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1話 TIPS€ それは少なくともお前の2倍は強い



TIPS


コツ、秘訣、ヒントの意ーー


 

〜現代ダンジョン バベルの大穴 第一階層


"尖塔岩の荒地"にて〜



「うまい」


 味山 只人(アジヤマ タダヒト)は、ゆっくりと味わう。パサパサの生地を噛みしめるたびにハチミツの匂いが鼻を抜け、頭蓋に広がる。


 ハチが中指を立てたパッケージは中々にアナーキーなデザインだ。



「美味え……」



 外で食べるお菓子はうまい。キャンプの時に食べるマシュマロと同じだ。


 ハニーバー、これであとは辛めの炭酸でもあれば最高なのだが。あいにくアレはセーフハウスの中に忘れてきていた。


 退職したあとは、こんな菓子をつまみながら好きなところに行けて、好きなように遊べる人生が良い。


 味山は訪れるとも分からぬ己の平穏な未来を夢見た。


 夢想し、そして、大きなため息を吐く。


 きっとその夢は叶わない。探索者はまともに死ねる職業ではない。それを味山は身をもって知っていた。



「俺さ、思うんだけどよお、探索者で大成してるヤツってイかれたヤツ多くね?」



 味山はゴツゴツした岩場の上であぐらをかきながら宣う。




 日焼けした肌に、黒い短髪、茶色の瞳。筋肉質なその身体は登山用の地味な灰色のパーカーに包まれる。


 頭に思い浮かべるのは、自分とは違う嫌味なほどに白い肌、金色にたなびくあの髪。不敵な笑みを浮かべる美しい顔。猫のように愉快げに歪む碧眼。


 自分の組んでいるあの化け物よりも強い探索者を思い浮かべた。


 メッセージに返信しないくらいで拗ねるくせに腕はめっぽう立つあの女の子の事を。



「あー、わかるっすよ、タダ。その気持ちはヒッジョーに分かるっす、やっぱ指定探索者ともなるとまともな感性の人間とは違うんすよ」



 軽薄そうな声。隣に同じくあぐらをかいて座る男が返事をする。


 灰色の逆立つ髪に水色の瞳。


 日焼け由来ではない小麦の肌に無骨な緑色のミリタリージャケットを纏う。


 彫りの深いその顔は、一目で日本人ではないと分かる。


 グレン・ウォーカー。味山の所属する探索者パーティのメンバーだ。

 

 男が2人同時にため息をつく。


 辺りを眺める。肉やら果物やらが無造作に回りに散らばる。

 

 極め付きは、豪華さの演出の為狩り出された白目を向いているハイオオトカゲの死骸だ。



 2人はまるでリビングのソファに腰掛けるように、その死骸に身体を預け愚痴を積み合う。




「……もう完璧に生贄か、何かだよな」



「そうっすねえ。どっかの部族のすげえ由緒ある儀式みてえ」




 はあ、と同時に2人が溜息をつく。



「……いくらお目当ての化け物が見つからねえからってまさか本気で囮にされるとは、クラークの言葉は冗談じゃなかったんだな」



 味山が、目を瞑り眉間にしわを寄せながら呟いた。



「化け物がどうしても見つからなかったらキミ達を囮にでもするか! アッハッハー…… アレまじで言ってたんすね……」



「グレン君、キミの上司だろ、あのプチイカレ博士もどき探索者、なんとかしろよ」



「なんとか出来るならもうやってるっすよ。アンタの上司こそ、ノリノリでこの作戦に賛成してたじゃないっすか。きっとタダがアレタさんのメッセージ無視するから根に持たれたんすよ」




「まじか。普段暇な時はきちんと返すんだけど」



「アレタ・アシュフィールドからのメッセージを暇な時にしか返さないっていうのはヤバいと思うっすけどね」




 2人は疲れきった顔で、ぐいと睨み合う。しかしすぐにそれが徒労になると気付き、同時にうな垂れた。



 味山が、目を閉じて同じく溜息をつく。



「やめよ。生贄同士で争うほど虚しいモンはねえわ」



「お互い、とんでもない人間と組んでるもんすね」



「そうだな…… その場のテンションで組んだりするとやっぱロクな事にならんかったわ」



 はあ、と同時に男達は腕組みしながら首を垂れる。




 これガチ、生贄やん。味山はため息をついた。





 現代ダンジョン、これが世界に産まれて早くも3年。つい3年前の世界であれば地下に広がる異世界の事など誰が信じたものだろうか。





「いつも通り光石はこんなに綺麗に輝いてんのになー、なんで俺たちはいつもこんな役割ばっかりなんだろうなー」



 味山は青い血の甘いにおいを嗅ぎつつ、呟いた。





 現代ダンジョンの空は高く、太陽かと見紛う巨大な光石が地下空間に光を渡し続ける。




 第一階層の天井部分までの高さは確か300メートル。トーキョータワーと大して変わらない。





「つーか、大鷲がこんなに見つからないのは異常っすよ、異常。どーやったらあんなデカブツを見失うンスか」



 味山の隣でグレンが手で庇をつくり、空を仰ぐ。


 空、地下なのに、空。そこには確かに空があった。





 そして、その空を飛ぶ生き物がいる。


 怪物種25号 アルゲンタブィス。太古の時代に地上を飛んでいたと考えられる大鷲とそっくりな怪物種。



 要はヘリコプターみたいな大きさの大鷲だ。


 生息地はここ、第1階層の北区、尖塔岩の荒地。




 その名の通り辺りを見回すと尖塔の如く生える数々の岩が天を貫く。


 低い植物がちょこちょこ生えている以外は、基本的にはどこまでも荒地が続いている。



 味山達が組合の依頼により、その怪物を追いかけて早2日が経つ。




 一向に見つからないその怪物の捜索に業を煮やしたパーティメンバーのリーダーと副リーダーはとんでもない作戦を思いついたのだ。




 題して、見つからないならば見つけてもらえ。キミに決めた!生贄大作戦。




 ふざけた名前に抗議の声を上げるも聞き入れてもらえず。


 ダンジョン侵入開始から早2日。ダンジョン酔いが本格的に身体を蝕みはじめるタイミング。


 ダンジョンに満ちる酔いは2人の上司から、常識や理性を蕩かせていた。


 物凄い勢いでサポートチームが用意した貢物の数々に、2人の化け物女探索者がどこからともなく狩って来た哀れな生贄のハイオオトカゲ。



 大鷲の好物だ。2人に与えられた仕事は、つまるところ姿を見せない怪物をおびき出すオトリだった。


 黒髪の男、日本人の名前は味山 只人。

彼はこの現代ダンジョン、バベルの大穴にて仕事に従事する探索者の1人。


 探索者になって、早3年。それなりに色々な仕事を終わらせて来たが、生き餌の真似事をするのは初めてだった。


「サラリーマン辞めるんじゃなかったなあ。はあ、 サイテーだ、探索者……」


「……甘いっすね、タダ。いつもの事っすよ」



 隣で鬱っぽく、どこから拾って来たのかタンポポみたいな植物の花びらをちぎりながらグレンが小さく笑った。


「勘弁してくれ。俺はお前らとは違うド凡人なんだ。付き合いきれねえ」


「何言ってんすか。あの"52番目の星"と組んでる癖に。アンタそれ、色んな所にカドが立つ言葉だと認識した方が良いっすよ」


「……また家に帰ればきっと脅迫状や脅迫メールがわんさかだろうな」


 味山が、ため息をつく。


 ヒュオオオオオオオオオオ。


 風、不自然に切れる音。


 それは味山 只人の()に届いた。



「グレン、聞こえたか? 今、空気がへんな音を立てた」


「へ? いやなんも…… なんか聞こえたっすか?」


 グレンが首を傾げる。


 味山にだけ聞こえた、その音。それはどんどん近づいてくる。



「すぐに通信を、多分、近いぞ」



 ヒュオオオオオオオオオオ、ヒュオオオオオオオオオオ。



 音が近付いてくる。隣のグレンには聞こえず、味山にだけ聞こえてくる音が。


 味山の耳だけが拾える音が。



「……了解、タダのそれは割と当たるっすからね。ーーもしもしセンセイ! グレンっす! もしかしたら当たりかも。なる早で合流お願いしまーす」


 隣でグレンが小さな端末で連絡を取っている。

 どこだ、どこから聞こえてる? 味山は、辺りを見回す。


 景色にはなんの変化もない。


 でも音は、近く。


 なんの音だ、なんの音だ、なんの音ーー



 TIPS€ 警告 怪物種 接近



「っ?! グレン! 上だ!!」


「上っ?! てことは!」


 唐突に影が差す。


 ダンジョンの天井部、光石から発せられる光が遮られた。


 影、影、翼あるものの影が、2人の探索者を影らせた。


「ビヨオオオオオオオオオオ!!!」


 空間を割るように、それが真上に現れた。


 これだけ巨大なモノがここまで近付いて来ていたのに、今ようやく見えた。


 直上、怪物種25号、アルゲンタブィス。大鷲。


「ゔおおおおおおおお?!」


「あばばばばばっはー!!」


真上から、馬鹿でかいオオワシの化け物が降ってきた。


読んで頂きありがとうございます!是非ブクマして続きをご覧ください!

凡人探索者


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― 新着の感想 ―
そらまあ上で、羽の風切り音だろーがよw
[気になる点] 改行多すぎてちょっと読むの無理だった。残念
[気になる点] 「でも音は、近く。なんの音だ、なんの音だ、なんの音ーー」 自分たちが何の生贄というか囮の餌としてそこにいると言うことを忘れることできるのかな?
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