143話 逆さ富士登頂戦 その1
「おいおいおいおいおいおい、マージかよ」
これまで何度も馬鹿げたものと戦ってきた味山ですら、今回は少し面食らう。
空に浮かぶニホン一の山、それがさかさまに空を浮いている。
「……終わった」
膝をついて愕然と空を見上げる熊野、彼女たちサキモリはこの”逆さ富士”の脅威を知っている。
「これをさせんためにウチらはやってきたのに、結局、なんも……」
「おい、指定探索者、これかなりやばい感じなのか?」
「あ。アンタ……ごめん、ごめんなあ、あんたがあんなに身体張って戦ってくれたのに、結局、こんな、ほんとに、ほんとにごめん!!」
「あ、うん。それであれどうしたら止めれるんだ?」
「え……止める……?」
絶望一色の熊野が、呆気に取られる。
この状況を見てなお、目の前の男……? の様子は変わらない。
「かーっ、でけえなあ。ほんとどう言う仕組みであんなことになるんだ……これ、完全にアシュフィールド案件だよなあ」
「アンタ、なんで、なんでそんなんなん……」
「あ?」
「怖くないんか? いや、ちゅーかその前に、無理やとは思わんのか? 見てみ、あれ」
上を指差す熊野の小さな指。
それは震えていた。
「富士山が浮いてるんやで! いや、意味わからんよな!? 正真正銘の神様の力や! あんなもんもうどうしようもないやろ! うちら、サキモリは、ニホンは、アレをされたらもうどうしようもないって」
「まあ、アシュフイールドならなんとか出来るだろうから多分俺も凄え頑張ったらなんとかなるだろ」
「は? アシュ……?」
「あー、やっぱアンタも忘れてるのか。猫も杓子もアシュフイールド、アシュフイールドだったが忘れられてるのは、なんか、気に入らねえな。アレフチームもなんか悪者扱いされてそうだしよお〜」
「な、何言うてんねん、アンタ……」
「俺の仲間さ、皆凄え奴らばっかりなんだ。クラークはバカだけど頭良いし、グレンはバカだけど強いし、アシュフィールドはバカだけど……英雄、主人公みたいな奴でさ」
「だから、俺も負けていられねえんだよ。俺だけアイツらに置いていかれるのなんてダサくて我慢ならねえ」
憧憬。
自分は特別な者ではない。とっくにそんなことは受け入れてる。
でもーー。
「俺はアイツらと違う。特別な存在じゃない。でも、だからといってよお〜だから諦めるとかそういうウジウジしたのは健康に良くねえよ、うん」
「は、はは……アンタ、変わってる、て言われん?」
「バカ、何いってんだ。俺ほどスタンダードな男がいるかよ」
「スタ……あは、あははははは、あははははははははは!! なん、なんやねん、アンタ、本当、本当変、変すぎるよ……」
「失礼な奴だな。……まあ、それに何よりもやっぱりよお」
「あんな感じで人を舐め腐った奴は、メタボコにしないと気分が悪ィしなァ」
それが何よりの理由かも知れない。
気に入らないやつをボコボコにする。
その為に味山の脳みそが回転し始める。
TIPS€ 逆さ富士攻略方法提示
TIPS€ 気象操作、もしくは概念操作の力を持つ大號級遺物による対抗……"ストーム・ルーラー"、もしくは国土の危機により覚醒した"ニホン神話に連なる遺物"、もしくは運命の輪であれば対抗可能……全て未所持につき不可
その男は遺物には選ばれない。
運命も宿命もない男を世界が選ぶことはない。
だが、それでも。
「教えろ、クソ耳。アレをぶっ壊すにはどうしたらいい?」
歩み、進んだ。
何もなくても、特別じゃなくても、何に選ばれずとも。
それでも、味山は進み続けた。
その報酬が、ここに。
TIPS€ トロフィー"天使堕とし"を確認。バベルの大穴がお前に報酬への接続権を与えた
TIPS€ 報酬名"天使召喚" 人の試練そのものである熾天使を召喚し、交渉することが可能
TIPS€ 神秘種の権能には同じ神秘種の権能で対抗可能
「なるほど、化け物には化け物ぶつける大作戦か……うーん、あとはあのクソのいる場所までどうやって……」
TIPS€ 熊野ミサキへのアサマの権能が弱まっている、今なら遺物"八咫烏"の使用が可能
TIPS€ "逆さ富士"を止めるにはアサマとそれを使役する者を始末しなければならない
「ふむふむ……ヤタガラス……なあ、指定探索者、アンタもしかしてよお、空飛べたりする?」
「……え? い、いや、出来るけど、うちの遺物は、今……」
「あ、それもう使えるぞ。なるほど、空を飛ぶのは出来る、と。んじゃあとは……」
TIPS€ 警告 逆さ富士の噴火準備開始、お前以外の半径10キロ圏内の全ての生命が死ぬぞ
「そりゃ激ヤバじゃねえか、よし、あとは野となれ山となれ。行くか」
「え、いや、ほんとにアンタ何を」
TIPS€ お前には報酬への接続権が与えられた。最前の人よ、探索を全うする為に、全てを使え
「報酬・接続」
「え……」
「天使召喚」
その世界は為すべきことを為した者に等しく報酬を与える。
その男は、燃え上がる翼、神の怒りたる神秘を下した。
故に。
《聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな》
夜が、終わったかのような眩さ。
白く、ただ白い光が空に現れる。
球体だ。
幾何学的な模様が刻まれた白い光の球体が夜空に。
「あ、……し、神秘種……?」
熊野が泣き笑いのような表情を浮かべる。
誰よりも神秘種の恐怖をしるサキモリの心が折れかけて。
《人の子よ、大いなりし、燃え上がる翼を折り、進むことを示した人の子よ》
「ひっ……」
その声は人の心を押しつぶす。
存在自体が強大すぎるのだ。
熊野の背後では白川親子が互いに身を寄せ合い無言で震えて――。
「よお、デカ天使、元気だったか? なんかお前、助っ人してくれるらしいな」
《おお、最前の子よ。我が剣をすり抜け、光を殴り飛ばし、翼を捥いだ恐るべき人よ、お元気そうで何よりです》
「え、え……」
思った以上のフレンドリーさに熊野が固まる。
なんだ、自分は今、何を魅せられているんだ?
「おかげさまでな、お前も翼が……あ~もしかして全部は戻ってない?。悪い、やりすぎたかも」
《些事です、あなた方人類がついに神話の領域に足を踏み入れた結果ならば――。深淵の者と約定を交わした甲斐がありました。おや……哀れな星の子に、闇雲の堕とし仔の器、それに探求の赤の姿が見えませんが……》
「あー、チームの奴らとははぐれちまってよ~、今合流する為にいろいろやってんだ」
《おや、そうでしたか。ふむ、それにしても人界は久しぶりですが……悪臭が漂いますね。己が域を弁えない神秘の香り……枷が外れた事がそれほどまでに嬉しかったのでしょうか。恥知らずどもが》
怒気。
神聖さを感じさせるその光の球からわずかに漏れ出した怒気。
ばた、ばた、ばた。
フジ山お面の人間たちが次々気を失っていく。
《おや、いけない。人の子がこんなにもいたのですね、申し訳ありません、気付きませんでした、ふ、ふふふ》
その存在にとって、人間は蟻よりも繊細でちっぽけな存在だ。
己の感情がわずかに高ぶっただけで、死を錯覚し、意識を失うようなかよわい存在。
その存在は人間を好ましく思っていた。
あまりにもか弱すぎて、つい、支配してしまいたくなるほど――。
ぞく。
「おい、デカブツ。また翼を捥がれたいか? ムラっけ起こしてんじゃねえぞ、こっちを見ろ」
《――ああ、これは失礼を》
その存在が瞬時に、その悪癖を引っ込める。
これだから、その存在は人間が好きなのだ。
己の振る舞いだけで動けなくなるか弱い者もいれば――。
《ああ、やはり人の子は素晴らしい、貴方のように私を足蹴にして翼を捥いでしまうような者もいるのですから》
「いまいちスイッチがわかんねえ奴だな、まあいいや。デカ天使、お前に頼みたい事がある、報酬なんだろ?」
ぞわり。
味山の言葉にその存在が沸いた。
それは本能だ、存在に刻まれた在り方。
人の声を聴き、人に授ける存在の本懐。
《ええ、ええ! 人の子よ、その通りです! 貴方は見事に神話を下した。人があのお方の似姿であることを証明し、可能性を示した! 故に貴方にはすべてを求める権利がある!》
授ける存在。
それもまたはっきりとこの世界を歪ませる大いなる神秘。
《何を求めますか? なんでも構いません。神の裁きたる力を欲しますか? あなたに立ちはだかるものすべてを焼き払う火を欲しますか? それとも軍勢を欲しますか? 世界が傅くよりほかにない軍をあなたに! ああ、それとも――》
聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな。
光の玉が姿を変えていく。
球体を覆っていた光がめくれるように起き上がる。
それは翼だ。
球体がゆがみ、形を作っていく。
それは人体だ。
「う、そ……」
「ああ、神様……」
「アサマ様より、こわい……」
「ああ、ああ……てんしさま」
ヒトが次々にひれ伏していく。
手を組み、涙を流し、その存在を讃えだす。
《それとも、ああ! 最前の子よ! 私を絶望させないでくれた! ようやく私に会いに来てくれた素晴らしき子よ!》
ぼおう。
神への愛で白く燃え上がる2対4枚の翼。
目を焼かんばかり、夜を終わらせるような白い輝き。
本来であれば翼で隠れていたその顔が、今は明らかに。
これまでの歴史上、すべての美はその存在をモデルにしていたのではないかと思うほどの美しい顔。
《それともこの私、熾天使が貴方の身体に棲み、審判の日のその先も未来永劫を共に! 永久に貴方を続けさせてあげても!!!!》
「いや、いい。それよりあれ、止めといて」
《――はい?》
熾天使の動きが止まった。
女神のような微笑みを浮かべる白い顔が、ぎぎぎと傾く。
「上のあれ。頼むわ。アンタでかいし、それに戦った時にアシュフィールドの嵐を止めたりしてたよな。あの時と同じ感じで宜しく」
《……あれって、アレですか?》
「うん」
味山が指さすその先、夜空に浮かぶ逆さ富士。
《シナイ山?》
「いや、フジ山」
《なんか、浮いて、ますけど》
「そう、やばいんだよ」
《えっと……一応、その私、熾天使なのでその、私の力を受け入れればあなた、世界の王になることも可能ですよ?》
「そういうのしたらアレフチームの奴らに怒られそうだからいいや」
《あ……そ、そうですか。え、え~あれですか……う~ん、それが報酬でいいのですね?》
「おお、頼むよ、俺の探索を手伝ってくれるとありがたい」
うーんと首を捻り、翼をうにょうにょ動かす大天使。
それから何度か頷いて。
《あ〜まあ、うん、本人がそう言うなら……やりますかあら〜》
「よし、交渉成功。あの奇妙なお面連中も頼んだぜ、誰1人死なすなよ」
淡々と必要なことだけを進めていく味山。
熊野がその姿を見て、立ち尽くし。
「アンタは……アンタはなんで進めるん……?」
「あ? 何言ってんだ?」
「ね、ねえ、自分、理解してるんか? あれ、ほんまの富士山なんよ? も、もうウチらがどうこう出来る問題ちゃうねん……何しても、もう無理やろ」
「……」
何言ってんだコイツ。
味山が訝しげに耳の面から覗く視線を熊野へ。
「いや、そんな目で見んでや! ウチやろ! これに関してはウチが正しいやろ! 終わりやって! もう! どうしようもないなくないか!? こんな、こんなあり得へん事に、人間が何が出来るんやってーー」
一度曲がった金属板が完全には戻らないのと同じ。
一度折れた心は決して同じものには戻らない。
熊野ミサキの心は一度死んだ、神秘への恐怖が焼けついて。
「暇そうでいいな」
「は?」
だが、そういうのは全部この男には関係ない。
「悪いが俺には余裕がない、時間もない。指定探索者、お前が何を考えてるかはもうどうでもいい。空を飛べるか、飛べないか、それだけ簡潔に答えてくれよ」
「な、何をするつもりなん……」
「仕事……あ、いや、考えたら今回は依頼じゃねえのか。……まあ、いいや、探索者だし、化け物が好き勝手してたらぶっ殺すもんだろ」
「答えになってへん! なってへんよ! そんなんで納得出来ん! 教えてや! なんで、アンタは戦えるんや!」
その姿は救いを求めるこどものようにも見えた。
味山が、心底めんどくさそうにため息をついて。
「……あ〜。腹くくったんじゃねえのかよ。覚悟決めたんだろ? そこの白川親子を助けた時点でよ〜。だったらもうウジウジしてねえでやる事だけやろうぜ」
「や、やる事って……」
「怪物狩り」
味山が、上を指差してびろろんと耳たぶを揺らす。
TIPS€ "逆さ富士"が発動した場合、イズ半島は死ぬ。半径10キロ圏内のお前以外の生命体は全て死に絶えるだろう
「このままほっとけば俺以外皆死ぬらしいからな〜、イズ半島もめちゃくちゃになるらしいしよ〜、それはやべえよな」
「それだけ? それだけが理由なん?」
「あ〜? ……いや、理由あるぞ。ワサビアイスに、干物に、温泉!! イズにはめちゃくちゃ良いもんがたくさんあるじゃん! いっけね、モチベが湧いて来た、絶対壊させねーぞ。ニホンの観光地は俺が守る!」
「あ……」
その言葉。
熊野には、おぞましい姿のはずのその男が輝いて見えた。
重なる。
それは味山は知らない敗北の物語の残り香。
同じ時を過ごした彼らとのわずかな日々の声。
ーー俺、この街が好きなんです。だから元に戻したい。
ーーこ、怖いけどさあ! みんながやるんなら私も頑張るよおう、ああ、でも、怖いいい。
ーー論理的に考えて、俺がいないとこいつら皆すぐ死ぬからな。これはわずかな勝率を少しでも上げるための論理的な行動だ。
ーー大丈夫、きっとなんとかなるよ! 皆がいれば!
ーーここは、居場所なんです。彼が私の為に作ってくれた大切な居場所。……本当は、ずっと夏休みが続けば良かっただけなのにね
イズ高校・オカルト部。
神秘に挑み、そして敗れた彼ら、彼女のことを思い出す。
神に挑むのはあまりにもちっぽけな理由。
それでもその輝きをもって恐怖に挑んだ誇り高い少年と少女たちのことを。
「ウチや、なかった……」
ああ、神様。
アンタは配役を間違えました。
なんでや。
なんで。もう少しこの男をここへ呼ばんかったん?
熊野ミサキの心は一度へし折れている。
その折れ目はもう、きっと2度と戻ることはない。
「アンタが、最初から来てくれれば。ウチやなくて、アンタがニホンの指定探索者やったら……」
たられば。
もし、目の前のこの男が彼らと出会っていれば。
ありうべからざるその時を思う。
この男と出会い、面食らいつつも進んでいく彼らオカルト部の姿が。
「ウチやなかった……! 人を守るんは! あの子らと出会うのはウチやなかった! アンタが、アンタの方が、相応しかっーーぶへ!?」
衝撃。頭の上。
熊野ミサキの言葉を止めたのは味山のチョップだった。
「めんどい、もうそういうのいいから」
「い、痛い……」
「質問に答えろ、指定探索者。お前の感傷に付き合ってる時間がない」
その男は同情しない。
その男は憐れまない。
その男にはそんな余裕も優しさもないから。
「今、アンタに聞いてるのはそんなどうでも良い感想じゃない。空を飛べるか、飛べないか、だ!」
「……あ」
熊野の小さな肩を掴み、味山がぐわんぐわんと彼女の身体を揺らす。
「たられば言ってる場合じゃねえんだ! 上を見ろ、上!」
指差す先には、逆さ富士。
地上に向いた火口。
あれがきっと噴火するのだ。
ニホンの歴史がその被害の甚大さを既に証明している。
「あれをどうにかしねえと俺以外全部死んじまう! いいか、俺以外! 全部だ! んな事になってみろ! 気分悪いなんてもんじゃねぇぞ!」
「……はは、なんそれ。アンタが死なんのなら関係ないやん……」
「バカ言うな。この状況で1人生き残ってみろ、ダサい所の話じゃねえぞ」
「ダサい……? ーーはは、ははは!! あはははは! それ、確かに! 確かにそうやわ! ここまで来て、負けて1人生き残るダサ過ぎやん! それ!」
熊野がお腹を抑えて笑い出す。
ああ、彼女の中でぐるぐるぐる、とぐろのような感情が舞う。
これは、なんだ。
この気持ちはなんだ。
「ウチやん、それ」
ダサい。
今の熊野を言い表すのにこれ以上ない言葉だ。
人を守る、そう決めたはずなのに、いざとなれば慌てふためき喚いて。
何が護国、何が守る、だ。
この目の前の人間とは思えない見た目をした"人間"の方がよっぽど。
がちん!!
熊野が地面に自分の額をぶつけた。
小さな額から血が垂れている、、
「うお……どした? 大丈夫か?」
急な自傷行為に味山が、完全に自分のことを棚上げして少し引いていた。
「何を、したらええ?」
「お……」
額から流れる赤い血をペロリと舐めながら、目の前の女が呟く。
ゾクリ。
味山の背中を走る痺れ。
目の前の小さな女から、ある女を前にした時と同じ感覚を覚えた。
ああ、これならもう大丈夫だ。
味山は目の前の女を戦力として認識する。
「俺をあの山の上にまで連れて行け。ぶっ潰したい奴らがにそこにいる」
「勝てるん?」
「あ?」
「アンタを届けたら、勝てる?」
熊野の瞳孔は閉じたり開いたりを繰り返す。
弱火で熱されていく狂気が、彼女の表面に滲み始めた。
きっとそれは良くない表情だ。
だが。
「ああ、俺に全賭けしろ、ジャックポットだ、勝たせてやるよ、指定探索者」
さっきまでのウジウジした態度より、かなり良かった。
「大穴もええとこやんけ……うん、わかった、わかったよ」
黒い髪、黒い瞳。
ニホン人形の精緻さを宿したその容姿。
熊野ミサキが、目を覚ました。
「やったろうやんけ」
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その力は、世界が宿した大いなるもののカケラ。
ダンジョンというフィルターを通し、ついに具現化した古い力。
「遺物、来訪」
遺物にも種類がある。
熊野ミサキのソレはーー。
「おいで、八咫烏」
『ピョオオオオオオオオオオ!!!』
人と共に歩むことを決めた神秘。
大いなる黒、大いなる翼。
ニホンの神話の中で、導きの役割を与えられた神秘。
黒い3本足の大鴉が、そこに。
熊野ミサキに傅くようにお辞儀をして。
「やれば出来るじゃねえか、指定探索者」
TIPS€ 神話再現による遺物の強化・熊野ミサキと八咫烏
TIPS€ 技能"オタク"未所持、INT不足、アイデアロール失敗
「なんかバカにされた気がするけど、はは、凄え、サッカーチームのシンボルみてえだ」
くりくりした黒い瞳に、熊野ミサキだけを映した鴉が彼女に甘える。
「ごめんな、八咫烏、アンタはずっとウチと一緒におってくれたのに、ウチはアンタの声が聞こえんかった」
『ピヨ』
一瞬の時。
八咫烏が、熊野に頭を預けて互いに目を瞑る。
遺物にもこんなのものがあるのか。
味山がはえーとその様子を眺めて。
「よし! しめっぽいの終わり! 八咫烏、お願いや! またウチを乗せて飛んでくれるか?」
『ピヨ』
八咫烏が、3番足を器用に畳み、卵を温める親鳥のようなポーズを。
熊野が器用に、その身体に飛び乗って。
「ありがとう。アンタも! 乗りや! はよいくで!」
「よしきた!! 失礼します! あ、そうだ、もう一回聞いとくよ、アンタ、名前は?」
味山も八咫烏の背に飛び乗る。
ふかふかの羽毛が、身体に触れた途端、まるでくっつくような安定感が。
「熊野や! 熊野ミサキ! アンタは!? 一応聞いとくわ!」
「味山! 味山只人! 宜しくな! 熊野ミサキ!」
「ははは! アジヤマタダヒト……? 腹立つ冗談やな! まあ、ええわ! 行くで!」
「ギャハハ! なんでだよ! 頼むわ、う、オオオオオオオオオオオオオオ!?」
浮遊感。
それから風、風、圧倒的な風。
鴉の形をした遺物が、空を掴み羽ばたく。
あっという間に、空へ。
人では辿り着けない領域へ。
ああ、夜が近い。
世界は変わっても、夜の広さは変わっていない。
今夜がver2.0世界初の、神話攻略となる。
読んで頂きありがとうございます!ブクマして是非続きをご覧ください!
Twitterでたくさんファンアート書いて頂き恐れ入ります。読者の方のおかげで創作続けていられるので助かります。
これからも書くので引き続き宜しくお願いします。