさそう。
味山さんとクマ先輩、年も近いし、クマ先輩可愛いし、味山さんああ見えて普通に容姿の可愛い女にきょどる人だし。
「……クマ先輩は、味山さんが起きても、彼に話しかけるときは必ず私の許可を得ることにしてくださいね」
「お前自然にイかれてるんなんなん?」
「はははははははははははは!! 美しいな! 貴崎凛、熊野!」
嗤い声。
赤い髪がくるくる回る。
「これは興味だ、これは勉強だ。これは発見だ。君たち2人、人類の特異点ともいえる神秘種に抗える存在が2人そろって、後ろの彼のために論理的でない行動を選んでいる。西表はますます、味山只人の事が気になってきたよ」
ぼう、ぼう、ぼう。
彼女の背中に、模様が走る。
「サキモリの中でも最上位の戦力、鴉使いに剣鬼が相手とあらば、西表もまた、大人気なく全力で挑ませてもらおう。ああ、周囲のサキモリ諸君、自衛軍諸君! 民間人への被害の心配はいらない、つきさっき、新たな技術を覚えたからね!」
「貴崎、アレを人と思うなよ、死ぬで」
「もとより、教授を人間のくくりには入れてませんよ」
バベル島攻略戦にて、1000の怪物種の討伐と5の神秘種との戦闘を経たニホン最強の戦力。
「ぐー……ご……」
味山さんの寝息が聞こえる。
ごめんなさい、そんなとこで寝かせてしまって。
ああ、でも、よかった。
今回はあなたを見送るんじゃない。
前に進むあなたの背中を見る事しかできなかったあの夜とは違う。
「西表教授。私、やりたい事があるんです」
「ん?」
「あの時はダメだった。私は弱くて勇気がなくて、見送ることしか出来なかった」
もう、嫌だ。
自分が弱いせいで自分が決断出来なかったせいで。
置いていかれるのは、もう嫌だ。
「ぐー、ぐ……ごご……」
ねえ、呑気に寝てる貴方。
ほんとは私、あの夜、行かないでって言いたかったんだよ。
置いていかないで。
私を見て。
帰ってきてって言いたかったんだよ。
ーー進む!!
でもさ、あの夜のあなたは本当に綺麗で。
言えなくなった。何も。
進むあなたが夜なのに、眩しくて。
私は、見送る事しか出来なかった。
本当に言いたいことは、言えなくて。
「あの夜出来なかったことを、今、やります。私は、味山只人についていく」
「…君にそこまで言わせるのは、普通じゃない。……異常と呼ぶほかないね」
いつしか、西表教授の顔から笑みは消えていた。
「いつものヘラヘラ顔が消えたなぁ、西表。今更貴崎にびびっとんのか」
「西表は"勤勉"でね、悪ふざけしている余裕はないと判断したよ。……これでもサキモリ最強、ニホン最強の護国の駒だ。貴崎凛、君の言う通りにさせるわけにはいかないね」
ニホン最強の指定探索者。
それはつまり、現状この国を国家たらしめている最大の力に他なりません。
ああ、いいですよ。
あの夜、味山さんは邪魔する全てを蹴散らして前に進んだ。
この人と、先に進みたいのなら。
この人と、探索を共にしたいのなら。
「ーー西表越え」
サキモリの序列を決める際に行なった模擬戦闘。
最強の指定探索者に挑むそれを、いつしかみんな、そう呼ぶようになった。
「ええで、貴崎、付き合うたる。頭の固い同期をしばくのもたまには良さそうや」
「……いいさ、超えてごらん。どのみち早くそのくらいやって貰わなければ間に合わないだろうしね」
赤い髪が逆立つ。
彼女の背後に、いくつもの赤い幾何学的な紋様が浮かび、輝いて。
「人類軌跡、出航」
バベル島攻略戦、あの絶望の負け戦において唯一、負けなかった存在の力。
味方にしてる時はあんなに頼もしいのに、敵に回した途端ーー。
「勤勉に、この世界の維持の為。貴崎凛、少し、頭を冷やそうか」
「指定探索者、貴崎凛。指定探索者に認められた権限により、補佐探索者、味山只人の引き継ぎ保護権を主張します」
「熊野ミサキ。義により、貴崎凛と味山只人の保護を進言します。聞き入れてくれんのなら……実力行使させてもらうわ」
「指定探索者、西表波は、貴崎凛、熊野ミサキが極度の……神秘種による魅了状態と判断。これを、実力をもって鎮圧する」
すでに、他のサキモリと自衛軍の方達は逃げている。
ここにいるのは、皆、指定探索者。
みんな、私の同類。
巻き込むことは心配いらなくて。
「おいで。ニホンの古い血脈を伝承する一族の者よ。西表が、勤勉な君たちの道を評価しよう」
「舐めんなよ、化け物モドキ、行くで、八咫烏」
「人ならざる者を狩るのは、お家芸です。ーーニホン最強の指定探索者、いえ、生き物を超えます」
血が熱い。
背後にいるあの人の寝息が、ここちよい。
私は、浮いているような高揚感に、身を任せて。
これが終わったら、終わったらね。
味山さん。あなたに言いたいことがあるんだ。
聞いて、くれるかな。
聞いてくれたらいいな。
◇◇◇◇
のちに、その戦い。
サキモリにおいても有数の戦力である剣鬼と鴉使い。
そしてニホン最強戦力、西表波。
三名の戦いを見ていた者はこう語るーー。
ーー元イズ王国国民、改め、細井蓮司。
「いやほんとにさあ、ビビったよ! 自衛軍の軍人さん達が急にピリつき始めてさあ! 俺たちをトラックとかバスに乗せてその場をすぐに離れるって言い出したのよ!」
「え? いや、勿論素直に従ったよ! こんな世の中になっても俺たちを見捨てずに助けにくれた軍人さんの言葉だもの、言うこと聞くに決まってんじゃん。でもさ、俺みちゃったのよ」
「人って、あんな感じに飛び跳ねて、転がって……そう、あそこまで動けるんだなァって」
「いやいや! あのカラスを連れた可愛い女の子、てか巫女さんとか、あの最初から空を浮かんでる赤い髪のかっこいい女の人とかわかるよ、だって見た目からしてもう空飛べるじゃん。でもさ、もう1人の黒髪ポニテの超美人は違うのよ!」
「普通に、こう、どんって! ジャンプよ、ジャンプ! ホテルの建物とか、乗り物とか、そういうの足場にしてさあ。それでほら! ゲームでさ、空中ジャンプとかするじゃん! アレよ、アレ! いやあ、探索者ってすごいんだなあ……」
「え? 耳の面の男の戦いはどうだったかって? ……まあ、うん……」
「アレは、ほら、化け物同士の戦いだから……」
ーー自衛軍イズ方面対応軍第2中隊歩兵ミドウ分隊、隊長瓦 岩男。
「小官は自衛軍の軍人であります。サキモリはニホンが保有する戦力であり、我々自衛軍と共同戦線を張る仲間。……機密保護の対象となりますので、質問にはお答えかねます」
「……ああ、なるほど。わかりました。そう言うことならお答え致します。原則、我々自衛軍は等級が2級以上のサキモリが戦闘を開始した場合、即座に戦闘域からの離脱を前提としています」
「ええ、あの場で退避の命令が出たことに異論はありません。何せ、最上位のサキモリ3名の戦闘です。そのうち1人はかの西表教授。そしてそれを迎え撃つのは、貴崎凛と熊野ミサキです。この3名の存在で、4年間、自衛軍はその損耗の半分を抑えているほどです。力は充分に理解しています」
「とりわけ、貴崎凛氏の活躍は華々しい。4年前、彼女はまだ学生の頃からサキモリの活動に協力。多くの国民の命を救ってきました。……本来ならば、我々が守るはずの国民、そして子どもを戦わせてしまったこと。そして、彼女の有意性がさらなる"才能あるこども"達を戦力として扱う風潮を加速させたのは……皮肉なものです」
「サキモリ、指定探索者とはやはり特異な存在です。彼らがいなければ、今頃ニホンは国家の体裁を保つことすら難しかったのではないでしょうか」
「え? 耳男……ですか? ……そう言えば、昔、バベル島で起きた大規模なスタンピード。バベル島防衛戦においての戦場伝説の一つにその存在が語られていますね」
「ですが、あのあたり話はほとんどが眉唾です。人間を材料にした怪物種、肉人形。そして人間の味方をしていた耳男に納豆男。挙げるとキリがありません」
「え? 納豆男は実在する? はは、またまた」
ーーその辺を歩いていたAさん(年齢性別名前不詳)
「え? ああ、西表越え、貴崎凛さんと熊野ミサキさんが挑んだやつですか? 見てましたよ。凄かったですね」
「うーん、まあやっぱり指定探索者は強いですよね。取り分け自分が意外だったのは、熊野さんですね、あの人こんなに強かったんですね。だいたいイズ王国を解放した時ってもう熊野さんいないことがほとんどだったので驚きました。まあ、そりゃ意思ある遺物を一族単位で飼ってるのは強いですよね」
「あー、貴崎さんですか? まあ完全に成りましたよね。元々素質はあったけど、バベル島防衛戦で、脳みそと1人でやり合ったのが転機でしたよね。鬼の血も4年前とは比べものにならないくらいうまく扱えてましたし。元々あの人、ポテンシャルで言えば、アレタ……ああ、そう言えばまだアムネジアシンドローム残ってるのか。まあ、現代最強の異能と比べても、遜色ないかと」
「でも、やはり、西表さんでしたね。勝ったのは」
「まあ、仕方ないですよ。西表さんは、このver2.0の世界への対抗存在、多賀さんと同じ人類側のカウンターですから」
「あー……でも、耳の部位保持者が眠っちゃってましたよね……そして、西表さんが勝ったから、あ〜しばらく封印か〜。まあ、まあまあまあ気持ちは分かりますよ。西表さんは飄々として浮世離れしてるように見えて本音はめちゃくちゃ繊細なので。ええ、貴崎さんの影響されよう見て、怯えるのは無理ないですね」
「多賀さんもね〜非常に有能で頭がいい人なんですけど、今回はその有能さが裏目に出ましたね。あの夜に凡人探索者を前に進めたのは良かったですけど、耳の部位保持者だからな〜。多賀さん、惜しかったな〜サキモリ揃えて、ニホン守って……でも、やはり、アジヤマタダヒトが怖かったんでしね〜」
「いや〜残念です。ここで貴崎凛が勝利して、そのままアルファチームと合流出来てれば、まだ望みはあったんですけどね」
「え? ああ、時間切れなんですよ」
「今日は2032年8月31日。夏休みが終わりましたね」
「空が真っ赤でしょ? 終わりなんです。多賀さんも西表さんも失敗しましたね」
「まあ、イズ王国を3月に解放できたとこまでは良かったんですけどね。4月にシエラチームを失った事、天邪鬼にトラウマ回復の期間を与えた事、神秘種を削りきれなかった事。バベル島をほったらかしにした事とか色々ありますけど.1番はーー」
「戦力不足です」
「何もかも足りませんでしたね。最低でも、52番目の星がいないと神秘種の抑止力になりません。西表さんだけじゃ、厳しいですよ。あの人はあくまで人類のカウンター。道具側の存在なんですから」
「多賀さん1人頼みも良くないですね。頭の良い人だけじゃ、対応出来ない事もあります。今まではそれでも有能なんで手が回ってましたけど、残念です」
「あ、今頃目が覚めたようですね。あ〜、痛ましいですね。アサマとセラフも頑張ったけど……相手が悪い……ああ、翼がもがれて……可哀想に……名前もつけてもらえずに……あーあ、勿体ない。会わずじまいで終わりかー」
「熊野さんも、……ああ、桜野くんが早く逝きすぎましたね。八咫烏も限界……あっ、落とされた。あ〜見てられないですね。餓鬼の群れです。楽には死ねませんね」
「あーあ、天邪鬼をフリーにしておくから、伝承再生が完全に利用されて……転生しちゃってますね」
「そのほかも……お、アックス村山さん、凄い、まだ生き残ってますね。さすがは最優の斧使い。サキモリでもないのになんなんだ、あの人」
「トゥスクの民ナシでこれは、キツイなー。ああ、スカイ・ルーンに、ルイズ・ヴェーバーも……食べられましたね」
「あ、貴崎凛はまだ生きてますね、強いなほんと」
「あー、でも、みんな死んでいきますね」
「ぜーんぶ終わりです」
「あぽかりぷす」
「あ、封印式の棺桶が動き始めましたね。まあ、もう手遅れなんですけど。……凡人探索者、貴方ーー」
「完全に寝坊しましたね」
次回から新章入ります。
たのしい現代ダンジョンライフをおたのしみに!
書籍2巻、沢山予約ありがとうございます!
皆の購入が、社畜にWEB更新をさせる活力になるんだ。
つまり、この話は読者のみんなが書いたと言っても過言じゃねえ。




