148話 夜明け・ver2.0味山只人戦力状況
◇◇◇◇
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――ギャハハハハハハハハ!! ンギャーハッハッハッハ!!
「う、うわあああああああああああああああああ!! わ、私の傍に近づくなああああああああああああああああああああああああ……あ、ああ……夢、か……」
それは、目を覚ました。
権能による依り代の移動、肉体の死という法則から逃れる外法。
不滅の存在。
この国に伝わる古い神秘。
「はあ、……はあ、ふ、ふふふふ~よかった、無事、無事に新しい器に……」
天邪鬼、再臨。
ニホンの領土を異界化せしめた脅威の神秘。
全ては己の楽しみのため。
他者を貶め、すべてを嗤うトリックスター。
たとえこの存在を殺す事に成功しても、この存在を滅ぼす事は出来ない。
ニホンという国がある限り、そこに生きる人の肉体に必ず還ってくる厄介者。
「そうだ、私は滅ばない、私を脅かす者など存在しない、私には天敵などいな――」
このVer2.0の世界のルールにより、現代に帰還した神秘の中でも人類にとっての大きな脅威――
――ギャハハハハハハハハ!!
「ひ、ひっ!!? い、いるのか!? ど、どこですか!? で、出てこい! 味山只人!!」
だった。
転生、憑依直後。
本来なら天邪鬼が最もその邪知暴虐に思いを馳せ、自らを追い込んだ者への報復の想像に悦に浸るはずの時間。
だが。
「ああ……笑い声……嗤い声が聞こえる……!! 見られてる、見られてる!!? どこだ、どこにいる! ああ、やめろ、笑うなァ~この私を、嗤うんじゃあない~」
寝床へ頭を押し付け、身体を丸めて震えるその姿。
その存在にはある男の姿と声が染みついた。
殺される直前まで響いたあの嗤い声、もう離れる事はない。
「ああ、ああ!! 窓!? どこに、どこにいる!? ああ~やめろ~やめろ~、会いたくない、もう二度と会いたくない~嫌だあ~」
暗い部屋の中、天邪鬼はかちかちと歯を鳴らし、身体を震わせて。
こんこん。
「ひっ」
部屋のドア、ノック。
「先生、そろそろ朝です、言われた通り起こしに……って、何してるんですか?」
新しい身体、新しい人生。
天邪鬼の次の遊びが始まる、だが――。
「い、いや、その……あはは~寝ぼけてしまいました~」
「……布団にくるまってどうしたんですか? 何か……身を守ってる的な?」
「あ、はは~。ええ、身を守る、ええ、ええ、世の中、物騒ですからね~」
トラウマ。
もう天邪鬼の耳から嗤い声が消える事は、ない。
◇◇◇◇
「綺麗ですね、味山さん。みてください、数年ぶりにこのイズ半島は今、人類の領土に戻りました」
「……貴崎、お前、なんかデカくなった?」
「えー、味山さん、えっちですね〜、私のどこを見てそう思ったんです?」
「うわ、めんどくさ! はあ、……マジで貴崎か……貴崎が大人になってる」
「貞操的にはまだ子どもですよ?」
「その反応、完全に大人の奴じゃん」
エアバイクが切る風が、気持ち良い。
味山はバイクの後部座席に座ったまま、言葉を交わす。
目の前の、美女。
視線をどうしても寄せられる美しい容姿、
女性として完成されつつも、どこか懐かしさを感じるような少女性。
へらへら笑う顔、八重歯がちょこんと覗く。
その表情は、昔と大きく変わらない。
「あれ〜味山さん。なんですか、そんな私の顔見て。もしかして、見惚れてました?」
「ああ、びっくりした。やっぱお前、美人だな」
「……ずるいなあ、ほんと」
ぱっと、貴崎が前を向く。
もう彼女の表情はみえない。
バカなので思ったことがすぐに口に出てしまうバカは自分の言葉が目の前の女にどれほどの影響を及ぼすか、わかるはずもない。
「……なあ、貴崎。あの夜、俺たちがバベルの大穴へ向かった日から、本当に4年経つのか?」
「はい。味山さん……と会うのは4年……です、そうに決まってます、絶対に」
「貴崎?」
貴崎はこちらを見ない。
その口ぶりは何か、妙だ。
願う、祈るような――。
「味山さん、一つ聞いていいですか?」
「おう、どうした? あ、もしかして耳男のことか? 話すと長くなるからもう少し落ち着いた場所でーー」
「味山さん、探索服はお持ちですか? お願いです、正確に答えてください」
「あ? 探索服?」
真面目に答えろと言われたので、味山は少し考える。
探索服。
今、味山の所有している探索服は2つある。
アレタ・アシュフィールドを取り戻しに行った際、全員で合わせてそろえたガスマスク付きの決戦装備ーーA装備。
そして、いつも着ているお気に入りのワーカーズセレクトのベースモデル(黒)。
バベルの大穴でアレフチームと別れた時に来ていた服。
いつものカーゴパンツにマウンテンジャケットのベースモデルだが――
「あれ、そういえば……俺の探索服、どこだ?」
「――……」
記憶を思い起こす。
イズ王国。
味山の記憶は、確か。
「……あれ? 俺……白川さんに拾われて……」
違和感。
イズ王国とニホンの境界線で味山は白川に拾われた。
そのままイズ王国に入国し、労働者として昼の間引きに参加。
そして指定探索者の桜野と出会ったのが昨夜の話だが……
「……考えたら、その辺なんか記憶があいまいだな。なんかノリですぐに怪物狩りに参加させられてたし」
「そう、ですか……これは、覚悟決めないと、かもですね」
「あ? なんだそりゃ。……ん、ふわあ……あ、悪い、なんか急に眠気が」
「……そろそろ地上に降ります。あ、見てください、味山さん」
「あ?」
貴崎に促され、味山は下を見る。
あのホテルの駐車場、たくさんの作業着姿の人間がこちらに向けて手を振っている。
「あの人達は本当なら、諦められていた人達です、イズ王国に取り込まれ、神秘種の餌になるしかなかった人たち、私たちサキモリが助けなかったいけない人たちでした」
「サキモリ……ああ、貴崎も確か、それに入ってんだったな、すげえ、出世したな」
「でも、私たちは何もできませんでした。味山さんは、いつもどうしようもない事をなんとかしてくれますよね」
「……おお? もしかしてなんか褒められてるか?」
「ふふ、はい、ほめてますよ。……いつだって貴方はそうでした。初めて会った時もそうだったし、今はもう懐かしいバベル島での日々もそうだった。貴方は自分の為って言いながら、何度も私を助けてくれた、道を示してくれた」
「……貴崎?」
眠い。
とても眠い。
呼吸をするたびに、眠気が濃くなっていく。
「ごめんなさい、なんか、その。ずっと、ずっとね、また会えたら何を話そうかって考えてました。貴方のいないこの4年間、沢山の事があったんですよ」
「でも、実際顔見たら、全部吹き飛んじゃって。何、話したら良いんだろってなってたら……あはは。核心部分だけ聞いちゃった。バカだなあ、私」
「何……言ってんだ?」
「ねえ、味山さん。懐かしいね、本当に。4年会ってないだけなのに、私はこんなにも変わっちゃった。でも、貴方は何も変わってないんだね」
バイクが下降する。
イズ王国の民、いや、そこに囚われていたイズの住人たちが出迎える。
「おーい、こっちだ! 耳の化け物!! 生きてるかー!」
「見てたぞー! 逆さ富士、消えちまったなー!」
「ありがとう、ありがとう!! アンタのおかげで助かった!」
「かっこよかったよー! ビジュアルは最悪だけど!」
「アサマ様を送ってくれてありがとうございました!」
歓声と笑顔。
イズ王国の朝は人々の活気に満ちる。
「貴方が進んだから笑ってくれてる人がこんなにいます。……ほんと、すごいなあ」
「おー、わらわらと。あの趣味の悪いお面も外れた見たいだなァ……ふわ……ぁ」
「味山さん? 大丈夫ですか?」
「おお、悪い。夜通し戦ってたせいか。眠くて眠くて……
「待ってくださいね。あともう少ししたら休める所に連れて行きますから。そろそろかな……」
「おお……サンキュー、なんだこれ、本当に眠い……」
滞空したまま、バイクはゆっくり、ゆっくりイズの空を飛ぶ。
民家、田畑、山、カルデラ。
人の営み、星の営みを足元に景色がゆっくり流れていく。
朝日が心地いい、頬に触れるそよかぜも優しく。
「……ねえ、味山さん。お話してください。今までどこにいたんです?」
「あー? バベルの大穴だよ。アシュフィールドのバカを連れ戻して、それからまあ、色々あってな。早くアイツらと合流して、ダンジョンを潜らないと」
「アシュフィールド……それが、あの日、あの夜、貴方が進んだ理由ですか?」
「お? あー、そうか。アムネジアなんとかで、お前もアシュフィールドの事、忘れてんのか」
「それ、もしかしなくても女ですか?」
「おお、貴崎。お前、すげえ目つき出来るようになったな」
「……不思議ですね。ふわふわして何喋ったらいいかわかんないのに、笑っちゃうほど味山さん、普通で、錯覚しちゃいます。4年振りなんて嘘みたい」
「……あー、やっぱそこ考えねえとな」
目の前の、成長した貴崎の姿を見て味山は確信する。
自分たちがバベルの大穴で過ごした時間と、地上で進んでいる時間には大きなズレがある。
イズ王国に居た時はゴタゴタして考えるのはやめていたがそろそろ真剣に今の状況のことを考えないといけないかもしれない、だがーー。
TIPS€ 耳男、使用完全超過。活動限界
「眠……やば」
頭が回らない。
「味山さん、眠いんですか? 今、バイクを地上に降ろします」
「お〜……悪い。貴崎の運転が上手くて……リラックスしすぎたか?」
「それは良かったです。このバイク、お気に入りなんです。……もう味山さんが空飛ぶ車に乗ってても追いつけちゃいます」
ふと、思う。
あの夜。
アレタ・アシュフィールドを追って世界に逆らった日。
貴崎凛は、自分の立場や命すら投げ打って助けてくれた。
「……貴崎」
「はい、味山さん」
「無事で……良かった。あの時、ありがとな」
味山の、意識が薄れる。
逆らう事すら許されない眠気の中。
それでも絶対に伝えておかないといけないことを、伝えて。
「ーーどういたしまして」
バイクが、着地。
そして。
「あ、むり……ごー、ごー」
「あれ、味山さん!? うそ、ほんとに寝ちゃった……」
バタン。
同時に味山が崩れ落ち、地面に転がりイビキを立て始める。
貴崎が、慌てて味山を起こそうとーー。
「……触れる」
彼女の動きは、ぴたりと止まる。
無防備に眠る味山の顔を目にした途端に。
ぷに。
貴崎がその場にしゃがみ込み、味山のほおを指で突いた。
「ふ、ふふふ、いる。本当に目の前に……味山只人がいる……はは……」
ぷにぷに。
孤独が癒える。傷が塞がる。
貴崎凛は4年前の冬に、傷を負った。
1番欲しかったものが己の目の前からいなくなる。
その手伝いを、後押しを自分がした事。
そんな事しか、出来なかった。
「味山さん、ほんとはね、私、ほんとはね、あんな事、貴方を見送るなんてしたくなかったんだよ」
触れたら壊れてしまう繊細な何かに、恐る恐る触れるように。
本当はめちゃくちゃにしたい欲を抑えるように。
貴崎凛の細く、白い指が味山の顔を撫でる。
鼻を、まぶたを、額を、耳を、そして、唇を。
「……生きてる。息、してる」
イズに住む人々が遠巻きにその様子を見つめている。
彼らにとっては神であったアサマと対等に殺し合い、戦い続けた化け物のような男は眠りこけ。
その男を現実離れした容姿の美女が、本当に愛おしそうな顔で突いている。
「……と、倒錯してるゥ」
「愛じゃよ……」
「若いっていいわぁ」
「綺麗……」
富士山お面を外した彼らが、貴崎と味山の姿に様々な感想を浮かべ、見守る。
朝日が、まぶしい。
雲の隙間から降り注ぐ日差し。
眠りこける味山と、嬉しそうにその顔をつつきまわす貴崎を照らして。
「ああ、ようやくのお出ましですか」
貴崎が、うざったそうに、目を細めて。
――ロロロロロロロ
エンジン音。
イズ王国に彼らがやってくる。
軍用車両、ヘリコプター、ドローン、戦車。
異界化していた国境沿いに待機していた自衛軍、そしてサキモリの人員が次々と。
「総員! 国民の保護活動を開始!! 周囲の怪物種に警戒しつつ、救助、保護を開始しろ!」
「了解!」
「こちら、イズ王国方面軍、異界の境界の消失を確認、繰り返す、異界の境界の消失を確認」
「西表教授がじきおいでになる、ヘリコプターの高度に気をつけろ」
続々と人員が配備されていく。
「体調に不安がある方はこちらへ! 救護所を仮設的に設けます!!」
「トリアージエリアはどうしますか!?」
「予想より、けが人がいない……? それに体調が悪そうな人も少ない」
「他の地区も似たような感じらしいです! 神秘種の異界に長期間いたのに、精神的、肉体的にもダメージを負っている人が少ない……?」
イズ王国にとらわれていた人達の治療、チェックをするもの。
「おいおい……あの貯水タンク……ありゃどうなってんのよ」
「なんか引きちぎられているようにも見えるんですが」
「あ、あの、サキモリから提供されたドローンの映像に、なんか化け物が貯水タンクを根元から引きちぎって、あの屋上から飛び降りる映像が……」
「B級映画の話をしてるのか?」
「ここの地面、ガラス化してないか?」
「嘘だろ!? 何百……いやコンクリだから数千度は必要だぞ!」
「どう見ても戦闘の痕だが、……サキモリの報告では探索者と神秘種の戦闘があったと聞いてるけど、これじゃ神秘種と神秘種が縄張り争いしてたってほうが納得できるぞ……」
味山とアサマの戦いの余波を調査するもの。
自衛軍の人員が次々と仕事を始める。
そして。
「あ、お待たせしました! サキモリです! 付近、半径10キロ圏内の怪物種の掃討、完了しました!」
「あー楽しかったァー! やっぱ怪物ぶっ殺すのが1番たのしーやー!」
「さ、サキちゃん、そーゆー事言ったらダメだよ……」
「イリオモテのお姉さん、まだかな」
「見ろ、本部から送られた映像で見た男だ……」
「耳の面は、なさそうだが……」
「えっ、嘘! アサマと殴り合ってた奴!?」
「じゃああれが、神秘種アサマと、逆さ富士を攻略した探索者……ってこと!?」
サキモリ。
Ver2.0を迎えた世界で、ニホン99代総理大臣、多賀が揃えた国家戦力。
武家の出、陰陽の末裔、霊媒師、公務員、探索者。
指定探索者認定を受けた人員だけで構成された護国組織が、その男へ視線を――。
「お疲れ様です、皆さん」
視線を、さえぎる者がいた。
サキモリ達の視線、警戒、驚嘆、そして敵意と恐れ。
それを含んだ視線を、遮るは、鬼の末。
「ずいぶん、遅かったですね」
貴崎凛が、味山の前に立つ。
「き、貴崎パイセン……本部の報告通り、マジで命令無視してきちゃってんじゃん……」
「あれが、貴崎凛。バベル島防衛線で、殿を果たした指定探索者……」
「"アヌビスの尖兵"と戦って、生き残った奴だ……」
「イリオモテさんとどっちが強いのかなー?」
「ひっ、サキちゃん……あの人、怖い……ヒトじゃない……」
その場に集ったサキモリの人員が表情を強張らせる。
剣鬼。
サキモリの中で最も多くの神秘種との戦闘経験。
そして生存を果たした戦力。
それの放つ敵意は、もはや人間のそれと隔絶していて。
「……貴崎さん、そこで眠っている人が……”味山只人”ですか?」
「ええ、そうです」
「「「「「……!」」」」」
彼ら、彼女の顔が強張る。
サキモリ、彼らにとって"味山只人"という名前の持つ意味はーー。
「アジヤマタダヒト……あの北南事変の……?」
「でも、あの探索服じゃないぞ……」
「あり得ねえだろ。まだホッカイドウとオキナワの封印術式は作動してんだ」
「端末の監視映像でも木像が残ってるのを確認した……」
「皆さん」
サキモリの人員はみな優秀な探索者だ。
出自や力は違えど、みなそれぞれに修羅場をくぐりぬけてここにいる。
そのサキモリの人員をして、目の前の女、貴崎凛の存在は、その声は――。
「彼は、違います。北南事変を起こした”神秘種”とは違う存在です」
口をはさむ事など許さない。
サキモリ、そしてそれを見守る自衛軍の人員は錯覚を覚える。
「ひっ」
己の首にあるはずもない白刃がそっと添えられているような、錯覚。
剣鬼の言葉に余計な口を挟めば――。
「指定探索者の権限の元、私、貴崎凛が彼を個人として保護します」
「「「「「……」」」」」」
ありえない話だ。
すでに味山只人は一個人の意思の元に処遇を決めていい存在ではない。
神秘種の討伐、そして何より世界初の偉業。
異界化した領域の解放者。
国家レベルでの対応が必要だ。
そんな事、貴崎もわかっている。わかったうえで。
「この人は、自由じゃなくちゃいけない。今、ニホンにこの人を渡せばきっとよくない事が起きます。サキモリの皆さん、お願いです。どうか、そこをどいてください」
丁寧な口調、だがそれを向けられた人間はたまったものじゃない。
あの絶望の戦い、はっきりと神秘種と人間の格付けを決めてしまった負け戦、第二次バベル島攻略戦。
殿を果たし生還した英雄の、殺気。
「お願いですから」
下から目線の、脅迫――。
その場にいる全員が息を呑んで。
「いや、それは無理な話さ。貴崎凛」
がちゃん。
ドアノブが、開かれる音。
「え」
「あ」
「うっわ、なんかまた新しい事してる」
「あれ、オキナワの間引きに行ってたんじゃ……」
扉があった。
空中に置いてある扉、ドアが開く。
そこには。
「ああ、なるほど。異界の応用はこういう風にするわけか。ふむ、面白い、この世界は勉強する事ばかりだ」
細身の身体。
シックな茶色のスラックスにサスペンダー、白いシャツに薄手のベスト。
その上から羽織る武骨なフライトジャケットが、妙ないびつさを思わせる。
「そして、何より面白いのは、その男、味山只人。世界初の単独での神秘種討伐、および異界領域の攻略……実に面白い」
しなやかな身体は、豹が着飾っているようだ。
一目を引く真っ赤な髪は短く後ろでひとまとめにされて。
麗人。
性別がわからない。
いやその存在にはそんなもの必要がないほどに完成された容姿。
その人間が、空に浮かんだまま、貴崎を見下ろして。
「さて、神秘種を踏破した人間だ、きっと素晴らしい、勉強になる」
赤いカラーコンタクトで飾った赤目を、すっと薄めた。
◇◇◇◇
TIPS€ お前の報酬を並べてみろ
NAME 味山只人
RACE 人間 ホモ・サピエンス
STR(筋力)……5
INT(知性)……3 →2DOWN!!!(耳男なんてノリノリで使う人間にINTが3もあると思うなよ)
POW(精神)……6 →7NEW!(お前は嵐を乗り越え、神を制覇した。あとはーー)
所有遺物 無し
〜保有技能一覧〜
*斧取り扱い+3
基本的な斧の取り扱いに関する技能。
効率的に斧、手斧類を運用出来る。
斧を使用した攻撃の際、''筋力"に対してプラスの補正が発生する。
いっちおっくえん!! という超臨時収入を得た凡人はそれを自己投資に充てがった。
秋の浮いた時間に探索者の中で、最優の斧使い"アックス村山"につきっきりの超高額指導を受けたおかげでそれなりに斧を取り扱う技能が洗練された。それなりに。
ver2.0の世界でアックス村山を探せ。
さらなる研鑽を積むために。
*探索者+1→報酬最前の探索者
もはや、深淵の呪いはお前にとって呪いではあらず。
酔いは身体に親しみ、深淵の肉はお前の寿命を増やす、戻ることはできない、進むしかない。
お前の生きる道はそこにしかないのだから。
ダンジョン酔いの進行が必ず"興奮"で止まる、それ以上の"狂気"や"酩酊"に陥らない。
怪物種、もしくは神秘種の血肉を食べることで寿命を増やす事が出来る。
*殺害適性+2→頂点捕食者NEW!
生物を殺す事に対しての忌避感が消えた。
いや、生物どころかお前はすでに神をすら手にかける異常だ。
全ての存在との戦闘時にプラスの補正が発生する。
*完成された自我(社畜)・究極
すべての絶望を滅ぼせ
*女は悪魔(察し)
この人物は女の美しさと恐ろしさを本能的に理解している。
"美形"、"魔性"、"絶世"、"美の化身"、"魅了体質"、"淫魔"特性を持つ女性からの魅了にかからない。
またこれらの特性を持つ女性や、魅力の高い異性からの魅了判定による接触を図られた時、精神対抗判定を無視して即、攻撃が可能となる。
悪魔は女の姿でやってくる。これまでの人生経験、人は簡単にモテないという痛みを経て大人になっていく。
だが、最近気付いた。
周りの女、なんか皆怒らせたらマジで怖い奴ばかりじゃねえか、と。
*星の噛み跡→NEW!星の破壊者
"52番目の星"と数多くの探索に赴き、そして彼女の夢を撃ち落とした者の称号。
お前は彼女の夢を奪い、人生へ引き戻した。
お前がいる限り、52番目の星はきっと人間として生き続けるだろう。
お前がいればの話ではあるが。
*凡人
この人物は世界に多く遍く存在する大凡な人間である。
運命にも宿命にも才能にも選ばれることはない。
その人生に祝福も呪いも影響することはない。
全ての成長補正、技能補正にマイナスが発生する。
この人物の主要ステータスS・I・Pの上限は7で止まる。
運命、宿命による介入がなくなる。
また神秘種の権能の影響を多く受けることになる。
報酬”神への道”はこの特性を持つ者には適用されない。
*恐怖耐性+2 →NEW!恐怖殺し
お前を恐怖せしめたものを、お前はすべて殺してきた。
その結果。恐怖にとって最も厄介な存在へとお前は変化した。
恐怖にとってぎゃーぎゃーわめきながらもしぶとく、なかなか殺せず。お前ほど関わりたくない犠牲者もいないだろう。
状態異常・恐怖に陥った瞬間、戦闘での判定補正が大幅に上がり、体調が絶好調へと変わる。
*凡人の怒り
何も持たない凡人であるという自覚から生まれた技能。
"天才"、"選ばれし者"、"英雄"、"祈る者"、"主人公"などの特別な存在との戦闘、敵対において全ての行動にプラスの補正がかかる。
またそれらの特別な者との戦闘敗北の際に最大10回、"食いしばり"を発生する。
凡人、しかしそれが人生を諦める理由にはならない。
その人生には敵が多い、選ばれし者が目的の為に足蹴にするのはいつだって当たり前の凡人たちだ。
それを諦めて受け入れるか、それともふざけるなと立ち上がるか。選ぶのはお前自身だ。
*耳の部位保持者
腑分けされた部位、耳は唯一役割を忘れた部位だ。
本来ならば耳の部位保持者は生まれえないはずだった。
故にお前がたどり着く先はきっと、どの部位が目指すものとも異なる。
無意味に無意義に好きに自由に。
お前と耳、なんの違いがあるのだろうか。
*腑分けされた部位
動き出した部位達の代理人
"腑分けされた部位"特性を持つ者への特攻を得る。
またこの技能を持つ者は"腑分けされた部位"特性の者からの被特攻を得る。
部位戦争、残るはーー。
*神秘の友人→神秘の棲家new!
神秘の残り滓を正しく、敬意を持って料理し、食べた者の称号。
この人物に対して、過ぎ去りし忘れられた神秘達は力を貸すだろう。
人とは食事によりその存在を拝領して生きていく存在である。
L計画、アプローチ2はここに完結した。
そして、お前は彼らの力により耳男へと到達した。
もはやお前と彼らが離れる事は決してない。
お前の中は彼らにとって心地よく、神秘はお前に力を貸すだろう。
故にお前はもっと深く彼らのことを知る必要がある。
絶望の中、お前を助ける道具たちとよく話し合うべきだ。
*九千坊の子分
この人物は西国大将九千坊のミイラをカレーにして食べた。
水の神に愛されしその性質、この人物は息長の性質を持つ。戦闘時、条件を満たしていれば九千坊の逸話を再現することが出来る。
"虎"特性、虎という名前を持つ存在との敵対時、マイナスの補正がかかる。
彼の物語を読み、彼の伝説を追った。九千坊からの好感度が高い為、さらに多くの彼の逸話を再現できるようになった。触れてはならない男の小姓、その涙を止める為に九千坊は彼を水底に連れて行く。
無知ゆえに、そしてその力の強大さ故に彼は知らなかった。普通の人間は水の中では生きていけないことに。
同じ間違いはもう2度と犯さない。キュッキュッ!! とのことだ。
*九千坊の尻子抜き ※報酬により進化の兆し
肉体に西国大将九千坊の力を降ろす。
命持つ存在、または命に準ずる核を持つ存在から尻子玉を抜き取ることが出来る。
"定命"特性、"再生"特性を持つ存在に対して特攻を発揮する。
"不死"特性、または命を持たない存在には効果がない。
生命の身に存在するかっぱの好む器官。本当にそんなもの存在するのか?
警告・部位戦争を勝ち抜いた状態の耳の怪物には通用しない。
*九千坊球磨川絵巻物語 ※報酬により進化の兆し
九千坊の子分になったことにより、西国大将九千坊は全ての力をお前に貸すだろう。
おおよそ九千坊河童の出来ることの全てを劣化した状態で再現出来る。
人の身においてその絵巻物語は再現出来る事自体、恐れ多いものである。
海を渡り一族を率いることなど到底出来はしまい。あれは彼だからこそ出来た偉業である。
*鬼裂の盟友
この人物は鬼裂の盟友だ。
その有り様は平安最恐の鬼狩りに力を貸すに値すると認められている。
鬼裂の骨粉をココアに混ぜて食べた。
平安の終わり、鬼を刈り続け鬼となった男がいた。
戦闘時、鬼を狩り尽くした鬼をその身体に降ろすことができる。
"戦闘適性+10"、"刀剣扱い+10"、"怪物狩り+7"、"身のこなし+6"、"明鏡止水"、"殺人術+5"、"呪血式+3"、"鬼裂の業"を得る。
この人物と鬼裂の肉体の素質が違いすぎる為、技能を使ったのちに身体に大きなダメージが残る。
鬼裂との会話や、ある遺物との交戦によりまた彼のことを深く知った。
平安時代において鬼に堕ちた正確な時期は未だ彼の口から聞けてはいないが、人間の頃からかなりヤンチャだったので正直あまり変わっていない。
源氏物語での彼の推しは"六条御行所"、情念が強く嫉妬深い女がタイプらしい。
人間の頃の嫁もそういうタイプだったとは本人の言。
貴崎凛のアレはお前が全ての元凶か。
*鬼裂の呪血式※報酬により進化の兆し
鬼裂の盟友としてその身体において"呪血式"の行使が認められた。
陰陽師の好む式神符術や禹歩、散米、祝調とは違い、より実戦に即した発動の早い呪いの式。
人の身体に流れる血に呪いをかけ血管、血液循環を式に擬えそれを媒介にこの世のならざる場所から力を得る。
"高貴な血"、あるいは"希少な血"や"何世代にも渡り磨かれてきた血"であるほど呪血式の強度は上がっていく。
鬼裂は多数の陰陽師や鬼狩りからこの呪血式を簒奪し自らの身体に取り込んでいた。
使い道は多く、戦闘においての血液操作、身体強化、穢れの浄化、傷の賦活などさまざまな応用が効く。
"怨霊"特性、"宗教"特性を持つ存在への特攻を得る。
しかしお前は凡人で、お前の身体には呪血式は刻まれていない。
その血は凡庸である為、呪血式も馴染まない。
少しでも特別になれると思ったか?
鬼裂の本来の呪血式は彼の子孫が代々継承している。
名家による血筋主義、それはこの国の歴史においても非常に価値ある式を遺す為でもある。
まあ、野良犬の血であるお前には関係ないことだ。
*2人目の火葬者 ※報酬により進化の兆し
この人物ははじまりの火葬者を餃子にして食べた。
その偉大なる任は受け継がれた
。2人目の火葬者として古い"火"を右腕に燻らせる。
この火は"死骸"、"不死"特性を持つ者、または火に怯える生物に対して特攻を得る。
悩んだ末、彼の名前は"ジャワ"に決定した。
本人は奇妙な踊りともにその名前を受け入れてくれた。
火と共に継がれたのは大罪。
人を動物から区別付けたその業は世界に大きな罪として記憶された。
しかし、お前は止まらない。大いなる火を携えて立ちはだかる敵を燃やすといい。
火を燃やせ、薪を焚べろ。
死すべき者を、あるべき場所に還せ。
それこそが2人目の火葬者。
つまりお前に課せられた任である。
*3年後の決着
もう4年が過ぎてしまった。
*継木された右腕
妙に右腕がうずく。
ホッカイドウとオキナワに向かえ。
すべてが手遅れになる前に。
*たいまつの右腕
"2人目の火葬者"、"接木された右腕"のシナジー技能。この人物の右腕はよく燃える。
"火"に関する技能使用時、成功判定にプラスの補正がかかる。
ああ、まさかこんなことに役に立つとは。
瓢箪から駒、いやなんでもない。
*墓石の最前→NEW!墓を背負う者
お前の後ろにも前にも、道はない。
前だ、お前の背後にはただ、前へと、指さす幾百の影がいる。
進め、たとえ全部手遅れだったとしても。
お前が折れることを決して彼らは許さない。
お前が彼らを背負い続ける限り。
*大罪人→new!大いなる罪よ、神を嗤え
お前は大罪人だ。"大罪"特性を得る。
"正義"特性からの被特攻を得る。
"正義"特性のキャパシティへの攻撃が可能。
"神秘種"の神性に特殊な対応が可能となる。
神はお前を裁くことが出来なかった。
故に神など存在しない。
お前のような存在が未だ生きている。
それが何よりの神の不在証明だ。
*耳の業→耳砲 ※報酬により進化の兆し
これこそ、化け物が化け物たる所以。
吸収した音をそのまま指向性エネルギーに変換し、放出する事が出来る。
人間に、出来ていいことではない。
*耳の大力※報酬により進化の兆し
寿命を消費することにより、耳の大力を再現できる。
"耳"に備わるあの大いなる只の暴力を扱う。肉体の質自体も一時的に大力を操るに値するものに代わるため肉体が大きく損傷することはない。
耳男状態では、常時使用が可能となる。
ある特殊な神秘種を殺すことで得られる報酬により更なる強化が可能だ。
*耳の血肉※報酬により進化の兆し
死んでも死なない、死んでも死なない、死んでも死なない。
寿命が残っている限り、お前の血肉は再生し続ける。
耳男状態では常時使用が可能となる。
また即死した場合は自動で再生が開始される。
断頭に気をつけろ。
だが、この力はただの再生能力ではない。
だんとうにきをつけろ。
イメージと工夫でさらなる悍ましい使い方も可能だ。
嵐との戦いを思い出せ。
ダントウニキヲツケロ。……謇矩≦繧後°
とある特別な神秘種を殺すことで得られる報酬により強化が可能だ
*耳の化身
条件未達成。すべてを諦めたときにこれは発動する。
*耳男 ※報酬により進化の兆し
IQ3000の生み出したお前の最強の牙である。
だが、これは未だ未完成。
化身に飲み込まれたくないのなら、
お前は神秘を殺し続けなければならない。
耳の血肉の技能と大力の技能を常時使用可能となる。
詳細は別。
*異常存在への道・報酬
お前は凡人のまま、ありのままに神をも殺す異常存在となり得る。
出来ないことをしでかすたびに世界はゆっくり認知を変えていく。
*周回特典
お前は2周目だ。
だが、後始末のことを覚えているか?
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凡人探索者の2巻、8月25日発売です。
ぶっ飛べる夏のクソ探索とたのしいラブコメがたくさんです。宜しくお願いします。
あとゲーマーズさんの特典のタペストリーがめちゃくちゃ良くて……あれはねえ、味山の視界の完全再現。
顔が良くて自分に自信のある重たい女とサウナ入って水風呂入りたい人生だった……